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Together  作者: 天城孝幸
10/25

10.艦長は林原!?

 林原が艦橋に戻って最初に見たのは、炎上する長門だった。

「状況は?」

「戦艦 長門に敵の攻撃が集中しています。本艦の被害は軽微です。」

「長門より入電!本艦被害甚大なり。陸奥を中心に、艦隊集結せよ、です。」

「指揮も取れんほど酷いのか…。反転して陸奥の後につけ。」

「了解です。おーもかーじ!」

もう敵艦隊は、雪風から見えるくらい接近していた。距離はおそらく20キロもないであろう。

「敵の規模は?」

「推測ですが、戦艦4、巡洋艦6・7、駆逐艦10ほどの比較的規模の大きい艦隊です。」

「現在、アメリカ艦隊が牽制し、本艦隊への攻撃は止みつつあります。」

半径10キロの狭い海域に、3艦隊が入り乱れる混戦状態だ。

「本艦の消火設備で、長門に放水せよ。少しは役立つかもしれん。」

「はっ、わかりました。」

水兵が階段を駆け下りていく。

「機関両舷微速!」

何隻かの駆逐艦が長門の周りにきて消火活動を行っている。火災は収まりつつあり、とりあえず自沈はしなくて済みそうだ。

「本艦の被害をまとめろ。」

石野が命令する。


 「報告します。敵艦隊は戦艦4隻を含む計20隻ほどの艦隊で、アメリカ艦隊の応援により、撤退しました。本艦隊は戦艦 長門が大破、陸奥および本艦が小破しました。」

「本艦の被害状況は、水測室および錨鎖庫に浸水しました。現在は停止。負傷者5名で、内重症1名です。」

重症なのが岡野のことなのは、誰の目にも明らかだった。

「了解した。では、本艦隊はこれより引継ぎの為、北上し第一艦隊と合流する。士官は1時間後に士官室へ集まれ。以上。」

小坂が言って、とりあえずの解散となった。

 長門が攻撃のほとんどを吸収し、他艦は被害を免れた。アメリカ艦隊と敵艦隊がその後どうなったのかはわからない。

「艦長大丈夫ですかね?後頭部を強打したようですが…」

「あれは破片が刺さったんじゃないのか?」

水兵と兵曹のこんな会話を聞いた。見たときには艦橋の床が真っ赤だったが、大丈夫なのだろうか。

「おっと…、石野大尉、ちょっと頼みます。」

大谷のところへ行く言ったのを思い出し、階段を降りた。今日はこの階段を幾度となく行ったりきたりしている。


 ノックして入ると、大谷はベッドに座っていた。

「ありがとう。もう大丈夫。」

しっかりとした声で大谷は言った。

「よかった。どうなってしまうかと思いましたよ。」

ホッと胸を撫で下ろす。

「ごめんね、迷惑かけちゃって。」

「私は大丈夫ですよ。…一体どうしたんです?」

「うん、重症の人見ちゃって…。血も流してたから気持ち悪くなって…。」

艦長か…。

「どうなったんだろう?あの人。」

「あの人は艦長だよ。艦橋で至近弾が落ちたときに頭を強く打ったんだ。」

「そうだったんだ…、大丈夫かなぁ。」

今冷静に考えれば、部屋に大谷と二人っきりである。しかも隣に座って。今さらになって、林原は顔が赤くなった。

「…?顔赤いけどどうしたの?」

大谷に言われ、ドキッとする。

「な、なんでもないよ。…そうだ、1時間後に士官室に来てくれって。無理しないで来てね。」

半分逃げるように部屋から出て行った。

(何やってんだ俺は…)

今度は艦橋を石野に任せていたことを思い出し、艦橋へと続く階段の手すりを握った。


 士官室には雪風士官のほぼ全員が集まっていた。石野航海長、小坂砲術長、海野機関長、佐々岡水雷長…

 ただ一人、岡野艦長の姿だけがそこになかった。

「では…」

先任の石野が口を開いた。

「先の戦闘により、岡野艦長が頭部に重症を負い、指揮が不可能となっている。従って、艦長代行を任命する必要があると思われる。」

士官室がざわつく。機関長や水雷長を始めとした艦橋にいなかった者たちは、艦長の負傷を知らないのだ。指揮できぬくらいの重症…というのは、かなりの傷ではないかとのささやき声が聞こえた。

「本来なら副長が代役となるべきだが、林原大尉はまだ着任したばかりだ。そこで、話し合いにより、他の者が指揮をとるか、あるいは林原大尉でいいのか意見を伺いたいと思う。」

「他の者が仮に指揮を執るとして、その候補者は?」

小坂が訊く。

「基本的に大尉職にある者だ。私や小坂、佐々岡あたりが候補といったところだ。」

「ふむ…やはり経験のある者の方がいいのかね。」

「副長はどうなのですか?本人の意思も訊いてみたほうがよろしいかと。」

いきなり海野に引き出され、びっくりする。

「あ、わ、私は話し合いで決めていただければ、特に反対いたしません。」

「そうか…」

石野が考え込む。

「林原大尉はどうやって評価するんだ?判断材料がなければ無理ではないのか?」

小坂が口を挟む。

「先ほどは、艦長負傷の後は林原大尉が大まかな指揮を執った。あのドーンと艦首に至近弾がきた後からだ。」

「なんだ、あれは石野が執ったんじゃなかったのか。」

「舵取りで忙しかったからな。それに林原大尉だって、訓練で少なからず指揮はしている。」

一同に沈黙が下りた。皆、決めかねているらしい。

「石野でいいんじゃないか?先任であるし。」

小坂の一言が、沈黙を破る。

「まあ特に何も。」

「それでいいんじゃないですか?」

結論が出つつあった。が…

「林原大尉にお任せするのもいいと思いますがね。」

へ?っと後を見た。大谷かと思ったが、手を横に振った。違うらしい。

「今野少尉、何かあるのかね?」

ああ、今野か。

「林原大尉は日々の訓練も非常に精を出しておられますし、先の戦闘における指揮にも問題はありませんでした。」

一同、今度はあっけにとられて沈黙している。今野はさらに続けた。

「石野大尉は航海長の職務がございます。兼任によって本職がおろそかになるのは避けたほうがよろしいかと。」

一つ間違えば鉄拳がぶっとんできかねない状況だった。石野が一歩前へ出たところで、小坂が止めた。

「いろんな意見を出すのが話し合いだ。…多数決で決めることにする。」

石野が下がったところで、小坂が一つ咳払いをした。

「では、石野大尉が代行すべきという者。」

3人が手を上げた。石野本人と、小坂、それに佐々岡。

「ふむ。では林原大尉が適任と思う者。」

6人の手が上がった。今野、大谷、海野あたりだ。林原は手を上げなかった。

「よし、では林原大尉を艦長代行とする。以降は艦長復帰まで林原大尉の命令を聞くように。」

小坂が静かに締めくくった。微妙に殺気立った感じで解散した。


 「よっ、艦長!」

艦橋に顔出した後、部屋に戻ると今野が茶化した。

「アホかお前。ブン殴られるかと思ってヒヤヒヤしたわ。」

「大丈夫ですよ、戦艦じゃあるまいし。ちゃんと多数決で決まったじゃないですか。」

笑顔で今野が言う。

「さっきの指揮はよかったですよ。私は牽制するんだとか言って敵艦隊に突入しちゃうかと思いましたが、あっさりと退いてくれましたし。」

「だってあそこで突入したらただの的だろう。石野大尉でも同じことやったさ。」

「それはどうですかね?頭のカタい年寄りは、気合だーとか言って突っ込みかねないですから。」

クククっと笑う。何がおかしいのだろうか…と林原がため息をつく。

「そう暗い顔せんで下さいよ。海野機関長だって同意してくれたじゃないですか。」

しかし、これで林原は雪風の指揮権を、一時的とはいえ委譲されたことになる。不安は当然あった。

「やはり艦を預かるってのは重いんだな。まだ何もやってないのに緊張するよ。」

「何を今さら…。のらりくらりとやってれば大丈夫ですよ。」

「お前は指揮を受ける方だからな…。」

雪風全員が、俺の指示で動くのか。それが例え無謀な指示であっても、正しいと信じてついてきてくれるのか…

「ホラ、恋人も賛成してくれたじゃないですか。」

「ちょ、おま…恋人って…」

途端に赤くなってしまう。この話題には相変わらず弱い林原。

「それに、林原大尉の方が色々言いやすいじゃないですか。」

「お前それが目的だろー!」

やれやれ…

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