傾国王子の秘密
ツェーレンが珍しく体調を崩した。
「医者! いややっぱダメだ他人に素肌を見せたくない! 女性医師? ツェリを好きにならない保証はない!、っいてえ!?」
ガーシュは今日は脛に蹴りをお見舞いした。頭へのダメージでこれ以上アホになられたら面白すぎるから。
「落ち着け。ツェリ様が不要だと仰るのを聞いただろう」
「遠慮してるんだよ!」
遠慮する人間は大皿料理用の皿をもらってワンプレートにビュッフェ全乗せとかしない。
「あっまたツェリって、いてててて!!」
「愛妻が呼んでんだよ!! 待たせんな!」
「……ツェリ、」
「悪い。心配かけたみたいで」
ベッドに腰掛ける妻の顔色が青白い。いつも元気なツェーレンのそんな姿はアレスターをひどく動揺させた。
「医者、呼ばなくていいって? 自己判断はダメだ、今からでも」
「あのなアレス、話がある」
ごく改まった口調に渋々ながら従う。早く医者にかかって貰いたいのだが、不要な理由を説明するつもりなんだろう。
だがツェーレンからは予想外の言葉が飛び出す。
「……俺さ、男ばっかりと結婚してるだろ」
「───うん?」
今なぜその話を。
「なんでかと言うと、俺、子供産める」
とても言いづらそうに俯きがちに、手遊びをしながらの告白。
「……は? 子ども?」
「夫の能力に応じて確実に優秀な子ができる。うちの初代国王がその子供だった。王がまだいない、国というより群雄割拠の時代まで遡るんだけど。ある男に同性の恋人がいて、孕んじゃって家族ぐるみで隠匿した」
「───」
「慌てて女の人と結婚して、妻が産んだことにした。その赤子が偉大なる建国王」
王家にはそれ以降も二人、孕める男が産まれている。かなり古い話だ。
「俺の求婚者は産めるかもって望みにかけてんじゃないかな。まあ男同士のアレじゃ絶対出来ないが」
「ど、ど、どーいうこと?」
「隠蔽かけてるがアレスなら判るよ、俺が両性具有だって。胸ないけどな。あーこれ話したら兄上に殺されるかも」
頭を抱え込むツェーレンを見ながら、アレスターは混乱の極みにぶち込まれていた。
「ツェーレンの……あそこを、見れば……? い、いや、ムリだ。はしたない……第一僕は白い結婚を約束して、え? ツェリは子どもを産め……、」
「だからさ、あの。今日は月の障りで体調を崩しただけで。ちょい痛むけど」
「…………」
「大人しくしてりゃ大丈夫だから」
アレスターが部屋を辞してしばらく後、最新だという生理用品が山ほど届いた。吸水性に優れ肌触りが良いらしい。
この華やかな個別包装はなんだ。
「……うちの女性陣愛用の異世界品を真似た製品。義姉上に聞いて一番肌にいいやつ……それとお腹あっためると良いからってこれ、魔石が入っててじんわり温かい器具、」
真っ赤になり俯くアレスター。秘密は話してないらしいがどう説明したんだろう。
「アレスが信用してる人なら話していいよ。それでなくてもグレイシアは秘密だらけだろ」
可愛い。優しい。カッコいい。
面白くて少し怖くて、でもそれは俺を思ってのことで。
好きだなあと思う。
───俺、アレスが好きなんだ。
「あ、あと体を温めるものを用意させてるから。お茶も」
「───期待したくない」
「え?」
「あんまり優しくすんな。俺、どうせ出てくんだ。辛くなる」
「ツェ、」
「ツェリ。ツェーレン。きみを拒んだ理由を今話すと言い訳みたくなるから言わない。けど僕は、ぼくはね」
「……アレスター。ひとつ頼みがある」
始めに交わした約束の時の言葉だ。思い出したからアレスは同じように答えた。
「……内容によるよ」
「俺からプロポーズしていいか」
「!?」
「誓約書があるし解呪したら一度別れよう。それで俺、その日まで努力する。アレスターにそういう対象と見てもらえるように」
「─────」
「アレスは女の子がいいんだろ、ごめん。初恋の子がいるんだって? だから解ってるんだ、無理なの。けどきちんと振られたい。だから頼むよ───、アレス?」
歓びがあまりに大きすぎて逆にアレスターは冷静になる。同時に罪悪感が襲ってきた。
この生活を終わらせるのが嫌で後回しにしていた。ツェーレンの気持ちを考えなかった。不安で怖くて仕方なかったろう。
解呪に今すぐ取り掛かろう。
「待ってね、今解呪の、──────?」
調べればすぐにこの違和感に気づけた筈だ。
「ツェリ、閨の記憶は細かい所まであるの」
「……いや、あんまり」
「なるべく思い出して。夫たちがおかしくなるのって秘密がばれた後じゃない?」
「あ、で、でも隠蔽」
「僕の隠蔽なら質感まで変えられるけど、普通の魔術では見た目を変えるだけだ。触ってなんだろうと疑問を持ってから見直したら、普通に看破される」
「……」
「気づいた彼らはどうするか。みんな建国王の逸話は知ってる、なら?」
「──多分問い合わせる。海外ならうちの国に。国内貴族なら、王家に……。何も連絡してこないのは、無いと思う」
「もうひとつ。隠蔽をかけたのは誰」
「ヴィーダ第二妃。俺の母親だ」




