記憶
1.記憶
玲音と悠貴の傷は、病院での手当てと薬のおかげで見違えるほど治まった。
玲音と廉は、夏休みに入ってすぐに玲音の母親に会いに一度家に戻った。
母親は息子の顔にまだ少し残る青アザの跡と傷に卒倒しかけた。
「玲音。いくら男の子だからと言ってやんちゃしては駄目よ。顔に傷でも残ったらどうするの?」と玲音の顔の傷を確認しながら言う。
「樹里亜のように容姿で仕事するわけで無いんだからいいじゃん」と玲音は、どうでもいいよと言わんばかりに逃げる。
「それよりさ。ママ今度の休みは何時?廉と一緒に動物園に行こうよ!」
「そうね。でも夏休みは、パパ達と遺跡調査するんでしょ?」
「夏休み終わってからでもいいじゃん?当分の間ママ日本に居るんでしょ?」
「そうね。廉ちゃんとはまだ家族揃って遊びに行った事は無いものね。パパのお休みに合わせて行きましょう。」
「ママ、親父に今度はちゃんと約束守る様に言ってよ?何時も親父のせいで延期になるんだからさぁ~」
廉は、玲音と母親のやり取りを聞きながら(あれ?この風景、デジャブ?)違和感を感じながら居ると今度は目の前がジェットコースターに乗ったようにぐるぐる周り始めそれから周りの空間や物が湾曲して見えた。
最後には周りの声がスローに聞こえて床が崩れるような感覚に陥り意識がとんだ。
気がつくと病院のベットの上だった。
メアリーが「気がついた?大丈夫?廉ちゃん?気分は?」とあたふたしていた。
玲音は「廉が青い顔してるから死んだかと思った」と半泣き状態で言った。
「玲音、勝手に殺すなよ。大丈夫だよ!ちょっと気分が悪くなっただけだよ」と廉は、玲音を見ながら言う。
廉が目を覚ましたのを確認した看護士が安心したように「先生を呼んで来ます」と病室を出て行った。
「廉ちゃん、こんな状態によく陥るの?
まだ体調が良くなってないんでは?
学校は休学してしっかり体を治した方がいいかも」とメアリーは心配と不安でおろおろしていた。
「先生を連れて来ました」と看護士が病室に入り、その後に千景の父親の五十嵐和也がやって来た。
「気分はどうだい?まだ、頭痛はするかい?
先日も、寝汗をかいてうなされていたと聞いたが、こういう発作が頻繁に起きていたのかい?」
「いいえ、あの時だけです」
「取り敢えず、発作の原因を突き止める為にも明日から精密検査をしようね」
問診が終わると和也とメアリーは病室を出て廊下で話していた。
「取り敢えず1週間検査入院をしてもらいます。
前回の退院時にした検査と比較してと結果が悪いようであれば、そのまま入院してもらいます」と話していたのが廉にも聞こえていたが、また声が遠くなっていき、また意識が落ちていった。
2.夢の中へ
夢の中で、またあの声が響く。
『どうだい?その身体は?
慣れてきたか?
昔の自分を見てどうだ?
少しは思い出してきたか?
時間は刻々と進んでいる
早く思い出せよ。 お前の使命を……』
『あんた、誰なんだ?昔の自分?使命って?』
必死に叫んでみたが返答はなかった。
次に暗闇の中で病室にいる玲音、千景、潤、悠貴、和也、時宗、メアリーの声だけが聞こえている状態になった。
和也は悠貴や潤、千景、玲音から学校での様子を聞いているようだった。
時宗とメアリーは「退院してすぐ寮に入ったのが良くなかったのではないか?休学して養生させた方がいいのではないか」と話している。
今度は、時宗は和也と話しているようだ。
「検査の結果に関わらず、夏休みの間は安静にするため入院させて、じっくり様子見て欲しい。
廉にこれ以上何かあったら亡くなった橘夫妻に申し訳がたたない」
「それは構わないが、夏休み何処か行く予定が有ったのではないか?」
「残念ながら中止する」
「済まないが、千景君いいかい?」
「勿論です」
「玲音、潤君、悠貴君もいいかい?」
「廉が居ないのでは面白くないから」と口を揃えて言う。
「取り敢えず今日は帰ろう。廉をしっかり休ませないとね」と時宗が言う。
「俺は、廉の傍にいる」と玲音は病室からは出ないと椅子に座って動かないようだ。
「玲音、ここは完全看護の病院だから、お前が居なくても大丈夫だ。
廉をしっかり休ませてやるには一人でゆっくりと寝かせてあげるのが一番だ。
だから大人しく帰ろう。また明日来よう」
時宗に言われ玲音は、ほぼ無理矢理に連れて帰って行った。
翌日意識が戻った廉は、1週間次から次へと身体の隅々まで調べられ、検査でげっそりしていた。
そこに玲音がやって来た。玲音は毎日欠かさず病室に顔出していた。
「玲音、頼みがあるんだけど」と廉が言う。
「ん?何?病室抜け出したいとかは、ダメだよ」
いつもの様に廉の傍に座っている玲音は笑いながら冗談を言う。
「そういう事、頼む時は他の奴に頼むから」と廉も笑いながら反論する。
「えー何でだよ。ひどい奴だな廉!俺に頼むのが筋だろ?」
「ダメって奴に、頼んでも意味無いだろ?」と廉は涼しい顔で言うと玲音は「それはそうだね」と大笑いしている。
「おじさんと話しがしたいんだ」
「親父に?」
「うん」
「何?何?なんの話し?」
「秘密」
「ひで~な!教えてくれてもいいじゃん!俺には教えれない事かよ!」
「いいから、いいから。ちゃんと伝えてくれよ」
「仕方ないなぁ~。ちゃんと、早く良くなるって約束するならいいよ」
「あぁ、約束するよ」
「しゃーないなぁ。親父に連絡してくるよ」と玲音は時宗に電話をかけに病室を出ていった。
面会時間をどっぷり過ぎた頃、時宗がやって来た。
「遅くなってすまないね。気分はどうだい?なんか不自由あるのかい?」
「あの………。遺跡の探索を中止したって」
「あぁ、廉がこんな状態なのに行けないよ。メンバー揃っての計画だろ?誰一人欠けても意味無いだろ?
来年、皆で行けばいい。そうする事で準備も今以上にできる。だから、それまでに廉は早く体を治さないとね」と時宗は言う。
「俺の事は大丈夫だから、予定通り行って下さい。
千景は自分の勉強時間を削って準備していました。
潤だって徹夜で探査機を作っています。
玲音も悠貴も遺跡探査するために必死で勉強していました。
自分の不養生のために、みんなの努力無駄にしたく無いんです。
伊集院教授や加藤さんだって準備のためにかなりの時間費やしていたはずです。
ここまで進んでいるのに中断して他の誰かに発見されても困ります」
「廉………。でも皆、廉が居ないと意味がないって言っているよ?」
「たぶん早くても夏休み終わるまでは退院させて貰えないんでしょ?結果に関わらず」
「それは………」と時宗は言葉に詰まる。
「それはそれでいいんです。心配してくれての事だから。
皆んなには検査結果次第で探索に途中から参加するから先に行ってと言うことで行って下さい。
そうしてくれないと、俺もうこれ以上の検査は受けませんよ?」
「おいおい、無茶言わないでくれよ」と時宗は困って考え込む。
「ちゃんと、おとなく留守番してますから俺」
「廉の気持ちはよくわかった。ただ、時間をくれ。
誠や雅治、和也に相談して決めるから。
それに、廉の検査結果がよく無いようなら、廉が何言おうが中止だからね。
きちんと検査はおとなく受けるんだよ。それだけは約束だからね」
「はい」と安心したように廉は答える。
時宗は帰り和也の部屋によって容態を聞いた。
「通常は脳波も異常ないし、MRIの脳の画像見ても異常はないんだ。でも時々短い時間だか、大きく脳波が乱れる事はあるみたいなんだ。
精神的な事が要因か?
脳に、まだ探しきれていない小さな損傷があるのか?
まだわからない」
「そうかすべての検査結果はいつ出る?」
「そうだな。今週末には揃うかな?」
「わかった、そのころまた来るよ。悪いが廉をよろしく頼むよ」
「あぁ、時宗には沢山この病院に援助してもらって居るからな、総力をかけて看病するし、完治するよう努力するよ。
ただ脳は今の医学でも未知な部分が多い分野だとも理解はしておいてくれよ」
「わかってる。和也、お前を信用しているよ」




