少しだけ我儘なのだ
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わたくしの体感時間では実際に訪問していた日数の倍以上は感じたように思う。
それ程までに四ノ宮家、特に旦那さまである総一郎様と離れるだけでわたくしが思っている以上に心細く感じてしまうというのに気づかされた。
一秒でも早く帰りたい、 そして一秒でも逢いたいと思うのと同時に、お茶会でしっかりと爪痕を残して、総一郎さんの妻として恥ずかしくない立ち振る舞いをしなければという責任感からくるプレッシャーなども感じていたのだが、それらが解放された今のわたくしの脳内は既に旦那様に逢いたいという事だけで一杯である。
それと同時に旦那様である総一郎様に、褒めてもらいたい、そしていつものように頭を、その大きな手で撫でて貰いたい、そういう感情が内側から止めどなく溢れてきて自分では制御できそうにない程である。
そしてその感情は四宮家に近づけば近づく程大きくなっていく。
「やっと着きましたねー。 なんだかんだで今回はどうなるかと思ったけどシャーリーさんは思ってた以上に良く立ち回れていたので初めの不安なんかどこかへ飛んでいき、終わってみれば痛快そのものだったよね」
「あんたは本当に調子がいいんだから。 まだまだ貴族社会に足を一歩踏み入れただけでこれから今日以上に手強いマダム達相手にしていかないといけない事を忘れたのかな?」
「まぁまぁ、とりあえずは今回に限り大成功だったので良しとしましょう」
私達の乗っている馬車が四ノ宮家の門を潜って安心したのか、側仕えとしてやってきた三人、ミヤコ、杏奈、しおりんが姦しくも喋る中、私は緊張と興奮で一言も喋る事ができずにいた。
そして、馬車は玄関の前で止まり、扉を使用人が開けた瞬間わたくしははしたなくも前のめりで飛び出すように馬車から降りるとわたくしの旦那様である総一郎様を探し始める。
「おかえり。 大丈夫だっったか?」
そしてその総一郎様はわたくしの帰りを出迎えてくれていたらしく、探す手間が省けたのと同時に総一郎様から心配そうに声をかけてきてくれるではないか。
わたくしの旦那様である総一郎様がわたくしの事を思って声をかけてくれる、ただそれだけの事でわたくしは、これほどのご褒美があるのならばお茶会に参加して良かったと心から思う。
しかしながら以前のわたくしならばいざ知らず、今のわたくしは少しだけ我儘なのだ。
「っうおっと……」
以前のわたくしであればこれだけで満足していたのだが、今のわたくしにはまだこれだけでは足りない。 旦那様の温もりを感じたいと思ってしまい、その感情そのままに、わたくしは旦那様に飛ぶように近づいて抱きつく。




