2001年9月11日
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2001年9月11日、ワールドトレードセンター
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2001年9月11日朝、アメリカ東部時間。
マサチューセッツ州ボストン、バージニア州ダレス、ニュージャージー州ニューアークを発った四機の旅客機が、モハメド・アタらを中心とするグループによって、ほぼ同時にハイジャックされた。
彼らは操縦室を制圧し、自ら機体を操縦した。
そのうち二機、アメリカン航空11便とユナイテッド航空175便はニューヨーク・マンハッタンへ向かい、残る二機、アメリカン航空77便とユナイテッド航空93便はワシントンD.C.方面へ針路を変えた。
午前8時46分31秒。
アメリカン航空11便は、乗客・乗員を乗せたまま、ニューヨークの世界貿易センター北棟、第1ビルへ突入した。
そのわずか16分28秒後、午前9時2分59秒。
今度はユナイテッド航空175便が、南棟、第2ビルへ激突した。
最初に攻撃を受けたのは北タワーだった。
しかし、先に崩壊したのは、後から攻撃を受けた南タワーである。
南タワーは午前9時58分59秒に崩壊した。
北タワーが午前10時28分25秒に崩れ落ちる、29分26秒前のことだった。
南タワーの崩壊を目の当たりにした時点で、北タワーにも同じ危機が迫っていることは明白に思えた。
だが、現場の混乱はあまりにも大きかった。殉職した消防士の中には、建物が崩壊の危機に瀕していることを十分に知らされないまま、比較的低層階で待機、あるいは休息していた者も少なくなかった。
この日、世界貿易センターで命を落とした人々は2,749人。
そのうち147人は、二機の旅客機に乗っていた乗客・乗員だった。およそ600人弱は、航空機が突入した階層にいて、ほぼ即死したとみられる。さらに412人は、救助のため現場に駆けつけた消防士、警察官、救急隊員たちだった。
そして残る1,500人以上は、航空機の衝突後もしばらく生きていた。
しかし、崩壊までに外へ逃れることができなかった。
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午前8時46分 北タワーに一機目が衝突
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アメリカン航空11便は、時速約720キロで北タワーへ突入した。
機体はビルの外壁を破り、複数の階層を一瞬で切り裂いた。
巨大な旅客機が持っていた莫大な運動エネルギーは、衝突の瞬間に建物へ叩きつけられた。燃料は霧状に飛散し、炎となってフロアを焼き尽くした。衝撃は北タワー全体を揺さぶり、35キロ離れたコロンビア大学ラモント・ドハティ地質研究所でも、12秒間にわたる振動として記録された。
直撃を受けた93階から100階には、マーシュ・アンド・マクレナンのオフィスが入っていた。そこにいた従業員の一人の遺体は、後にタワーから5ブロック離れた場所で発見されたという。
航空機の乗客・乗員、そして直撃階にいた多くの人々の命が、一瞬にして奪われた。
さらに致命的だったのは、衝突が北タワー内部の非常階段を破壊したことだった。
北タワーには三つの非常階段があったが、それらは建物の中央部に集中して配置されていた。アメリカン航空11便は、まさにその中心部を貫いたのである。
その結果、衝突階より上にいた人々の脱出路は、ほぼ完全に断たれた。
彼らの中には、衝突そのものを生き延びた者もいた。
煙の中、階段を探し、何十階も下りようとした者もいた。だが、彼らがたどり着いた先にあったのは、炎と瓦礫によって閉ざされた非常階段だった。
その瞬間、上層階に取り残された数百人の運命は、ほとんど決まってしまった。
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午前8時47分以降 衝突直後の南タワー
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南タワーの上層階からは、北タワーに旅客機が突入する瞬間が見えていた。
炎と黒煙。割れた窓。逃げ場を失い、空中へ身を投げる人々。
だが、南タワーの低層階にある防火管理デスクからは、何が起きたのか正確には分からなかった。北タワーで大きな爆発が起きたらしい。把握できたのは、その程度だった。
南タワーの防火副主任フィル・ヘイズは、ただちに全館避難を指示すべきか迷った。
しかし最終的に、消防当局からの正式な指示を待つことを選んだ。
そのため、南タワーにいた人々は、それぞれの判断で動くことになった。
すぐに避難を始めた者。席に戻った者。状況を見守った者。家族に電話をかけた者。
同じ建物の中で、運命は少しずつ枝分かれしていった。
南タワーの88階と89階には、小規模な投資会社KBWが入っていた。
88階の投資部門と調査部門の社員たちは、すぐに避難を開始した。一方、トレーディングルームのある89階では、判断が分かれた。
ディーラーたちは、刻一刻と動く市場を相手にしていた。
非常事態であることは分かっていた。だが、自分たちのいる南タワーが直接攻撃を受けるとは、まだ誰も確信できなかった。
席へ戻るようにという指示も出た。
その場に残ることを選んだKBW社員の一人、ブラッドリー・フェチェットは、母親の留守番電話にメッセージを残している。
「もしもし、ママ。ブラッドだよ。知らせておきたいことがあって電話したんだ。もう聞いているかもしれないけど……いや、まだかな。とにかく、ワールドトレードセンターの第一棟に飛行機がぶつかったんだ。僕たちは無事だよ。うちのオフィスは第二棟だから。僕も生きているし、元気だ。
でも、分かると思うけど……すごく恐ろしい。見ていたら、91階の窓から男の人が飛び降りて……ああ……ずっと下まで……」
彼はそこで言葉を切り、咳払いをした。
「いつでもここに電話して。僕たちは、今日はずっとここにいることになると思う。会社が休みになるかどうかは分からないけれど。でも……とにかく、こっちに電話して。パパにはもう知らせた。愛してるよ、ママ」
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午前8時48分以降 衝突直後の北タワー
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攻撃を受けた北タワーでは、すでに避難が始まっていた。
直撃を受けた93階の二つ下、91階では、そこにいた人々が一人残らず脱出に成功した。
だが、そのすぐ上の92階にいた70人は、飛行機の直撃を生き延びたにもかかわらず、誰一人として外へ出ることができなかった。
理由は単純だった。
91階と92階を隔てる、そのわずかな階層のあいだで、すべての非常階段が通行不能になっていたのである。
92階。
閉ざされた非常階段の上には、みずほ・富士銀行に勤めるスタンリー・プレイムナスがいた。
その安否を確かめるため、シカゴにいる妻リズから電話がかかってきていた。




