15.悪役令嬢、登場!(2)
すみません、7月2日の段階では(1)、(2)まとめて投稿していたのですが、あまりに文字数が多いため、分割しました!内容は変わってません!
「あーら、そのお手入れされていないボサボサの銀髪頭、エリナじゃない? 東棟の妖精の姿を久々に見たと思ったら、私の衣裳をあさってどうする気ですの? 使用人たちとパーティーする気?」
輝く金髪ロールをさらにクローゼットの出窓からの光で輝かせ、きらびやかすぎるほどきらびやかに登場したのは、金髪碧眼、整った顔立ちの美少女だった。
そう、彼女こそが一つ上の私の姉、そしてエタ☆ラブ最高のライバルキャラ、悪役令嬢たるルルリア・アイゼンテールその人だ。久しぶりに会ったけど、相変わらず存在感がすさまじい。どうやら私の到着を待ち伏せしていたらしい。私を見下ろして、勝ち誇った顔で微笑んでいる。私の後ろにいたゾーイとミミィが慌ててそろって頭を下げた。
「ルルリアお姉さま。ごきげんよう」
「あら、立派な挨拶ができるようになったこと。使用人たちとの毎日の交流でだいぶ言葉を覚えたかしら? そのせいか、晩餐会ではお父様の前でずいぶんなポカして怒られていましたけど!」
口元に手を当てて、ププーと笑う姿は堂に入りすぎている。
(わかりやすく煽ってくるなあ、この子……)
呆れた顔をしてボーっとしてしまいそうになったが、私は慌てて頭を下げた。
「お恥ずかしいかぎりです。今後気を付けます」
「そうしたほうが良いわ。せいぜい次のパーティーでも頑張ることね。まあ、少なくとも私のドレスを着るのよ? ドレスだけ立派なだけじゃ、アイゼンテール家の恥さらしになってしまいます。 それなりの振る舞いをしてもらわないと!」
「その通りですね」
私はしおらしく頷いてみせる。ルルリアは高笑いをしたが、私の落ち着いた態度に若干鼻白んだようだ。私はもう一度丁重に礼を言うと、さっさとゾーイとミミィと揃ってドレスを選び始める。悠長に姉と無駄な姉妹喧嘩している暇はない。こちとら時間がないのだ。
衣裳部屋のドレスはどれも状態がよく、ほとんど着られていないようなものばかりだった。靴やアクセサリーもそろっている。
(あ、これ可愛い……)
私がまず手に取ったのは、身体に沿うようなデザインの落ち着いた赤色のベルベットのドレスだった。袖は細く、胸のあたりから足元に広がるようにに金色の豪奢な刺繍がしてある。
「ゾーイ、これ……」
どうかな、と後ろを振り向こうとした途端、横から幼い手が割り込んできてドレスをむんずと掴んだ。
「……このドレス、ただでさえ飢えたネズミのようにガリガリなアナタをますます貧相に見せるわ」
横を見ると、信じられないことにルルリアが立っていた。私は目を丸くする。私の様子を見に来て嫌味を言いに来ただけかと思いきや、衣裳部屋にまだいたらしい。暇ですか、と思わず口に出かけたが、すぐにその言葉を飲み込み、私は黙って素直にドレスを元に戻した。なんせこのクローゼットのドレスたちは、小さくなったとはいえルルリアの所有物。「いやよ、このドレスは貸さなーい」なんてルルリアにへそを曲げられてしまうと一巻の終わりなのだ。ここはおとなしく従うしかない。
その後も、ドレスを選ぶたびに、後ろでじっと見ているルルリアのダメ出しが続く。
「却下。その色、絶対似合うわけないでしょ? ただでさえ悪い顔色がさらに悪く見えるわ。ミミィ、アナタが持ってるそのドレスも派手すぎてダメ。ガナダ男爵夫人、そのドレスの型は時代遅れでダサいわ」
ガナダ男爵夫人、と正式な呼ばれたゾーイがぎくりと手を止める。手に持っていたのはフワフワしたドレスだったが、どうやらルルリアの指摘は的を射ているようで、悔しそうな顔をして元に戻す。
ルルリアの口出しのせいでドレス選びはまったく進まず、思ったより難航している。正直ルルリアの存在がかなり鬱陶しい。
「その色は絶対にあわないってさっき言ったじゃない! ただでさえ薄い印象の顔の存在を消したいの?」
私が選んだドレスに対して、ヒステリックにルルリアが怒鳴った。まじめに相手をしない、と決めていたけれど、ついに嫌気がさして私はルルリアに向かい合う。
「では、お姉さまが選ばれるなら、どのドレスが良いと思いますか?」
ルルリアは不機嫌そうな顔を一変させ、きらめく碧色の目をしばたかせる。やがて、ちょっとうつむいて、嬉しそうにはにかんだ。
「……え、選んでいいのかしら?」
花が咲いたような無邪気な笑顔に私は一瞬面食らった。
(……あれ? なんだかイメージと違うような……?)
「えーっとね、エリナの髪の毛も肌も、目の色も全体的に薄い色だから、濃い色だとどうしても顔の印象が負けちゃうでしょ? それに、痩せてるんだから体のシルエットがでると貧相に見えてしまうのよ。だから、ふんわりとしたもののほうが良いわ」
ルルリアは軽い足音を立てて衣裳部屋を見渡すと、あっという間に三着見立てて私の前にドレスを置いた。三着とも、淡い色でふんだんにレースがあしらわれたものだ。
「これなんてどう? ま、まあ、決めるのはアナタですけど!」
「んまぁ、さすがルルリア様です! こちらの三着どちらも最高のものですのよ。しかも、ルルリア様がお選びになったんだから間違いないですわ!」
どこからともなくバナリア夫人が現れ、ルルリアの選んだ三着を手に取り、鏡を私の前にさっと移動させて私の胸に次々とドレスあててみせた。驚いたことに、どのドレスも私のために作られたといわれても遜色がないほどよく似合っていた。
今までの鬱陶しいほどの口出しも、どうやら意地悪をしようとして私を邪魔をしようとしていたわけではないらしい。これは、この悪役令嬢の評価を改めないといけない。
私は遠慮がちに口を開いた。
「ドレスは少し仕立て直そうと考えているのですが、いいでしょうか?」
「もちろんよ! どんなに良いものでも、体に合わないドレスはみっともないものよ。それに、三着ともちょっと子供っぽいから……ちょっと、バナリア夫人、紙とペンを持ってきてちょうだい」
「はい、こちらに!」
バナリア夫人に差し出された紙とペンに、ルルリアはサラサラとドレスのスケッチをする。私は思わず目を見張った。
(これは、イケる……)
私は、確実にファッションセンスは目の前のルルリアの方が上だと確信して、即座に今のミッションを「ドレス選び」から急遽「悪役令嬢を懐柔すること」シフトチェンジさせた。
「例えば、このドレス。ほら、ここのレースあるでしょ?これは子供っぽいから、外して、代わりにここにビジューを……」
「ほうほう、なるほど。これは素敵ですね……。あの、お姉さま、ちなみに、腕のいい仕立て人を知っていらっしゃいますか? 一月以内にお姉さまのイメージを具体化できるような……」
「もちろん! アイゼンテール家の人脈を舐めないことね! すぐにでも依頼できてよ。私の紹介とあればほかのオーダーより優先的に、スピーディーかつ完璧にに仕上げてくれるはずですわ!」
「すごいです! さすがお姉さま! 尊敬します!」
「これくらい、アイゼンテール家長女たる私、ルルリア・アイゼンテールにかかれば、簡単なことです!」
「きゃー、お姉さま、さすがです!!」
私が手を叩いて喜ぶと、ルルリアは得意げに胸を張った。
(現実生活では全く役に立たなかったけど、誉め言葉の「さしすせそ」って覚えていてよかったなぁ……)
誉め言葉の「さしすせそ」とは、
「さ」さすがです!
「し」知らなかった!
「す」すごいです!
「せ」センスいいですね!
「そ」尊敬します!
以上。この「さしすせそ」をうまく駆使するだけで、ルルリアとの会話はなんなく回せる。というか、ルルリアには効果てきめんだった。いまさら現代社会での知恵が役に立つなんてびっくり。
高飛車でキツいことを言ってしまう性格はともかく、ルルリアは根は間違いなく良い子だった。その上、アイゼンテール家のお嬢様として幼いころから自然と叩き込まれたためか、ファッションセンスは抜群。人脈も豊富。そして、間違いなくルルリアは世話焼きの部類の女の子だ。
(間違いない、この悪役令嬢、うまく転がせばかなり使える!!)
おだてるわよ、と息巻いて、私はルルリアを褒めて褒めて褒めまくった。ゾーイとミミィはあまりの展開の速さに、唖然として私たちを見ている。
あれよあれよとルルリアプロデュースでドレス選びはなにからなにまで大筋は決定してしまう。また後日、アクセサリーと髪型について決めましょう、と次の約束までとりつけた。
(これは、思わぬ収穫だったわ!)
一番時間がかかるはずのドレス選びを外注できたのだから、かなり上出来だ。滑り出しは好調過ぎるほどに好調だった。
「本当に今日はありがとうございました。私、お姉さまの手腕に感服致しましたわ。また、何かあったらすぐ相談させてください。なにぶん、わからないことだらけなのですので……」
「ええ、もちろんよ! また近々仕立て人をそちらに派遣します。アクセサリーはこちらで手配しておくからね。どうせ、センスもないのでしょうし、髪型のリハーサルの時は私も同席するわ」
「ありがとうございます。頼りにしています、お姉さま!」
さんざんおだてられ、ニコニコ顔のご機嫌なルルリアに優雅に手を振り、私はゾーイとミミィを引き連れ、意気揚々と東棟に戻った。





