↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/197

第58話 別世界

 百貨店(デパート)の一階は全体が展示場になっていて、商品の見本がずらりとならび店(テナント)の新作や一押しの品が紹介されていた。

 声は奥から聴こえて、広いスペースに人が大勢集まっていた。

 

「何やってるの?」

 興味津々かけていくイアの後を追うと、少し高さのあるステージの上に数人の女性が見えた。

 

「……冒険者?」

 そう思ったのは彼女たちが武具を手にしていたからで。

 けれど着ている服のせいで確信が持てなかった。


「今月の新作だよ~!」

 真ん中の女の子が、身に着けた“装備”を見せつけるようにポーズをとって、周囲の(おそらく)男性たちが声を上げた。

「ええ……」

 追いついたディーネが信じられないものを前にしたみたいにぽかんとして。

 

 当然だろう。

 少女の“装備”はへそが丸出しで、胸元も開いて谷間が見えていた。

 下半身はスカートだったし丈もかなり短い。

 ややごついめのブーツが辛うじて冒険者らしさを出しているけど、露わなふとももがそれを台無しにしていた。

 

 露出高めの冒険者は見たことがあるけど、さすがにここまで無防備なのは初めてだった。

 たしかに最近は術式強化(エンチャント)や自己強化術(セルフブースト)が進化して、必ずしも全身をくまなく鎧で覆う必要はないけれど。

 俺自身剣士としては軽装だし、前に出て動き回るならむしろそのほうが良かった。


 腰に細身の剣を提げた少女もおそらく剣士だったけど。

 後衛職ならともかく、隣で戦う仲間がこんな格好をしていたら気が散ってしょうがない。

 ……俺も絶対に見てしまう。


「エンチャントは第三階(トワジエム)相当、軽量だけど防御力は十分。動きやすいしとっても可愛いでしょ?」

 明るい声で説明しながら少女がくるくる回ると、短いスカートがひらり翻って。

 男性たちが興奮して歓声を上げる。


「女子の天敵、粘獣(スライム)の溶解液からも守ってくれるよ~!」

 そこは守らなくていい、なんてくだらないやり取りがあって。

 沸いた空気の中で俺は呆気にとられていた。




 他の女性たちの装備もそれぞれに露出が高かった。

 魔法使いらしい子のローブはほとんど水着みたいだし、治癒師(ヒーラー)も踊り子と区別がつかない。

 

 一人少し年上らしい女性がいて、前衛職のようで甲冑を身に着けていた。

 それでも胸元や脇が覗いていたし、やはり短めのタイトなスカートを履いて、脇のスリットに綺麗な脚が際立つ。

 

 観衆に手を振り艶めかしい流し目を送って、一瞬その視線が俺に注がれた気がしたけど。

 どうやら営業用の微笑を、全員に均等に向けているようだった。

 そうやって客を勘(・)違(・)い(・)させるのが仕事であるみたいに。


「なんだろな、これ……」

 ステージの上で武具を紹介(プロモーション)する華やかな冒険者たちと、彼らに興奮する客(ファン)たち。

 周囲には澱んだ熱にまみれた空気が広がって、まるで別世界に迷いこんでしまったみたいだった。




「カイルもやっぱり、ああいうの好き?」

「え」

 ディーネの声に我に返る。

 

「ああいうのって」

「ああいう、露出高くてセクシーな感じの」

 ディーネはいぶかしげに眼を細めて、俺が女の子たちに見とれているように思ったのだろうか。

 

「そんなことないよ」

 慌てて否定するけど、「まぁ男の子だもんね……」なんてぶつぶつ言っている。

 イアの方は「みんな可愛いね!」と無邪気な様子で。

 ……。

 

 もちろん冒険者は仕事(クエスト)をきっちりこなせばいいのであって、防具の見た目なんて些細なことだ。

 それでもこれは行き過ぎだと思う。

 ふざけているとまでは思わなくても、浮かれているというか見ていると背中がぞわぞわする。




 ステージには男性の冒険者も現れて、みな一様に端整でとても美形だ。

 入れ替わるように女性客が嬌声を上げはじめた。

 

 歓声を浴びて、手を振りかえして笑顔を振りまいて。

 それはまるで──

「ア(・)イ(・)ド(・)ル(・)どもが」

 俺の隣にいた男が吐き捨てた。


「あいどる……?」

 反応した俺に男がうなずく。

 

「大手の工房から後援(スポンサード)されてる、冒険者っぽいだけの連中だよ」

 男は不快感を隠さなかった。

「目の前にいる連中なんか見栄えのよさで採用されて、見世物になって愛想振りまいてるだけさ。ときどき支給された装備で適当な迷宮に潜ってな」

 

 冒険者として何かを成し遂げるよりも、人気を集めてち(・)や(・)ほ(・)や(・)されるのが目的なのだと。

「注目されて金持ちやあわよくば貴族に目をつけられて援助を受けて、愛人に収まる奴だっている。最初からそれ狙いってのもいるしな」


 男はステージ上で注目を浴びる“アイドル冒険者”たちを睨めつけて。

「あいつらもそのうちどっかのお偉方のベッドに呼ばれるんだろうさ。もう呼ばれてんのかもしれねぇけどな」

 そう、吐き捨てるように言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。