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幕間 とある施設にて

 気がつけばあの禄でもない場所に立っていた。

 今度は魔法を利用して大人たちを制圧した。あの場所で皆と穏やかに過ごしていれば逃げ出した大人の一人に火を放たれて全て焼き焦げた。二人は他の子を庇って燃えていった。結局残ったのは私一人。騎士に保護され数年後あの人たちに雇われた。


  上手くいかない。いつだって邪魔が入る。今回は特に。どうしてあの子は邪魔をするのだろう。何も知らないくせに。あまつさえ自分のことを忘れかけているというのに。いつか自分がした事の大きさにを気づいて傷つく羽目になるというのに。


 ……けれどあの子の周りは全てが変わった。何もかも。

 あの子がいることで全てが変わってしまうなら、あの子がいれば……もしかしたら……あの子達は助かるのかもしれない。


 また泣き声が聞こえる。頭が痛い。自分は今、何を考えていただろうか。




 ────


 木々に囲まれながら聳え立つとある建物。そこは自分たち以外はたまに来る視察の人間こやややややわー滅多に来ないような場所でそんなところ他の人間なんて来るわけが無い……はずだった。

 誰かがこの場所を教えたのだろうか。それとも知っていて今まで放置されていたのか。


 扉にいたはずの見張りがボロボロで戻ってきたことで長閑やかだった室内の空気が唐突に変わる。一歩ずつ確実に近づく足音に武器まで取り出そうとする者を片手で制す。

 下手なことをされては困るのだ。あくまでここは血なまぐささとは無縁の場所なのだから。


 殺気立つ空気の中、その人物は現れる。

 フード付きの大きな外套で顔や体つきを隠しいて男なのか女なのか分からない。それは騒がしい外野をすり抜けながら足を進めていた。


「あら、いらっしゃい。よく来たわね」


 男はそのフードの人物が自分の元に向かっていると理解すると柔和な笑みを向け歓迎するような言葉を送りフードの人物が足を止めると困ったように眉を下げた。


「だけど、ここは貴方のような人が来る場所ではないと思うの。わざわざここまで来てくれて悪いのだけど────」


 しかし、フードの人物はその言葉が聞こえていないかのようにテーブルに二つ大きな袋を投げた。


 それなりに大きな袋にはぎっちりと何かが詰められていた。よく見れば閉じきれない袋の隙間からは金や宝石。それが二袋。本当に中身が入っていればかなりの額になるだろう。

 周囲はざわめくが男は笑みを消した。


「……なんのつもりかしら?私達はお金で引き受けるようなことは何もしていないのだけど……」


「救って欲しい子供がいる」


 指先がぴくりと動いた。男は心の中で動揺を見せてしまった己を恥じただろう。

 フードの人物はその動揺に追求する訳でもなくただ外套の袖を揺らし、


「その子供の特徴はここに示されてる。報酬が要らないと言うならそのままにしたらいい。貴方が貰わなくても誰かが手に取る。貴方は金に関係なくただ助ければいいだけ」


 そう言って金品の入った袋の上にメモを一枚置く。するともう用がないと言わんばかりに足を出口に向けて進めた。


「ちょっと…!」


 流石にこのまま返すわけにはいかないと男が立ち上がった。

 その時、


 ガシャン!!!


 大きな音に続き何かが唸り、暴れ回る音。

 金に目を奪われていた周囲の人間はその音を聞いて体を震わせ怯える。フードの人物も足を止めて音の方に視線を向けた。

 

「……挨拶をと思っていたのですが…思ったよりも時間が無いんですね。残念」


 ぽつりと呟いたフードの人物の言葉。男はそれを聞いてその襟元を掴み上げた。思ったよりもずっと軽いその身体は簡単に浮く。

 フードの人物は苦しむことももがくこともなかった。ただ自分の周囲に仄かに香り始めた匂いに気づいて男をじっと見ている。


「あなた、さっきから何を知っているの…?場合によっては……」


 ズボンのポケットにあれナイフに手を掛けようとしたが、それはフードの下で笑う。


「やめてくださいよ。そのやり方は貴方に似合わない」


 堅苦しい口調が抜けたフードの人物はころっとしたやけに親しみやすそうな雰囲気の持ち主だった。

 だからこそ意味がわからない。


「貴方……」


 男が口を開くよりも先に男の雰囲気に触発されたのだろう。野次馬だった一人の部下が飛び出した。

 武器を手に持ち、首を絞められながら浮かぶその頭に向かって大きく振り落とす。


「待っ────」


 嫌な音がした。

 男が思わず手を離せば簡単に崩れる体。男がはっとして倒れたその体を抱えようとした。



「────手を挙げたんですか?私に?」


 何かがひび割れる音がした。


「犯罪者風情が許されませんね」


 途端、頭を殴った男は血を撒き散らしながら地にふせた。

 その場の温度が一気に下がったかのように体が震え始める。歯が何度も合わさりカチカチと音を立て恐怖を体感する。

 フードの人物は立ち上がった。頭があるはずの部分が潰れ、フードの隙間から黒い液体がぼとりぼとりと零れて影へ消えてゆく。

 その異様な姿を見て男達はようやく理解したのであろう。自分達が何を相手にしているか。それは獣よりも恐ろしいものだということを。


「痛みをあげます。今まで自分達がやってきたことを振り返ることができるように。とっておきの痛みを」


 窓の外の光に反射して美しく爛々と刃が命を狙っていた。


「ははは!」


 笑いだしたと思えば悲しみだし、憎悪に満ちた叫びを上げ、無い頭を抱える。

 負の感情の暴走。男はその症状をよく知っていた。それに反応するかのように隣の部屋で更に激しく暴れ出す音がする。

 男は腹を括った。このままではこの部屋にいる自分以外は死んでしまうのだから。


「やめなさい」


 フードの人物はその声にぴたりと止まる。


「これ以上誰か一人でも傷つけたらこの依頼は受けない。絶対によ」


 毅然として刃の前に立ち塞がる男。フードの人物はそれを見ると上半身をゆっくり起こした。


「………そうですね。つい冷静さが欠けてしまいました。うっかりです」


 にこりと笑っているつもりなのだろうか頭がないので分からない。


「……早く帰って頂戴。あの人にも害だから」


「酷い言われよう!まぁ、それも間違いではありません。その通りに致します。……最後に、彼はどのくらい状態が悪化しているのでしょう?」


 男はフードの人物を見た。やはり頭がないのでその感情は読めない。


「……貴方よりも少し酷い程度よ」


「………そう……。……やっぱり変わらないのね……」


 それは小さな声で、深く悲しげな声だった。


「……やっぱり貴方────」


「……依頼の失敗はこの場にいる全員の失態。その時は覚悟してください。それではもう二度と会うことがないよう祈りましょう」


 男が声をかける前に、フードの人物は恭しくお辞儀をすると姿を消す。と同時に殺意を向けていた刃は全てその場に落ちた。

 男はその刃に映る自分の情けない顔を見てようやく深い息を吐く。


「随分大変だったみたいじゃないか」


 今になってようやく部屋に来た自分よりも小さな少年を男は睨みつけた。


「本当よ。なんで来なかったの」


「あの人を落ち着かせようと思って。だけどやっぱり俺じゃあ無理だったなぁ。残念」


「嘘ばっかり」


「あはは。……ねぇ、さっきの……実は知り合いとか?」


 その問いかけに男自身言葉に詰まる。先程のフード姿が頭に浮かんだ。しかし直ぐにその姿を振り払う。


「……まさか。堕ちかけた切り裂きジャックがお友達なんてそんなことあるわけないわ。それより彼を落ち着けないと。貴方はここの指示をお願い」


 少年にあとを任せ、暴れる()を落ち着かせるために隣の部屋へ向かう。

 しかし残されたメモが目に入り思わずそれを手に取った。



「予定の日付と子供の特徴、それから似顔絵…あら、嫌だ。この絵下手くそねぇ!」



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