六根清浄
1.Lawyer.
玲音は、思っていた以上に、なかなか帰っては来なかった。
廉は、千景と朝食を食べながらどうしたものかと相談する。
「何か、パンダが居ないと静か過ぎて老夫婦の食卓みたいだよな?」
「何で夫婦なんだよ?」
「なんでかなぁ~。廉、今日はバイトか?」
「あぁ、だから少し遅くなるかもな?」
「時間が合うようなら乗せて帰ろうか?」
「ん?」
「俺、今日は実験データだけ観測するだけでバイト終わるの早いはずなんだ」
「なら、時間が合えば、お願いするよ。メールくれ。ついでにスーパーに連れて行ってくれよ。買い出ししておかないと冷蔵庫は空だ」
「やっぱりお前、主夫だな?」
「お前らがしないからだろ?俺、講義1つ増やしたからこれから大学いくよ」
「何を増やしたんだ?」
「法学科だ」
「弁護士でもなる気か?」
「そうだな。取り敢えず弁護士免許かな?」
「取り敢えず?」
「あぁ、海外の弁護士免許を取ろうかと」
「へぇ、秘書室には行かないのか?」
「いや、行くつもりだよ?」
「藤堂先輩も弁護士免許持っているよ?」
「そうなのか?」
「あぁ、でも、玲音の御守りするなら海外の弁護士資格も持っていた方がいいだろ?だからだ」
「なら一緒に乗ってけ。俺も一時限目から講義あるから」
「助かるよ」
その頃玲音は
「加藤さん、このデータ何か変だよ?ほらここ。この辺り海溝でもあるんじゃない?」
「そうだな?無人潜水艇でも出して見るか?玲音このまま海洋開発部に来ないか?楽しいぞ」
「親父に怒られるよ」
「時宗なら何とか俺が説き伏せてやるよ」
「それに廉、居ないし。あっほらここ、やっぱり海溝じゃない?結構深そうだよ」
(廉と言う笹ないとダメかぁ………。)
「ん?そう言えば、そろそろ定例会議じゃないの?」
「そうなんだよな?毎度の事ながら面倒くさいよなぁ」
「今回はどこでやるの?」
「確か、ロンドンだったはずだ」
「ふーん、」
「一緒に来るか?」
「いや、ロンドンは、じいちゃん居るからうるさいもん。ロンドンに住めって」
「あ~。あのじいさんか、確かに分かる気がする」
「はい、これデータ取れたよ」
「あぁ、ありがとう」
「俺、島に行きたいんだけど連れてってよ」
「あぁ、いいが何するんだ?」
「あの島、楽しいじゃん。特にあの道、バイクでとばすと気持ちいいもん」
「なるほどな。齋藤に連絡しておいてやるから。この報告書を書いてくれないか?」
「加藤さん、親父に似て人使い荒いよね」
「win―winな関係でないとな」
「まぁいいや、資料頂戴。日本語でいいの?」
「いや、できれば英語で」
「専門用語は、加藤さんが直してよ?」
「あぁ、よろしく」
時宗から電話がかかる。
「雅治!玲音を取り込んでるだろ?」
「そんなことはしないさ。 」
「win―winな関係を築いて居るだけさ」
「海洋開発部門にスカウトなんかしてないだろうな?
また玲音がごねたら、お前ガラパゴス諸島にでも、飛ばすからな?
当分の間は、日本には帰さないからな!」
「大丈夫だって、廉と言う笹が無い限り来ないさ」
「………。試したなお前」
「なんのことかな?」
「あと、定例会議の報告書早く出せ、秘書室から文句出てるぞ」
「明日には送るよ。それと玲音は明日からリゾート開発部門に行くそうだ。
これは本人の意思だかな。俺のせいではないぞ」
「雅治。お前から何とか東京に戻るように説得してくれよ」
「いいじゃ無いか?たまにはゆっくり自由にさせてやれば」
2.六根清浄
齋藤は加藤からの連絡を受けて
(やっぱり嵐が来るか?来るのは歓迎なんだが、NYのヘマ以来十碧の奴、神経質になっているからなぁ……。電話でうるさいだろうなぁ……。
しかし、一人で来るって、どうしたんだろ?最低でも2人セットのような気がするんだが…………)
齋藤は、加藤から連絡受けてから仕事が手につかないでいた。
すると島上空が騒がしい。
(来たか?)
ヘリポートに2人の人物が立っている。
齋藤はヘリポートまで出迎えに出ると加藤と玲音がいた。
「齋藤、よろしく頼むわ」
「はい、わかりました」
「加藤さんありがとう。またよろしくね。今度は、家に遊びに行かせてよ」と玲音は加藤に向き合って言う。
「まぁ、そのうちな。海洋開発部門に来るのは、いつでも歓迎してやるぞ。じゃあな!」と加藤はヘリに乗り込んだ。
「いらしゃい」と齋藤は笑顔で玲音を歓迎する。
「また、島は随分変わったね」
「そうだね。日々変わってるからね、この島は。今回、急なので、なんの用意もしてないから不便な事が多いよ?」
「全然平気。ねね、この島の今後の計画図を見せてよ」
「では、仮事務所に行こう。
今回は御一人のようだけど何かあった?」
「う~ん、ちょっと一人になってみたくて」
「でも廉君達は、心配してたよ?」
「そっかぁ~。ハハハ」と笑う。
「齋藤先輩は、藤堂先輩とどのくらいの付き合いなの?」
「そうだなぁ、どれくらいだ?30年くらいか?実家が近所なんで物心ついた時から一緒に居たね。学校も十碧が入るから入った感じで、でも何で?」
「ずっと一緒居たのに学校を卒業してバラバラになって寂しくない?」
「寂しく無いかと言われれば、微妙に寂しいかな?
でも、やりたいことが違う時点で一緒に居てもどちらか我慢するようになるより、それぞれ好きな事して好きな時に会えばいい。
どうせ定例会議の時には顔会わすし、一週間に1回は電話で話すからね」
「ふーん、そうなんだ。2人はどんな関係?」
「どんな関係と言われてもな兄弟のように、何でも話せるし、お互い性格から癖まで何でも解り合って居ると思うな。
実の兄貴より、近い存在かな?
喧嘩もするし、相手の良いところ悪い所、全て受け入れても一緒に居るのが楽な関係かな?莫逆の友?もしかするとSoul mateかも知れないな」
「さて、今度は俺からの質問だよ?
なにがあったんだい?」
「ハハハ…。やっぱり言わなきゃダメ?」
玲音は包み隠さずきちんと話した。
加藤と話して少しスッキリしたことも。
でも、まだ廉居なくなると、また、昔の様に自分一人になるような不安が拭い去れないことも。
「玲音君、気持ちは分からなくは無いけど玲音君には千景君や悠貴君や潤君居るじゃないか?それに十碧はずっと君の傍にいるよ?俺だって、職場は違うが近い将来君の右腕となって働く。
でも、もし、廉君が櫻グループから出て行く時に廉君の傍には?玲音君より、廉君の方が、より一層寂しいと思うけどな?
それに、その婚約受けたわけでは無いんだろ?廉君は、もし【玲音君】と【自身の野望】とを秤にかけた時に廉君は、どちらを選ぶか?
その答えは玲音君が一番よく知っていると思うけどな。
俺と十碧の関係を聞いたけど、君達は同等か、それ以上の関係なのではないのかな?血は繋がってないが、心は繋がって居るだろ?お互い相手の事、心配しあい、思い合っているだろ?
恋愛でもそこまで思い合うことが出来るか?と思うよ?結婚も他人同士の結び付きだからね。
結び目がほつれれば解けるのは早いけど、君達には、ほつれる結び目もないだろ?」
齋藤の言葉に玲音は目から鱗が落ちたような衝撃を受けた。
それを見て齋藤は暖かい笑顔で言った。
「愁眉を開くことできたようだね。
ここの自然は完全に六根清浄出来るほど素晴らしい場所だよ。
全ての疑念と不安を洗い流して帰るといい」
それから、玲音は齋藤と島の自然に触れながら仕事を手伝っていた。
「齋藤先輩、この島はリゾートとして開発しているんだよね?」
「まぁ、一般公開するリゾート地にするか、櫻グループの迎賓館と社員の保養地にするかまだ決定はしてないけどね」
「こないだ、海洋開発船で色々調査手伝って居たんだけど、多分この島の周りメタンハイドレートが、かなり眠って居るんじゃない?本島からガス引くよりこれ活用した方が良くない?海洋開発と手を組んでやってみたら?この島で使うのには困らないだけあると思うけどな?」
「なるほどな。あぁ、そうだ定例会議で提案するから資料作成手伝ってよ」
「いいけど。早く出さないと加藤さんの所も催促来てたよ?」
「あぁ、多分俺の所にも間違いなく来るな?」
「報告書どこまで出来ているの?」
「う~ん……」
「ん?まさか?嫌な予感するんだけど俺」
「大丈夫だ!玲音君いるし、頑張ろう!」
「先輩!他力本願にも程があるよ?」
「済んだら好きなだけこの島で遊んでいいからさ、手伝ってよね?」
「…………」
その時、藤堂から電話がきた。
「十碧なに?今、取り込み中だからまた掛け直すよ」
「おい待て、玲音様そこに居るだろ?」
「あぁ」
「代われ。あっ、それと報告書早く……」
藤堂の言葉最後まで聞かずに
「玲音君、十碧からだ」
「もしもし?」
「あぁ、玲音様そろそろ帰って来ませんか?大学、出席日数足らなくなりますよ?」
「大丈夫だよ?今までちゃんと出てるから
「でも、ですね?」
「そのうち、ちゃんと帰るから大丈夫だよ?じゃあね」
「あっ、切ったけど良かった?」
「全然構わないよ、むしろ助かった」
「で、報告書作るんでしょ?指示頂戴」
「あぁ、ありがとう頼むよ」




