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死に戻りに疲れた傾国王子、生存ルートを模索する  作者: 沓子
番外篇

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傾国王子after 〜従者ガーシュによるネタバレその1〜




 前半はギリムが更に気の毒。

 最後まで出番のなかった父王にとどめを差されます。




 ******************




「───以上が今回のあらましです」



 人払いをした国王の私室。王ガルフは腕を組み目を瞑り微動だにしない。

 ギリムは向かい合う長椅子を降り、父の横で跪く。



「いかなる処分も受ける覚悟でいます」

 国宝の私的利用、これだけでも罪は重い。ヴィーダの断罪までも全て独断で進めたことは明らかな越権行為だ。

 最も、実行はアレスターでギリムは傍観するしかなかったのだが。

「椅子に座れ、ギリム」

 重々しい王の命令に素直に従う。




「……ヴィーダと同じく、私も考えていた」

「!?」

「あの貴重な腹を国の外に出すのは惜しい。かと言って国内では直接的に、王位簒奪に繋がる火種を置く事になる」

「陛下……」

 口内が渇き、強く拍動する心臓が痛い。父が何を告げるのか予想できてしまったから。



「結局は隠蔽でごまかしたが、夫婦となればいずれ発覚する事もあるだろう。ギリムよ、ツェーレンの婚姻をお前に一任したのは何故か分かるか」



「……わたしの、私が望めば、ツェーレンを伴侶と認めたと?」

 父王がゆっくり頷く。

「お前にはまだ言っておらんな。建国王の両親は兄弟だったのだ。お前たちと同じ腹違いの」

 そうだ、ヴィーダは言っていたではないか。建国王と何もかも同じ、と。




「二人とも大事な息子だ、強制はしたくなかった。何より私は巻き戻りなど知らなかった。知っていれば……そしてヴィーダが早くに私に口添えしておれば、二人の婚姻を王命としただろう。建国王の両親の話を明らかにしてな」

 頭が割れるように痛む。知りたくなかった。本当に本当に、手が届きかけていたなんて。愛していた。今でも愛している。



「あれはな、どこに嫁いでも自分で幸せを見つけられる子だ。氷を溶かし暗闇を照らし、自らの幸福に周りを巻き込んでいく。ヴィーダの呪いさえなければ、最初の結婚とやらの王弟が離しはしなかったろう」

「……陛下、……父上。もう止めてください。どんなに願おうと、あの魔術師から取り戻すのは不可能なのですから」



「……権力を持ちながら権威に興味はなく、ツェーレンが利用されることはない。この先、我が国に困り事があれば一族を挙げ力になると友好の書簡が届いた」

「───それは」



「〝我がグレイシアは、末長くイェルレヒト王国の友である”───、各国にそう通達したらしく、周辺国が随分と騒がしい。これまでも王族との婚姻はあれど、声明までして肩入れするのは初だそうだ。国は安泰で第三王子は幸福だ。お前は正しい。最善の婚姻先だった」




 ツェーレンが幸せで笑っていられる、それだけは救いだ。俯くギリムの頬を一筋の涙が伝った。




 ******************




 ~従者あるいは吸血公爵ガーシュの幸福~





「お疲れですね、ツェーレン様」

 胡散臭い笑顔はガーシュの基本装備だ。



「……アレスが、凄いんだ」

 ソファにもたれクッションに囲まれている初々しい花嫁はたいそう愛らしい。閨疲れが色気をいや増していて、アレスターがいればすぐさま部屋に連れ帰ってしまうだろう。

 その前に、いい加減にしろこの猿とガーシュが渾身のキックをお見舞いするが。狙う箇所は無論、我儘放題のアレだ。




「あれは執着系ですから。乙女の部分を愛する時は優しくねちっこく、しかしノーマルに。男性として抱く場合はありとあらゆる手管を弄しているのでしょうね」

「また見てたのか!?」

「アレスター様は分かりやすいんです。あなたの過去に嫉妬しながら表には出せず、しかし全てを上書きする決意を燃やしている筈」

「───、る」

「はい?」

「嫉妬、出してる……、閨で。こ、言葉責め? っていうか……責められてる感じはしないが恥ずかしい……」




 ガーシュは感動した。あの坊やがそこまで性の愉しみを極めるように成長したとは。

 それを教えてくれる素直なツェーレンにも。考えてみれば当然、この国に相談相手はいない。侍女は身内のような存在だから、夜の話はしにくいだろう。

「……でも一応、この体は初めてだから手加減して欲しいんだが……せめて毎晩はやめてくれないかな」

 羞恥のあまりクッションに顔を埋めてしまうツェーレン。



 覗こうとはしたが出来なかったのだ。吸血鬼のガーシュに倫理観など通用しない。それを知るアレスターは寝室に最高位の結界を張っていた。さすがのガーシュにも破れない、否、この世界で破れる者は現存しない、素粒子レベルに干渉する結界。

 彼に不可能を突きつける主人をガーシュは好んでいる。




 アレスターの溺愛は通常の人間なら参ってしまうものだった。身体的精神的に重く本当に愛に溺れ死にする。

 しかし幾多の死を経験してなお挫けなかったツェーレンは強かった。人外であるガーシュが感心する程に。




「しばらくお預けにします」

「え!? アレスが無理だよ」

 にっかりと笑うガーシュに、やはり人外っぽいなとツェーレンは思う。




「お子に障ると言えば大丈夫ですよ」

 驚愕に固まるツェーレン。

 まだほんの小さな命をガーシュは感じられる。なんといっても魔力がすごいのだ。



 遥か昔、彼は若くして公爵を継いだ後に渡りビトの伯爵家当主に仕えた。そして子孫を思う当主の為に人外へと己を変えた。



 それ以降、ガーシュはグレイシアで仕える相手を特に決めなかった。頼まれ何か手伝う事もあれば長く寝るだけの時もあった。

 太陽は怖くないしニンニクを使った料理は好物、聖水割りのウイスキーを嗜み清められた十字架に口付けさえできる。吸血さえ自分の血を啜れば済むのだ。

 自らの万能さに、少々生きるのに飽いていた。

 己の心臓を止めるのは可能なので、あまりに退屈ならそれもいいかと考え始めた頃。

 眠りから覚めるとグレイシアに三人の子供が誕生していた。




 アレスターを選んだのは気まぐれだった。現当主や兄二人は彼の助けはさほど必要ないし、からかい甲斐がない。膨大な魔力にいまいち頼りない性格のアンバランスさが気に入り、二人目の主人と定めた。眠りにつく前、魔力量の多い子に付けるよう名を残したので寝ている間に名付け親になっていたし。

 可愛い坊ちゃんの伴侶選びは慎重にしたら、最高の相手が転がり込んできた。




 今ではツェーレンもガーシュの可愛い子供である。吸血鬼としても喉を鳴らしたくなる極上の血だが、無垢で美しく強い魂は魔族には大変なご馳走だ。ましてや聖女ならば。

 あの繰り返しに奴らの影を感じていた。本来なら色々とあり得なかった。秘宝は一度しか機能しないしヴィーダの魔術はあそこまで通用しない。

 彼らと同じ闇に属するガーシュだからこそ感知できた。




 あの魂を穢せ、堕ちさせろ。我らの元へと導いてやろう。遠くから密やかに蠢く闇の眷属の声がしていた。

 贄でなく魔王の花嫁とされていたのかも知れない。至高の輝きを持つ魂が反転すれば素晴らしい出来上がりとなる。




「そうか……俺、母親になるんだ」

 アレスターが落ち着いた頃にこの事実を教えてやろう。さぞかし面白いものが見られるに違いない。



 ツェーレンが生涯に渡り狙われるであろうことはまだ言わない。魔族からすると、ちょっとやそっとで諦める訳にはいかない存在が彼なのだから。

 楽しみは大事にとっておく。ガーシュの退屈への特効薬だ。

 無論、むざむざと奪われる失策を犯さないよう細心の注意は払っておく。




「結界ねえ。召喚勇者なら対抗できるかな」

「何か言った?」

「帰宅したアレスター様が楽しみです、と」





 フォックス邸は蜂の巣を突いたような大変な騒ぎとなった。

 女の子なら求婚者は魔法の餌食にする! と全貴族に通達しようと暴走したアレスターを、無言の手刀でガーシュが沈めた。

 目覚めれば産着を大量発注しようとし、護りの魔道具製作にと目玉の飛び出る宝石を買い漁りかけ、明日から出産まで休むとバレルに念話した辺りでツェーレンに叱られた。




 ある程度の未来視をガーシュは使えるが、誰にも告げた事はない。

 まだ言わない。ツェーレンの腹にはみっつの魂が宿っていることも。

 彼から産まれたい魂が競争した結果だろう。いつか見たニホンの正月だかを祝う争いのようだったのではないか。男どもがトロフィー目指して死に物狂いで走るやつだ。勝ち残った子らはどう育つのか楽しみだ。





 その出産が困難を極め一時はツェーレンの心臓が止まり、アレスターが闇堕ちしかけるのも。

 他にも沢山の、言わない事を抱えている。全てガーシュの生を豊かにする出来事だ。




 でも今、最も大切に思えるこの夫婦の為ならガーシュは全てを(なげう)てる。

 初代には崇敬と忠誠だった。なら現在の主夫妻に抱くのはなんだろう。

 考えると自分には似合わない感情の名前が思い浮かんだので、当面忘れておく。




「ガーシュ、これは?」

 妻に叱られ落ち込む主人にココアを作り、ツェーレンを呼ぶ。

「アレスター様のココアと、こちらはツェーレン様に。妊婦に良いハーブを調合しています。お二人でどうぞ」

「ありがとう。ガーシュはいつも優しいな」



 このお人好しの王子様は見る目がない。ガーシュがそんな風に評されたのを聞けば、一家は苦笑いで応えるだろう。

「アレスも言ってる。揶揄われるのは嫌だけど、ガーシュは自分に甘くて優しいって」



 その言葉に、笑顔のまま珍しく硬直する。気づいたらツェーレンはその場を後にしていた。



 どうやら主人も見る目がないようだ。ならば自分が見守るしかない。

 





 いつかふたりが永い眠りに就いたとき、ガーシュもまた着いていくのはどうだろう。ガーシュ無しでは、ふたりして道に迷いうっかり地獄にでも向かう羽目になるかも知れない。

 何より、彼らのいない世界に未練はない。今のところは。









    ガーシュのネタバレその2に続く




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