表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サブキャラで悪役な貴方の笑顔が見たくて  作者: 茶ノ前 嘉
貴方と出会う八歳 (幼少編)
14/60

13.レンガで後頭部殴ろうとするのはどうかと思う

  次の日、やっぱりというか当然のようにクロエは来なかった。


「今日は私がクロエ様のところに行くか……」


 ミラはいいじゃないですか態々行かなくても等と言っていたが意思を覆さない詩音に呆れながらお使いに出掛けた。

 でもクロエ様は公爵令嬢だし事前に連絡とかいるかな。うちみたいにフランクに行くのダメ?いや、うちもそうやすやす来てもいいお家ではなかったんだけどね。

 どうやってクロエの家へ突撃するか悩んでいると、突然大きな音を立てて扉が開き、使用人が転がり込むように部屋に飛び込んできたので詩音は驚いて声を上げた。


「ノックもなしに申し訳ありません!大変です!お嬢様!」


「何!?クロエ様来た!?」


「違います!馬車が賊に襲われ御者が怪我を!」


「なんですって!?」


 話を聞くと昨日の帰りの道で馬車が盗賊に襲われ、御者は頭部を殴られて気絶。そのまま馬車と乗っている人たちが持ち逃げされ、発見は御者が気絶から目覚めた今日になったようだ。


「……馬車の中にいたクラージュ様、クロエ様、そのお付きの者が行方不明。今、御者は医務室で治療中、数人かは森へ探索に行き、旦那様が騎士団の元へ向かいました」


「嘘でしょ…」


 突然の報告に呆然とする詩音を心配そうに見つめ使用人は言葉を続ける。


「旦那様からクラージュ様は絶対に見つけるから決して家から出ないようにと」


「お父様が…?」


  どうしてわざわざそんなこと……まさか、盗賊の狙いは私……!?


「えっと……ナタリア様なら部屋を飛び出してクラージュ様を取り戻しに行きかねないから……と」


「さ、流石に盗賊相手にそんなことしないよ!」


 その反応に流石にそうですよね…!と詩音の反応を見て安心したように笑い、頷く。


  あれ?もしかして思ったよりも信用がなかった……?

 

  使用人は詩音を気にかけながらも旦那様の次の報告を待ちますので、と告げると頭を下げ部屋から出ていく。


「クラージュくん……」


  窓の外を見つめる。外は薄暗く、雨が降っている。


  御者はびしょ濡れで帰ってきたんだろうか……、今頃、クラージュくん達もびしょ濡れで風邪とか……。探しに行かないと!いやいや、私にいったい何が出来るの?クラージュくんの居場所も知らないのに……。

 

  父親の言伝もあり何も出来ない自分にもどかしく感じていると何やら玄関辺りが騒がしいことに気づく。目を向けてみれば、見覚えがある人物が玄関で使用人と揉めているのが見えた。詩音は部屋を出て玄関へ向かう。そこには、


「助けてください…!」


「マノンさん…?」


「ナタリア様!」


  マノンがそこにいた。頭から足元までびしょ濡れのみすぼらしい姿で、目は赤く泣いていたようだ。詩音は慌てて近くの部屋でタオルを持って戻ると素早くマノンに駆け寄りタオルを掛ける。


「温かいお茶をお願い」


  詩音がそう言えば、使用人は急いでキッチンの方へ向かう。マノンは泣きそうな顔で詩音の胸元に縋りつく。詩音は濡れるのも構わずマノンを支え、背中を撫でた。


「お嬢様が、クロエお嬢様が…!攫われてしまって……!ナタリア様助けて……」


  マノンの悲痛そうな顔に詩音まで心が痛くなる。


「話は聞いたよ。今お父様が騎士団に報告してから森を捜査してくれるらしいから落ち着いて。部屋で体を温めよう」


「き、騎士団!?いや、それは……い、いや、そうよねん…」


「とにかく部屋に案内するよ」


 騎士団の言葉に動揺したマノンに首を傾げるがとりあえずマノンを温めるのが先だと詩音はマノンの前を歩いて部屋へ案内する。







 マノンは目の前にいる詩音を見つめ、ごくりと唾を飲んだ。心臓は早く脈打ち、手に汗が止まらない。今からやろうとすることは今までの恩を仇で返すような行為だと分かっていた。しかし彼女は後先など考えることが出来ないくらいには追い詰められていた。


  もう、これしか……。


  覚悟を決めてぎゅっと目を閉じると手に握ったものを少女の頭に向かって思いっきり振りかぶった。


  ────しかしその腕が取られたかと思うと体がふわっと宙に浮く。そのままくるりと体勢が変われば思いっきり背中から叩きつけられた。マノンがそのことに気づいた時にはもう背中から鈍い痛みがした。


「ッ────!!」 


「悪いわね」


 

  詩音はスカートの裾を払い、倒れているマノンを見て笑った。詩音は背後から殴り掛かろうとしたマノンに見事な一本背負いを決めたのだ。



「どう……して……」


  痛みに顔を歪めながらそう口にするマノンを覗きこみながら自身が思っていたことを打ち明ける。


「だって一昨日解雇されたはずのマノンさんがクロエ様が攫われたことを知ることは出来ないし、知ってても私に構ってる余裕ないと思って。会いにくるならお父様やお母様でしょ。だから何かあると警戒はしてたんだけどまさか使用人も沢山近くにいるこんな場所で………レンガ!?!?レンガで私のこと殴ろうとしてたの!?」


  近くに落ちているレンガを驚いたように二度見してマノンに問い詰める。


「マノンさん貴方、どういうつもり?」


「わたし……私は……」


  ぐっと固く口を結んでしまいそうなマノンにここで黙り込まれるのは困る詩音はいろいろ問い詰めたいのをため息をついて我慢する。上半身を起こすマノンの前に両膝をつき、優しい声音でしかし目は逸らさぬようにマノンを見つめる。


「ゆっくりでいいから話を聞かせて。貴方にだって事情があるんでしょ?」


  じっと見つめる詩音を見て、しばらく沈黙していたがやがて観念したようにマノンは頷いた。




  ナタリアの部屋にマノンを招き入れて詩音が風魔法でマノンを乾かす。頼んでいた紅茶を持ってきた使用人にお礼をいい、部屋から出たのを確認すればマノンに今までの経緯を話すよう促す。マノンは暗い顔で話し始めた。


「私、クロエお嬢様から出て行けって言われた後もクロエお嬢様が心配で見守っててたんですよぅ」


「まぁ……それは…想像できるけど……それってちょっと無理があるんじゃない?」


  クロエがどこに行くのか分かっていたとしても馬車に乗って移動するクロエを追いかけるのは普通の人間には無理である。しかもマノンは初めて会った時にこちらに走って駆け寄ってきたが普通の人より動きが鈍く、足が遅いように見えた。それなのにどうやって見守っていたのだろう。詩音がその疑問を口にするより先にマノンは答える。


「私、実は祝福(ギフト)持ちで…」


祝福(ギフト)……?……あぁ!」


  そこで詩音はゲームでのマジスピの設定を思い出す。マジスピではそれぞれ個々に火、水、土、風、光の属性どれかを持って産まれてくるがそれとは別に聖龍から授かる祝福(ギフト)が存在する。祝福(ギフト)は属性に関係なく様々な力を持つ。持ち主には共通の条件があるらしいが詩音はその条件を知らなかった。

  マノンはその祝福(ギフト)持ちだったようだ。


「私、目がかなりいいのよぅ。だからそれでクロエお嬢様をずっと見てて……」


「えっと、どのくらい目がいいの?」


「そうねん……。空を飛んでる小鳥の羽根の細部まで見えるし、ここからだお庭の薔薇の葉脈まで見えるわぁ」


「え…すっご」


「でも建物で遮られたりすると見えないからクロエお嬢様の家とナタリア様の家の中間地点にある森に先回りして馬車が通ったらその後を追いかけてクロエお嬢様の様子を見守ってたの」


「そしたら帰りにその森で馬車が襲われたのよぅ……私、盗賊がその森にいたことは分かっていたのに……。クロエ様が攫われてしまって助けなきゃって、頑張って追いかけたけど捕まっちゃって……」


「……私咄嗟に言っちゃったの。クロエお嬢様のお父様は素直に脅迫や身代金に応じる方じゃないからお金が欲しいならもっといい令嬢がいるって。私がその子を連れてくるからクロエ様を開放してほしいって。」


  最後の衝撃の言葉に頬が引きつってしまったのはしょうがないと思う。むしろ殴り飛ばさないでよかった。ほんとにこのクロエ一筋のこの女は……。


「なるほどね……。つまり、マノンさんは私たちならなにされてもいいと」


  軽蔑するようにジロリとマノンを睨みつければ、ビクッと肩を震わせ背中を丸くしてしどろもどろで弁解の言葉を探そうとする。


「それは……」


「とんだ大バカ」


「うっ……」


  マノンは目に涙を浮かべるが詩音だって泣きたかった。


「その交換条件は敵の思う壺だよ。義理なんてない盗賊との約束なんて破られてなんぼなんだから」


  運動神経が良いとは言えないマノンさん、そして非力な子供である私たち三人。盗賊の数が何人かは分からないが素直に自分を連れて行ったところでマノンさんも一緒に捕まって売り飛ばされたり、身代金にされるのは目に見えてわかる。


「だったら…どうしたら」


「お父様を待って騎士団に任せるのが一番早いんじゃ……」


  それでは駄目だとマノンは思い切り首を振る。


「騎士団は王都の近くにあって今から向かうんじゃかなり時間が掛かるの!」


「そうだったの!?」


  それは初耳だ。騎士団が来るのは早くても夜になるようだ。なんてことだ。使用人もお父様も私に戻ってくる時間を敢えて伝えなかったのだろう。マノンは更に続ける。


「その間にクロエお嬢様が売り飛ばされたり、他の人が盗賊のアジトを見つけて約束を破ったと思われてクロエお嬢様が殺されたりしたら……私……私……」


  遂に耐えきれなくなって泣き出すマノンに頭を抑えた。


  私たち二人でアジトに行ったとして盗賊相手に勝てると思えない。だけどこのまま大人しくしていたらクラージュくんは……。


  隈を作って眉を下げるクラージュの顔を思い出す。

  考えて、考えて、考えた末に詩音は決めた。全ては巻き込まれてしまった不運な婚約者の為。


「…………私、行くわ」


「え……」


  そうと決まれば詩音は泣いているマノンに手を伸ばす。


「作戦会議をしよう!盗賊に一泡吹かせるの!!」


「ナタリアさまぁ……!!」


  マノンは詩音の言葉に感動でまた涙を流す。詩音はそんなマノンを見て笑った。


「ほんとに駄目だと思ったらマノンさんを囮にして私たちはその間に逃げる。まずこれは決定ね」


「ナタリア様〜!!」

 

  こうして二人の無謀な作戦会議が始まった。




「それで、マノンさんの祝福(ギフト)は分かったけど属性ってなんなの?」


「土属性でこのくらいのサイズの土の塊が作れるんですぅ…」


「あぁ……だからレンガ持ってたんだね……」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ