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「チャロが死んだ」
母さんから電話が来た。
その日はひとしきり泣いた後だった。一人暮らしを始めて数ヶ月。少しずつ仕事にもなれてきた。一人でいることにも慣れてきた。はずだった。
ただただ孤独だった。人との繋がりを求めた。誰もいなかった。寝つきの悪い日が続いた。それでも出勤した。これが社会人か。そう感じながら。職場では毒を吐かれた。自分の不出来に憤りを覚えた。そんな日々だった。
遂に眠れなくなった。脳裏によぎる日々の業務。眠れないことへの苛立ち。朝起きられなくなるのではという恐怖。次の日の同僚に向ける顔を考えた。今日したミスがいくつだったろうか。考えることを止められなくなった。いつの間にか朝を迎え、重たい体を起こして出勤する。何日そんな日々を過ごしたんだろうか。
日が昇り、明るくなるのをみながら、朝が来なければいいのにと思う。支度をして家を出ようとベッドから降りようとする。床に滴が落ちた。汗かと思った。まだそんなに熱くはない。どこから落ちたのかわからなかった。鼻水かと思い、鼻に手をやる。何気なく触れた顔は濡れていた。手で顔を拭う。涙だった。僕は泣いていた。限界だ。
人生で初めて精神科を受診した。「適応障害」僕の体に病名がついた。仕事は休職。収入源のない僕の暮らしは日に日に見窄らしくなった。一人部屋で泣き崩れる日々、眠れない夜、部屋に引きこもり、陽の光を浴びずに過ごす日が増えた。
そんな僕の元に一本の電話。母からだった。苦しい声は出せない。咄嗟にそう思い、明るく振る舞った。だけど、母の声は暗かった。
「チャロが死んだ」
その日はひとしきり泣いた後だった。それでも涙は枯れていなかった。電話を切るまでは、暗い声を出す母がもう泣かないように、気丈に振る舞った。母の声が消え、静かになった部屋。床に仰向けになった僕の眼から大粒の涙がこぼれ出した。声を上げて泣いた。チャロにどうして会いに行かなかったんだろう。ただそう思った。寂しかったろう、苦しかったろう。苦しかったのは、僕だけじゃなかったんだ。チャロも苦しかったんだ。どうしてそばにいなかったんだ。後悔が大波のように押し寄せてきた。膨れ上がる後悔と無力さに押し潰されそうになった。
チャロ 2022/04/20 11歳
「ありがとう」
最後にそう言ってあげたかった。もう一度あの鳴き声が聞けるならと願った。チャロ、君と話せたら、いろんな話をしたかった。君の声を聴いてみたかった。
―愛犬チャロに捧ぐー




