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第28話 ざまぁ、してもいいよね?

「何してんだよ」

 俺のことなんて眼中にない様子でケルマトは言った。

 日に焼けた体に刈上げた頭で、なんだかチンピラみたいだ。


「何って……」

 ディーネがちらっと俺を見て。

「……デ(・)ー(・)ト(・)だけど」


 え、そうなの?


「そ、そうかよ」

 心なし彼もダメージを受けているように見える。

 でも彼がディーネを追い出したんだよな?

「あっというまに他(・)の(・)男(・)に鞍替えしたってわけか」

 

「は?」

 ディーネの声は冷たくて抑揚がない。

 耳にしたことがある。

 これは女性が心底興味のない男に向ける無関心と苛立ち、そして嫌悪の声。

 はたで聞いているとすごく怖い。


「一団(パーティ)にいたことはあっても、あんたとは何の関係もないんですけど……ああそういえば」

 ディーネはに(・)ぃ(・)と口を歪める。

 ちょっとぞっとするほどの邪悪な笑み。

 こんな表情つくれるんだ……。

 

「聞いたわよ。あんた、あの新しい魔法使いの子に逃げられたんだって?」

「な……!?」

 ケルマトが青ざめる。


「どーせいやらしいことしようとしたんでしょ? あんたってそういう奴だよね……女の子はみんな言ってた」

「は、はぁ!? 誰が……!」

 先制のクリーンヒットを入れられたケルマトは、立つ瀬がなさそうに吠えるばかり。

 なんにせよセクハラはいかんよ。


「まぁでも、感謝もしてるのよ? あんたが追い出してくれたおかげで、私は彼に会えたんだし」

 ディーネはもう一度俺を見て、ぎ(・)ゅ(・)っ(・)と腕を絡ませてきた。

 ──む(・)に(・)ゅ(・)っ(・)と何かが当たって。

 これは……。

 

「カイルはあんたの百倍、いいえ、冗談抜きで千倍凄い人なんだから」

 お褒めいただいてうれしいんだけど、その……当たってますよ。

 結構おっきい。

 ローブの上からじゃ分からなかった膨らみが、そこにはある。

 俺には分かる!


「は! 低階層の迷宮(ダンジョン)攻略にも苦戦してるような奴がか? 悔しくて頭おかしくなったか?」

「そう思うなら試してみる? カイル相手にあんたなんか一分も持たないわよ」

「んだと……!」

 

 ケルマトはようやく俺を見た。

 仇敵を前にしたような眼光を向けられるけど。

 瞳の奥は頼りなく揺らいでいて。

 ……悪意とか嫉妬心じゃない、もっと繊細なもの。


「フ(・)ァ(・)ー(・)ガ(・)ス(・)が(・)抜(・)け(・)ち(・)ゃ(・)っ(・)て(・)団も活動停止みたいだし、あたしが出て行ってからついてないわね、ケルマト」

 向こうが何か言う前にディーネは畳みかける。

 口げんかの本質を心得ておられる。

 相手のペースに乗らず、いかに先んじてより有効な打撃を与えるか。

 要は言ったもの勝ちだ。


「ちっ……クソうぜぇ!」

 吐き捨ててケルマトは踵を返す。

 上手くいっていないのは確かなようで、これ以上傷を抉られる前に退散するのが得策だと悟ったのだろう。



 去っていくケルマトを見送るディーネは実に満足げで、溜まった鬱憤を一気に晴らしたみたいに清々しい。

「ねぇ、カイル」

 俺に引っついたまま、ディーネは体をプ(・)ル(・)プ(・)ル(・)震わせている。

「言っちゃってもいい?」

「いいと思うよ」


 辛い状況を耐え抜いて、自分の力で壁を乗り越えて道を切り開いた彼女なら、大抵のことは許されるだろう。

 


 ディーネは大きく口を開いて顔を空に向けて。

 それから過去の全てを振り捨てるように叫んだ。


 

「ケルマト──ざま~みろっ!」




 □□□




 しばらく変な興奮が続いて、ディーネに腕を組まれていることも忘れていた。

「イアも!」と片側から組まれて、ようやくお互いの状態に気づいた。

 

「ご、ごめんなさい」

「い、いや……」

 ぎこちなく体を離す俺たちを、イアはにこにこ眺めていた。



 

 落ち着いたらまたお腹が空いて、行きつけになっていた街の食堂に向かった。

 先日の仕事(クエスト)の実入りは決して多くなかったし、懐に余裕があるわけでもなかったけど、今はどうにもお祝いしたい気分だった。


「そういえば、パーティが活動停止って言ってたけど……」

「ああ、そのこと」

 ディーネによると、俺たちを洞窟から引き揚げてくれたパーティの一員、ファーガスが数日前に脱退を申し出た。

 団長よりはるかに信望のあった彼が抜けるとあって、他の団員たちも次々と離れて行き、団はに(・)っ(・)ち(・)も(・)さ(・)っ(・)ち(・)も(・)いかなくなったのだという。


「それはまたどうして」

「まだ私が寝ていた時に来てくれてね。脱退のことを教えてくれたんだけど……『ここでやるべきことはもう無い』って、それだけ」

 ディーネは寂しそうにうつむく。

 彼女もファーガスを慕っていたのだろう。

 

 俺は直接彼を知らないけど、話を聞く限り相当な人みたいだ。

 圧倒的な体躯で仲間を守る“盾(シールダー)”であり、長大な槍を軽々振るい敵を屠る戦士……。

 会ってみたい。




 思いは人を引き寄せるのだろうか。

 向かった食堂には果たして、かの大男が隅に腰かけていた。



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