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浅深巨人  作者: 千路文也
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002


「ヘラクレス……噂に聞いていたがこれほどとは」


 アンタイオスは巨体を揺らしながら、立ち上がった。


「暴利を貪る輩がいると聞いてな。やって来た次第だ」


 そう言うのだった。


「暴利を貪るか。確かにそうもしれん」


「無垢な旅人の命を奪い、持ち物を奪い取る行為は見逃せん」


 ヘラクレスの正義感が、アンタイオスの下劣な性格を許せないでいたのだ。それ故に、このポセイドン宮殿にやってきたのだという。


「だが、それだけでここに来たのかというのか」


「嫌。本来の目的の寄り道に過ぎない」


「本来の目的だと?」


 アンタイオスは顔をしかめたまま、尋ねていた。


「それを知る必要はない。なぜなら貴様は俺に倒されるからだ」


「はんっ! 対した自信ではないか。そういう男は嫌いじゃないぞ!」


 瞬間、アンタイオスはドスドスと足音を立てて近づいてきた。そしてヘラクレスを握りつぶさんとして、両手拳を握りしめて地面に振り下ろしたのだ。


 地面に轟音が響き渡りアンタイオスは勝利を確信して微笑む。


「何処を見ている」


 刹那、アンタイオスは後頭部を拳のようなもので強打されて地面に倒れ込んだ。ヘラクレスは瞬時に攻撃をかわして背後に周っていたようだ。


「いてて……すばしっこい野郎だ」


 後頭部を押さえながら、立ち上がる。


「貴様のような鈍い体とは違う」


「ふん。小柄で怪力とはおいそれするぜ」


「ゼウスの血を継いでいるのだ。これぐらい朝飯前だぞ」


 ヘラクレスはそうだと言うのだった。


「だが、それも長くは続かないだろうよ」


 謎の確信をしているようだ。この男は。


「近頃の巨人は体に見合った言葉づかいをするのか」


 つまり、大口だ。


「うるせえ」


「!」


 百戦錬磨のヘラクレスはその豊富な戦闘経験から瞬時に感じ取った。アンタイオスのスピードが上がっている事に。今度の攻撃は躱すことができずに、両手で受け止めた。そう、先程は指一本で止めていたところを両手でだ。明らかにパワーも上昇している。


「どうした。さっきは余裕で躱していただろう?」


 アンタイオスの口から放たれる言葉の圧が凄みを増している。喋る度に、まるで竜巻のように風が吹き荒れて、そこらじゅうに骸が飛び散っていた。


「ありえん……力が上がっているだと!」


 ヘラクレスは顔をしかめながら、アンタイオスの拳を止めているが、自身の骨がミシミシと軋む音が体の中から聞こえてくる。


「そうだ。これが俺の能力だ」


 大きく笑いながら自信満々に言っていた。


「っく、能力だと?」


「そうだ。俺の能力は地面に足をつけるたびに力を増幅させることだ」


 ついに拳を抑えきれなくなったヘラクレスは体を宙に舞わせて、そのまま地面に激突した。あまりの激痛に意識が飛びそうになるが、何とか気力だけで立ち上がる。


「凄まじい……パワーだ」


「これが御母おかあちゃんから受けづいた能力だ」


「大地の神ガイアにか」


「そう、地面は俺のフィールドだ!」


 まさに巨人というだけの迫力と圧を全身から噴出しているアンタイオスだった。



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