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着信  作者: 平木明日香
3/3

ワールドトレードセンタービル 9:40




…………プルルルルル。


 

  微動だにしなかった一つの音が、その予測もなくこちらをじっと睨 んでいる。

  正確に言えば、それは肉のカタマリのように丸く縮こまったり、かた や強い弾力を残して、ゆっくりとその輪郭を曲げていく。

 連続的に変 形するその音は、世界の巨大な放物線をだらりと垂らして、列挙に押 し寄せる波である。 私はその形に沿って、耳の奥に張り付く膜を広げ、次第に皮フから皮 フへと伝わっていく骨の痛みを、懸命に拭い去るでもなく、引いては 押し、引いては押し、その隅々まで広がる全身の血液の中を、泳ぐ。



………………プルルルル



 まただ。また、聞こえる。

 私の耳に届いているこの一つの音は、いっ 時の猶予もなく一面に広がって、次第に膨らんでいく膿である。 私の手や、足の方々に連なる幾重もの皮フを引き伸ばしながら、私が やっと一息の中に首を伸ばして、


なんだろう……


  と辺りを見渡してみても、なにもない。 しんと静まり返った暗闇が、どことなく無造作に広がるというよりは 、光に当てられた視界の奥がチカチカと粒子を飛ばして、一直線に時 間を進み、波と波が混ざり合うその一瞬間のうねりを持ち上げている ただ一つの光景を、目の当たりにする。

  真っ逆さまに落下して、意識を失う。まさしくそういった瞬間の、意 識と意識の境界線上にある、平らな地面を滑らかに進み、かと思えば 次第に薄れていく全ての光景の泡のような放物線が、まだらに、点々 と、私のまぶたに張り付いているような感覚である。


 いま、果たして私が目を開けているのか、それともじっとその場にす わりこんで、暗闇の中を探っているのかのはっきりとした明暗が、い まだかつてないほどに鮮明に訪れているとしても、私は一向に、私の 姿、あるいはその全身の輪郭をたどって、どこか、確かな、しかしそ れでいてどこまでも広い、森閑とした空間の隅へと、真っ逆さまに落 ちていく感覚だけが、いそいそと四つん這いになりながら這っている 。



耳鳴り。



 それに近いものが、ギョロリと視界を遮って、一分の隙間も ないほどに埋め尽くされた幾重もの曲線が、静かに回転し始める滑ら かさを伴って、近づいてくる。


 音が鳴っている…… それだけは確かに、この耳の奥にぶつかる鼓膜の弾力に押し戻されな がら、はっきりと感じるのだけれども、それが私の鼓膜の外にでよう としているのか、それともその内側へ消えていこうとしているのか、 十二分には聞き取れないまま、ぼんやりと薄れていく意識の中で、た だじっと、私は私の全身がどこかにあるものだと感じなから、動く、 動く


 意識はある…… その垂直に伸びた確信にも近い自らへの信頼が、どう猛な眉間を開き ながら、しわを寄せ、虫のうめきのように蠢いているのを、確かに聞 き取ることはできる。だが、どうやら、その蠢きと、私の身体の手や 足のつながりは、何者かに切断されたかのような荒い傷口を深めなが ら、ダラダラとはがれ落ちていく肉そのものであり、その細胞の一つ 一つは、身体のあちこちにばらつきながら、私の身体中の痛みを誘発 させる。


  形がない、と言えば、それは確かに形がないものなのかもしれない。 意識がない、と言えば、それはすぐにでも弾け、粛々と消え去りそう なフラッシュとノイズを撒き散らしながら、次第に大きく膨らんでい く陰である


………………prrrrrr



ああ……まただ、また……


  いよいよこれが私の意識の中で、繰り返し流れる音となって、不確か に入り乱れ、その強烈な印象だけを、一音も漏らさずに伸びやかに、 感じ取る。


……どうしたものか


 私はただその音を拾うでもなく、また、正確に捉えようとするでもな く、耳の奥に引き残る余韻だけを頼りに、その音の正体と存在を確か めようと努力した。

 音は、さまざまに反響し、私の耳の外のあちこちに飛び回り、そうし て最後にはフッと密やかなかげろうを残して、じたばたしている。 しかしそれが近いところにあるのか、遠いところにあるのか、めっき り見当はつかないまま、時間だけは過ぎ、そうしているうちにも音は 一段と大きくなって……耳鳴りをもよおし……


 私は思わず耳を押さえる。押さえるというよりは、ただじっとその場 にしゃがみ込んで、必要以上には動かないという強い決断力が、ひと しきり大きくなる瞬間であった。そうしてなによりも驚いたのは、私 は私の頭の中で、今なにが起こっているのかを整理する能力と、それ に合わせて、その場に引きつけられるように同時に伝わる強迫感が、 横へ縦へ乱れ、私の精神的な状態そのものへのアクセスを、ほとんど 無造作に、ピストルのごとく飛び跳ねだしたことである。


 それはとてつもなく鋭利な形状を保ったまま、複合的に乱れ出し、や っと私が私自身の心理的な界わいに立ち寄ったかと思えば、瞬く間に 掻きむしられ、身体中に泡立つようにできる血の血栓が、筋肉の緊張 と陽動を促している。 もはや、それはマヒに近いものであり、指先にかろうじて残る感覚だ けを便りに、そっと耳の中を調べ始める自分が、いるのだ。

 その行動は、ほとんど無意識の状態の中に現れ、私自身がなにかを夢 中に徹することに、予感はなかった。 自分がなぜ耳の中を調べているのかの理由についてさえ、意識の中に 組み合わせられる整合的な透明さと、確かな情報が、なにもなかった のだ。


…………………プルルルルルルル……………r



 その音は、私と私の界隈の全てをむしりだし、痛みだけが後に残る。 私の身体のどこからか、その痛みが持続的に泳いでいるのを、じっと こらえて探してみても、私とその音とのつながりはなにもない。

 音は分裂し、咀嚼し、自由に空気中を散漫しながら、踊る。 一音も乱さずにそのハーモニーが、序列を変え、だんだんとその方向 に佇むなにかを、捕ラエテイル



かゆい、かゆいかゆいかゆいかゆかゆ



 耳の奥がほんのり熱い。生暖かい人肌に触れているわけでもなく、か といってその隣にあるものが、全くの無機質につながっている、わけ でもなく、なにものかに触れているその感覚は、私のヒフと粘膜をゆ るやかにしたたりながら、私の意識の真ん中にカーブして、止まる。

 私はこの世界の時間が、急激にブレーキし、止まっている感覚に陥る 。 それはもう本当に真っ逆さまに落下する、砂時計の粒子のようで、も はやそのスピードは、この世界の随所の空間を、ねじ曲げながら力強 く進むのだ。


心臓、どうだろう……私の心臓は動いているか?


  私はとっさの判断で、やみくもに身体をまさぐりだした。そうして矢 継ぎはやに指の感覚を確かめ、自分の意識と、その一直線上にある無 意識に近い感情の切れ端を、なめ回すように必死に咀嚼し、 動く。


 身体中の全神経が、私の頭の中に感じる巨大な波と、真っ赤に染まる 光の交差との粒の重ね合わせとを、ゆっくりにじませながら消えてい く。 これは意識の没入ではない。それよりももっと近くに、肉のカタマリ を感じる。 びっしりと敷き詰まった筋肉の厚みが、前方に押し出されるように身 を乗り出して、暗い影を落としている。 手を差し出せば、その体液にまみれたみずみずしい滑らかさが、得体 の知れないヌメリとなって、指の先をはね返す。


  ずーんと、にぶい音を押し出して近づいてくるのは、私の身体中に染 みわたる一つ一つの細胞の切れ端か?それとも……


 私の前方ーーそれが果たしてどの程度の距離を持っているのかは定か ではないがーー、私の目の前に押し寄せてくる弾力の深いヒフの厚み が、縮んだり伸びたりしながら、がめんいっぱいに広がり、少しずつ その巨大な影を大きくして、止まる。にじみ出る肉の滑らかな表面の 湾曲が、方々へ散らばる立体な奥行きを伸ばしつつ、肥大する。その 一つ一つの確かな曲線は、私の視界の前方へ立ちはだかり、徐々にそ の距離を詰めていく。


  ひき裂けるような、ゴムが弾ケルヨウナ急激な物体の伸縮音が、私の 頭上に立ち上ったかと思えば、それは急に真っ逆さまに落下して、パ チン、と目の前で弾ける。 私の身体のあちこちで、筋肉がこすれ、細胞が分裂し、捩れるーーー 音。いいや、それはもっと、身近に、それでいて途切れのなく続いて いる大きな音だ。

 世界が頭上から降ってくる音なのだ!


 まるで流れ星のようにわずかな輪郭線を残して、ダダダダダダという 猛烈な振動を押し出しながら、ブチ、ブチ、と一つ一つの筋繊維が私 の中からみだらに離れていく痛みがある。ハンマーで強く叩かれたと きの、くっきりとした痛みそのものが、ヒフの中に永久に残るような 、立体的な痛みではない。

 それはもっと細かく、それでいて平らなリ ズムの音符を飛ばして、一瞬間のうちに消える金属音の破調である。


 私たちは一匹のハエが、その連続した雨粒のような粒子の弾丸を飛ば して羽根を広げるのを、1秒の間に何度見ることができるのか。

 私は私の目と、まぶたと、その上下運動の筋肉の摂動は、時計が一直 線に動いているのを見つけることができない間隔の波、ーーーそのも のであるということを、振りかえり振りかえり記憶の中に確かめてい る。


 私はまばたきをする。視界が一瞬暗くなる。 しかしほんとうにそれだけか? 私の意識、ーーーその神経の先の断片的な一ページは、私と私の界わ いの全ての距離と放物線を、一挙に縮める時間的な位置そのものなの か?

 私たちの誰もが、自分がいつ、その胸の中に押し込めている心臓を動 かしたのかを、知ることはできない。もっと言えば、その心臓の裏側 にある筋肉のつながりは、その一瞬間の爆発音とともに、流れ出る血 液の受け渡しを断ることができない。 そしてそれだけに、私は私の意識の暗闇を、咽から引っ張り出すこと は不可能なのだ!


 動く。


 私は私の全神経を集中させて、その場、その瞬間に於いての筋 肉の蠢きをとどめることなく、上へ下へ乱れる。その度に痛みが走る が、それよりももっと窮屈な憤りを随所に感じて、それがやっとひと 息の間に身体中へ伝わろうとしているのを、むざむざ止めることはで きなかった。


  耳の奥が熱い。至るところに痒みを感じる。その伝達網は電気のよう に直線的に下りながら、1秒の間に何度も、何度も……私の意識の界隈 へと立ち上りつつ、ワーッと一点に集まる均等さでもって、頭の奥ま で突き刺さる。

  その度に、私は、私の意識の片隅にあるただ一つの感覚を頼りにしつ つ、自らの時間が進んでいるか、止まっているかの不透明な環境の奥 行きを、じっと堪えて見つめようとしている、ギリギリの心理状態の 渦中にある。


  私が信頼できる感覚など、今のこの状況で、探し当てる見当もつかな いが、しかしそれでも、私の全身、私の全神経の緊張を一点に集中さ せて、そのなかにある身近な感情の切れ端が、私の身体の中へと滑り 落ちていく滑らかさを通じて、わずかながらでも、この身の回りに次 々と降りそそぐ不透明なツギハギのアルゴリズムを、解明しようと思 った。



ザーーーーーー………ザザザザザ



 耳の外から雑然と滑り出したモノクロのノイズは、私の足下にまで及ん で、ゴムのよう縮こまったり、散在するガラクタのようにあちこちに乱 れて、消える。

 かと思えば一直線に時間を縮めて、朦朧とする意識の中にかろうじて残 っている身体中の部分的な感覚をたどって、まるでジェットコースター のようにすれ違うレール脇の景色を、短く切り刻みながらゆがめつづけ ている。



ザ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザ……………



 ……はっきりとは聞き取れないが、私の意識の前方からかすれかすれに 蠢いている音の行方を、徐々にピントを合わせながら画面いっぱいに近 づける。

  音は、落下する私の身体のすき間を通って、遠ざかるわけでもなく、顔 の横をするりと抜け落ちるバラバラの残骸となって、猛スピードで突き 抜ける。

  私はそれが私の意識の片隅にポツポツと浮かび上がる不透明な色彩と模 様の移り変わりであることを予感しつつ、足の裏から迫ってくる血液の 循環の滑らかさを、ほとんど同時に巡らせながら、指の先、それからそ の隅々にまで伸びていく一本の神経の行方を、力いっぱいに追いかけよ うと努力した。



ジジジシジジジ………ジーーー



 私の耳の後方にまでアッという間に飛び去っていく一つ一つの雑音たち は、まるで息を合わせるかのように一定のリズムを保ちつつ、それでも加速的に、私の横を貫いていく弾丸そのものである。次第に私のヒフの上から、あかあかと点滅する一本の筋繊維の緊張を感じて、それが伸びるだけ伸びきったあとに、突然フッと感覚が抜け落ちていく意識の先の冷たさを、秒単位で進めていこうとしている、自らの主体的な意志の方向が、横倒しになって崩れていく感覚を知る。



………………ポツ、ポツ



 私の身体のどこからか、空気が抜けていくような力のない挙動にむしばまれて、それが一見身体の内側から沸き上がる予測不能のかゆみに連れられ、思わずワッと声を上げそうになる自分がいる。


指………私の指の先…………そのてっぺんに束ねられた一本の神経………


 私はおそるおそる自らの身体の全体を探るように、その神経の行く先をぐるりと見つめようと努力した。私にもし指があるとしたら、そう、この手や足の先に1本の指があるとしたら、今すぐにでも胸のうちを掻きむしって、私の身体の内側に埋め込まれた幾重もの細胞の集合体を、一思いにバラバラにしてやりたい。私の心臓を握りしめてやりたい。


 私の本能的な叫びの中にあるやるせない数々の感情の渦が、私の手には負えない遠い空間の先までヒューッと飛んでいくリズムでもって、回転していくパノラマを見る。私はそれを見上げているのか、それともその場に座って、その猛烈な回転の渦の中に、知らず知らずのうちに巻き込まれているのかの判別はできないが、さっきから、やはりなにかこの意識の真ん中に存在している、奇妙な感触のバイオリズムが、脳のてっぺんまでかけ上り、土足でジタバタしている様子だけを、感じ取ることができる。


 四方に見渡せるどんよりした空気の散漫を頭ごなしに右へ左へ通過しながら、私は自分が生きているか死んでいるかのはっきりした一つの情報も得られない。



心臓は動いているか?


 私はそのとっさの判断でゆれ動いたかすかな感情のほこさきが、ポツポツと身体の内側から、ーーーそのヒフの下からやって来るのを、なりふり構わずキャッチする。

 自分の指が、手が、どっちの方向を向いているのかの判別よりも、先に動いている頭の中の図太いネジが、一本、また一本と緩み始める

 それに応じて、一瞬の間だけ、フラッシュをたかれた時のような激しい眩しさが、私の近方へ音とともに近づいてくるのを、無意識の間にも避けることはできない。そうしてまたかゆみが、私の頭の中に感じる巨大な波が、音のないスクリーンのなかで、繰り返し繰り返しノイズを帯びて肥大する。



………………………ポツ…ポツポツポツポツポツポツポツ



 見ると、私のヒフの上には真っ赤なシミと腫れが、交互にかぶさるように覆われていて、とくに痛みも感じないのに、それが自分の身体の中から、ふつふつと這い上がってきた細胞の切れ端であることを、反射的にではあるが、予感した。


ーーーしかしこれは、……

 このヒフは、この真っ赤に広がった一つ一つの細胞たちは、腕か!足か、それとも私の首すじに埋め尽くされる大動脈の切断部分であるかさえ、見当もつかない。

 見れば、私の視界のすぐそばには、夜空の星のように散らばる幾重もの音や光たちが、一斉に私に向かってモゾモゾと揺れているのに、短い景色の断片か、あるいはそれ以上に近い空間の距離と距離との輪郭線に位置しているものなのかの明確な解像度も得られないまま、執拗に切り刻まれていく世界の湾曲を感じて、フェードアウトする巨大な1本の影を見つける。



………………………プルルルルルルル



 ……ああ、そうだ。この音。この胸の中に掻きむしる変量なノイズ。この不確かな音の乱れが、さっきから私た私の意識の切れ端に連動して、不快な耳鳴りーーー、その不安定な感覚の咀嚼を催しているのだ。


 一体なんなのだ、この音は……………


 それがいつ始まったものかどうかよりも、私は何よりも身近に、この音の存在の行方を気にかけて、それでいてはっきりとしない意識の連続の中で、ただひとつの方向を見据えようとしている時間がある。この音のもっともはっきりとした姿と形を捉えることを、なによりも真っ先に優先することはできないにしても、私は私の全身を使って、がむしゃらにそこへ向かうこと、そのまっ平らな地平の壁にぶつかることを、心の底から欲している。


 そうしてフッと意識を失う瞬間に、私の身体の中でもっとも確かな記憶の連鎖が、勢い良く流れ始めるのを、巨大な金属のカタマリと影の下で、爆発し、漂流し、その抜かりのない次元の狭間と濁流の波を、世界と共有し合うのだ。








 世界が近づく足音が聞こえる。




 それはビルか、


 人か、


 飛行機か、


 あそこを、ああして流れていく雲の「白さ」かは、わからない。




 だけれどもただはっきりとしてわかるのは、空がまだ薄明るい青色を残して、静かに横たわりながらどこかに行こうとしているということであった。チョウの幼虫が、ちょうど土の中から出てきたときのように。





サナギは、サナギのままではいられないのだ。





チョウは木に上り、羽化をする準備を始めている。





その先でサナギの殻を破り、成虫の体が生まれてくるときの僅かな刹那の瞬間の、時間の訪れは、まだ誰にも見つかっていない。









 「プルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル………………………………………………………………………………………………………………………………」






…………………………………………………






………………………




…………





…………………………………………


………………………………………………


…………………………………………………………




…………………………………………………………………………






…………………………………………………………………………………………………………………………………………………














「………………………ピーーーーーーーーーーーーーーー










ピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッ…………………………








………………………ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……………………




………………ィィィィィィィィィィィィィィィィィ………………ィィィィィィィィィィィィィィィィィ










ジジ……………ジジ……………………………………………












…………………………………………………ガチャン」
















「……………とてもひどいことになっているんだ」







トムは言った。











「わかってるわ」











リズは答えた。











「国にとっても大きな損失よね。まるで第三次世界大戦みたい」










そこで夫の声の調子に気付いて、彼女ははっとした。












「……………………あなた、大丈夫なの?」











張りつめた声で彼女は尋ねた。











「92階にいる。部屋から外に出られないんだ」











「誰と一緒?」












一緒にいたのはトムの古くからの友人、ジョー・ホランド、ブレンダン・ドーラン、エルキン・ユーエンの3人だった。












「愛しているよ」











トムは言った。娘のことを言った。











「ケイトリンを頼む」













そんな別れの言葉を聞くとは、リズには心の準備がなかった。












「落ち着いてちょうだい、あなた」















彼女は必死で言った。














「あなたたち、すごくタフな人たちじゃない。頭もいい。あなたたちなら、きっとなんとかできるわ」














彼女の言うとおりだった。




この4人はニューヨーク育ちで、高校を出るとそのままウォールストリートに飛び込んだ男たちだった。








そしていい大学を出ましたという看板ではなく、度胸と頭で金を稼いできたのだ。









しかし恐怖と煙に耐えて100分近く上層階で籠城していた彼らにも炎が迫りつつあった。









今や炎は94階から、93階、92階へと広がってきていて、上の階からは逃げ場を失った人々が次々とビルから飛び降りていた。













もう切らなければ、彼は電話を切ったが、10分後には、またかけてきた。彼は逃げ遅れた人を探すために戻ると本社に電話し、その足で何とか部屋を飛び出したあと、妻に最後の電話をかけたのだ。












「どうか泣かないで欲しい」












彼は言った。












「ぼくは仲間を助けなければならない」












泣きじゃくるリズにトムは告げた。













「もし、ぼくの身に何か起こったら、君がぼくの人生のすべてだったということを覚えていてほしい」

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