プロローグ
どんよりとした雲が空にかかっている。雲と同じような灰がかった色の車が並んで、排気ガスが、マフラーから吐き出される。
階段をのぼりながら、いつものように見てきた景色をあとにして、おれはアパートの一室に入った。荷物を置いてすぐに夕食の準備にとりかかった。夕食を食べ終わると、先月拾ってきたばかりの子猫にエサを与え、学校からの帰り道に買ってきた本を読んで、そのあとすぐに寝た。
次の日、朝早くに起きて弁当を作り、電車で学校に向かった。人にもまれながら、到着の駅に着いた。学校についてからは一限から四限まで授業が続き、昼休みをはさんで五限、六限と授業が続いた。おれは、終始、窓ガラスの向こうのだいぶ朽ちてきた、汚れた別棟に目を向けていた。
次の日、休日だったが、雨が降ってきたので漫画や文庫本を読んで過ごした。外を見てみると、いつもは車でおおわれている道路が時間帯のせいか、すいていて黒いコンクリートが露わになっていた。雨の音がやけに大きかった。
ある日。ある夜、それは来た。
いつも通り早起きして弁当を作り、学校に向かった。学校では、いつも通りだいぶ汚れた別棟をぼんやりと見ていた。帰宅途中、雨にぬれながら急いで走った。予報では晴れのはずだが。ふっと気になって空を見たが、灰色の雲があるだけだった。家につき夕食を食べ、猫にエサを与えて、本を読んだ。しばらく読み進めて本を置いた。いつも通りに寝た。
夜、誰かに叩かれた気がして目が覚めた。光がまぶしい。明らかに部屋の電気ではない。あまりにまぶしくて目が開けられなかったが、寝起きの頭でボーっとして何も考えられない。少しずつ目が冴えてくると、薄目を開けた。しかし眩しすぎてよく見えない。しばらくして慣れてきたから、少しずつ目を開けた。そこで、これはまずいかもしれない、と思った。泥棒が入ってきたんだと思ったのだ。起き上がろうとしていたが、このまま寝たふりをした方が安全だと考えて、目を閉じた。
そこで、ようやく頭がしっかりしてきたのか、人の気配がないことに気が付いた。もう一度少しずつ目を開いていくと、目の前に、光源と思われる水晶のような丸い透明の球体が宙に浮いていた。
「やあ、おきた?」
「うわっ」
驚いて、目の前の球体を突き飛ばした。
周りを見渡しても人や動物はいない。今の声は、この球体がだしたのだろうか。まさか。そんなことがあってたまるか。
「いるのはわかってるんだぞ。出てこい」
どこかに隠れているであろう泥棒に格下に思われないように、威厳を込めて言ったが、やはり出てこない。警察を呼ぶべきか考えていると
「でりゃー」
という声が聞こえるが早いか、腹に強い衝撃が走った。痛みに耐えかねてしばらく悶絶していると、やはり、どこからともなく声が聞こえた。
「いきなり殴るとはどういう了見か。まったく。君はそもそも礼儀というのがなってないようだね。いいかい、まず、相手に会ったら……」
一瞬、何が起きたのかわからなかったがすぐに理解した。腹を突かれた上に怒られているのだ。その間俺は唖然としていた。べつに腹を突かれたからでも理不尽に怒られたからでもない。しゃべっているのが女性の声で、しかも透明な球体の方からすることに唖然としていたのだ。
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