ユイ③
ユイ視点、最終話です。
Vチューバー活動を始めてから5年……私たちの配信は想像していたよりも、ずっと遠くまで届くようになっていた。
登録者数は50万人を超え、企業とのコラボレーション企画も定期的に舞い込むようになった。
AI音声を使ったVチューバーという前例のない活動は多くの人に受け入れられ、講演やインタビュー等……活動内容の幅も少しずつ広くなっていった。
---------------
2人で5周年を迎えたことを祝い、その帰りにあの崖のある海岸に足を運んだ。
そこは人生に絶望して死のうとした私と健介さんが初めて出会った場所だ。
「懐かしいな……なんて、自殺スポットで言うセリフでもないか」
『そうかもしれません。 でも、私も懐かしく感じます』
5年前とほとんど変わらない景色が、そこには広がっていた。
波の音、潮の匂い、月明かりに照らされた水面……あの夜と何もかもが同じだ。
でも、ここに立つ私達はあの頃とは全く違う。
「ここは、俺たちが人生を終わらせようとした場所だった。
でも同時に、俺たちがもう1度生きると決めた場所でもあるんだ。
俺はもう2度と死のうなんて思わない。 これからもずっと、結衣と一緒に頑張っていく」
『私もです。 もう自殺しようなんて考えません。 健介さんといつまでも楽しくVチューバー活動していきたいです』
「結衣……」
『なんですか?』
健介さんはポケットから小さな箱を取り出した。
月明かりの下で開かれた箱の中には、小さなダイヤモンドの指輪が光っていた。
「俺と……結婚してくれないか? この5年間、動画編集者として隣にいた。
これからは1人の男として、お前の人生を支えたいんだ!」
私は一瞬、息が止まった。
そしてプロポーズされたと脳が理解した瞬間、涙が止まらなくなった。
波の音が声の出ない私の代わりに嬉しさを奏でてくれる。
私は震える手でスマートフォンを取り出し、文字を打ち込んだ。
『はい……よろしくお願いします』
機械的な合成音声が静かな海岸に響いた。
健介さんは私の手を取り、そっと指輪をはめてくれた。
冷たい金属の感触が、指先からじんわりと温かさに変わっていく気がした。
そして私の目は自然と左手に持っていたスマホに移る。
この中には、私と健介さんの活動を支えてくれたもう1人の仲間……生成AIツールがいる。
AIがいてくれたから、私はもう一度"声"で誰かと繋がることができた。
こうしてもう1度、生きて夢を見続けることができたんだ。
私と健介さんとAI……どれか1つでも欠けていたらきっと、今の幸せを掴むことができなかった。
『私たちを支えてくれてありがとう。 これからもよろしくね』
私は動画編集用のAIツールのテキスト入力欄に、感謝の言葉を打ち込んだ。
『指示内容を修正してください』
私の感謝を指示を誤認したAIが返してきた文字がスマホの画面に浮かぶ。
対話型じゃないAIツールだから、これは当然の反応だ。
「そりゃそうだろう」
画面をのぞき込んだ健介さんが呆れた顔をするも、急に声を上げて笑い出した。
何がおかしいのかよくわからないけど、不思議と私もつられて笑顔になっていた。
そして私はそっと胸にスマホを寄せ、この中にいる私の分身……「ユイ」に心の声でこう伝えた。
(ありがとう、ユイ……もう1人の私)
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!




