表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/52

第25話 とこしなえに

第25話 とこしなえに ①



 というわけで、前回の長瀬家訪問から一週間ほど経った頃。9月も半ば、草壁たちの大学も後期の授業がもうそろそろ始まろうかという時期である。



 あのあと草壁たちはもう一晩長瀬家で泊まったあと、4人そろってひまわりが丘に帰ってきた。

 

 ゲストの二人の2泊3日という日程はそんなものかもしれないとして、せっかくの里帰りしたというのに、ゆかりと亮作の二人も客とともにそそくさと実家を後にしたのだった。


「だって、教室の生徒のレッスンがあるから、そう何日も休めない」

 というゆかりの言い分には一理あるので、両親も仕方ないと諦めるしかなかった。


「こっちももう話は済んだでしょ」

 跡取り問題をいつまでも引きずる両親に逆切れをかました亮作も、その勢いのまま、さっさと帰っちゃったのだった。

 よっぽど、家業を継ぐのが嫌らしい。




 長瀬家訪問を機にちょっとした変化があったとすれば、草壁圭介があれ以来、ちょっと沈み気味になったことだった。

 長瀬ゆかりとの関係というものを改めて考えると、どうも楽天的にはなれなかった。

 彼女は時折好意らしきものを見せてくれてはいるものの、基本、友達ということで草壁の気持ちをつっぱねる。

 そして、片やライバルの藤阪のほうには、ゆかり本人の意向はともかく、実家の両親の全面的なバックアップがある。

 普通なら、当人の意思というのが最大の問題だろうが、彼女の場合は、親の意向というは相当なアドバンテージだった。

 理由は簡単で、そのうち婿養子をとってその人と結婚するつもりでいるからだ。結婚と恋愛は別、みたいな顔して、裏でかくれて男を作るみたいな芸当はできそうもない性分らしい。

 そうかもしれない。不倫の恋に破れて自殺を図ろうとするぐらいだ。彼女にはそういう、色恋沙汰に潔癖なところがあるのかもしれない。


 なんにせよ、自分は今までゆかりとのことを軽く考えすぎていたのかもしれない。話では聞いていたがあの実家を訪れて、ただ彼女のことを好きだと言うだけではどうしようもない大きな壁の存在を改めて感じた草壁だった。




 そして、沈み気味になのは、実はゆかりも同じくだった。

 分かっていたが、実家の両親の意向というのは、この前の帰省で嫌と言うほど改めて知らされた。


 亮作とゆかりが連れて行った二人は、夏休みの最中の大学生。わざわざ仙台にまで連れて行くだけの時間の余裕はあった。

 しかし、藤阪である。

 彼の場合、サラリーマンだ。9月になって夏休みであるはずがない。

 それでも娘の帰省に合わせて、改めて顔合わせをさせたかったようで、だからこそ藤阪の予定に合わせて土曜日に帰って来いなどという不自然なスケジュールの指定までしたのだ。


 本当は藤阪もあの屋敷に泊まらせたかったようだが、彼も実家の親元へ顔を出すということで長瀬家での宿泊だけはなかったということを藤阪自身の口から聞いた。

 

 今回の帰省では、亮作だけが親の説教をくらった格好で、ゆかりには直接的な婿養子の話は出てこなかったが、こうして無言のプレッシャーは掛けてきている。ということは、そのうち、具体的な話がでてくるのも時間の問題と考えたほうがいいかもしれない。

 ゆかりの場合、まだ自殺未遂の精神的ショックから完全に立ち直りきれていないかもしれないという懸念が両親にもあるようで、その分だけ、弟より当たりがソフトだったのだろう。



 一体、自分にはどれだけの時間が残されているんだろう……。



「……かりさん!」

 隣の声にそんなもの思いから我に返ったゆかりであった。

「わっ!!」

 見ると、ハカリの上にふるい落としていた小麦粉がいつのまにか、敷いておいたキッチンシートからこぼれまくっていた。

 「どれだけマドレーヌ作るつもりなんですか?」

 隣では辻倉あやが呆れた顔をしていた。



 そう、現在ゆかりはあやのおうち「辻倉電気店」の奥にあるあやの実家にお邪魔して、お菓子作りの最中であった。


 マドレーヌ作り。

 それをなぜ、あやの家でやっているかというと、ゆかりの部屋のキッチンには一度の大量のマドレーヌが作れるようなオーブンがないから。

 

 じゃあ、なぜマドレーヌを作っているかというと。

 ゆかりさんち、本当に大きかったですよね。お母さんも綺麗でお料理とても上手だし、私憧れますよ。

 なんて言うあやとの会話から、じゃあ、私達もなにか作ろうか?たまにはお菓子でも作らない?いいですね。なんにしましょうか?マドレーヌは?うちの教室の子供達に配ってあげたいし……。


 まあ、理由は大してないのである。お料理好きの二人が集まって趣味として作る理由をあとからくっつけただけみたいな話だった。


 というわけで、あやの家に赴いて「ゆかりちゃん、この前はうちの子がすっかりお世話になって。おまけにお土産、とってもおいしかったわ。あのアジの干物と、御ノリ。もううちの一家3人であっというまぺロリ!」なんていう会話を、あやのお母さんと交わしたあと、ここ辻倉家のキッチンを借りての作業である。


 ダイニング兼用のキッチンには真ん中に一家で食事をするときに使うテーブルが一つ。部屋の作りは明らかに一昔前のそれ。キッチンで料理を作っていると、ちょうどテーブルに座る人にお尻をむけての作業となるわけ。因みに、ゆかりたちの今住んでいるマンションのダイニングキッチンもそういう形になっている。

 シンク台だけでは、作業がちょっと手狭なので、そのダイニングテーブルも作業台がわりに使うことになった。

 長瀬家のキッチンと違い、一般家庭ならそんなものだろう。

 けど、さすがに電気屋だけあって、冷蔵庫や電子オーブンレンジなんていうのは最新式の立派なものが揃っている。


 

 凝ったものをつくるわけでもないので、手順は簡単だ。

 卵とハチミツをハンドミキサーでよっくまぜて、粉類とあわせる。そのあと溶かしバターを丁寧に混ぜいれてたものを、冷蔵庫でしばらく休ませると生地のできあがり。それを型に流し込んでオーブンで10分焼いて冷やせば完成。



 本当は二人がかりで作るほどのモノじゃないけど、お料理が趣味でもあるので、二人でワイワイやりながら楽しくつくって、おいしく頂きましょう。


 なんて思っていたら、ゆかりのほうがどうも楽しくワイワイどころじゃない様子だった。

 どうも、物思いにふけっている。だから粉の計量をさせても、ぼんやりしていてこぼしまくるし、ハンドミキサーなんか普段は器用に使いこなすのに、なぜか動作が無造作で、周りを粉だらけにしちゃったり……。


「ちょっと、ゆかりさん!そんなことしてたらせっかく分量はかったのがおかしなことになるじゃいですか!」

「えっ?ダジャレ?」

「お菓子だけにね……って、つまんないこと、虚ろな目で言ってないで飛び散った粉、ちゃんと拭いてくださいよ!ミキサーは私がやりますから」


 いつもなら、年上らしく、どちらかというとゆかりがリードしながら作業することが多いはずなのに、その日はあやのほうがお姉さんみたいになってしまっている。



 あやにお叱りをうけて、押し付けられた布巾でテーブルを拭きながら、やはりゆかりの頭の中によぎっているのは、マドレーヌではなく、先日の実家でのことだった――。

 実家へ草壁とあやをつれて帰ったあの夜。亮作と両親が消えた庭のテラスでは、あやと草壁、そして藤阪とゆかりの4人が残ってしばらく花火をしていた。

 ゲストに浴衣を着せるなんてことが長瀬家の習慣としてあるなんてことまでは知らないらしい藤阪は突然あやと草壁がそろいの浴衣を着て姿を現したのを見て、二人がカップルだと勘違いしたようだった。

「いいね。似合ってるよ二人とも。なんだったら、明日は僕達二組で、いっしょに仙台めぐりしようか?」

「えっ?」

「前に亮作君が言ってた、喫茶店の彼女と仲良くなれてよかったね、草壁クン」

「あっ……」

「隠さなくてもいいから。リビングでも二人でずっとコソコソ喋ってたじゃないか!登善子さんも、そういうところ気遣いが上手いから、お二人さんに記念のペアルックを着せてあげたりしてさ」

「……私達は別にお付き合いとかは……」

「それに、僕、明日は亮作君と二人で釣りに行く予定ですから」

「あっそうなんだ。残念だな。亮作君も彼女連れてきたらちょうどよかったのにね」

 


 そういえば、草壁さん、最初はあやちゃんのことを意識してたのよね。なぜか知らないけど公ちゃんがそれを知っているみたいだけど。

 勘違いするのも仕方ないかもしれない。仲はいいわけだし、それにおそろいの浴衣を着て、並んで花火をしている姿はちょっとお似合いにも見えた。


 あやちゃんと草壁さんってお付き合いしたら、結構うまくいくと思うんだけど。二人とも、今じゃ友達にみたいになっているけど、相性は悪くないんじゃないかしら?

 彼も、いつまでも気持ちに答えないような女の後を追いかけるよりそのほうがいいんじゃないかしら。



 そのとき、粉だらけになったテーブルを拭きながらそんなことを考えていたりするゆかり。そのとき、自分に背中をを向けてキッチンの調理台の上に置いたボールの中でハンドミキサーを操作しているあやをチラッとみた。


「わたしね……と思うの」


 ハンドミキサーの攪拌音に紛れて、ゆかりの呟き声が聞こえたような気のしたあやが、ミキサーのスイッチを切って、ゆかりのほうを振り返った。


「なにか言いました?」

「あやちゃんは草壁さんのことどう思ってるの?」

 急な質問だった。見るとゆかりが今頃になってそんな疑問を感じたみたいな顔をしている。そんなこと、知らないわけでもないだろうに、何を今さら。

「ただの友達ですよ」

「あやちゃん、あんなに気軽に話せる男の人って、他にあんまりないでしょ?」

「そうですけど、なんで仲のいい異性の筆頭が自然に彼氏に昇格するみたいな言い方になるんですか?」

「この前うちで花火したとき、二人がすごくお似合いに見えたよ」

「二人だけ浴衣着せられてたからでしょ?……っていうか、なんでちょっと押し付けようみたいな雰囲気だしてるんですか?」

「お、押し付けようっていうわけじゃないけど……だって、草壁さん最初はあやちゃんのことが好きだったんじゃないの?」

「いつの話してるんですか?」

「……だ、だから、あ、あやちゃんに、ちょっとその気があるなら、な、仲をとりもってあげようかなって……」


 はあ?今まで、草壁さんとのことで一人ヒートアップして不機嫌になってたのは誰ですかね?何が『仲をとりもって』なんだろう?この人、たまに、おかしくなるけど、今日もゆかりさんがなに考えてるのかさっぱりわからないわ。


 ことがこういう方面に絡みだすと、ゆかりがややこしくなるのは親友として、何度か経験してるあや。若干うんざりしてたりもする。

「本当に取り持ってくれます?」

 わざと声のトーンを一段ひくめてみたりして。

「えっ?」

「ドキッとした?」

 からかうと面白い。本当に目の前でゆかりさん、ビクッとなるんだもん。けど、この人、ややこしいわ。

「してません!」

 自分からそんなことを言っといて、最終的にはあやにからかわれて、ムッとしているゆかりだった。

 ゆかりとしてはこんなふうに思っていたりするのである。――アッチが片付いてしまえば、コッチも決断しやすい。――と。



 出来上がったマドレーヌ、味は悪くなかったが、ゆかりの失敗もあって、作った二人で食べたあと、場所を提供してくれたあやの両親にプレゼントをし、そして、ゆかりの教室の子供たちに一人一個ずつ配ったら、あとはいくらも残らなかった。



 

 ちょうどそのころ、草壁たちの部屋307号室でも、同部屋の草壁圭介と長瀬亮作が二人そろって、ダイニングで食事をしていた。

 夏休みに入ってから、日中は部屋を空けていることの多かった亮作であるが、彼は最近、部屋でじっとしていることが多かった。


 理由は簡単で、「お金がない」。

 パチンコの負けがこんだらしい。本当のところ、帰省のついでに親に小遣いをせびろうと思っていたが、跡取り問題で衝突をしていしまい、その目論見がはずれた。

 そんなとき、草壁も部屋にいたりすると、亮作は草壁にお昼を作ってもらうこともたびたびあった。

 自炊派の草壁である。しかも、経済的には余裕があるほうでもないというわけで、自宅にいると割りと料理を作るのだった。そんなときに、ついでにもう一人前つくってもらったら、大変お安くすむ。

 学食で食べるより安い。なにしろ、本当に材料費程度しかとらないのだから。

 味もそこそこ。

 本日も、そうやって草壁お手製の中華丼をかっ込んだりしている。ただし、腕は悪くないといっても、基本的に冷蔵庫のあり合わせで作ったそれは、ウズラの卵なんて入ってないし、豚肉のかわりに鶏胸肉だったりするわけだ。文句はいえない。これで130円というのなら。



「俺さ、ずっと気になってたんだけど、どうしてツルイチさんをルームメイトにしようとしたんだ?」

「ちょうどあの人、あのころホームレスだったんだよ」

「……なんだって!」


 雑談の途中で、今さらのような質問をしてみたら、そんな答えがこのお坊ちゃんから返ってきたので草壁が驚いた。

 近所のパチンコ屋で、隣に座ったのをきっかけに、仲良くなっていろいろとパチンコや競馬の手ほどきを受けていたそんなとき、公園で寝ているのを亮作が目にして、うちに引張ってきたという。


 なんとも心温まる……いや、普通じゃないだろ!その行動は


「いろいろあって、その当時住んでたところを出てかなきゃいかなくなったみたいだけど、アノ人、言ってみれば無職でしょ?収入証明とか保証人とかいないらしいんだ。実家とも疎遠だとか言って。だから住む部屋見つけるのも大変なんだって」


「そうなんだ……」


 もう一緒に住んで数ヶ月も経って、あのオッサンに馴染んだ今だからいいものの、最初にそんな話を聞かされてたら、いくら草壁でも同居に反対したかもしれないような話だった。

 それを、このお坊ちゃん、平気な顔して言うのだ。やっぱりどこか神経が常人と違う。


「なんつうか、金持の感覚ってのは、庶民には理解不能だわ」

「草壁クンは、うちのこと金持ち、金持ちって言うけどさ。……まあ世間的一般から見ればそうかもしれないけど、僕は、うちなんかより確実に桁が一つは違うって金持を色々見てるから、それほどと思うよ」

「そうなの?」

「うん、おじいちゃん曰く――」


 ”トラやライオンは、分かりやすい姿をしているが、バケモノは、人目につかないようにして潜んでいるものだ”


「――なんだって」

「なんだよ?それ?」




  だってうちの実家、確かに大きいけどさ、あそこ、敷地ばっかりでっかくって、あと芝生ばっかだし。うちのお父さんが休日、暇つぶしに芝刈りカートを乗ってグルグルまわったら、手入れも終わり。あとはお手伝いさんとかうちの母親がホウキで掃くだけ。

 年に2,3回ぐらい造園業者が入れば充分みたいなところだし。


 普段、学校通うのだって、駅までどれだけ離れているか。

 両親とかおじいちゃんは車に乗ってけばそれでいいとして、僕とかお姉ちゃんなんか、駅まで毎日どんだけあるいたか。

 言っとくけど、送り迎えなんかないからね。

 晴れの日はいいけど、雨の日は傘指して、何十分も歩くよりほかないんだから。

 なんだよ、これ?みんながいい家って言ってるけど現実はこれかよ?って、何度思ったか。




 だそうで。亮作がまさに立て板に水のごとくよく喋った。日ごろの金持ちとしての鬱憤を庶民、草壁にぶつけるかのように――。




 本当の大豪邸って、案外人目につかないところにあるもんなんだよ。

 誰もが知っている高級住宅街の表通りなんかから、ちょっと入ったところをクネクネ行って、こんなところ用事がある人ぐらいしかこないだろ?みたいなところに、表の壁なんかが総大理石張りにピカピカしてるのが、ダーって広がってるとか。

 住宅街をちょっと登った一番てっぺんに、なんか美術館みたいなのが、微かに見えるけど、やっぱりそんなところまで用事のない人は行かないし、行って見たら、ガラス張りの大豪邸。みたいにね。

 あと、うちの実家みたいな別荘持ってる人とかさ。もちろん本宅はそれをはるかに超える大きさだし。

 他にも、家の中に川が流れてるんだけどさ、これがプールなんだよ。で、その水が家の中循環して、隅っこのほうで滝になってたりとかさ。

 家の家具だって見えないところまで全部高級ブランドもの使ってるから、建物だけで数億はするその家の家具の値段もそれぐらいするなんて家とか。

 

 うちの家具はところどころ、高級品も使っているけど、それほどすごいのじゃないし。オーダーメイド品は多いけど、機能性重視で作ってあるから市販品よりちょっと高い程度。

 草壁クンが泊まった部屋だって、一応来客用の寝室なんだけど、ベッドも普通のセミダブルだって分かるでしょ?

 風呂、でかい、豪華って言うけど、あそこも来客があったときに入ってもらうから、ちょっと張り込んであるだけでさ。

 庭にプールがあるわけじゃないし。

 だから、うちなんて、『豪邸』って言ってもせいぜい2流の豪邸だよ。




「あの家を二流と言うのか?……」

 庶民、草壁が呟いた言葉尻をすぐに捕まえるようにして亮作が言葉を続けた。


「実際そうだもん。ううちみたいに、いろんな人から「豪邸です」みたいに分かるようなところに建っているのは、多分、豪邸っていっても2流なんだよね。

 おじいちゃんがよく言ってたんだけどさ――


 『トラやライオンは、分かりやすい姿ナリをしているが、本物のバケモノというのは、人目につかないようにして潜んでいるものだ』

 

 ――そういことなんだよねぇ……」



 



 おもしろそうだったから、草壁がいろいろと長瀬家のことを聞いてみたら、出てくる話は、「貧乏くさい」というわけではないが、華やかな「セレブライフ」というものとは随分とちがったものであった。




 知ってるところじゃ、オーストラリアとかニュージーランドに豪華クルーザー持ってて、休日にはそこでマリンレジャーとか楽しむなんて一家もあるけど、うちなんて、あの家はでかいけど、別荘も、クルーザーもないから。

 草壁クンも知ってるでしょ?このまえ一緒に実家に帰ったとき、うちから送られてきた新幹線のチケットが自由席だったの。

 学生の分際で、グリーン車なんかもってのほかっていう感じだからね。

 何度か家族で海外に旅行に行ったときに、せっかくのレジャーだし、長時間の空の旅だからって、ビジネスクラスに乗せてもらったけど、上海行ったときは、3時間ぐらいだからこれで充分ってことで、エコノミーだったし。

 ファーストクラスなんて、うちの両親が2,3回乗ったことがあるぐらい。

 海外行くなら、家族揃ってファーストクラスが当たり前なんてところイクラでも知ってるけど、うちなんかそんなんだから。


 車だって、うちの父親のは、レクサス。一番いいグレードのやつだけど、世間にはそれ以上の車なんかいくらでもあるじゃない?ベンツやBMW、フェラーリとかランボルギーニ。リムジンにロールスロイス。

 それもなんで一番上のグレードかっていうと、休日にゴルフ行くときなんか、友達を乗せたりするんで、後部座席に余裕のあるのを買ったけど、父親本人は、後ろに乗ったことなんかなくてさ、僕が前に帰ってきたとき、後ろに乗っけて近所ドライブしたら、「いいなあ、会社のクラウンよりやっぱり広くて乗り心地いいなあ」って、感心しているぐらいだから。


 ちなみに会社の公用車は、クラウンだよ。それもアスリート。クラウンの中でも普通、かちょっと安いぐらい。

 うちの会社程度の規模で、社長があんまり良い車に乗ってたら、他所からは「驕ってる」って思われるからそうしてるんだって。

 お手伝いさんが常駐しているわけでもないし。

 毎日のお父さんの出勤には、その公用車でのお出迎えがあるんだけど、公用車の運転手は会社の社員だから、うち個人が雇っているわけじゃないんだよね。

 社長に運転手がついているのも、贅沢じゃなくて、重要な会議や商談への移動の最中に渋滞に巻き来れても下りて電車乗るなりする自由が利くから。それに、もし社長が仕事中に車を運転していて事故でも起こしたらたとえ軽い物損事故っていっても大変だからってことで、おじいちゃんのときからそうしているだけ。

 『たとえ、ついでにコンビニに寄るぐらいの用事だろうが、私用では一切使ったことはない。』っていうのが、お父さんの言葉でさ。

 以前、土砂降りの中、学校に行くのが億劫だと思ったから、迎えの車に同席させてくれって言ったら、ものすごい怒られたからね。




 亮作が長話をしている間に、草壁お手製の残り物中華丼もすっかり平らげてしまった二人。

 なぜか、食後のお茶っていうのは、ひとり暮らしをしていても手抜く気にはなれずに、夏でも熱々の緑茶をちゃんと急須に入れてお湯をそそいで、湯のみで飲むのが草壁の習慣になったりしている。

 それは、草壁の実家の食卓がそうだったというのもあるのだろう。

 というわけで、この日も、食後に、草壁の淹れた熱いお薄を二人して湯のみ片手に飲んでいる。


「ありがとう、悪いね、メシ作ってもらってお茶まで淹れてもらって……けど、おいしい、このお茶。草壁クン良いお茶っぱ使ってるの?」

「普通のだよ。スーパーで売ってた一番安い奴」

「そうなんだ」

「しかし、お前の話を聞いていると、案外と質素な生活なんだな、おまえんち。泊まりに言った二日目の食事も普通だったし」

「あれが、普段のうちだから。二日目の晩御飯なんだっけ?僕、忘れちゃったけど」

「豚のしょうが焼き」

「あっそうそう。普通だったでしょ」

「上手かったけどね、普通に。やっぱりあのお母さんが作るだけのことはあるなって。味噌汁の出汁とかもきちんととってあるし、肉の火の通し方とかも上手くてやわらかかったし」

「まあ、うちの家訓は『質実剛健』だから」

「そんな家訓のところに、お前みたいなのが生まれたのが不思議だけどな」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 そんなときのこと、草壁はバイトを始めようなどと考えたりしていた。

 経済的には楽ではないが、バイトをしないとやってゆけないほどでもない。

 実はちょと欲しいものがあったのだ。

 だから、その資金稼ぎのため。という、大学生のバイト動機としてはやや暢気なものであった。

 それともう一つ、密かに思っていたことがあった。

 デートの軍資金、である。


 ゆかりとの関係で言えば、現在二人きりでどこかにまともにデートの約束を取り付けることすらままならないわけだが、もし、そうなったときお金、どうする?

 こっち貧乏だから、ゴチになります、じゃあ男としてはマズイだろ?しかし、あのお嬢様を誘い出してどっか行くとして、二人でハンバーガーばっかりというのも、なんとなくカッコつかない。

 それなりに頑張ったところに連れてゆきたい。庶民なりに。

 

 そして、来年は3年生。そろそろ就活もにわかに忙しくなりそうだし、のんびりバイトやっていられる余裕は今ぐらいしかない。

 そう思ってのことだった。

 

 探していたら、電車乗ってちょっと行ったところで、3,4ヶ月の期間限定OKというバイトの募集があって、しかもお給料がいいもんだから、応募してみることにしたのだった。




 んなことで、駅前で履歴書用の証明写真を撮ったあと、帰りにアネモネに顔を出した草壁。

「いらっしゃい!……どうしたの?その格好?」


 店にやって来た草壁の姿を見てマスターが驚いた。


 なぜなら、彼、このときスーツを着ていたからだった。


「バイト応募の履歴書写真用です」

「バイトの応募なら、もっとラフな格好でもいいんじゃないの?」

「こういうのは、きちんとしておいたほうが、相手の印象もいいでしょ?」


 このとき草壁が着ていたスーツ、実はこれ、大学の入学式のためにということで実家の親が買ってくれたものであった。それもベストもついたスリーピース。

 色は無難に濃紺。これならゆくゆくリクルートスーツにも転用可能だ。

 ところが、セットになっていたベストというのが、スーツとは色違いのグレー色。

 両親とともに出かけた洋服店で、なんとなく草壁が気にいってチョイスした。が、いざ入学式に出席してみると、ベスト着てるのなんか居やしない。それもスーツとは色違いのベストを襟元に覗かせているものだから、若干目立った。

 で、その直後にトラックにはねられることになるが、それはおいといて、彼自身はこのスーツとベストの組み合わせはちょっと気にいってたものだから、証明写真用に久々引っ張り出して着てみたのだった。

 実は、スーツと一緒にネクタイにポケットチーフまでも買い揃えていた草壁。今日の写真撮影にかこつけて、胸元のポケットから、白地に細いラインの入った、ネクタイと同じ柄のそのハンカチをのぞかせて、ちょっと気取った格好をしていたりする。



 ちょうど3時になろうかというぐらいの時間だった。見るとあやもゆかりも本日は出勤していないようだったが、どちらもこれぐらいの時間になってやってくることは度々あるので、ちょっと寄ってみることにした草壁。


 そして、店内にはチラホラと客の姿も。

 いずれもテーブル席でスポーツ新聞読んでたりする、暇そうな年寄りばっかりだったが。


「バイト始めるつもり?」

「採用されたら期間限定でやってみようかと」

「何のバイト?」

「りょ……」


 いつものカウンターの席に座った草壁とマスターがそんなやりとりをしていると店の電話が鳴った。


「はい、喫茶アネモネです。あっ、先生、まいどどうも。はい、ホットコーヒー二つ。じゃあ、お持ちします」


 草壁の目の前でマスターがそんな電話のやりとりをしていた。

 ん?ちょっと待てよ。あれ、出前の注文みたいだけど、マスターどうするんだろう?今、店一人でやってるのに。

 すぐ近所だから、できたら自分でひとっ走りでもするつもりだろうか?


 不思議に思う草壁の目の前ではいつものごとく、マスターが手馴れた様子でペーパードリップカップにツツッーとお湯の糸を垂らしていた。

 それから、いつもゆかりやあやが小脇に抱えている銀の丸盆の上に出来上がったホットコーヒーを乗せてラップをして、砂糖とミルクポットも同じように乗せて……。


「こっから右出て、ちょっと行ったら、西田歯科ってのがあって、その二階にあるアトリエにこれ持ってって」

 その丸盆を草壁の前にずうずうしく差し出した。


「ぼくはここのバイトじゃない!」

 いくら馴染みだからと言っても、客を使おうという神経は異常だろ!思わず草壁も叫んだ、というより、マスターの厚かましさに呆れていたりする。

 しかし、ここでマスターが草壁以上の厚かましさを発揮して、こんな強弁をかまえだした。

「じゃあ、私が出前の間、君がここに立って、注文のエビプラフとバナナジュースを作ってくれるか?できまい?なら、君がこれをもっていくしかないだろ?!」


 もはや、言葉がなかった。

 こうして、スーツで出前と相成った草壁だった。




 とは言っても、出前先なんて実は目と鼻の先だったりする。

 同じ商店街にある、とある画家のアトリエなんだそうで。

 だが、そんなものがあるなんて、ここをしょっちゅう通っている草壁にも初耳だった。

 それは無理も無いかもしれない。なにしろ、ただの画家のアトリエなので、大きな看板は出していないし、しかもそれは2階にあったからだ。

 

 言われたとおりに進むと「西田歯科」というのがあるのは草壁も知っていた。

 開業して随分と古い歯科医だ。古い摺りガラスの手動ドアに大きく「西田歯科」という文字を見えるそこには確かにすぐに思い当たった。

 実はその扉の脇に、上階へ続くかなり狭くて急な階段がある。

 見上げると、階段出入り口には「↑2F 大田アトリエ 西田歯科1F↓」という文字看板が確かに頭上に掛かっているのが確認できた。


 それはそうと、この建物も商店街のほかの建物と同じく、かなり古そうだ。なにしろ、そんな階段のくすんだモスグリーンのリノリュウム張りの床はところどころ剥がれているし、アルミの郵便受けだって、サビだらけ、薄いベニヤの化粧板を張った壁も、長年の湿気にやられて、継ぎ目に隙間が目立つ。



 その狭い階段を登ると、すぐ左手に目隠しを張ったやはり古いガラス扉。扉の脇に縦書きで「大田アトリエ」とプラスチックプレートがかけてある。

 

「どうも、喫茶アネモネです。ご注文の品お持ちしましたー」


 ガラス戸の丸ノブを押して中に入った草壁。

 

 その中では、絵画制作の真っ最中だった。それも人物画の。


 デッサンも終わり、油絵の具を画布に置いているその絵。白いドレスを着た女性を中央に配置した、肖像画であろう。まだ未完成の背景ではあったが、まるで山荘の一室にいるかのような、アーチを描いた大きな格子窓の見えるその室内のソファにやや横座りに腰を掛けた女性が、涼しげに窓の外へでも目をやっているような構図だった。


 板張りの大きなアトリエは、仕切りもすべてぶち抜いて、2階のワンフロアをすべてアトリエにしている、かなりゆったりとした空間だった。

 油絵の溶剤独特の匂い。古くなった食用油のような匂い、あるいはセロファン焦げたみたいな匂い、それはすこしかび臭くもあった。強烈ではなかったが、さっきまで居た商店街の白いアーケード通りから急に異世界にトリップしたような気分になった。

 

 

 草壁が入室すると、画家の前で小さな椅子に腰掛けてポーズをとっているモデルが黒目だけをチラッと動かした。

 そのモデルを見て、思わず草壁が小さな声をあげた。

「あっ!」


 そのモデル、なんと長瀬ゆかりだった。


 すると、草壁に背を向けるようにしてイーゼルの前に座っていた男がゆっくりと振り向いた。

「どうも、ご苦労さん、じゃあ、ここらでちょっと休憩でもしましょうか……あれ?見ない人だけど、あの喫茶店の新しいバイトかい?」


 デニムのシャツの下に真っ白なTシャツを覗かせているジーパン姿のその画家、振り向くと相当な老人だった。

 キャンバスに向かっている背中がはピンと伸びていたが、コーヒーの到着に、絵筆を置いて椅子から立ち上がろうとする動作は、膝をまっすぐに伸ばすのにも一苦労と言う様子で、若干ヨロヨロしていた。



 そんなものだから歩行には杖の補助が必要らしく、アトリエの中を歩くにも随分とゆったりとしか歩けないが、顔色はとても血色よくて、黙っていても不思議と微笑んでいるみたいな愛嬌のある顔をした、小柄のこの老人が、この「大田アトリエ」の主、画家の大田一展である。


「ゆかりちゃんも、こっちにおいで、ん?どうしたの、驚いた顔して」



 アトリエ内は、取り散らかった様子もなく、ほどよく整理されていたのだが、何もかもが古びているせいで、部屋というより、倉庫の中にでもいるようだった。

 画材や絵筆のような小物類は、壁に作りつけの棚に収められているが、その棚がいかにも日曜大工で作ったみたいな野暮ったい、ありあわせの木材を組み合わせて釘でうちつけたみたいなもの。そこに長年使い込んですっかり煤けた道具類が、おそらく画家本人にだけわかるような意図で置いてある。


 部屋の隅には、サビと絵の具で汚れた一斗缶なんかがあったり、書きかけなのか、失敗作なのかはよくわからない中途半端に手の入ったキャンバスが立てかけてあったり。

 

 そんな部屋の中央に大きな丸テーブルが置かれていた。

 床の板張りもそうなのだが、その木のテーブルというのがこれまた古びている。表面には小さな傷と絵の具の汚れだらけで、手で撫でるとボコボコとしていた。


 喫茶店の出前持ちがゆかりの友人だということを聞いた大田画伯。


「ゆかりちゃんの知り合いか……暇だったら、あんたもゆっくりしてきなさい。ここに若い人が来るなんて珍しいから」


 一度、テーブルの前の椅子に座った画伯は再び立ち上がろうと、よろよろと杖にすがりついた。


「あっ、先生、お茶なら私淹れますから」


 そう言ったゆかりが、大田を引き止め、自身がアトリエの奥にある小さな古いシンクへと歩いていった。

 おおよそ、新品というのが見当たらないこの室内。ゆかりの立ったシンクだって、白い化粧板はいたるところで剥がれている。いまごろには珍しい捻るタイプの蛇口から水を出すと、これまた古い錫のヤカンに水を入れると、一口コンロの上に置いて、火にかけた。


「先生、インスタントコーヒーどこですか?」

「そのガラス棚あるだろ?その一番上にないか?クリープもいっしょにあるだろ?」

「ありました」




 そんなわけで、いつの間にか草壁もその大田アトリエでのティータイムにお邪魔することになった。



 そこで、ゆかりがモデルをする事情というのも聞いた。


 なんでも、この大田画伯、あの喫茶アネモネの常連さんらしいのだ。

 多分、今現在はこの画伯以上の常連である草壁はこの老人なんて知らなかった。無理も無い、なぜなら、画伯がアネモネに顔を出すのは、このアトリエに朝やってくる途中、時間帯にして午前の9時とかいう頃らしい。そんな時間には顔を出すことのほとんどない草壁が知らないのも無理は無い。


 で、そこで、たまたま見かけたゆかりに絵のモデルを依頼して、今こうなっているというのだ。


「あやちゃんもね、高校生のときにモデルやってことがあるんですって」


 傷だらけの丸テーブルについてお茶を飲みながらゆかりが言った。



 隣に座ってみていると、普段のゆかりの服装とも若干違う趣味の装いをしていた。

 頭からつま先から白一色で統一されたその衣装、清楚な印象がしたが、趣味としては若干ダサいというより時代がかっているレトロな印象のある衣装だった。



 なんでも、現在製作中の肖像画のコンセプトに合わせて画家自身が用意したものらしい。


「タイトルはまだ決めていないが、夏の避暑地に遊びに来たお嬢様というのを描いてみたかったんだよ。堀辰雄の小説なんかに出てきそうな」


 よくアイロンのかかったパリッとした生地の半袖ドレスで、ややゆったりとした袖口から華奢なゆかりの二の腕の白いのが可憐に映えた。

 どんな素材なのかはよくわからないが、麻のようなやや固い感じのその服、たちあがるとキチンと折り目のついたロングスカートのプリーツがふんわりと広がった。まるで微かに風でも受けているようでもある。


 リボンやコサージュのような飾りらしきものもなにもないせいか、随分と古い時代のスチュワーデスみたいな印象もしないでもない。


 その衣装をつけた頭上には、つばの広い白い帽子を被っていた。

 天然の葉か蔦みたいなもので織り上げた帽子である。いかにも避暑地のお嬢様が被りそうなものである。その帽子にだけリボンがついていた。


 

 古びたかび臭いアトリエといい、ゆかりのこの衣装といい、さらに言えば、実は草壁の衣装もあまりにオーソドックスなせいもあって、それだけ見ると、数十年前にタイムスリップしたかのようだった。

 デニムシャツの老人画伯がその中で、もっともモダンに見えるのはちょっとした皮肉だ。




 足腰は多少おぼつかないところのある画伯だったが、未だに現役の絵描きだけあって、気持ちのほうは若い様子。草壁とゆかりを目の前にして、わりと口数も多く、明るい様子で気さくに話してくれた。


 このアトリエを使うようになってもう50年以上になるそうだ。

 

 

 そんな話をしながら、草壁には一つ気になるものがあった。

 それは壁に飾ってある一枚の肖像画のことである。

 画家のアトリエに絵があって不自然はないのだが、なにしろこの部屋、飾りらしいものはない。しかも描きかけの絵なら数枚脇に立てかけてあったりするが、完成品とおぼしきものは一つも見当たらないのだ。

 その部屋に、決して大きいものではない、女性の肖像画が一枚壁にかけてあった。

 等身大とおぼしき首元から上の笑顔がちょうどぴったりシンプルな額の中におさまっていた



 使われている色彩が少しシンプルで、全体的に白っぽい色合いの肖像画だった。

 少し遠い目をして、豊かにウェーブした黒髪に包まれて、こちらの頭上あたりを嬉しそうに微笑んで見つめている綺麗な女性が描かれていた。

 いにしえの映画女優を彷彿とさせるような。


 なぜか、そのしあわせそうな笑顔が最初目に付いたときから、気になって仕方ない草壁だった。

 だが、なんとなく聞き出しにくかった。なぜなら、この殺風景なアトリエにたった一つ、それだけ浮き上がっているような異質な絵を、この画家が何をおもって飾っているのか?

 初対面では、なおさらそう思わざるを得ない。



 しかし、草壁が何度もチラチラ見るものだから、画家のほうがそれに気がついた。

 彼は草壁がその絵を気にかけていることに悪い気はしないらしかった。少し誇らしげにこう言った。


「その絵はね、わたしの妻だよ。30過ぎごろの絵だがね」

「綺麗な方ですね」

「若いときから、美人だったよ」


 さらりと妻の自慢をする画伯だった。


「このモデルの彼女よりも?」

 草壁が隣のゆかりを指差してニヤニヤした。

「ゆかりちゃんもいい女だが、うちのヤツよりは劣るかもな」

「先生、画家ってもっとモデルに気を使うもんじゃないんですか?」

「フフフフ、ゆかりちゃん、ふくれっつらがカワイイな。こんどはその顔で絵を書いてみようか?」


  

 そんな話で盛り上がっているときに、ゆかりが突然。「あっ、忘れてた!大したものじゃないんですけど、お茶受けにお菓子を持ってきたんです」と声を上げた。


 彼女は自分のバックから取り出したのが小さなバスケット、カゴ、である。それも人差し指でひょいっと引っ掛けたらすぐに持ち上げられそうな小さな籐のバスケット。

 その中に、ビニールの袋で一つづつ綺麗にラッピングされたものが入れてあった。


「もうこれだけしか残ってなかったので、先生といっしょに頂こうともってきたんですけど」


 それは、先日あやと二人で手作りしたマドレーヌだった。子供の手のひらぐらいの大きさのそれ、表面の焼き目も綺麗についていて、まるっきり売り物ように見えた。



「数が足りないね」

「先生は、どうぞ、一つ召し上がってください。彼はどうせもともと、ただでお茶飲んでるから、文句言える筋合いのもんじゃないですから」

「ええっ!僕のはナシ?」


 ゆかりは「電気屋さんの辻倉さんとこのあやちゃんと二人で作ったものなんです。お口にあうかどうかわかりませんが」と言って、マドレーヌの包みを画伯に勧めた。


 そして、隣で不満そうに口を尖らせている草壁に向かって

「私達の分は、これでいいでしょ?」

 そう言って、敷き紙に収まったままのマドレーヌを半分に割ると、敷き紙のついたほうを草壁に渡して、残りをティッシュで軽く包むと、一口齧った。


「あっ、おいしい。焼きたてもいいけど、少し時間がたって、生地がしっとりしていて、なかなかの出来ですよ」

「うん、すごいどっしりとした口当たりですよね。甘味も嫌味がなくて、すっきりしていて、卵とバターの香りがしっかり出ている」

「ねっ、初挑戦でこれだったら、かなりの出来でしょ?」

「うん」



 半分になったマドレーヌをそれぞれ惜しむように、小さく齧りながらそんなことを隣同志で交わしているゆかりと草壁の様子を、画伯はしばらくじっと見つめていた。



「お二人さんは、仲がいいの?」


 見ると、目の前で画伯がニコニコしながら、そんなことを聞いてきた。

 『仲がいい』とはどういう意味だろう?

 質問が曖昧なものだから、二人とも答えに窮してしまった。しばらく、お互いが「えっ、まあ仲は……悪くはですが」と、これまた二人とも曖昧なことをゴニョゴニョと言いよどんでいた。


「ハハハハ!二人とも急に様子が変ったな?まあ、年寄りがあんまり変なことにクチバシを突っ込むもんじゃないかな?……からかうつもりじゃなかったが。お二人のことが話にくいのなら、私の話でも聞いてくれるかな?……ちょっと、待っててくれよ」


 目の前でしどろもどろな二人の様子がよっぽど可笑しかったのだろうか?画伯が愉快そうに大声を上げて笑ったあと、杖をついてよろよろと立ち上がった。


 見ていると、彼はアトリエ隅の、今は荷物置き場みたいになっている古い木の机の前までやってくると、その机の一番下の引き出しから、古いクッキーのカンカンを取り出して、それを二人の目の前にポンと置いた。


 小学生の時に使っていたお習字セットのカバンぐらいのそのクッキー缶、大分に古いものみたいで、これまた、塗装はいたるところで剥がれて、サビがところどころ浮いていたりする。


 中身は古い写真が一杯詰まっていた。

 それも女性の写真である。あの壁に掛かっている画伯の妻の写真だった。

 単独で写っているものもあれば、若き日の画伯と共に収まっているものもある。大抵はカラーではあるが、経年のせいで色は若干あせている。


 印象的なのは、笑顔の写真が多かった。ときどき、肖像写真のようにキチンとポーズを取ってフレームに収まっているものの中には、唇をキュッと引き締めて真面目な顔をしているものもあるのだが。

 特に画伯とツーショットの時の笑顔は、単独で写っているものよりも、笑顔がより自然で柔らかい印象がした。

 そして、画伯の自慢どおり、いずれの写真を見ても、奥さんが美人であったという話と、壁の肖像画は決して美化して書かれているわけではないことを確認させてくれた。



 無造作に空き缶の中に入れてあるせいで、何年前のものはは良くわからないのだが、そこに写っている彼女の装いはいつも、地味な服装をしていた。

 あまり着飾った様子はみられない。そして、写している場所も、小さな畳の部屋の一室だったり、どこということのないただの道端みたいなところだったり。

 そして、はっきりとこのアトリエの中だとわかるような写真も何枚も見受けられた。

 驚いたことに、この写真当時からアトリエの中は全く変っていないようにも思えた。奥さんの隣で、ちょっと不器用そうな笑顔で一緒に写っている画伯が、随分と若くて元気そうな様子を除いては。



「きれいな方ですね……ね、草壁さん、これ、商店街出たところにあるお米屋さんの前みたいですよ?」


 ゆかりがそんな写真の一枚を手にとって見つめながら呟いた。決してお世辞で言っているのではないのは、彼女がそんな一枚の写真をじっと見とれるようにしている様子からもよくわかった。

 草壁もゆかりと一緒になってそんな古い写真を一枚一枚いっしょに眺めていた。


 

 しばらく、黙ったままの3人だった。画家はゆかりのマドレーヌを少しずつコーヒーに浸してはそれを食べながら、目の前の二人の様子をときどき、チラチラと眺めていた。


 やがて、マドレーヌを食べ終わった画家が、静かに昔話を始めた――。





 うちのやつと知り合ったのは、まだ私が美大を出て駆け出しの画家をやってたころだった。

 いろいろと絵のモデルを探していたのだが、この人を描いてみたいなんていう人にもめぐり合えなかった、そんなとき、知り合いのツテでたまたま知り合って、『この人だ!』と思ったのが最初の出会いだ。

 もちろん、最初はモデルとしていいと思ったんだがね。

 お気に入りのモデルを見つけて、私のほうも厚かましく、モデルを何度も頼んだのだが、彼女のほうも嫌な顔もせずに快く応じてくれたものだったよ。


 それがきっかけで、付き合うようになったんだ。

 

 ところがうちの家内というのが、いわゆる”お嬢様”。家柄のある古い家の娘さんでね。世が世なら、本当にご令嬢ということで私なんかが簡単に絵のモデルなんか頼めないような人だったんだ。




 二人が写真のほうにすっかり気を取られていると突然に始まった画伯の話だった。

 しばらく、その話を黙って聞いていたが、画伯の話がここまで来ると、二人はちょっと驚いたような顔をして揃って目の前の老人を見た。

 老人はもはや、過去の回想の中に生きているような陶然とした表情のまま、二人の様子など気にせずに昔話をつむぎだした。




 付き合いだして、お互いが結婚を誓いあうようになるまでは時間はかからなかったね。

 ところが、向こうのご両親は絵描きなんて職業の男と結婚などとんでもないっていう方だ。ましてや、私は将来さえ危うい、半分素人みたいなものだったし。

 ご他聞にもれず、貧乏だ。

 当たり前な話だが、そんな貧乏絵描との結婚なんて許してはくれなかった。


 そのころは、画家としてだけでは食えなかったものだから、私は看板屋をやってなんとか暮らしていたんだ。

 

 このアトリエでね。

 そう、ここはもともと看板屋の作業場だったんだよ。ここで看板を描く傍ら、暇を見つけては絵を描いていた。

 手に職があるとは言っても、看板屋だって順調だったわけじゃないんだ。そして画家としての絵は看板よりもっと売れなかった。


 僕らは、駆け落ち同然で同棲した。


 このひまわりが丘の駅の向こう側っていうのは今では随分と綺麗になっているが、僕らがそんなふうに暮らし始めた頃は、それは寂れたところでね、『バラック』っていうのが、本当に敗戦直後みたいにして一杯残っていたもんだ。

 そんなトタン屋根に囲まれた小さなアパートを借りて二人で住みだしたのが、僕らの生活のスタートだったねえ。

 電車が通るたびに、ガタガタ揺れてね。それでもアノ辺りでは、まだ小奇麗なところだったけどね。


 朝起きると、私は新聞を読んで、妻の作ってくれた朝食を食べてこのアトリエにやってきて、看板を描く。

 それから、お昼ごろになると、うちの妻がお弁当を二つもってやってくる。

 そこで二人でここのこのテーブルの上でお昼を食べていたよ。


 彼女は来る日も来る日も、毎日ここにお手製のお弁当を二つ持って通う毎日。

 あんまり二人でどこかに行ったなんて記憶はないんだよ。初詣すらしたかどうか?とにかくうちのやつとの思い出というと、駅の向こうの小さなアパートとこの商店街の周辺しかなくてね。

 それだけ、お金には余裕というものがなかったんだ。もちろん新婚旅行なんてのもしたことないし、旅行に行ったことすらなかったと思う。


 そんなふうにアトリエとアパートを彼女が毎日弁当を持って往復するというのが3年つづいた頃――やっと彼女の親から許しが出た。

 許しというより、もう向こうも諦めたというべきだろうね。僕は結局、彼女の家の敷居をまともにはまたがせてもらえなかったから。

 



 思い出の丸テーブルを挟んで、ゆかりと草壁の見守るなか、大田画伯は古い思い出話を、ゆっくりとした口調ながら、澱むことなく語った。

 おそらく、そんな昔話をするなんて、彼にとってはめったに無いことに違いない。

 



 しかし、結婚の許しが出たと言っても、絵のほうはまったく売れず、私は生活のためにここでずっと看板を描き、相変わらず妻は昼になるとお弁当を持ってくるという毎日だった。


 看板の仕事を片付けて、油絵を描いていると夜遅くなるということはザラでね、そうなると今度は妻は夜食を持ってやってくる。

 外食なんて、当時の私達には簡単できることじゃなかったんだよ。


 そんなことをしていると、もうアトリエを出ると外は真っ暗だ。

 あの当時はここのアーケードももっと小さなもので屋根もシートを張ったみたいな粗末なもので、それに遅くなると、照明が落ちてしまうから、もうその前の通りなんか真っ暗だった。


 妻はそんな中を一人で帰るが怖いというから、そういう時は足元を懐中電灯で照らしながら夜道を二人で歩いて帰ったねえ。

 駅も駅前も今では考えられないぐらいに狭くて暗くて、寂れていたものだから。


 来る日も来る日もそんな生活。

 不思議なんだが、僕も相当に鈍かったんだんだろう、そんな生活を苦には思っていなかった。とにかく絵を描くことしか頭にないような男だったからね。しかし、妻のほうもそんな生活を苦にしていた様子は見せなかったね。

 本当は私の知らないところで、苦労も人一倍していたに違いないが。


 そんな生活の中で、私達の唯一の贅沢というのはたまに、天ぷらざるソバと普通の盛りソバを1つずつ出前を取って食べることだった。

 その天ぷらを二人で半分筒ずつ分け合ってね。

 たまのことと言っても、天ぷらを二つ頼むことが苦しかった。けど、そんな注文を店ではできなから頼むときはいつも出前。

 もちろん、このアトリエのこの机に座ってそれをゆっくり食べるんだ。



 そして、私のほうは40も半ばを過ぎてようやく絵で食えるようになった頃に、妻は死んだ。




 隣のゆかりがそっと腕を持ち上げた。草壁がチラッと横目で確認すると、彼女はハンカチで目頭をそっとぬぐった。




 私の名前は『大田一展』というんだ。オオタカズノリ。実は父親も絵描きだったんだよ。その父がね『展覧会で一等になるように』という意味を込めてつけた名前だそうだ。


 しかし、長いこと一等というわけにもいかず、看板ばっかり描き続ける毎日だった。



 ここで、老人はフッと黙り込んだ。少し伏目になった視線がすこし虚ろに見えた。それまでは懐かしそうにしていた彼の様子が、すこし、暗く沈んだように見えた。

 そして、彼はポツリと一言、こう呟いた。


「あいつには苦労ばかりかけて、いい目のひとつも見せてやれなかった」


 静かにそういい終わると、彼はおもむろに立ち上がって、二人に背中を見せた。

 まるで、今まで自分のした昔話にちょっと照れでもしたみたいに。

 そして


「昔話に長々つき合わせて、すまないね。これから、背景に手を入れるから、あんたらはゆっくりしてなさい」


 そういうと、サッサとキャンバスの前に戻って二人に背中を向けた。




 画伯の昔話を聞き終わった二人のほうは、しばらく言葉はなかった。

 草壁は一口だけ残っていたマドレーヌを画伯の真似、というつもりか知らないが、コーヒーに軽く浸したあと、口に放り込んだ。


 それから、目の前に置いてある、画伯の妻の写真が一杯につまってクッキー缶に手を伸ばすと、なんというつもりもなく、ガサゴソと写真を漁りだした。

 が、どれもこれも、みんな同じような写真ばかりである。

 被写体も同じなら、ロケーションもごく限られた場所で撮られたものばかりなのだから。

 そんな中で、缶の一番底に一枚の写真があるのを見つけた。

 ほとんどが、小さな手帳ぐらいの大きさの写真に混じって、一回り大きな大きなソレ。


 写真の束の中から引っ張り出してみると、教科書大ぐらいの大きさである。

 色あせたカラー写真の中に混じって、セピア色した白黒写真だった。

 被写体は、一組のカップル。


 いずれも20代と思しき男女。女性のほうは、背もたれのある椅子に浅く、背筋をしゃんとのばして座っているそのとなりで、男性は直立のまま寄り添うように立って、カメラのレンズを二人そろって覗いていた。



 白黒写真のせいで、服の色をはっきりと確認することはできないのだが、男の衣装というのが黒、かあるいは濃紺のスーツに、グレーっぽい色のベストをその下に着込んでいた。

 首元からさがるネクタイの柄も、そしてスーツの胸ポケットからちょっと頭を出しているハンカチの柄もまるで、それはそのときの草壁の服装にそっくりである。


 その男の隣で浅く椅子にかけてこちらを見つめる女性の衣装も、ほとんど今のゆかりの衣装そっくりである。もちろんその写真の彼女の頭上には幅の広いハットが、やや斜になって頭の上に乗っかっていた。



 ゆかりと草壁は、しばらくその写真を目を丸くみながらじっと見入っていた。

 やがて、二人がお互いの姿を確認する。やはり目の前に見える、お互いの姿はまるっきりこの写真の二人と同じ装いであった。


 

 何気なく、その古い写真の裏を見てみると、




 「昭和十九年四月十五日

     とこしなえに」




 万年筆とおぼしき筆跡でそういう書き入れがしてあった。




 机の上に置いたその写真をじっと見つめる二人。言葉はしばらくなかった。

 やがて、ゆかりがポツリと小さく呟いた。


「この衣装も帽子も先生がご用意されたものなの」


 目の前では、画伯がキャンバスに一人向かいながら、忙しげに絵の具を画布の上に置いていた。二人はその背中に声が届かないようにして、小さな声で囁きあった。


「奥さんのイメージを重ねようとしてたんですね、きっと」

「草壁さんを引き止めたのも、ひょっとしたら、この写真のことが頭の中にあったからかもしれませんね」

「そうかもしれませんね」


 黙り込むと離れたところで黙々と作業をする、画伯の筆の音さえもがここまで響いてきそうなぐらいだ。

 チクタクという時計の針音がやたら大きく聞こえた。

 そんな中、草壁がポツリと独り言のように


「センセイたちは、あきらめなかったんですね……3年間も……」


 隣のゆかりにはその言葉は聞こえていたはずなのに、彼女はその言葉を耳にしても、固く口を結んでしばらくまるでその言葉を無視するように、じっとしていた。

 やがて、彼女は草壁の言葉とは無関係に、こう言った。


「奥さん、早くに亡くなったけど、きっと幸せだったと思います」

「ぼくもそう思います」

「ちょっと、うらやましい……」


 互いに小さな声で囁くように会話を続けた。

 そして、ゆかりがポソッと口にしたそんな一言を聞いた草壁がちょっと笑った。


「でも、ゆかりさんは、貧乏なんて似あわないですよ」


 草壁の言葉を聞いたゆかりが、急に彼のほうに首をめぐらすと、小さく声を張った。


「じゃあ、草壁さんちって……」

 と、そこまで口にしたあと、言葉を詰まらせると、ハッとなりながら口を押さえて

「――い、いえなんでもありません」

 少し頬を染めながら、再び視線を画伯の背中へと戻した。

 草壁はずっと画伯の筆が走っている画布の肖像画をじっと見つめたまま、動かなかった。




「ん?さっきからなにをコソコソやってるんだ?二人とも……なんの写真を見ているんだ?」

 後ろの二人の囁き声が耳に入った大田画伯が振り返った。


「あ、あの、先生と奥さんのお写真を拝見させてもらってて、たまたま私達と同じ格好をしたのを発見してびっくりしたんです」


「何?同じ格好?なんだ、それ?」

「今のこの私達の服装と同じ……」

「そんな写真あったか?覚えないぞ」

「えっ!」


 やがて、杖をつきながらテーブルに戻ってきた画伯が、二人の目の前に置いてあった写真を手に取ると、怪訝そうに眉をひそめた。


「誰だ?この二人は?」

「ええっー!!」

 なんと画伯夫妻ではないらしいのである。しかも、画伯にもこれがどこの誰かさっぱり分からないらしい。

 確かに良く見ると、このセピア写真の二人の顔は、画伯たちの若い頃とはちょっと面立ちが違うようでもある。が、よく知らないひとの数十年も前の面影なんて、どんなものかはよくわからないので、草壁もゆかりも当初、すっかり画伯夫妻の写真だとばかり思っていた。

 

「どこにあったんだ、この写真」

 などと逆に老人に聞かれる始末である。

 そもそもこの写真の存在自体、画伯には心当たりがないらしい。こんなものがなんでこのカンカンに入ってたんだ?としきりに一人で首をひねりだした。


「じゃあ、これ先生ご夫妻の写真じゃないんですか?」


「昭和十九年にこれぐらいなら、今生きてたら90超えてるだろう?言っとくが、私はまだ70代だよ!」



 その後、喫茶店に帰った草壁は長すぎる出前の小言をさんざんマスターに食らったのだった。




第25話 おわり




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ