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サブキャラで悪役な貴方の笑顔が見たくて  作者: 茶ノ前 嘉
貴方と出会う八歳 (幼少編)
16/60

15.仲直り

 

  大きな麻袋の口が開いて出てきたものを見た時、クラージュは心臓が止まりそうになった。

  薄暗い部屋でも目を引く銀色の髪、いつも楽しげな青い瞳は今は固く閉じられていたが彼女を見間違えるわけが無い。


「ナタリア様!?」


「代わりの子を連れてきたわぁ。約束通りクロエお嬢様は解放して!」


  クラージュは慌てて駆け寄り息を確認すれば穏やかな寝息を立てているだけだったのでホッと息を吐いた。が、すぐにナタリアを連れてきたマノンに鋭い視線を向ける。


「貴方、どういうつもりですか!この方の連日の恩を忘れたのですか!」


  そんなクラージュに感情の読めない瞳で薄く笑う。


「他の人のことなんてどうでもいいわぁ。私が案じるのはクロエお嬢様の無事だけよぅ」


  全く意に介さない様子のマノンにクラージュは非難の一つでも言ってやろうと思ったが先程の自身の行為を思い返せば苦々しい顔で黙ってしまう。 そんなクラージュを置いて、マノンはクロエの無事な姿を確認すると本当に嬉しそうに微笑み、手を差し伸べる。

 

「さぁ、私と帰りましょうクロエお嬢様!」


「マノン……」


  クロエは困惑する。


 彼女はどうしてここまでするのだろう。


 クロエにマノンの気持ちが理解が出来ない。でもここでマノンの手を取り、ナタリアを置いていけばそれは先程のクラージュがクロエを見捨てたこと同じ。それでいいのだろうか。

  だからクロエは自分に伸ばされ手を戸惑ったように見つめて、手を胸元で握りしめていた。


「ちょっと待ちな!まだ返すなんて言ってねぇだろ。馬車だ。馬車を用意しろ。そしたら今度こそお望み通りお前のお嬢様を解放してやる」


  そんな二人の間に邪魔が割って入る。折角の感動の再会に水を差し、更に逃げる為の馬を要求してきた強欲の過ぎる男にマノンは笑顔を浮かべながら青筋を立てた。


「……………分かりましたぁ」


「よしよし。なんだぁ、思ったよりも簡単な仕事じゃねぇか」


  扉へ向かうマノンに男は満足気に笑い酒を一杯煽れば、寝ている詩音の方へ近づく。なんとか目を覚まさせようと努力するクラージュを突き飛ばし、彼女の美しい銀髪を乱暴に掴んで頭を持ち上げる。


「ちょっと!!」


「うるせぇな!これで目の色が黒だったりしてみろ。売り物になりゃしねぇ!」


  クロエの非難の声も構わず瞳の色を確認する為に髪を引っ張りあげようと力を込める。

  が、その前に男の視界を小さな右手が遮った。


「あ?なんだ?」


  右手に魔力が込め──詩音はノールックで風魔法を男にぶっ放した。


「ぐぇ!!!!!!」


  嫌な音を立てて顔面にもろに風魔法を受けた男は鼻血を出しながら倒れた。それと同時に詩音はぱちりと目を開ける。


「この子、目覚めて──」


「くたばれ!!!」


 ハッとした女が手を出す前に詩音は素早く起き上がり、魔力を全身に巡らせて脚に力を入れて飛び出す。自分の体を丸め、風を身に纏った体を一直線に女の懐へ衝突させる。ぶつかった衝撃と風圧で勢いよく後方へ吹っ飛んだ女は派手な音を立て壁にぶつかった。


「なんの音──」


 音を聞き付けた見張りをしていた男が扉を開ければ倒れている二人と詩音を見つけ目を見開く。


「えぇい!!!」


 その隙を見逃さなかったのは扉の裏に立っていたマノンで、自身の高身長を利用して男の後頭部にレンガを振り下ろす。男は唸り声を上げ崩れ落ちた。

  詩音は激しい体力の消費に肩で息をしながらも辺りに他の足跡が聞こえないか耳をすまし、マノンは扉の外を確認する。

 

「……他には誰か来そう?」


「いなさそうだわぁ!」


「その人は生きてる?こっちは何本か骨折っちゃったと思うだけど……」


「辛うじて!もう一発いきます?」


「いい笑顔で言うじゃん。ダメダメ!早く縛ろう!縄ある?なかったら服で!」


「わかったわぁ!」


  詩音とマノンは馴れた手つきで倒れた三人を縄で縛っていく。そんな二人を見てクラージュは使用人と令嬢がなんでこんなに手馴れてるんだろうとも思ったが何も聞かないことにした。

  最後に三人をまとめて柱に縛り付けると詩音は立ち上がりクラージュへ振り返る。


「ナタリア様」


「うん」


「ここにいる賊はこの三人だと思われますがダルティフィス家の周辺にもいるかと。それらしい発言をしていました。彼等が戻ってくる前にここを出ましょう」


「うん、わかった。二人とも怪我とかしてない?」


「えぇ、傷一つありませんよ。ナタリア様は……?」


「今のですごい眠いけど大丈夫。………無事でよかった!!」


「わっ!?」


  詩音はクラージュの無事な姿確認すると感極まって抱き締める。クラージュは突っ込んできた詩音に慌てるが止めはせずされるがままだ。両腕をどうしようと持て余す姿に詩音はくすりと笑った。


「それにしてもナタリア様どうしてここに……」


「聞いてよ!話せば長くなるんだけど二人が拐われたって聞いたあとマノンさんが来たと思ったらクロエ様の代わりがいるからってレンガで殴られそうになってそれなら協力して盗賊倒そうってなったの!」


「ちょっと意味がわかりません」


「かっこいい救助をしようって作戦会議したけど結局不意をついて殴ろう!ってなったの」


「……よく無事でしたねぇ。ほんとに……」


  稚拙な説明に呆れながらも気が抜けたように笑うクラージュに詩音も笑顔になった。

 それから四人は直ぐさま小屋から外へ出てナタリアの家の方向へ向かう。


  本当に無事でよかった。

  自分達も怪我もしていないし、このまま二人が傷ついたりするよりはこの判断はよかったのかもしれない。

 まぁ、家に着いた時お父様の反応が怖いんだけどね


「あ、あの」


  鬼のような形相のテオフィルスのことを想像して肩を震わせていた詩音に声を掛けたのはクロエだった。マノンに何か促され、詩音とクラージュ、二人の前まで押し出されたクロエは眉を顰めて口を開いたり閉じたりと何か言いたげだ。


「その………」


「ほら、クロエ様!」


「……」


「うー……」


  なかなか言い出さないクロエに痺れを切らした詩音はクロエに近づき両腕を広げると、ひしっと強く抱きしめた。


「よかった~~~!!」


「!」


「あっ!ナタリア様ずるいわぁ!」


  クロエは目を白黒させながら詩音を見れば本気で安心そうな顔をしていて戸惑う。抱きしめられたことで感じる温もりが慣れなくて身動ぎする。


「怖かったよね!助けられてよかったー!!」


「助けてなんか誰も………ッ!」


  頼んでない。と言いかけて口を急に結ぶ。マノンがすごい力で肩を押さえているからそのせいだろう。そんな彼女に詩音は頷いて目を合わせる。


「そうだね。でも私がそうしたいと思ったんだ。クロエ様に謝らないといけないことがあったから……」


「え?」


「クロエ様の為って思って言ったけど、クロエ様のことをちゃんとわからずに説教垂れちゃったし、叩いたし、そういうのうざかったよね。ごめんね」


  しゅんとしながら謝る詩音を見てクロエはありえないと思った。

  すぐ謝って許してもらおうなんて弱いやつがすることだと。下々を従えるものは弱みを見せるべきではないとそう常々教えられてきた。

  だからそんな人に抱きしめられているのも有り得なくて本当は振りほどかないといけない思ったのに彼女に強気に振る舞うことも言葉に噛み付こうと思えなかった。下ろしていた手を詩音の腰に回して強く抱きしめ返す。理由なんてない。そうしたいと思ったのだ。


「馬鹿じゃないの…。ほんと最悪よ……」


「うん」


「貴方には叩かれるし、賊には捕まるし!」


「うん、ごめんね」


「あの男は私を見捨てて逃げようとするし!」


「え?」


  クラージュを見れば、サッと目を逸らされた。

  後で詳しく話を聞かなければ。


「お父様も誰も助けに来てくれないと思ったのに……。だけど貴方達は助けに来てくれたのよね……」

 

  そう呟いたクロエは詩音から一歩距離を取る。ツンっと顎を上げて胸を張るとびしりと詩音を指を差す。


「だから貴方が叩いたこと特別に許してあげる!だから貴方も私を許しなさい!」


  そう言い放つクロエ。最後の最後にクロエらしくて詩音は思わず苦笑した。クラージュは嫌そうに眉間に皺を寄せて詩音に耳打ちする


「この人別に許さなくて良くないですか?もう二度と会わないと思いますし」


「ちょっと!聞こえてるわよ!」


「これはクロエお嬢様が悪いわぁ!ちゃんと謝らないと」


「うっ……」


「まぁまぁ。……また、遊びに来て。事前に手紙くれたら次はちゃんとおもてなしの準備して待ってるから」

 

  いつも追い返そうとしていた詩音のその言葉にクロエは目を輝かせる。


「あ、もちろん勉強は忘れずにね!マノンさんから聞いてるの。最近は追いかけ回して勉強が疎かになってるって!」


「わかってるわよ!私は優秀なんだからすぐに今までの分取り返してまた来るわ!」


「ははっ、それはどうですかねぇ」


「貴方、何が言いたいのよ!」


「はいはい、撤収撤収」


  なんか二人急に仲悪くなってない?

  そう疑問に思いながら詩音はを先頭に更に先へ向かう。それに続いてクラージュが、クロエもその後に続こうとしたがぴたっと止まり、マノンの方へ振り返る。たつたた


「どうなさいましたかクロエお嬢様?」


「……ふん!貴方の解雇はなかったことにしてあげるわ!感謝しなさい!」


「あら!まぁ、正直のところ解雇は旦那様の許可がなかったのでそのまま居座ってもよかったんですよねぇ」


「そうなの!?いや、それから、あの………」


  クロエは言いづらそうに俯いていたがやがて顔を上げた。背の高いマノン相手だと自然と上目遣いになるクロエは聞こえるか聞こえないかの声で告げる。


「マノン………ありがとう………」


「────────」



「あ、ナタリア様見てください。クロエ様白目向いてますよ。面白いですね」


「なんでそうなったの!?!?止めなよ!!マノンさんそのストーップ!!そのハグ力強過ぎ!!折れる折れる!!」


  その数十分後、四人は小雨が降る森の中で護衛の一人と合流。事情を説明すれば小屋にいた盗賊を捕え、ダルティフィス家周辺も護衛や騎士の協力によって残りの盗賊も無事捕まった。

  クロエやクラージュには特にお咎めなどなかったが詩音は父親の言いつけを破ったので数週間外出禁止になった。

  ……それはちょっとおかしくない!?



 ◇


  数週間後、アビス家の長男であるマルスランは豪華な客室で震えていた。なんでもダルティフィス家からマルスランに名指しで招待状が送られたのだ。思わず次男であるダグラスも連れて来たが自分が何をしたのか全く身に覚えがなかった。クラージュはミストラル家に先に発ってしまったので連れて来れなかったのが悔やまれる。


「マルス兄さん何したん!?」


「そんなの分からねぇよ!なんであの傲慢令嬢に俺が……」


  そんな会話の途中で扉が開き、豪華絢爛な食事と共にクロエが澄ました顔で部屋に入ってくる。


「待たせたわね。本当はナタリアにだけ御礼をしようと思ったけど彼女はまだ外出禁止みたいだし、貴方にもい、ち、お、う助けられたから……、……?」


  クロエは二人の顔を見て首を傾げる。


「貴方、誰よ」


「は……?えっと、マルスラン・アビスです」


「はぁ!?!?……こほん。ナタリア・ミストラルの婚約者は貴方のことではないのかしら?」


  二人は顔を見合わせて、ダグラスがおずおずと発言する。


「それは……クラージュのことやねぇ」


「………」


  クロエは今ごろへらへらと笑ってナタリアと一緒にいるだろうあの男を思い出しテーブルを強く叩く。二人はクロエの表情を見て身体を震わせた。


「あの男っ!!!!!」





「いやぁ、ナタリア様にも見せたかったですよ。マルス兄さんが自分が何をしたのかわからず何日も震えてるところ。これで数ヶ月は笑って過ごせますねぇ」


「まぁ……クラージュくんが楽しそうでなによりだよ」

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