三男坊は思春期(二十三歳)
遠乗りとまではいかないが少し足を伸ばし、夕暮れの絶景を堪能した二人。結局一日中イチャイチャとデートしまくった。
帰宅後もビュッフェでそれは楽しい時間を過ごしたのだ。
「このオーロラソース、アジフライにかけてみて」
「うまっ! また選択肢に迷うもんを」
「この胡麻入りとんかつソースは異世界の店の真似なんだ。絶品でしょ」
「太らせて食うつもりじゃないだろうなあ」
「く、食う!? まままさか、まだそんな」
カズサは胸焼けしていた。絶妙な加減の揚げ物を大量摂取したからではない。
これもう結婚しろ。あ、もうしてた。
アレスターには気になって仕方ない事がある。気にすまいとすればするほど、頭にこびりつき離れない。
色んな想像をしてしまい絶望感と怒りに駆られ奴らを殺したくなる。ツェリの姿の妄想に嫉妬し涙しつつも一部が元気になってしまったり。
もうツェーレンに聞くしかない。
「あのさツェリ、記憶って全部の」
「全部?」
「つまりその、ね、閨事とかも覚え、」
「あ、うん、……記憶。あるね。細部まではないけど」
「──────そう」
「アレス?」
「なんでもない。ちょっと解呪に関わるかなと思ったから。変なこと聞いてごめん」
「ガーシュ。むり」
「何、潔癖症? 経験者っぽくてダメ?」
「……ちがう……」
「あ! 自信がないんだキャハハ! 体は真っさらだけど経験豊富なチョー美人だもんね十一人だっけ比べられちゃうと死ねる? 童貞にはハードル超高いね!」
あっ今は道化師なんだ最悪と思いながらも言葉は止まらない。
「それも! すごい! かなり! あるけど!! なんかこう、夫のくせにツェーレンをむざむざ死なせた奴全員焼きたい……」
「えっ」
「ツェーレンを、だ、だ、抱いて! 散々好きにして!! それで殺すとか一万回殺ってもいい気がするっ」
「アレス・グレイ。不治の病が重篤だ」
突然真顔になってガーシュが呟いた。青年らしい表情が抜け落ちれば、見た目に合わない老獪ささえ滲む。
それも当然、彼はグレイシアの歴史と同じ三百数十年を生きている。初代に仕えたガーシュイン公爵だ。
なんで公爵家の当主が伯爵家で働いてたんだ? 何故長年生きてられるんだ? と普通なら疑問しかないが、グレイシア家がイレギュラーなので『あそこなら……そういう事もあるよね』と思考停止するのがこの国だ。
「異世界の魔術師の名を与えたのだから、もっとシャキッとしろ」
「僕が産まれた時は寝てただろ」
「大きな魔力を持つ子に付けろと伝えてあった。異世界の戦神と星も入る名前だ。名前負けだな」
その神が戦いの神なのに女神によく負けていたのは黙っておく。楽しみはとっておくのがガーシュの主義だ。
「うう……、情けなさはよく分かってるよ。時空魔法を研究しなおそうかなあ。計算しても歪みが正せないんだけど。転移魔法がベースになるのは解ってるんだ。空間を歪めるのと同じように時間を折りたたむ……? ツェリの過去を消したい……」
「無茶するとツェーレン様の存在も消える。今は処女なんだしやめとけ」
「しょ、処女って!! ツェリをおかしな目で見るなよ!!」
「おまいう」
「なあ、俺はツェーレンが大好きだよ。あんないい嫁がアレスターに来てもらえて嬉しい。逃すなよ。グレイシアは騒がしくなるだろうなあ」
しばらく滞在していたカズサが帰るのでアレスターはほっとしていたのだが。
唐突にそんな事を言い出した兄に不審の目を向ける。
「騒がしく……?」
「うん」
「傾国の王子様には大きな秘密がある。突き止めろ、我が弟アレスター」
「それはそうとカズサ」
「ん?」
「ツェリが大好きは訂正して。義弟として好感が持てる、程度に。ムカつくから」
「もうそろそろ殴っていいかな」




