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サブキャラで悪役な貴方の笑顔が見たくて  作者: 茶ノ前 嘉
貴方と出会う八歳 (幼少編)
15/61

14.囚われた二人

 

「今すぐ離しなさい!!この賊共!!」


 そう言ってクロエは自分たちを拐った奴らを睨みつけた。

  床に縛られ転がされているクロエ、クラージュ。ミストラル家から飛び出したあの日、帰りの馬車が襲われたのだ。御者は気絶させられクロエとクラージュは捕らえられる。大人一人であれば抵抗しようと思ったが相手は二人、しかもクロエの使用人がそいつらの仲間だったらしい。為す術もなく二人は捕まってしまった。クラージュはその時ほど自分の運を恨んだことはない。

  なぜ自分も連れて行った。できれば御者と一緒に気絶させて放置して欲しかった。


「私を誰だと思ってるの!!」


  しかし連れ去られてしまったからには恨み言など言ってはいられない。最悪の状況を想定しながら行動しなくては。

  この場に酒を飲んでいる男一人、使用人だった女が一人、扉に見張りが一人。

  目的はダルティフィス家へ身代金の要求だろうか。この場に自分達を捕らえた三人がいるということはダルティフィス家周辺に仲間がいるのだろうか。身代金を要求して金を奪い、ここで合流して逃亡する。こんなの自分が想像しているだけだがなんとお粗末な計画だろう。こんなところでのんびりしていてはすぐに助けがやってくる。


「こんなことをしてお父様が黙ってないわ!」


  そんなことを言ってお父様の贔屓はないと昨日はあんなに叫んでいたくせに────、……!


  ……これはまずい。ダルティフィス家は救助に来ないかもしれない。


  騒がしいクロエを冷めた目で見ていたが、昨日のクロエの自爆を思い出してクラージュは青ざめた。

  冷酷、無慈悲と有名なダルティフィス宰相だ。殿下の婚約者である自分の娘と言えどかなり世間体が悪いクロエのことを切り捨てる可能性はなくはない。

  ダルティフィス家が動いてくれなくてもミストラル家は必ず動いてくれるだろう。だってあの人がいるのだから。しかし、間に合うか分からない。

  まず公爵家や騎士団に連絡するのに人数が割かれるはずだ。今日はあいにくの雨で探すのに時間が掛かるのは目に見えて明らか。その間にこの人達が仲間と合流してこの場を移動してしまえば終わりだ。


「貴方、うちの使用人でしょう!こんなことをして後悔するわよ!!」


  もう、自分でどうにかするしかない。この人を置いてでも自分は逃げ延びる。そう決めた。公爵の恩恵もないのにこの人にそこまで付き合っていられない。


「聞いているの!!」


  どうしてこの人は静かに出来ないんだ。そんなに騒いでいたら……、


「うるさいぞ!!」


  男が酒瓶をテーブルを叩きつければ、クロエはビクッと身体を大きく震わせて黙る。

  やっぱり。クラージュは呆れたようにため息を吐いた。


「そんなに騒いでいられるのも今のうちだ。公爵から身代金をたんまり貰ったら、お前らを他国に売り飛ばしてやる」


  手本のような下卑た笑いを浮かべる男にクラージュはまた呆れる。隣国に行くまで時間が掛かるのでその間に流石に騎士団に捕まるだろうし、酒を飲んだ状態ではいざという時正常な判断ができないだろう。そんなに余裕な訳でもあるのだろうか。

  ちらりとクロエを見る。売り飛ばすという言葉に怯えているのか僅かに震えているがその事を悟られぬように固く口を閉じて男を睨みつけていた。


  「ん?なんだその目は」


  その視線に気づいた男は気に食わないと顔を歪ませる。クロエに伸ばされる手。気の強い目が打って変わって怯えた眼差しに変わる。それを見てクラージュは何度目かのため息を吐いて縛られたままクロエの前に出た。

  クラージュが割って入ってきたことがまた気に食わなそうなのが見て分かるがクラージュとて好きでこのタイミングで割って入った訳ではない。が、ここで上手くやらなければ。

  覚悟を決めたクラージュは喉を一度鳴らすと態とらしく声を震わせた。


「お願いします。助けてください……」


  俯き、必死でそれでいて弱々しい声で情けを乞う。軟弱なその態度に男は毒気を抜かれたのか声を出して嘲笑う。しかしクラージュにはそんなの慣れたものだ。気にもならない。


「今日の出来事は何も見なかったことにして家へ帰りますから…どうか……」


「おいおい、そんな都合の良い話あるわけないだろ?」


  男はありえないだろと言わんばかりに手を振り、鼻で笑う。

  まぁ、そうだろう。流石に簡単に解放してくれるとは思わない。だからなんとしてでも手放さなければならないと思わせなければ。

  クラージュは眉尻を下げて悲しげな表情を作る。


「そんな……。……ですが、三人で人質二人を抱えて護衛から逃げるなんて難しいでしょう……?」


  クラージュの言葉に男は怪訝そうに眉を顰めた。


「もう少しでここの森を管理している私の婚約者の護衛が来ます。この森を熟知し、どの方もかなりの腕利きです。彼らが来れば必然的にここは争いになるでしょう…。血を見るのが私は恐ろしいのです」


  クラージュの言葉に女が男に耳打ちをすると男は面倒くさいそうに舌打ちをする。女はクラージュの婚約者がミストラル家の人間だと知っているのでその言葉は事実だと認識したのだろう。もちろんはったりなのだが。


「……もしかしたらお仲間はそれは見越して二組に別れたのかもしれません」


「なんだと!?」


「出過ぎたことを申し訳ありません!……ですが、金を奪い逃げること、人質を二人抱えて逃げることどちらが困難でしょうか」


  そう問いかければ、アイツら……と呟いて男は怒りで酒で赤かった顔が更に赤くなる。何か覚えがあるのだろうか。分かりやすく単純で協調性のない人達でよかった。クラージュは俯きながら笑う。


「お仲間は待たず今すぐ逃げたほうがいいと思います。ダルティフィス公爵はきっと娘の身代金を払わない。なにせ娘に興味が無いのだから。今のうちに逃げて隣国でこの方を売ればあちらにいるお仲間を出し抜けますよ。赤い瞳と赤い髪はとても強い火属性魔法を使える証ですからね」


  一点の濁りもない赤。髪も瞳も同色なのはとても珍しく金や銀の色を持った人間よりも能力は劣るが凄まじい力がある言われている。隣国は強い力を持つ人間が少ないのでクロエはきっと高値で売れるだろう。


「それに比べて私を他国へ売ったとしてもお金にはなりますか?一銭にもならない人質にリスクを冒せますか?私はただ穏便に帰りたいのです」


  薄い茶髪に青みがかった紫色の瞳、それは強い魔力もなければ属性持ちでもない証拠。そんな自分が売れるとは思わなかった。それは男も分かってくれるだろう。


「どうかお願いです。私を解放してください」


  相手に疑う隙を、考える隙を与えてはいけない。しかし自分が選択を迫っていることを悟られてはいけない。弱く、惨めに演じて相手が優位に立っていると思わせろ。

  こんなやつ邪魔になると思わせて手放して貰わなければ。しかし殺されてしまわないように自分を手放すことで後に相手の利益になることを分からせなければ。


  こんなところで死ぬのも売り飛ばされるのもごめんだ。


「お願いです。護衛がこの周辺に来ないよう誤った道を教えますので。護衛も見知った私が教えた場所を疑いはしないでしょう」


  黙った。深く考えさせてはいけない。あと一押しだ。信用が足りないのだろう。それならこれを言えばいい。


「聖なる龍に誓います…」


 その言葉にこの場にいる全員がクラージュを凝視した。


「本気かお前」


  聖龍に誓うと言うことはそれに背いた時の代償は非常に大きい。属性を剥奪され二度と魔法を使えなくなることもある。そうなれば一生世間から指を差されて生きることになる。そんな言葉が人質の方から出るとは思いもよらなかったのだろう。男は目を丸くする。


「はい。誰にも言いません。だから縄を解いてもらってもいいですか?」


  男と使用人だった女は顔を見合わせる。

  すると今まで黙っていたクロエが叫びに近い声を上げた。

 

「あ、貴方、私を見捨てると言うの!?」


「はい」


「はい!?!?」


  何を当然のことをこの人は聞いているのだろう。今まで自分がクロエのとこを優先していたのは()()令嬢だからである。


「父親の恩恵を受けない貴方は私にとって価値のないものですから」


  クロエは唖然としていたが憎しみと敵意を込めてクラージュを睨む。縄がなかったらきっと張り倒していただろう。クラージュはそんなクロエにわざとらしく愛想笑いを浮かべる。


「貴方もお父様目的で近づいたのね…」


「えぇ。それ以外で貴方のような我儘で他人を顧みないような人間にわざわざ近づいたりしませんねぇ」


  クロエは歯軋りをして恐ろしい顔で睨むがクラージュにとってはどこ吹く風だ。

  そんなクラージュの態度に二人は呆気にとられながら縄を外し始めた。どうやら信じて貰えたようだ。些か簡単に信じ過ぎると思うが……。


「貴方人間の屑よ!!」


「やだなぁ、クロエ様には劣りますよ」


 怒り、非難するクロエに縄を外してもらったクラージュは自分の手首の状態を確認しながらへらりと笑う。


「外道!!きっと貴方達も騙されているのよ!!」


「おや、聖龍の誓いまですると言ったのに疑うのですか?僕は僕が無事であればあとは何も望みませんよ。ましてやこんな女の救出なんてとてもとても」


「このっ!!悪魔!!人の血が通っていないわ!!」


「それは貴方の事でしょう?昨日貴方が身勝手に捨てた使用人も今の貴方のような気持ちだったのでしょうね」


「ッ────」


  言い返したいのに何も言えなくなるクロエにクラージュはこんな状況にも関わらずとても楽しげだ。今まで振り回されたぶんを今ここで全て発散しているのだから当然だろう。


「人の見る目がありませんねぇ貴方は。まぁ、その態度なら売りものにはならないと思いますし、そのうち運良く戻ってこれるかもしれませんねぇ?身綺麗なままは無理だと思いますが」


  そこまで言うと泣き出しそうな表情をしているクロエを置いて、賊たちに笑いかける。


「さぁ、急いで誓いを始めましょう。紙と書くもの。切る物も必要ですね。あぁ、その後に何処から逃げるのか教えてください。護衛には逆方向を伝えるので。あ、この森の近道も教えておきますね」


  賊はクラージュの言葉のままに物を揃え始めた。その様子を見て一人の子供に振り回されて馬鹿だなと思ったが口には出さなかった。

 


  そんな時である。小屋の扉が開いたのは。

  入ってきた人物に全員が目を向ける。そこに立っていたのはクラージュとクロエは見覚えのある人物であった。


「貴方は……」


「マノン…!」



「約束は守ったわん。クロエお嬢様を返してちょうだい」

 

  彼女はそう言って大きな麻袋を放り投げた。


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