クオリアの剥離
光学迷彩のナノ皮膜が、凍結した換気ダクトの金属壁と同期し、微小な摩擦係数を書き換えていく。男の脳幹に埋め込まれた意味論統制器は、戦場の明滅を「輝度階調のデータ」へと強制置換していた。ターゲットの網膜を破壊する超音波発生装置のグリップが、男の五指に冷徹な質感を伝える。その瞬間、男の頭蓋の内で、過負荷に達した制御素子がナノ秒単位のバグで脳を食い破る。視覚野がスパークし、暗黒であるはずの排気管の内部に、無数の光点が炸裂した。エラーコードが網膜を焼く。男の瞼の裏で、走査線と粘膜の肉色が交差する。脳内のどこかが、沸騰するように光と音を噴出させる。男の掠れた声がシステムのアラート音に重なる。男は必死で息を出し入れした。かすかな呼吸音が強固な鋼鉄のダクト内に落ちる。ダクト外を過ぎるヘリのローター音が、こもったうなりとなって鼓膜を圧迫した。ノイズを排したはずの脳幹の深部で、シナプス素子が、神経の走行を焼き付けるかのように脳を揺らす。ターゲットの生体サインが接近するにつれ、記憶領域の薄膜が一枚ずつ剥離していく。右指が、上昇する体温から逃れるように、トリガーに絡みついた。ノイズで埋もれた知覚を引き裂いて、鉄錆の臭いが鼻腔を刺す。人中を伝い、手首に滴るぬるい温度。心臓が胸郭を蹴破るように拍動する。死線が近づくなかで、男は不意に震える歯の根に気づいた。口腔内の、渇ききった空気の味。トリガーから滑り落ちた手が腰のホルダーを探る。割れた爪先が通信機を握りしめる。応答無し。ダクトの中で、生身の肉体が引き攣れた一音を漏らした。
後半部は完全に人力、前半は意図してAI寄せの文体のグラデーション構造




