第27話 一緒にお出かけ
天気の良い午後で、部屋の中にまで明るい陽光が差し込んでいた。
空気はからりと乾いていたけど、背中に汗がにじむのは気温のせいだろうか?
それとも自分のベッドに女の子が座っているからだろうか?
「さっぱりしてるわね、予想通りというか……」
ディーネは狭い部屋を見渡して言った。
今日の彼女は普段着姿で、袖なしの服からは綺麗な肩が見えた。
普段寝起きしてる場所に美しい少女が腰かけていると、何だか……そわそわする。
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彼女と一緒に迷宮攻略をしてから一週間以上が過ぎていた。
帰還したときには二人とも満身創痍で、特にディーネは一時危険な状態だった。
これまで使ったことのない高位魔法を凄まじい勢いで放ったせいで、反動がきたのだろう。
回復すると俺は彼女の部屋に見舞いに行って、そこでフィオネというメイドからギッと睨まれた(怖かった)。
幸い彼女は持ち直し、会って話したいとフィオネを通して伝えてきた。
お互いに聞きたいこと、話さなければならないことがあった。
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……それはともかく、なにも俺の部屋に直接来なくたって。
「私のところにお見舞いに来てくれたんだから。私だってあなたの部屋見てみたいし」
言いながらディーネは寝台の安っぽいシーツを手で軽くぽんぽんとした。
ディーネの訪問をイアは喜んで、しきりに彼女に甘えては太ももに頭を乗せていた。
ディーネも子供をあやすように頭を撫でてくれて、どうやら二人の間には友情のようなものが芽生えたらしい。
それはとても嬉しいことなのだが。
「イア、おねえちゃんとも一緒に寝たいな!」
「私とも?」
……こうなるとは思った。
ディーネが目を細めて俺を見る一方、イアはこの上なく無邪気で楽しそうだった。
「と、とにかく外に出よう。天気もいいしさ」
これ以上変な詮索をされないように、俺は慌てて二人を促した。
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ロンゴードは大きい街だった。
大陸のほぼ中央に位置していることもあって各地方の都市とも繋がりがあり、毎日のように新しいモノとヒトが入れ替わる。
市場は盛況で、休日ともなると人でごった返して通りを横切るにもひと苦労する。
物珍しいものを見つけては飛びついていくイアでさえ、長くいると頭がくらくらすると言うくらいだった。
あるいはそんな場所の方が、密やかな話をするには良いのかもしれない。
俺たちは木陰の石椅子に腰をおろし、市場で買った焼き菓子をほおばりながら積もる話をした。
俺はイアが“竜精”であること、“無風の刻”が終わり“眷属”たちが目覚めはじめていること、そしてイアとともに“安らぎの地”を求めて旅をしている途中であることを話した。
ディーネは当然驚いていたけど、「もう何があってもおかしくないし」と、信じてくれた様子だった。
「私のほうは、もっと個人的なことになっちゃうかな」
そしてぽつぽつと彼女自身についても話してくれた。
「前に聞いたでしょう、私が精霊契約しているかどうかって。答えは否であり肯でもある」
彼女の中には、物を言わぬ精霊が存在しているという。
それは数年前に突然彼女の体に宿り、今に至るまで離れることなくそこにあるのだと。
「この精霊のおかげで、私は他の精霊と契約することができない。よく分からないけど、すごく怖いんだって、この子。だから精霊たちは私に寄りつかない」
ディーネはため息をついたけど、嘆く様子ではなかった。
「順調に成長できなかったことも含めて、すごく厄介に思ってた。何か特別力を与えてくれるわけでもないし、話せないから不気味だし……でもね」
ディーネは胸に手をやって顔を上げた。
美しい横顔が木漏れ日を受けて輝いている。
「あの日、あの地下での戦いで、この子が力をくれた。この子がいなかったら、私はきっと“壁”を乗り越えられなかった。この子は確かに、私の呼びかけに応えてくれた」
だからね、とディーネは俺の方を向く。
「待ってみようと思う。この子が“声”を出してくれるときまで。ちゃんと、私の前に姿を見せてくれるときまで。いつかそんな日が来るって、今は信じられるから」
先の見えない不安に翳を落としていたその表情は今、直視できないくらい眩しくて。
「……そのきっかけをくれたのは、やっぱりあなたたちで」
少しうつむく彼女の頬が、どこか熱を帯びたように赤くて。
「改めて……本当に、ありがとう。カイル、イア」
とても綺麗だ。
「いいふんいきだねぇ~」
イアに言われて、俺とディーネは慌てて顔をそらした。
イアはお菓子に夢中で、服の上にぼろぼろと欠片がこぼれていた。
こらこら、と服に落ちたくずを払ってやっていると。
「ディーネ?」
ぶっきらぼうな声が聞こえた。
ディーネの体がこわばっている。
「ケルマト……」
聞き覚えのある名前だった。
確か……彼女が追放された一団の、団長だったろうか。
第3章開始です。
少し身辺騒がしいので、適度に間を空けながら投稿していくつもりです。
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