騒動の終焉
1.大人の後始末
時を同じく、時宗は秘書の藤堂にまたスケジュールの時間の調整を頼んでいた。
藤堂の返答はあっさりと返ってきた。
「無理です。こないだからどれだけ調整していると思っているんですか?そんなこと言って無いできちんと仕事してください」と言って、それ以後は、なかなか取り合ってくれなかった。
しかし、時宗も何とかしてもらおうと藤堂の顔を見る度に
「そう言わずに、藤堂君ならなんとかできるだろ?」と粘っては見たものの相手も強者で「幾ら言われようとも無理なものは、無理です」と簡単に却下される。
「そこをなんとか!」と時宗も根性?を見せくいさがる。
「そこまで言われるのであれば1つだけ、方法が有ります」と藤堂は溜め息をつきながら仕方無さそうに時宗に提案をする。
「さすが藤堂君だ。ちゃんと方法あるじゃないか!」と時宗は子供の様に喜ぶ。
「えぇ、以前から統轄長が申請を出されている夏休みを1日返上なされば可能です」と時宗が氷つきそうな位冷たい言葉が出てきた。
「藤堂君。それは調整でなく、スケジュールをずらすだけだろ?」と時宗は抗議する。
「はい、そういう事です。ですが、私の夏休みも統轄長のせいで1日消失してしまいます」ときっぱり嫌味も含めてと言い放つ。
「藤堂君。夏休みはやっと取れた家族揃っての休みなんだよ?
子供達が楽しみにしているんだよ?
それに、私だって藤堂君の休みを消失させたく無いよ?あぁぁ~」と最後の言葉は断末魔の様に言葉はに為っていなかった。
時宗は暫くの間仕事にも手をつけず頭を抱えていた。
他人から見たら、こう言う仕草は玲音とそっくりだ。
藤堂は(少し言い過ぎたか?)と反省し取敢えず時宗に理由を聞く。
「差し出がましいのですが、どういう理由で半日必要なのですか?」
「ウチのバカ息子が、人様のご子息を巻き込んで乱闘騒ぎ起こして、その子も怪我して停学まで食らってしまったとなると、親としては謝りに行かんと駄目だろ?」と頭を抱えたまま説明をする。
藤堂は不思議そうに「こないだ大騒ぎして、押し掛けて来ていたでは有りませんか?」
「いや、あれは喧嘩相手で、玲音に味方してくれた子の方だよ。夏休み返上かぁ~。
どうしても調整出来ない?
お願いだからさなんとか調整してよ~。藤堂君」
(往生際の悪さも親子そっくりだ。)と藤堂は内心思いながら時宗の様子を見る。
時宗は卓上カレンダーとにらめっこしながら悩んでいる。
(仕方ない、上司の尻拭いも秘書の務めと橘先輩は言っていたなぁ。あの人も生前は相当な苦労したんだろうなぁ~)と思いながら藤堂は、時宗にまたある提案をする。
「本来なら相手の家に両親揃ってご子息を連れて訪れるのが筋ですが、奥様は不在ですし玲音様は只今停学中です。
かと言ってこれ以上遅くなるのも失礼になりますので統轄長権限を行使なさっては如何でしょうか?」
「統轄長権限?」と時宗はきょとんとしている。
「はい、よく言えば統轄長権限。悪く言えば職権乱用、パワハラです」
「うーん後者は悪の権化のような………」
「そうですね。誉められる権限では無いです」
「例えば?」と時宗は言葉とは裏腹に目を輝かせながら聞く。
「これはあくまで、私の独り言です」
「うん、独り言ね。それで?」
「相手のご両親をここに、お呼びになるのです。一般人ではかなり失礼な事ですが、あの学園に初等科から通わせていると考えるとグループ関係者の可能性がかなり高いです。
このグループで一番権力が有るのは会長ですが、会長は事実上隠居されておりますので統轄長、貴方です。
私が知る限り統轄長が職務命令で、ここに出向く様に命令されれば、断る人は居ないかと思われますが?
統轄長の往復の移動時間だけでも省ければ、本日深夜まで頑張って仕事して頂ければ夏休み返上は無くなるかと推察します」
「うーん………。しかしなぁ~。謝罪するのに呼び出すのもなぁ………。かなり失礼だよね?」
「私、一個人としての意見ですが、もし仮に私の遥か上の上司が、急に自宅に御詫びと称して押し寄せられても、いい迷惑かと思われますが?
まぁ、すぐ上でも、かなり迷惑ですが……」ときっぱりと言う。
「しかし、仕事の事でもないしなぁ~」と時宗はかなり葛藤していた。
それを見て藤堂は言い放つ。
「それでは本日、奥様も日本にお戻りになることですし、相手にアポイントメントお入れになって後日、訪問されればよろしいかと。私が責任もって統轄長の夏休み1日削っておきます」
藤堂の情け容赦ない断言で時宗は職権乱用、もとい統轄長権限行使を選んだ。
藤堂は午前中、時宗が会議している間にその生徒の親の配属先を調べ、菓子折と見舞金を用意した。
下田 隆史 五十嵐和也の病院に勤務する薬剤師。
妻、葵 グループ傘下の病院の看護士だった。
夕刻、悠貴の両親が時宗の名前で呼び出され、日本櫻グループ統轄事務局ビルに訪れた。
藤堂は、来客室に案内しながら、わざわざ御足労していただいた事を詫びる。
尚かつ、呼び出したのにも関わらず統轄長は会議が長引き遅れる非礼を謝った。
(もはやこれは、秘書の仕事の範囲外なのではないか?)と藤堂は思いながら………。
30分後、やっと時宗は来客室に現れた。
「本来、私どもがお宅に伺わないといけない所を、私の不徳致す所で反対にご足労かけて申し訳ない」と言うと、
夫婦は「いえいえ、とんでもございません」と恐縮している。
「この度、ウチの愚息が仕出かした事件に御子息を巻き込んで怪我や停学になってしまい本当に申し訳ない。
本来なら妻も一緒にこの場にいて謝らないといけないのですがあいにく、本日海外から帰国の予定ですがまだ着いておりません。重々の非礼お許しください」と時宗は頭を下げる。
悠貴の両親は恐縮して「頭を上げて下さい」と懇願した。
悠貴の父親は「喧嘩の件は、息子から理由は聞いております。ウチの息子は少々負けん気が強く反対に統轄長の御子息の方を巻き込んでしまったのではないかと心配しておりました。
ですが、私どもでは、なかなか統轄長にお会いすることも難しいので御挨拶が出来ずに居ました。
こちらこそ非礼をお許しください」と反対に謝罪された。
時宗は「悠貴君には、今後も玲音のいい友人して付き合いして欲しいと願っております。
玲音には悠貴君に危害及ぶような行動は今後一切するなと言い聞かせておりますので、これからも変わらず付き合いさせて貰える様お願いいたします。
後、夏休みに悠貴君を玲音と一緒に旅行に連れて行きたいのですが、了承いただけますか?」
夫婦は、「大変に光栄です。こちらこそよろしくお願いいたします」とかなり恐縮して帰っていった。
謝られる事はあっても、謝る事などめったにない時宗は統轄長室に戻るなり「疲れた。もう帰りたい」と椅子にもたれた。
それを見た藤堂は溜め息をつきながら「統轄長!お仕事してください。忘れて無いでしょうね?仕事はまだ終わってませんよ?夏休み返上になりますよ」と脅す。
後日、悠貴が両親からこの事を聞き父親から「頼むからもう2度と親をびびらせるような事しないでくれ」と、母親は「呼び出された時、心臓が止まるかと思った。寿命が確実に縮まった」って言ってたと玲音に話ししていた。
玲音はそれを聞くと「親父、そんなに怖い顔なぁ?どちらかと言うと反対だと思うけどなぁ」
「何?ボケたこと言っている。おじさんの威厳は 顔でなくて、その後ろにある権力だろ?」と廉は突っ込みを入れた。
2.パンダ事件の終焉
騒動を起こした2人は、山積みの課題を周りの大勢を巻き込んで提出して停学は無事に解けて晴れて自由の身になっていた。
夏休みに入る直前、玲音が相談があると廉の所に改まってやって来た。
「何?」と廉はソファに座りながら聴くと玲音は隣にやって来て座り話し始める。
「ママからさっき連絡が有ってさぁ。
今、日本に帰ってきている見たいなんだ。
俺と廉に土産買って来ているから近いうちに二人揃って遊びに来いって」
「ふーん、いつ行くの?」
「いつ行こうか?廉の予定もあるだろうし。この前の親父と会った時にさぁ、この青アザがもう少し治まるまで会ない方がいいかもなって」
「あのパンダ事件の時かぁ~。まぁ母親が息子のこんなパンダ顔見れば卒倒するよな」
廉は改めて玲音の顔をまじまじと見ながら笑う。
「パンダ言うな!」と顔を真っ赤にしながらうつ向く。
「まぁ俺は、大分見慣れてきたからなぁ。それに傷も当初より落ち着いては来てるから驚きはしないが、でも初めて見ると誰もが驚く状態なのは間違いないな。あぁそうだ、相談するにはいいヤツがいる」と言って立ち上がる。
玲音は不思議な顔をしながら廉を見る。
「ちょっと来い」
廉は玲音を千景の部屋に連れて行った。
「千景、この青アザ早く引く方法がないか五十嵐先生に聞いて貰えないか?」
千景は玲音の顔をまじまじと見ながら
「うーん、聞くにしても事情を話さないとな。そうしたら、すぐに連れて来いって言われるかもなぁ~。それよりなんでもっと早く医者に見せないとか言って怒るよあの人は」と溜め息をつく。
「医者に見せても治る速さは変わらないのでは?」と玲音は呑気に言う。
『違うだろう!』と廉と千景がハモった。
玲音は思わぬ反応にたじろきながら
「早く治るなら、仕方ないから病院に行くよ。ついでに悠貴も見てくれるかな?」
「医者が患者を見捨てたら世も末だよ。パンダ君」と千景は呆れる。
「だからパンダって言うな!」
千景が父親に電話して、事情話すと案の定すぐに連れて来いって言われ、千景は渋々パンダ1号2号を引き連れ実家の病院に行くこととなった。
診療時間はとっくに過ぎていたが、五十嵐先生が専門医と一緒にすぐ診療出来るように待っていた。
五十嵐先生も専門医も2人の顔を見て驚く。
「派手に暴れたんですね」苦笑しながら、担当医は2人の顔に傷やアザが極力残らない様に処置した。
特に青アザの部分は丁寧に温めて丁寧に皮膚に軽い刺激与えながら内出血した血液を散らして血流を良くして最後薬を塗ってもらっていた。
治療後担当医から「これで2、3日で大分目立たなくなるはずですよ。怪我しても、すぐに治療に来ていれば、傷も青アザもこれ程ひどくならなかったんだよ」と言われて2人はショックが隠せないようだ。
「塗り薬を出しておくからこまめに塗ってね。どうしても顔に跡が残る様ならまた来てくださいね」と言われて玲音は「うーん…」と曖昧な返事する。
「俺が連れてくるよ」と千景が言った。
「俺的には別に顔にアザや傷、少々残っても関係ないと思うんだけどな………。でも、ママが気にするからなぁ」と玲音は言っていたが、千景から「一生パンダでいいのか?」と言われて愕然とする。
「さっきも言われていたじゃないか!すぐに来ればこんなひどくはならなかったと、色素沈着起こせば一生パンダのままだよ!」と千景はいい放つ。
「だからパンダ連呼するなぁ~」
薬貰いに行くと薬局に悠貴の父親がいた。
「父さん!」と悠貴が言うと悠貴の父親は息子の傍まで寄り悠貴の頭を撫でる。
「やっぱり悠貴かぁ。処方箋見て驚いたよ」悠貴は照れながら玲音達に父親を紹介し、父親に千景と玲音を紹介する。
「これは、これは、千景坊っちゃんと顔見知りだったのか?」
「おじさんが悠貴の父親だとは思っても見なかったよ」と千景は驚く。
悠貴の父親は玲音に向かって「悠貴がやんちゃばかりして巻き込んでごめんね」と言うと玲音は「僕が悠貴を巻き込んだんだ。悠貴は悪くない。僕が悪いんだ。すみません」と頭を下げる。
「頭をあげて。先日、玲音君のお父さんにも謝られたよ。もうお互い謝るは、なしにしようね。これからも悠貴と仲良くしてやってくれるかい?」と優しく微笑みながら頭を撫でる。
玲音は「勿論」と満面の笑みで答えた。
「早く傷を治さないとね」と言って薬を渡された。
玲音達は、病院の皆にお礼を言って寮の廉の部屋に帰って来た。
廉は自分の部屋のソファーで寝ていた。
夢の中で海底に悠貴と一緒に潜り、何か探していた。
そう、この岩影間にすり抜けて進むと辺りは開け遺跡への入口が見える。
海底に石畳が広がり入口は更に地下に進む石階段かある。
そう、ここだ、見つけた!
千景の考えは正しかった。二人は海中で手を合わせ喜ぶ。
【やったね玲音! 】 悠貴がメッセージボードに書いて見せる。
(玲音?)
俺は廉だ!
すると周りが真っ暗になり悠貴の姿が見えない。
「忘れるな、お前の使命を」と暗闇に声が響く。
玲音はソファで寝ている廉が凄い寝汗をかいてうなされているのを見てビックリして叩き起こした。
「廉!廉?どうしたの?起きて!」
廉は玲音の声で目が覚める。
「なんだ、帰って来てたのか?」と廉は起き上がろうとする。
「うなされているようだったが大丈夫?」
と玲音は廉の額に自分の額をつけて熱を計る。
「大丈夫だ。変な夢を見てただけだよ」と廉が言ったが、千景は廉の顔色の悪さに驚き、「病院に電話しようか?」と心配する。
しかし、廉は病院に行くことを否定し、「大丈夫、疲れて寝ていただけだ」と言いはった。
廉はふと、先程見ていた夢を思い出し余りにもリアリティーがあった。
(予知夢?でもどうして玲音?夢の中のあの場所、あの風景を知っている?どうして?悠貴とは一緒に海に潜ったことは無い………。
しかし、あの風景は…………。
夢の中の事をあれこれ考えても仕方ないか、夢なんだから………)