表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/52

~蛇田山~7


----しばらく前


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「貞子様、それは?」


 此治城に入城して、与えられた室を整え始めていた女の下人が、女主人の取り出した小さな漆塗りの葛籠つづらを見留て尋ねた。

 国府を発った時には無かったものだったからである。


「これ?次郎様に頂いた髪飾りよ。」


 葛籠の蓋を開けて絹布に包まれたものを取り上げながら、貞子が答える。


「鎮守府では大層世話になったからと、出立する直前に頂いたの。」


 どう、似合うかしら?と言いながら、自分の髪にあててみせた。


「見かけによらず、随分と可愛らしい意匠つくりのものを選ばれるのですね、次郎様は。ええ、色白の貞子様にとってもお似合いでございますよ。」


 そう言って下人が、微笑みながら褒めると、貞子はその皓い頬を朱らめた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「・・・・そうか、髪飾りをな。分かった、ご苦労であった。引き続きあれの側に居るように。頼んだぞ。」


 一礼して下がっていく女の下人の後ろ姿を、説貞は見つめていた。


「光貞・・・・では、手筈通りに。」


 下人の姿が見えなくなると、次の間に控えていた嫡男に声をかけた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ---此治城の裏手、阿久利川に面する方の反対側。


 夕闇が迫り薄暗い土塁の陰で、数人の男たちが静かに佇んでいる。


 粗末な衣を着た男が三人こうべを垂れている。


 相対するのは二人の男、仕立ての良い直垂ひたたれを着ている。



「これを使え。」


 直垂姿の一人が、こうべを垂れる男の内、一番大柄な男に刀を渡した。


汝等うぬら、俘囚の者共であれば使いこなせよう。」


 直垂姿のもう一人が、蔑むような目を隠さずに言った。



 渡されたのは、舞草刀であった・・・・。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「このまま何事もなく戻れれば良いな。」


 夕餉のあと、火勢を落とした焚き火を見つめながら、経清が言った。


「何も有るわけがなかろう。あれだけの土産を贈ったのだ、前の業突く爺とは違って、大人しく都へ帰られるであろうよ。」


 永衡はそう言いながら、何やら一生懸命に端布はぎれで磨いていた。


「そんなに気に入ったのか?そのように綺羅びやかなものが。」


 経清は呆れたように、何十度目かの問を向けた。


「放っといてくれ、いつ何時なにがあるか分からんからな。常に備えはしておくものよ。お前はあれを使わぬのか?使わぬのならば、控えとして貰ってやるぞ。」


「欲しくばやるわ。戦場で目立つべきは、召し物ではなく、武功だぞ。」


「分かっておるわ。武功をたてた上に、これを着ておればなおのこと目立てるではないか。ぬはははは。」


「・・・ついていけぬは。」


 その時、川下の方がにわかに騒がしくなった気配がした。


「永衡、なにか聞こえなかったか?」


 経清は立ち上がり、川下の方を振り返った。


「確かに騒がしいな。」


 永衡も、磨いていた兜を傍らに置いて立ち上がった。


 ---すると、ほぼ闇に包まれていたと言っていい、川下の権守の営地に次々と炬火が灯されていき、そこだけ昼間のように明るくなった。


「何ごとだ!確かめてまいれ。」


 経清が、配下の一人に命じる。


 その者が営地を出ていこうとしたころ、向かう方向から一人の兵が現れた。


「その方、何処いずこの手のものか?」


 永衡が誰何すいかする。


「権守様のご嫡男、光貞様の配下にございます。権守様のご命令をお伝えに参りました。」


「権守様の・・・。で、あの騒ぎは何ごとだ?」


 経清が、やや落ち着きを取り戻して尋ねる。


「権太夫様方におかれましては、このままこの場を動かれることなく、防ぎを固めよとのご指示でございます。」


「どういうことだ?」


 永衡が、やや苛立ちをみせて尋ねる。


「俘囚の何者かが、光貞様の営地に侵入し、人馬を殺傷いたしました。只今は、賊の逃亡したと思われる方角を捜索しております。万が一、川上へ落ちのびて来た時には、速やかに捕縛されますようお願い致しますとのことです。」


「なぜ俘囚の仕業しわざと?」


 経清が、聞いた。


「賊の逃亡した方角とはどちらだ?」


 永衡も重ねて問う。


「現場に舞草刀が残されておりました。・・・川下の方へ去っていく姿を見たものがおります。」


「かわしも・・・。川下には確か、次郎殿の営地があった筈だが・・・。」


 永衡がつぶやく。


「光貞様は、俘囚の謀反を疑っておいでです。」


「まさか!次郎殿が、そのような馬鹿げたことをするわけが無かろう!!」


 経清が、声を荒げて詰め寄る。


「いえ、光貞様もそこまでは言っておられません。状況から、賊は俘囚・・であろうと。」


「わしが、次郎殿のところへ行って、確かめてくる。」


 永衡が、出ていこうとする。


「なりませぬ。動かぬように。川上を固めよ。との権守様のご命令です。」


「永衡、ここはもう暫らく様子を見よう。」


 経清はそう言って、自分の床几に腰をおろした。


 握った拳を震わせていた永衡も、不承不承ふしょうぶしょう、己の席へ戻ったのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ