回想録 私と姉の話2
「お姉ちゃんが保健室送りに!?」
お姉ちゃんの舎弟からの唐突の連絡。それは天地もひっくり返るような話で部活を飛び出して急いでその保健室へ向かった。
「お姉ちゃん!!」
「お、来たか」
保健室に飛び込めば包帯でぐるぐる巻きにされたお姉ちゃんがいつもと変わらぬ表情で呑気に手を上げた。
「いや、びっくりしたぜ。いきなり後ろから一発だぜ?」
その見るも悲惨な姿にも関わらずいつもと全く変わらないお姉ちゃんに自身の抑えていた感情が我慢するなと頭を突き上げた。
「お姉ちゃんの……」
「!」
言葉より先に耐えきれず零れ落ちた涙を見てお姉ちゃんはぎょっとしたが知ったことじゃない。
「お姉ちゃんのばぁか!!」
「お、おい泣くなって……!」
妹にわんわんと泣かれてしまえば最強なんて言われる姉も形無しだ。参ったと言いたげに包帯が巻かれた右腕で頭を掻く。
「本当に本当に心配したんだからぁ!」
「……ごめん」
「素手で背後から十数人掛りで相手は武器持ちってそれに勝つのは普通は無理なのよ…!」
お姉ちゃんの舎弟に聞いたところお姉ちゃんは帰路に向かう最中で他校の不良からリンチに合いそうになったらしい。
「でも勝った」
「なんで勝ったの……?」
しかしお姉ちゃんは勝ったのだ。舎弟が向かった時には満身創痍で立っているお姉ちゃんと気絶した不良共がいたらしい。絶対におかしい。
何一つとして喜べる要素がなく泣き止むことが出来ない。汚い音を立てて鼻を啜る。
どうしてお姉ちゃんがこんなにボロボロにならなくてはならないのだ。
「もう喧嘩やめてよ……。これ以上お姉ちゃんに何かあったら私……」
「……」
憧れているんだ。その姿に。だからこそ傷ついてボロボロの姿なんて見たくなかった。
俯いて嗚咽を漏らしながらそう言った私をお姉ちゃんはどう思ったのだろう。
お姉ちゃんはあろう事か私の両頬を両手で叩き挟んだ。保健室にパァンと派手な音が響く。
「痛っ!?」
「いいか。人には譲れない時がある。姉ちゃんは今この時だ」
お姉ちゃんは私の目から目を逸らさない。いつだってなんにだってそうだ。
「私はてっぺんを獲る。そしたらこの町だって少しは大人しくなるだろ?」
そう真剣な顔で言うお姉ちゃんに呆れてしまう。何がてっぺんだ。ふざけやがって。私はこんなに心配しているのに。弱音を吐かないお姉ちゃんがもどかしい。無茶をするお姉ちゃんが腹ただしい。目を離してしまえばまたどこかへ行ってしまいそうなお姉ちゃんをどうにかして大人しく引き留めることが出来れば……と何度だって考えた。
だけど……そんなんじゃお姉ちゃんは止まらないことを知っている。それに助けられている人がいると知っているから……
涙でぐしゃぐしゃになった顔を眉間に皺を寄せて更に不細工にしながら無茶難題を押し付ける。少しは困ればいいと思いながら。
「………誰にも絶対に負けないで帰ってきたら…………許したくないけど………許す」
その言葉にお姉ちゃんは満足気に頷き小指を立てた。
「あぁ、誰にも負けないさ。心配性なお前の傍にいてやるよ」
そう言って指切りげんまんしたのにね。
私はどうしたらよかったんだろう。




