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クリスマスパーティー



 当日、瑠璃と小百合は本館でクリスマスパーティーの準備を進めていた。二人でやっていた飾りつけが終わり、料理を作っている所だ。乙成達にも手伝ってもらいながら出来た物は会場に運んだりしていた。予定時刻も迫り、料理の大半も運び終わった頃、招待客が続々とやってきた。


 招待した客は、小百合のクラスメイト全員で、数人は用事で来られないが、大半のクラスメイトが来られると聞いていた。いつもは数人しかいない空間に、何十人という人が訪れてきた事で、瑠璃はいつもの場所じゃないかのような気持ちにもなっていた。


 予定時刻よりも前に来ることが出来るクラスメイトが全員集まったので、少し繰り上げてクリスマスパーティーを開始することになった。そんな最中に、瑠璃はそわそわと落ち着かない様子を見せていた。瑠璃は小百合に内緒である人を招待していたからだ。そしてその招待客がまだ来ていない事で、落ち着かなかったのだ。


 小百合やクラスメイト達が料理に手を付け始めたその時、呼び鈴が聞こえた瑠璃は駆け足で向かっていった。本館を飛び出し、白い息を吐きながら門扉の所へ向かっていった。そこに一人の女性の姿を確認した瑠璃は、ホッと胸をなでおろしていた。


「あの、あなたが田村たむら 智子ともこさんであってますか?」


「はい、私がそうです。あなたは電話をくださった綾乃里さんですね」


「よかった。来てくれたんですね。ありがとうございます」


 瑠璃の目の前にいる田村は眉が下がっていて緊張したような表情をしていた。


「本当にお嬢様は……小百合ちゃんは私に会いたがってくれてたんでしょうか……」


「はい、電話で話した通り、会いたいと言ってました。今日田村さんが来ることは内緒にしていたので、きっと驚いて喜んでくれると思います」


 瑠璃は小百合とクリスマスパーティーの計画をしていた時に、こっそりと中野に頼んで田村に連絡を取っていた。小百合と会ってほしいとお願いをした時に、返事は絶対に行くとは約束できないと言われていたので、来るかどうかを不安に思っていたのだった。


 足取りの重い田村の手を優しく引っ張りながら小百合の元へと案内していった。


 クリスマスパーティーの会場の扉を開けると、丁度近くにいた小百合と瑠璃は目が合った。そして小百合の視線は瑠璃のすぐ近くにいた田村へと向かった。


「も、もしかして……智子さん?」


「は、はい……お久しぶりで――」


 小百合は田村が言い終わる前に動き出すと、ギュッと田村の事を抱きしめていた。


「智子さん智子さん! ずっと会いたかった! 私のせいで辛い思いをさせてしまってごめんなさい……」


「そんな、小百合ちゃんは何も悪い事はしてないんですから。私が小百合ちゃんを守ることが出来なくて、怖い思いをさせてしまって申し訳ありません……」


「そんな事ないわ。智子さんは何も悪くないもの。私の側にいるのが怖くなっていなくなってしまったのだと思っていたわ……。寂しかったけど、でも今こうして会えてとっても嬉しいの」


「病院での小百合ちゃんの姿を見て、私は守れなかった自分を責めていました。もっと何か出来たんじゃないかと……そうこう考えていると、いたたまれない気持ちになって小百合ちゃんの前から逃げてしまいました……すみません」


「いいの。こうして会いに来てくれたんだもの。とっても嬉しいのよ。……そういえばどうして今日来てくれたの?」


「それは、綾乃里さんから連絡をいただいて、今日来させてもらいました」


「え? 瑠璃ちゃんが?」


「はい、前に会いたいと言っていたので、えっと、ボクからのクリスマスプレゼントです」


「ふふっ、覚えていてくれたのね、ありがとう。最高のプレゼントよ」


 小百合は田村に自分が作った料理を食べてもらいたいと言って料理の所へ連れて行っていた。瑠璃は、これで自分の役割も終わってお役御免になったのだと考えると、寂しい気持ちも沸いていた。


 瑠璃は全体を見回していると、端の方で小百合の父、健一と目が合った。健一は瑠璃に向かって手招きをしていたので、何か用なのかと思い、小走りで向かっていった。


 着いてみると、健一は瑠璃に一緒に酒を飲まないかと誘っていた。瑠璃はまだ仕事中の時間ではあるので断ったら、自分が許可するから飲んでほしいとお願いしていた。未成年が多く、酒は端っこの方へと追いやられていて、飲む人もほとんどいない状態だったので、寂しかったのだろうと思っていた。


「わ、わかりました。少しだけなら……」


 瑠璃は誘いを断り切れずに飲むことにした。雇い主が言うのなら拒み続ける理由も無いと思っていた。


「そうこなくっちゃ! 少しと言わずにいっぱい飲んでくれていいんだからね。こうして小百合の笑顔を見ながらクリスマスに酒を飲めることが本当にうれしいんだ。これも瑠璃ちゃんのおかげだよ、ありがとう」


 瑠璃は健一に勧められるがままに酒を飲んでいた。嬉しそうに勧めてくる健一に断り切れない瑠璃は、ゴクゴクと飲んでいた。



 瑠璃が目を覚ますと辺りは暗闇に包まれていた。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。後頭部には柔らかい感触がしていた。


「ん、瑠璃ちゃん起きた? おはよう」


 目の前から声が聞こえたかと思うと、月明かりと、オレンジ色の淡い光に照らされ小百合の顔がぼんやりと見えてきた。


「え? あ、す、すみません、すぐに起きま――」


 瑠璃は自分が小百合の膝の上で寝ているんだと気が付き、起き上がろうとしたが、小百合に制止された。


「いいの。無理に起き上がらないでこのままでいいのよ。ごめんね、お父様のお酒に付き合ってこうなってしまったみたいだから」


 健一に酒を勧められ、一緒に飲んでいたことは覚えていた瑠璃だが、それ以降の事は覚えておらず、酔っぱらって寝てしまったんだと理解した。


「で、でも、このままだと小百合さんの足が痛いんじゃないですか……?」


「大丈夫。全然痛くないわ。瑠璃ちゃんは私に膝枕されるのは嫌だったかしら?」


「い、いえ、そんな事はないです」


「ふふっ、ならこのままね」


 そう言うと小百合は、瑠璃の頭を優しくなでながら微笑んでいた。


「本当はね、瑠璃ちゃんをベッドまで運ぼうかって話になってたんだけど、私のわがままで瑠璃ちゃんが起きるまでここに居たいって言ってそうさせてもらったの」


「え? そうだったんですか?」


「瑠璃ちゃんとね、どうしても今日話したい事があったからそうしてもらったの。後になると言える気がしなくってね」


「話……ですか?」


 瑠璃はどんな話をされたとしても、しっかりと受け入れようと真剣なまなざしを向けていた。


「まずね、私と一緒にクリスマスパーティーをやってくれてありがとう。瑠璃ちゃんと一緒に出来て本当に今までで最高のクリスマスパーティーになったわ」


「小百合さんが喜んでくれたのならよかったです」


「それと、智子さんを呼んでくれてありがとうね、びっくりしたけど、とっても嬉しかったわ」


「自分勝手な事をして迷惑かもしれないって思ったんですが、喜んでくれて安心しました」


「全然迷惑なんかじゃないわ。私から連絡をするのは勇気が無かったから……だから本当に感謝してるのよ」


 淡い光の中で小百合の笑顔が浮き出されると、自然と瑠璃も微笑んでいた。


「瑠璃ちゃんと出会って色々な事があったわよね。まだ一年も経ってないって信じられないくらいよ」


「そうですね。本当に色々ありましたね……」


「瑠璃ちゃんは私と、私達と一緒にいて楽しかった?」


「はい、とっても楽しかったです。今まで経験した事のないような事もたくさん出来たので」


「……最後にね、瑠璃ちゃん。話したい事があるのだけど、聞いてもらってもいい?」


 小百合は少し天上の方へと視線を向けてから瑠璃の方へ視線を合わせると、真剣な表情を見せていた。


「は、はい、なんでしょうか?」


「私ね、瑠璃ちゃんの事が……好きよ。一人の男性としてね」


 瑠璃は思いもよらぬ言葉に困惑していた。


「き、きっと、その……勘違いだと思います。ボクの事を恋愛対象として見てくれる人なんていないと思うので……」


「ここにいるわ。私は瑠璃ちゃんの事を恋愛対象として見ているわよ」


「で、でも、ボクは……その、こんな見た目ですし、男として見られたことも無いですし……」


「私は見ているわ。瑠璃ちゃんと出会って、瑠璃ちゃんに助けられて、本当にあなたの事が好きになったの」


「で、でも、その……なんというか……自信が無いです……」


「大丈夫。それなら私が瑠璃ちゃんに自信をつけさせてあげるわ。どうやればいいか分からないけど、それはこれから考えるわね」


 自信に溢れたように話す小百合と対照的に、瑠璃は浮かない表情をしていた。


「ね、瑠璃ちゃん。ちょっと起きてもらえる?」


 瑠璃は言われた通り上体を起こして隣に座った。


「瑠璃ちゃん。こっち向いて」


 言われた通りに小百合の方へ振り向くと、だんだんと小百合の顔が近づいてきた。頬に柔らかい感触がしたかと思うと、小百合の顔が離れて行った。


「い、今の私ができるのはここまでだけど、その、瑠璃ちゃんは容姿の事を気にしているのだと思うけど、私はあなたの全てを好きになったの。私の事を信じてくれるなら、そこだけでも信じて、自信を持ってくれると嬉しいわ。それじゃ私は先に戻るわね。おやすみなさい。また明日」


 淡い光の中でも分かるほど顔を赤らめた小百合はそう言い残して、そそくさと去って行った。瑠璃は何も言わず、小百合の去って行った扉の方をしばらく見つめる事しかできなかった。











「んー、どうしようかしら」


 乙成が何かを持ちながら困った様子をしていた。


「どうしたんですか?」


 瑠璃は乙成に声をかけると、手に持っていた物を見せてくれた。それは封筒で、差出人に高橋という文字を見つけて、乙成が困っていた理由が分かった。


「きっと小百合さんになら見せても大丈夫だと思いますよ」


「そう? 瑠璃ちゃんがそう言うならきっと大丈夫ね」


 乙成は少し離れた場所にいる小百合に封筒を持って行った。瑠璃は大丈夫と言いながらも心配する気持ちはあったので、後を追いかけた。


「私に? 持ってきてくれてありがとう」


 小百合は手紙の差出人の所を見て少し神妙な面持ちをしながら開封していた。中には一枚手紙が入っていたみたいだ。しばらく手紙を読み進めていた小百合が、微笑む様子を見せていたので、一安心していた。


「あのね、手紙には謝罪と、自分の過ちを認めた事と、もう私の前には表れない事を約束するって書いてたわ」


 小百合の言葉を聞いて、乙成も安堵していた。封筒を渡してもよかったと瑠璃も安堵した。


「あ、もう時間ね。瑠璃ちゃんそろそろ行こっか」


「んー、やっぱり私も一緒に行きたいなー?」


「だーめ。今日は私と瑠璃ちゃんのデートなんだから。でも美穂さん達とも出かけたいって思ってるから、また今度ね」


「うふふ、はーい。また今度みんなでお出かけしましょうね」


「それじゃ、瑠璃ちゃん行くよ」


 小百合がそう言うと、瑠璃に向かって手を差し出した。瑠璃はその手を握ると、玄関へ向かった。乙成が「いってらっしゃい」と声をかけると、瑠璃と小百合は元気よく「いってきます」と返していた。


 玄関を後にした二人は、庭に咲いている大きな桜を見て出会った時の事を思い出していた。桜と過去の思い出を背にして瑠璃と小百合は前に歩いて行った。





これで終わりです。


最後まで読んでくださった方有難う御座いました!

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