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26.岩をも砕くその力。弁償代はいかほど

 

「惨めに負かして吠え面かかせてあげるわ!」


 五人は勝負の為、外に出る。

 眠っているダグラスはマノンに任せた。目が覚めたら甲斐甲斐しい美少女がいるなら大丈夫だろう。

 戦いの場はクロエの家の裏庭。家から少し離れただけの距離に詩音は心配そうにクロエに何度も聞いた。


「クロエ様…一応もう少し離れたところにしない?」


「結構離れてない?大丈夫でしょ」


「ガレオは守りに特化している騎士だからそんなに心配しなくても大丈夫」


 シエルの言葉にガレオは無言で頷く。前科持ちの詩音は本当に良いのだろうかと唸っていたがやがて観念してガレオと対峙することにした。

 他の三人は詩音とガレオから少し離れたところで観戦するようだ。


「……お前が魔法を放ち、私が防ぐ。それだけだ」


 ガレオは随分と口数が少ないらしい。必要最低限の言葉だったが詩音には十分に伝わった。


「わかった。しっかり身を守ってね」


「……本気で来い」


 ガレオはある程度詩音から距離を取ると立ち止まる。

 特に構えることもなくもうどこからでもかかってこいということだろうか。


 それじゃあ遠慮なく…!


 詩音が手を突き出すと暴風がガレオに向かっていく。

 その風の勢いを見てガレオは変わらぬ表情で片手を突き出した。


「……(サクスム)(・スクートゥム)


 唱えられた呪文。その瞬間、ガレオの目の前の地面が大きく盛り上がる。それは強度を増して大きな岩となり全てを薙ぎ倒す勢いの風を防いだ。

 風の勢いは劣らないが岩は少しも欠けずにその場に存在している。

 詩音はそれを見て、これはきっと競い負けるなと思った。流石王子の従者。実力も本物だ。


 ────でも実際に勝負して負けたら思った以上に悔しいな。


 そんなほんの少しの負けず嫌いと


「ナタリア!!負けたら許さないわよ!!」


 必死な激励がそれを聞いてしまったのかもしれない。


『────』


 詩音の耳元で鈴の音のような軽やかな声が聞こえた。

 他の音は一切聞こえない。その声だけが聞こえるのだ。それは面白がるように楽しむように詩音に囁く。


 いつの間にか詩音は風を纏った拳を強く握り、自然と叫んでいた。


風乙女の鉄槌シルフィード・マレウス!!」


 そしてその拳を目の前にそびえ立つ大きな岩へと打ち込んだ。


 拳を当てているところから軋む音が聞こえ、かと思えば岩にヒビが入り、見事に砕けた。

 しかしそれでもなお風の勢いは止まらない。そのままガレオを砕けた岩と共に吹き飛ばし、後ろにあった壁に激突した。


「悪いわね」


 沈黙。

 めり込んだ壁に寄りかかっているガレオは一体何が起こったのかわかっていないのか呆然としている。見ていた三人も口をあんぐりと開けていた。

 ナタリアはハッとするとみるみる顔を青ざめてすぐさまガレオに駆け寄る。


「いやぁああ!?嘘!?ほんとにごめんなさい!!!!大丈夫?」


 ガレオは受身を取ったのか意外と怪我をしていないようだった。しかし、よく調べて見ないと何があるか分からない。ナタリアはすぐに手を差し伸べた。


「す、」


「す?」


「素晴らしい!!!」


「!?」


 ガレオはそう叫んだかと思うとすぐさま立ち上がりナタリアの手を掴んで片膝をついた。先程の無表情とは打って代わり、頬を赤らめ熱を持った目で見ていてなんだか心なしか息が荒い。


 これ絶対頭打ってる!!


 詩音は口の端を引き攣らせた。


「この拳、深くこの身に刻まれた…。あの話は正しく事実。少しでも疑った私をどうか許していただきたい。あなたの強さは本物だ!」


 クラージュくん


「女性だと思い無意識に貴方を侮っていた。本当に申し訳ない。しかしこれで目が覚めた」


 クラージュくん


「今度は更に万全を期す。さぁ!もう一度この身にその拳を思いっきりぶつけてくれないか!」


「嫌です」


「そう言わず」


 詩音は即答したがガレオは諦めない。メンタルまで頑丈なのか。


 クラージュくん助けてー!!


 詩音が心の中で助けを呼んでも来ないものは来ない。クロエに助けを求めようとしたがクロエもガレオの行動にはかなりショックを受けたようだ。


「嘘……寡黙で誠実そうなこの中では比較的まともそうなガレオ様とナタリアが仲良くなって少しでも男を見る目を養ってもらおうと思っただけなのにまさかガレオ様そういう感じだったの…?」


 ブツブツと何かを呟いて助けは期待できそうにない。


「もしかして魔力が尽きているのか?それならただ殴るだけでいいんだ!」


「それ主旨変わってるけど!?」


  ただ殴られたいだけじゃん!この人Mなの!?


「ガレオォー!!!」


 そんな二人に割って入ったのは意外にもバージルだった。思いっきりガレオの頭を叩き自分の方に振り向かせる。手が離れたことで詩音はガレオからすぐさま距離をとった。


「おっまえ!また悪い癖が出よって!シエルも距離を取ってないでこっちに来い!」


「そう怒らないでよバージル」


「元凶はお前だろう!だがなクロエ。お前も自分の従者の面倒はしっかりしろ!何だこの壁の穴は!誰が修理するんだ!」


「うっさいわね。私の家なんだから私が頼むわよ!余計なお世話!」


「バージル殿下…!」


 バージルはすぐさまガレオをシエルの隣に並べるとその場で説教を始めたのだ。クロエにだって躊躇せず言葉を投げる。

 その一連の行動を見て詩音はバージルに尊敬の眼差しを向ける。


 まさかこの人が救世主だったなんて…!


 クロエの話を聞く限りでは良い印象を与えられなかったが実際にバージルという人を見て悪い人ではないのではないかと気づいた。

 もしかしたらバージルは今まで一人でこの二人と荒れていたクロエの手網を握っていたのかもしれない。そう思うと同情を禁じ得ない。


 そう考えると涙が出そうになった詩音だがそんなことには気づかずバージルは詩音にも注意を促す。


「しかし、お前もいくらなんでも加減というものがあるだろう。クロエの要望にいちいちまともに応えるんじゃない」


「いや、それは本当にすいません……。ありがとうございます」


 詩音がお礼を言えばバージルは慌てたように腕を組みそっぽを向く。


「別にお前のためじゃあないんだからな!」


 ツ、ツンデレだ……!


  テンプレのような言葉に感動する詩音。


 それにしてもこの声、この言葉、ずっと前にもどこかで聞いた覚えが……。

 四年前にあの子とその話もしたのに…その事も忘れてるなんて……。


 ────あの子って……?


 いけない。また何か忘れてる……。やっぱり私何かおかしい……。


「ど、どうした?誰も怒ってないだろう。落ち込むんじゃない」


 沈んだ顔の詩音にバージルは勘違いしたのか励ましの言葉をくれた。


 良い人だ……。


「私も今日からバージル様を推します……」


「押す!?俺はなにもしてないだろう!?」


 クラージュくんと同じような反応してる…。



「────この騒ぎ。一体何があった」


 後ろから身が凍るような声が聞こえた。詩音は恐る恐る振り返る。

 そこにはクロエの父親がいた。めり込んだ跡のある壁を一瞥すると沈黙し、五人に鋭い視線を向けた。


「誰がやった。私の前で虚偽は許されない」


 威圧のある雰囲気に五人は言いにくそうに黙っていたが詩音は他の人に言われるくらいなら…と自分を奮い立たせ怖々としながら手を挙げた。


「わ、私です……」


「……そうか、………話がある。私の部屋に来なさい」


 言葉短くそう伝えると部屋から出ようとするクロエの父親に納得いかないとクロエはシエルを指差した。


「待ってお父様!元はと言えばシエル・アルカンが悪いのよ!」


「え!?まぁ、僕も原因がないとは言い難いですけど……いやそれでも……」


 告発されたシエルはしどろもどろに言葉を探す。そんなシエルを刺さんばかりの鋭い目付きで見つめる。


「……回りくどい言い回しは好かない。はっきり発言しただこう」


「う……」


 黙り込むシエルにあんな目を向けられたら誰だってビビって話が出来ないよ。とシエルに同情した詩音はその間に立った。


「クロエ様。私が加減出来ずに壁を壊しちゃったんだから壁の責任はしっかり取るよ!」


 多分お父様が。


「ナタリア……でも……」


 不服そうなクロエににこりと笑いかければクロエもそれ以上何も言わなかった。


「……時間は有限だ。すぐに来るように」


 クロエのそう言うと部屋から出ていった。クロエの父親が部屋から出たことを確認すると五人はほっと息を吐く。


「怖かった…!」


「流石この国の宰相。圧が違うよ……。しかも下手に誤魔化しが効かないから嫌だよね」


「嘘とか全部見透かしそうだもんね」


 詩音の一言にクロエはきょとんとする。何か変なことでも言ったのだろうか。


「あら、知らないのナタリア?お父様の祝福(ギフト)


「え?クロエ様のお父様祝福(ギフト)持ちなの?」


 意外だと思った。クロエは祝福(ギフト)持ちではないと聞いていたからその父親も祝福(ギフト)を持っているとは思わなかった。


「そう。嘘を見破る祝福(ギフト)持ちよ」


「………」


 だからあの時、虚偽は許されないとか言ってた訳かと詩音は納得した。それと同時に何も知らないうちに何かの拍子で嘘をついていないか不安になった。


 ……私、何か嘘ついてたりしないよね……?


  詩音は自身無意識に吐いた嘘に気づいてはいなかった。もう分からなくなっていたのかもしれない。


「大丈夫なのか。お前」


「…土下座で許してもらえますかね…」


「いや…。……一応俺の方からも口添えはしておこう。微力にしかならんがな」


 バージルの優しさに詩音は泣いた。


今回もお読みいただき、ありがとうございました!


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