001
アンタイオスは海の神ポセイドンと大地の神ガイアとの間に生まれた巨人の男だ。この男は非常に好戦的な性格をしており、ポセイドン宮殿に侵入してきた旅人やトレジャーハンターに勝負を挑んでいた。
この日もそうだった。アンタイオスはこれまでの侵入者達の髑髏を杯にして酒を飲んでいた。そう、アンタイオスと同じ巨人も侵入してくるのだ。その度に返り討ちしているのが彼の強さの証拠だろう。
「あー、暇だな」
酒も尽き、やることがなくなったアンタイオスは巨人の髑髏を軽く放り投げた。すると、その髑髏がバゴンという音を立てて破裂したのだ。そこまで勢いよく投げていないにも関わらずだ。
「貴様がアンタイオスか」
すると、髑髏を投げた付近から声が聞こえた。アンタイオスが良く目をこらして見ると、そこにはトレジャーハンターの格好をした男が拳を突きだして立っていた。
「そうだが、お前は?」
「ここに眠る財宝を暴きにきた者だ」
男はマントとローブを着ているため、どういう顔なのかが分からない。しかし、声は低く武人そのものだった。
「トレジャーハンターか。丁度良かったぜ」
そう言いながら、アンタイオスは玉座から立ち上がって、侵入者を睨みつける。
「丁度良かっただと?」
「暇を持て余していてな。ちょっくら相手してくれや」
強烈な拳だ。強烈な拳がうねりを上げながらトレジャーハンターの男に向かっていた。その拳だけでも男より遥かに大きな拳である。
「……噂通りの男だな」
「!」
止められていた。アンタイオスの拳がピクリとも動かないのだ。不思議に思ったアンタイオスが覗き込むと、トレジャーハンターの男が指一本で猛撃を制止していた。
「まさか……挨拶早々に襲ってくるとはな」
「貴様ぁ、俺様の拳を止めたのか!」
アンタイオスの一撃を止めた者は五本の指程しかいない。無数の骸が転がっている中で、たったの五人程度だ。しかもそれはアンタイオスと同じ巨人だったのだが、この男は普通の人間の背丈で、止めている。これには堪らず、アンケイオスは額に血管を浮かべて怒りをあらわにしていた。
「そうだ。そんなにおかしいことか?」
「人間の分際で……その怪力か」
どうやらアンタイオスには人間を差別的な目で見ている様だ。それも無理はないだろう。今まで闘ってきた人間は一撃で屠られたのだから。好戦的なアンタイオスは強者のみに敬意を表する。
「いいや……俺は人間ではない」
「何?」
「神の子だ」
男はそう言うと、アンケイオスの体を吹き飛ばせて尻餅をつかせたのだ。それに驚愕したアンケイオスは目をひん剥いて、男の顔を睨んだ。
「貴様……何者だ!」
アンケイオスは声を荒げていた。
「俺の正体を知りたいか。お前は」
「ああ知りたいさ」
「為らば見せてやろう」
すると、男はマントと服を脱ぎ捨てて生の体をあらわにした。男はライオンの皮を羽織って、顎に髭を生やした無骨な戦士だった。アンケイオスはその男の印象に見覚えがあったのだ。口をポカンと開けて、アワアワと震えている。
「貴様……ゼウスの子だな」
「如何にも、我が名はヘラクレス。かつて引き起こした罪を償うために、贖罪の旅をしている者だ!」
腹から声を出し、自らの名前を名乗るのだった。