サイドB第1話『魔窟の洋上楼閣都市』Part53『死闘・その名は〝グラウザー〟』
戦いは収束する――1つのステージへと――
特攻装警グラウザー
第2章エクスプレスサイドB第1話〔魔窟の洋上楼閣都市53]
【死闘・その名は〝グラウザー〟】
スタートです――
それは海際の荒野である。
東京湾中央防波堤埋立地外域市街区――通称『東京アバディーン』
その東南側一帯はまだ未開発のまま放棄されたエリアであり、不完全に可動している倉庫や、小規模な工場区画が散発的に立ち並んでおり、あの混血孤児の集団のハイヘイズの子らが寝起きする廃倉庫もその片隅にあった。
ハイヘイズの子らの〝あばら家〟の前で始まった戦いは拡大の一途をたどり、東京アバディーンの市街域のそばの到るところで繰り広げられていたのである。
ベルトコーネとローラ
ベルトコーネとイスラムの戦士
ベルトコーネとラフマニ
ベルトコーネに決死で再度望んだローラ
そして――
彼女たちを救うため駆けつけた〝グラウザー〟
そこでグラウザーはベルトコーネに確実に一矢報いるために、それまでまだ成功していなかった2次武装装甲『オプショナル・アーマーギア』の装着を試み、これを成功させる。
だがその傍らで彼の兄であるセンチュリーは、ベルトコーネに対して手痛い敗北と大破を喫っしてしまう。
兄に代わりグラウザーはベルトコーネと戦い始めた。全力を持って戦うも、底知れぬ力を秘めたベルトコーネはなおも折れない。
拮抗する力に苦戦するグラウザーたちに加勢をしてきたのは、意外にも電脳犯罪界において『神の雷』と称される男、シェン・レイである。そしてシェン・レイは一度はベルトコーネを無効化することに成功する――
そこに介入する勢力が2つ現れる。
まず一つは、ロシアンマフィアの『ゼムリ・ブラトヤ』
もう一つは、武装警官部隊の異端の存在、情報戦特化小隊、通称『黒い盤古』
この2つが介入した事でさらに事態は混迷を深めた。
ベルトコーネには〝暴走〟が迫っていた。2者はこれに関わろうとしていたのである。
ベルトコーネを破壊し仕留め、暴走を食い止めようとするゼムリ・ブラトヤの精鋭『静かなる男たち』
反対に――
ベルトコーネに致命的な暴走を生じさせ、この洋上のスラム街を灰燼に帰そうとする『黒い盤古』の狂気
相反する勢力は小迫り合いを始める。
そして戦陣にその姿を表したのは黒い盤古の隊員たち。非合法な戦闘力強化目的のサイボーグ手術に手を染めた尖兵。
空中狙撃班2名、地上班6名――彼らは字田顎小隊長の指令に服して、飼いならされた犬が如くに、その意図に盲目的に従っていた。そう、まるで――、目に見えない〝意図〟で縛り付けられるかのように。
騒乱は拡大する。
黒い盤古たちの意図が周囲にさざなみのように広がる。
それを食い止めようとする者、
騒乱の様相を把握し情報を得ようとする者、
騒乱の核心とは別に、積年の怨敵を探そうと躍起になる者、
騒乱の中心にて負傷し身動きの取れなくなったセンチュリーを救い出そうとする者、
いたずらに命を奪い、この期に及んで快楽殺人をやめない者、
それを食い止めようと必死に立ち上がる者、
そして、迫り来る破滅をなんとか回避しようと死力を尽くす者、
数多くの立場の者たちがこの荒野に姿を表し、争い合い、潰し合い、時には和解し、さらには共闘し、
運命のいたずらに翻弄されつつも、一つ、また一つと、戦いに決着を付けて行ったのだ。
ベルトコーネ 対 シェン・レイ
特攻装警フィール+フローラ 対 シルバーフェイスのファイブ
黒い盤古隊員【財津】と【香田】 対 クラウン配下【イプシロン】
死の道化師クラウン 対 ファミリアデラサングレ精鋭部隊【ペラ】
黒い盤古隊員【柳生】 対 特攻装警センチュリー
黒い盤古隊員【権田】 対 ゼムリ・ブラトヤ戦闘部隊【静かなる男たち】+クラウン配下【放浪の騎士タウゼント】
黒い盤古隊員【南城】 対 クラウン配下【イオタ】
黒い盤古隊員【柳生】 対 ステルスヤクザ緋色会配下アンダーグラウンドエージェント【コクラ】
黒い盤古隊員【真白】 対 ファミリアデラサングレ精鋭部隊【ペラ】+特攻装警センチュリー
黒い盤古隊員【蒼紫】 対 プロセスの少女【話し合うトリー】+クラウン配下【シグマ】
そして――
黒い盤古隊員【亀中】 対 プロセスの少女【話し合うトリー】
それらの戦いは全て――ある一つの願いへと結実していた。
――生きたい――
この世の中に自ら死を嗜好する命はない。あればそれは何かが狂っているのだ。
生への様々な思惑としがらみと過去が絡み合い、精密機械のようにこの地で多くの戦いが続いた。
一つ、また一つと決着し、
あるものは双方手痛い痛手を負い、
あるものは完膚なきまでに相手を粉砕し、
あるものは満身創痍ながら悪意に抗い、傷だらけの手を差し伸べ合いながら必死に立ち上がりこれに勝利した。
全てはそう――
――死の運命を拒絶せんがために――
今まさにその多くの戦いは終焉を迎えようとしていた。最後に残った一つの戦いを残して。
かたや、武装警官部隊・盤古、情報戦特化小隊第1小隊隊長【字田顎】
かたや、日本警察・特攻装警、第7号機【グラウザー】2次武装装甲装着形態
そのラストバトルが雌雄を決してそこで初めて、この洋上のスラム街の、さらには東京湾沿岸各地の命運が決まるのだ。
常軌を逸し狂いきった一人の男の怨念が破滅的な死を撒き散らすか?
ただひたすらに力無き小さな者たちの明日を願った一人の戦士の思いが通じるのか?
そして彼らの背後には2つの謎の勢力――
一つは〝プロセス〟
一つは〝黄昏〟
複雑に絡み合った思惑と願望と欲望が、回避不可能なトラップを巡って暗躍しつつあった。
だがそれももうじきに決着する。
すべては――、そう、すべては、一人の男の双肩にかかっているのだ。
男の名は【特攻装警グラウザー】
彼は今〝一人のヒーロー〟として、立ち上がろうとしていたのである。
@ @ @
それは移動するリムジンの中であった。
その中にイブニングドレスと毛皮のコートを纏った女性が二人いた。
一人はゾラ、痩身の美女で氷のように鋭い視線の持ち主の白い素肌のロシア系、
一人はアナ、白い肌と黒い髪の持ち主のメガネ姿のインテリ美女、
二人はリムジンの後部シートで向かい合わせに座りながら互いにそれぞれ思案していた。
その手には小振りなスマートパッドが携えられている。
両者ともソレを眺めながら何やら思案していたのである。
ゾラがアナをじっと眺めている。今、洋上スラムで起きている状況を把握しつつも、彼女の意識は自らのパートナーに向けられていた。彼女は気になっていた。相方であるアナが何を考えているのか? を――
「―――」
気にはなるが、ソレを口にして問うことはなかった。なぜなら彼女が何を考えているかなど、とうに理解している――そう心得ているからだ。
対してアナはじっとスマートパッドの映像を眺めていた。パートナーであるゾラの視線には気づかないかのようだった。
「―――」
こちらも声は発しない。今、展開されつつある洋上スラム・東京アバディーンでの戦乱の決着の行方について熱心に見入っているのだ。
二人とも何も語らなかった。その胸のうちに互いに異なる強い思いを抱きながら。
@ @ @
それを人はピエロともいう、ジェスターともいう、アルルカンと呼ばれることもある。赤い衣、黄色いブーツ、紫の手袋に、金色の角付き帽子、角の数は2つで角の先には柔らかい房状の球体がついていた。襟元には派手なオレンジ色のリボン――、派手な笑い顔の仮面をつけた道化者。人は彼をこう呼ぶ――
「おぉ? やってますねぇ。ほほほ、若獅子が奮い立つ――まさに勇壮そのもの。そうは思いませんか?」
――彼の名は〝クラウン〟――
死の道化師、死を支配する道化師、狂乱を操る者、最強の愉快犯、かれを揶揄する肩書は数多に登る。
そして彼はビル建築物の頂に立つと眼下を見下ろしていた。底に広がる半ば荒野と化した未開発地、その真っ只中で繰り広げられている戦闘行為――それに対してクラウンは視線を投げかけているのだ。
今、クラウンは傍らに立つ者たちへと声をかけた。
「皆の者、ここで待機なさい。此処から先は私一人で参ります」
その声に反応したのは純白の三つ揃えのタキシードスーツを着た白人系の美少女・イオタだ。
「クラウン様……」
その声はか細く、力もない。その理由をクラウンは知っていた。
「イオタ、あなたはここに居なさい。ツヴァイの手当をお忘れなく」
「はい――」
狼型のアニマロイドのシグマは原則としてイオタの管轄下だ。混戦を極めるこの地でイオタはシグマたちと別行動を取った。だがその際の指示の不足からシグマは適切な対応が取れず1体が死亡、1体が片足を失う事態に陥ってしまったのである。だが必要以上にクラウンはイオタを責めなかった。
自分の何がこの様な事態を招いたのか――それに自ら気づく子である子だとはすでに判っていたからである。
そして、もう一人の配下に声を書ける。
「ファイ」
全身にマントの様なローブを纏い、顔には銀色のマスク――素顔と正体をすべて隠している。そこから発せられたのは若い女性の声である。
「はい、クラウン様」
「あなたもここで待機なさい。こちらから合図を送ります。そうしたら私のところへおいでなさい。あなたが最後のメッセージをあの者に伝えるチャンスを作ります。よろしいですね? ではその間、イオタの事を頼みます」
「はい――、心得ました」
そう答えつつ傍らで気落ちしている小柄な少女に目を向ける。その体格の差から言えば姉妹と言うより、母子と言って差し支えないバランスだ。そっと片手を差し伸べればファイの手をイオタはそっと握り返した。今のこの心細さのよすがを求めているのは間違いなかった。
ファイはイオタを引き寄せる。そして母親が子にそうするように自らのまとったローブの中に招き入れたのだ。イオタもファイの懐に身を委ねるとしっかりと抱きついていた。
「では頼みましたよ――」
そう残すとクラウンもまたビルの頂から飛び降りて行った。ビルからビルへ、電柱へ、電線へと、様々な場所を足がかりとして音もなく軽やかに飛び去っていく。その姿はまさにおとぎ話の中の道化師である。
彼の名はクラウン――
人呼んで死の道化師――
そして、道化師として〝風刺〟と〝皮肉〟と〝警告〟を伝える者である。
彼もまた決戦の地へと役目を果たすために足を踏み入れていったのである。
@ @ @
今、3機の大型ヘリが東京湾の洋上の地へと集まろうとしていた。
千葉から、神奈川から、埼玉から――
3つの異なる地域からその濃い灰色の機体は巨大なローターを旋回させていたが、そこからは爆音は轟いてこない。人為的な仕組みにより強制的に音を消す処置がされているためだ。ステルス戦闘を有利に運ぶためには今や必須の機能であったのだ。
そして、そのヘリの側面にはあるシンボルマークが描かれていた。
――それは〝カラス〟だった――
だがただのカラスではない。
足は3本足で羽を広げて顔は頭上を仰いでいる。
――ヤタガラス――
その3本足のカラスは古来より〝国家守護〟の象徴として語り継がれたものであった。
そしてそれこそが、そのヘリの中に待機している者たちの素性を如実に現していた。
【日本警察・武装警官部隊『盤古』】
年々凶悪さを増す犯罪事情に能動的に対処するために組織された警察系特殊部隊組織である。
専用設計の肉体強化用プロテクタースーツを装備し、最新鋭の重火器やハイテク兵器で武装した、犯罪制圧の『盾』となる誇り高き人々だ。
1機ごとに13名、3機分で総勢39名、そのうち戦闘要員は30名となる。残り9名のうち6名はヘリパイロット及びコパイロット、そして、残り3名が――特別な人々であった。
そもそもその部隊は常時編成されているものではない――とある非常事態のときのみにおいて活動することが許された編成部隊なのである。
その3機のヘリ――神奈川の横浜ヘリポートから飛来した機体に乗り込んでいたのは少年犯罪課の課長を務める小野川警視正であった。ショートカットで温和そうな面持ちの若手上司だ。スーツの上にライフジャケットと航空用ヘルメットを装着している。そして警察の専用装備の一つである特殊スマートフォン『Pフォン』を用いて暗号化された秘匿回線通話を行っていた。
「こちら〝カラス東〟目標地点まで指定時間の1分前に到達します! 降下突入も即時OKです」
その音声に続いて声を発したのは千葉の成田空港付属のヘリポートより飛来した機体に搭乗していた人物で、警視庁刑事部捜査1課の課長を務める大石警視正である。整髪剤でキチンと整えられた七三分けと銀縁眼鏡がその堅実な人柄を匂わせていた。彼もまたPフォンで会話している。モードは〝複数同時通話〟で相手は小野川警視正ともう一人の人物だ。
「こちら〝カラス西〟目標地点に指定時間2分前到着可能なので時間調整中です。突入タイミングはカラス北でお願いします」
そして彼らの会話の3番手として割り込んできた者がいる。
機動隊用の出動服に身を包み、ライフジャケットを羽織り、頭部にはヘリ搭乗用のヘルメットを装着している。そして彼もPフォンにて通話に参加している。
警視庁警備部警備1課の課長である近衛警視正――警視庁の実働戦力である機動隊やSATなどを総括する立場にある人物である。
「こちら〝カラス北〟――すでに突入事前準備地点にて待機中だ。いつでも突入を敢行できる。突入時にはヤタガラス指揮官担当者に宣言してもらう」
「カラス西、了解」
「カラス東、了解」
小野川と大石が同意する。そして近衛が告げた。
「よし、それでは今から20秒後に突入プロセスに入る。以後、ヤタガラス指揮官担当に権限を移乗する」
「カラス西、承認」
「カラス東、承認」
これで3者による承認は揃った。このヤタガラスと言う集団を正当な権限を持って動かす準備が揃ったことになるのだ。3人の承認を取りまとめて近衛はもう一人の人物へと告げた。
「檜枝岐大隊長――、警視庁課長級3名による『ヤタガラス活動承認』完了です。以後実効指揮を願います」
「了解、最終確認のため、ルート権限による音声会話封鎖を一時解除します」
近衛の搭乗していたヘリの最前列、パイロットシートの真後ろの席についていたのが武装警官部隊・盤古、埼玉大隊の大隊長・檜枝枝聖人である。すでに盤古の標準タイプの装甲プロテクタースーツを身にまとい、頭部には装甲ヘルメットを装備している。つま先から頭部に至るまで隈なく装備が施されている。
彼らがその手にしているのはM240E6機関銃をカスタマイズし小銃の様に可搬使用に特化させたカスタムモデルだ。銃身をあえて限界まで短縮し、狭い場所での取り回しも考慮している。盤古の標準タイプの装甲プロテクタースーツには筋力補助の動力機構が組み込まれているので、その気になればM240E6を片手で運用することも可能なのだ。
そしてヘリからの地上への展開に対応するために背面には高圧ガス噴射によるジェットパック装備が備えられており、ノーロープ・パラトルーパー行動にも即応可能なようになっている。
そして、ヘリ機内にて待機している実戦要員総計30名は、即時実戦参加可能な状態に仕上がっていた。
今こそ、檜枝岐は音声通話装備により全隊員へと告げた。
「気をつけ!」
一斉に放たれた言葉に全体員が姿勢を正す。狭い機内座席に腰掛けていたが、両足をしっかりとつき背筋に力を込める。専用銃であるM240E6カスタムモデルを斜めに構えると大隊長の言葉の先を待った。
「今より30秒後に作戦領域に到達、警告の後に即時突入する。制圧対象は情報戦特化小隊第1小隊全メンバー、及び、小隊長字田だ。隊員格は投降を認めるが、小隊長字田は緊急避難による処分が許可されている。なお、本作戦は特攻装警の回収を第1義とし、暴走の可能性のあるテロアンドロイド・ベルトコーネから非戦闘住民を保護する事を要諦とする。なお各種違法性犯罪組織の介入が確認されている。適時対応すること!」
「了解!」
檜枝岐の下した指示を即時受領し全員が完全に揃った声で返答した。
これですべての準備は整った。
「ルート権限・音声通話、再封鎖!」
その宣言を境として、全ての音声会話は再度封じられた。
そして、全隊員の装甲ヘルメットの情報システムに非音声シグナルが駆け巡った。
〔 ALL UNIT O.E.S. 〕
O.E.S.はOppression execution startの略称で制圧行動開始を意味する。S.E.S.がStrategy execution startで作戦行動開始を意味し、そこからさらに行動基準のレベルがより実際行動へと近づいたことになるのだ。
そう――、ついに攻撃行動を伴う制圧行動任務が開始されるのだ。そして全隊員から非音声シグナルが返される。
〔 ALL UNIT M.O.A. Over 〕
M.O.A.はManeuvers Overview Acceptanceの略号で行動命令の受諾の確認意思の規定信号だ。それが全隊員分一瞬にして確認される。これですべての準備は完了する。
そう――
――時は来たれり――
日本警察のもう一つの最後の切り札が切られようとしている。
その名は『ヤタガラス』――、警察組織内部に湧いた醜悪なる悪意に対して立ちはだかる冷徹なる正義である。
@ @ @
一人、また一人と〝彼女たち〟は集まってくる。
運命の地へ、
決戦の地へ、
彼女たちは果たすべき役目をこなすためにその地へと集まろうとしていたのだ。
「あ! 来た! トリーよ?」
明るく弾む声を発していたのはフワフワのロングヘアと長い襟巻がトレードマークの〝潤すデュウ〟
「まったく、彼女はいつもながら無軌道すぎる」
苛立ちと憤りを隠さなかったのは、イプシロンに助力した赤い軍装ドレス姿の〝燃やし尽くすタン〟
「で、でも。クラウンさんと和解できたのは大きな収穫です」
どもりながら話しているのはメガネっ子のルックスにその手に分厚い魔導書と魔法の杖を携えた〝組み立てるペデラ〟
「それは言える。相手の真意を見抜くのは彼女の最大の武器だからね」
冷静に言葉を積み上げるのは、ハンチング帽に英国貴族のハンティング風の衣装をした〝解析するダウ〟
「でも、急がないと時間が――」
落ち着いた口調ながら不安を吐露したのは大柄のロングショールとフリル付きヘッドドレスが印象的な〝吹きすさぶグウィント〟
「俺、先に行ってる」
男っぽい口調で言葉と同時に駆け出したのは、サングラスを常用しオールバックヘアのパンツルック少女の〝変転するペンプ〟
「あたいも行く。腕っぷしが強いのが〝アイツ〟を抑えたほうがいい」
そうアドバイスするのは褐色の肌の持ち主で、ハイヘイズの子らを凶弾から守った〝支えるダエア〟
「頼みます。ペンプがベルトコーネの行動をおさえつつ、ダエアは外部の干渉を防いで。タンとデュウとグウィントはそれぞれ異なる方向から目標を包囲して。ダウとペデラはトリーを連れてベルトコーネの解析と〝分解〟の準備を! 私も向かいます」
最後に具体的な指針をしめしたのは、ヘッドドレスブーケとハーフサイズのマントコートを身につけた白い素肌の少女〝支配するウノ〟である。
そしてそこにトリーが合流した。
「行こう! 私達の〝囚われの仲間〟を助けよう!」
トリーの言葉にウノは答えた。
「もちろんよ!」
そして皆が一斉に走りだした。それぞれが持つ力を最大限に活かすために、それぞれの役目を果たすために。
トリーがウノに告げる。
「それと、あのクモ型のボディの持ち主には気をつけて!」
「特化小隊とか言う特殊部隊ね?」
「うん! でもそっちは今、この国の警察の人が戦ってくれてる! グラウザーって人よ。その人を信じて私たちはベルトコーネに専念しよう。〝神の雷〟もそのほうが良いって」
神の雷――シェン・レイの名が出された事で意外性は更に増した。だがそれと同時にトリーが集めてきた情報と、信頼の糸は、彼女たちにとっても有益そのものだったのた。
「ありがとうトリー、これで物事を進めやすくなるわ」
ウノの言葉にトリーがうなずく。そしてウノは皆に告げた。凛とした声で――、運命の到来を宣言するかのように。
「それではこれより、ナンバー・ゼロ〝ディム〟の救出を開始します!」
9つのシルエットは一斉に散った。それが彼女たち【プロセス】がこの地に集った理由なのだから――
@ @ @
2つのシルエットは組み合っていた。
根底から異なる〝理念〟と〝理想〟を抱えるがゆえに。
そして、それはどちらかが倒れることでしか成しえないのだ。
一つは2つのマニピュレーターアームと、6つの脚部ギアを備えた8本腕のクモ型のシルエット、6つの足で大地に根を張り、2つの腕で眼前の存在と組み合っていた。マニピュレーターの先端には4本の金属製の指が備えられて機能拡張端子も備えられている。
そのクモ型のボディの内部に潜り込み、内部メカニズムの一つと化して居る異形の男がいる。
――武装警官部隊・盤古、情報戦特化小隊第1小隊、小隊長『字田顎』――
すべての犯罪を憎みきり、一切の温情をどこかへと捨ててきてしまった狂気の男。
「オ前は邪魔ダ。無意味ナ存在だ! 特攻装警! 税金喰イのデク人形が!」
字田の音声は一切の人間的な音を発することがない。彼の喉はすでに焼き潰されていて本来の声をだすことができない。喉に音声合成装置を埋め込み、それで声帯の機能を代行させているのだ。だがそのいかにも機械然とした不気味な電子音声は、字田の非人間性をより強く感じさせる結果と成っていた。
「おまエに〝アレ〟を停止サセなどシナい! この洋上ノ犯罪者ノ巣窟は焼キ払わレテ然るベキなのダ! 全てノ犯罪の芽ハ刈りツクされルべきナのだ! 奴ラニ命なド必要ない!!」
眼前の敵対者の両腕を掴み抑え込もうとしている。その2本のマニピュレーターが発揮するパワーは大型重機のそれに匹敵するものであり、戦闘力としては十分すぎるものだったのだ。
だが――
「ふっ! ふざけるなぁ!!!」
――それを真っ向から押し返したのは一人の若獅子であり、日本の平和の担い手としてその双肩に〝未来〟を背負う存在であった。
白銀とブルーを基調としたそのシルエットは、時に鋭角的であり、時にスピード感に溢れていた。両肩にそびえる大型のショルダープロテクターアーマーはその威容を持って鉄壁の護りを見るものに感じさせるだろう。そのボディの至る所に、第2科警研が提供しうる最新鋭のハイテクノロジーが組み込まれている。それは両足を大地に突き立ててしっかりと立っていた。両拳に力が込められている。そして光り輝く2つの怒り目は、ベストなコンディションと法を犯し弱者を踏みにじる〝悪〟への清廉な怒りの発露そのものである。
その姿を見る者は彼に『正義』と言う言葉を感じずには居られないだろう。
すなわちそれは――2次武装装甲体『オプショナルアーマーギア』と呼ばれる、特攻装警グラウザーに許された『2次武装装甲』である。
そこには普段の彼らしい人間的な姿はどこにもない。
全身全てを頑強な装甲で覆い鉄壁の防御を身に着けていた。その両腕から繰り出されるのはいかなる悪意をも制圧せしめる、唯一無二なる法の正義の力そのものである。その攻撃的な姿の各部には、ハイテクノロジーで裏打ちされた一撃必滅の重武装が施されている。それを用いて数多の市民の命を脅かす者たちへと鉄槌を下すのだ。
彼の行動の全てはある一つの事実へと繋がれていた。すなわち――
――弱者を守る。法における秩序を取り戻す――
――それこそが警察が存在する『第一義』であると自ら確信していたからだ。
それ故にだ。
字田のその言葉が――
字田のその理念が――
字田のその殺意が――
字田のその醜悪なるボディが――
彼は許せなかったのだ。
「僕は認めない!!! お前のようなやつが警察という組織に居ることを! 戦う力を持っている事を! 僕は絶対に認めない!!」
グラウザーはその頑強な双腕で字田の2本のマニピュレーターアームの先を握り返していた。グラウザーの手首を握って行動を封じようとする字田の動きを見切り、敵の両の手をしっかりと掴むとその動きを牽制する。
そして字田の動きの僅かな隙を狙って、右足を跳ね上げる。そのつま先と下腿部は真下から字田の装甲ボディを蹴り上げたのだ。
――ドオォォン!――
重い衝撃が轟き、残響を響かせながら、字田のクモ型ボディは一瞬跳ね上がる。字田はあっさりとグラウザーとの組み討ちを解除すると与えられた衝撃に抵抗すること無くそのまま後方へと飛び去り距離を離す。その着地する姿は完全に安定しており、8本の手足を持つ蜘蛛と言う生き物の機動力の高さを思い知らされずにはいられないのだ。
「それコソ下らん戯れ言ダ」
その言葉をこぼしながらも字田はなおも攻撃の手を緩めなかった。人間が走るその動きよりもすばやく移動せしめる。
彼らの足元は劣化したアスファルトだ。異物の残骸が並ぶコンクリートだ。その上を右に左にジグザグに飛び跳ねながら動き回っている。いかな異物が散乱していようとも、字田の動きは完璧を喫していた。それは『歩く』と言う物理的動作を無視したかのような悪夢の動きである。
グラウザーはとっさにその腰の裏から大型の拳銃の様な装備をひきだした。
――MFバスター――
デザートイーグルとほぼ同じ大きさの特殊ハンドガンで、砲口内径は3センチ、筐体外形は6センチ。筒状の構造を持った多機能銃である。普段はグリップを折りたたまれて腰の後ろに収納されているが、グリップを展開して使用する。
それを右手で握りしめるととっさに引き金を引く。銃口から放たれたのは火炎弾であり、MFバスターのモードは『超高温ブラスター』
高圧マイクロ波と消耗性ナノマシンを併用することで瞬時に最大温度1500度まで加熱可能なマイクロ波エネルギーを直線放射するものである。
――ブオンッ! ブオンッ! ブオンッ!――
炎の塊を矢継ぎ早に射ち込むが、それは掠りもしなかった。
「は、早い!」
グラウザーが焦りを口にすれば、返されたのは嘲笑だった。
「当然ダ。アンドロイド風情が。クモ型であることの意味をお前如きがわかるはずがないからな!」
今度は字田の反撃である。10m程の間合いを取りつつ、クモ型ボディの右肩の当たりの武装を展開して10ミリ口径の機関小銃を出現させると即座に発射し始めたのだ。グラウザーはそれを回避しなかった。とっさに自らの身体の右側をむけると肩の位置にそびえる大型のショルダープロテクターを字田の方へと向けていた。
――ギッ! ギギギギッン! ギィン!――
弾丸はあっさりと弾かれてしまう。対人殺傷を目的としているが故に敵の装甲を貫通するほどの威力が無いのだ。この程度では牽制にすらならない。
互いが、互いの出方を伺いながらも、攻撃しあぐねている。二人の戦闘は膠着状態へと陥りつつあったのである。
だがそれこそが字田の狙い所だったのだ。
「どウシた? 攻撃はモウおしまイカ? だが俺ハ構わんゾ。このまま傍観していても目的は達せられるからなァ、ククク」
その言葉にグラウザーは思わず歯噛みした。現状では相手のほうが圧倒的に有利だったのだ。だが今はひたすら時間がないのである。ベルトコーネの暴走まであと幾ばくも無いのだ。
焦りは正常な思考を抑制する。迷いを生み、行動を不正確にする。グラウザーも今、混乱しつつあった。
言い換えれば、敵である字田の戦闘セオリーに飲まれつつあったのだ。
「クソっ!」
グラウザーが思わず吐き捨てる。だが予想外のメッセージが届けられた。グラウザーの無線通信回路に巧みに割り込んでくる存在がある。グラウザーはそのメッセージを拒絶することなく素直に受け入れていた。
〔何をしているのです。相手の機動力が自分以上なら、それを足止めすることに神経を集中させなさい〕
回線をひらいて送られてくる声に耳を傾ければ、それはグラウザー自身にとっても初めて聞く声であった。
〔まずはワイヤー系の装備を使って動きと足を封じるのです。さぁ早く!〕
声の主は近くには居ない。だが確実にこの場に訪れている。グラウザーはその者の名を問うた。
〔あなたは?〕
その問いかけに声の主は答えてくれた。
それを人はピエロともいう、ジェスターともいう、アルルカンと呼ばれることもある。赤い衣、黄色いブーツ、紫の手袋に、金色の角付き帽子、角の数は2つで角の先には柔らかい房状の球体がついていた。襟元には派手なオレンジ色のリボン――、派手な笑い顔の仮面をつけた道化者。人は彼をこう呼ぶ――
〔私はクラウン。あなたのお兄さん方とは何度かお会いしております。ですがあなたとはこれが初めてかと。ですが挨拶する時間ありません〕
グラウザーは彼の名を知っていた。特にディアリオから危険人物情報として詳細に聞かされていたからだ。敵である可能性もある。だが協力者である場合もある。適時、その行動と動機を見抜かればならないと――
そしてグラウザーは判断した。妨害ではない、騙しでもない、グラウザー自身が持ち得ていない情報を携えている。ならばこれを受け入れるべきだ。
〔わかりました〕
〔あの機体を制圧するには今のような〝徒手空拳〟に頼った白兵戦闘のみでは不可能です。可能な限りアイツに追いすがれる機動力と、幅広い攻撃レンジをカバーする火器能力を使うべきです。速やかにあなたの生みの親の承諾を得なさい! すべてはそれからです〕
クラウンが下すアドバイスと情報提供はどれひとつとっても的確なものであった。そしてそこには長年の戦闘経験で培われた鋭い判断能力が垣間見えるのだ。
〔了解です!〕
〔それともう一つ――、ベルトコールの暴走は別の者たちのお任せなさい。プロセスと名乗る、我々よりもあの存在について深く知っている9人の少女たちが対策を講じるでしょう。それよりあなたは目の前の憎悪の塊に決着をつけるのです〕
それは驚くべき事実であった。自分たち以外にもまたさらに別な存在が介入している。だがその真偽と確実性を検証する暇はない。そしてグラウザーは聞いていた。このクラウンなる人物が今までにも日本警察に助力と情報提供をしたことがあるという事実を。時間的余裕が全く許されない現在、思案する余裕は全くなかった。クラウザーは即断した。
〔了解。その人たちを信じます〕
〔確かにお伝えしましたよ。私はこの戦いの行き着く先を見守らせて頂きます。それでは――〕
クラウンはグラウザーの即断を了承した。そして速やかに回線を切る。あとに残されたのはグラウザーだけだ。
「大久保さんに繋がないと」
そうつぶやきグラウザーは閉じていた回線を再び開放する。ロシアン・マフィアの静かなる男たちと交渉する必要性から外部からの介入を避けていたのだ。だがそれももう無用だ。
【 緊急通信呼び出し:再接続 】
【 呼び出し先:開発G班研究ルーム 】
それまで音声会話を断っていた大久保たちとの回線を再び開いた。そして第2科警研のラボにて待機しているはずの大久保を呼び出す。
〔大久保さん!〕
グラウザーからの呼びかけに大久保は即座に答えた。
〔グラウザー! お前何やってた!〕
返ってきたのは強い叱責だった。だがそれに弁明する暇もない。グラウザーは大久保にそれまでの行動ログを全て送信しつつこう問いかけた。
〔あとで弁明します。それより大至急、戦闘装備の全面支援をお願いします! 今までの白兵格闘とMFバスターのみでは無理な相手です!〕
大久保はグラウザーから送られた行動ログデータを一瞥して、いままで何があったのか即座に悟ったのだろう。それ以上は何も詰問してこなかった。ただシンプルに問うてくる。
〔相手は?〕
〔武装警官部隊盤古、情報戦特化小隊第1小隊の隊長『字田』です〕
回線の向こうで大久保たちが絶句しているのがわかる。ざわめく声も聞こえてきた。
〔黒い盤古のツギハギ男か!〕
その表現に大久保たち第2科警研の人間たちが、字田という男にどう言う思いを抱いているのか如実に伝わってくる。そして大久保は即座に支援を開始する。
〔グラウザー、字田の状況は?〕
〔クモ型の大型のボディに換装してます〕
それだけで十分だった。
【2次武装装甲体 】
【 『オプショナル・アーマーギア』】
【>内蔵兵装・作動開始プロセススタート 】
【 ≫ショックハレーション 】
【 ≫エレクトロウォール 】
【 ≫右腕パルサーブレード 】
【 ≫右腕マイクロアンカー 】
【 ≫左腕電磁レールボウガン 】
【 ≫エアジェットスタビライザー 】
【 ≫レッグパイラー 】
【 ≫タランチュラⅡ 】
【 ≫プラズマブラスターⅡ 】
【 】
【>作動開始プロセス ―完了― 】
〔これでいい! 一部の兵装を除いて開放した。試験段階の今はこちらの承認が必要だからな。あとは思う存分やれ〕
〔はい!〕
グラウザーから強い声が返る。その強い意志に教え諭すように大久保は、こう続けるのだ。
〔いいかグラウザー、あの字田という男は情報戦特化小隊本来の目的である医療用サイボーグ素材の適用による隊員の現場復帰という目的を逸脱して、医療用を偽装した戦闘用サイボーグ機材を強引に導入した。それのみならず過剰な教育と脅迫で隊員に洗脳まがいの事をしていた事も判っている。アンドロイドやサイボーグの技術者界隈では有名な噂話だ。やつはもう〝人間を辞めている〟だろう〕
その言葉にグラウザーは別段驚かなかった。それまでの言動からまともな物の価値を持ち合わせているとは到底思えないからだ。
〔やはりそうでしたか〕
〔そう言うことだ。グラウザー、あとは結果を出せ。それが皆の期待に答える唯一の方法だ!!〕
〔はい!〕
大久保はグラウザーの返事を耳にすると、そのまま沈黙した。戦況を見守りバックアップをする事に専念したのだ。
封印は解かれた。戦闘準備は完了した。戦いの前提となる情報も十分に得た。あとは挑みかかるのみだ。
かたや字田はグラウザーの挙動に警戒しつつ、慎重に間合いの距離を取りつつあった。圧倒的に有利なのは字田の方だ。彼が望むのは〝狂える拳魔〟ベルトコーネの暴走――ただそれのみだからだ。
だが――
「逃げるなら今のうちだぞ字田!」
――グラウザーは強い意志を秘めながら字田に向けて告げた。
その言葉と同時にグラウザーの内部で秘めたる力が動き初めていた。
【体外気流制御システム 】
【≫エアジェットスタビライザー 】
【 ――起動―― 】
【>出力レベル:―MAXIMUM― 】
【 ≫作動モード:高速移動アシスト 】
【 ――Go―― 】
【 】
【単分子ワイヤー高速生成装置 】
【≫タランチュラⅡ 】
【 ――起動―― 】
【>単分子ワイヤー高速生成スタート 】
【 ≫ワイヤー構築モード:大規模ネット 】
【 ――Go―― 】
【 】
【体内高周波モジュレーター作動 】
【両腕部チャンバー内、電磁衝撃波発信開始 】
【チャンバー高速蓄積スタート 】
【≫ショックハレーション 】
【 ――予備発信開始―― 】
グラウザーは今――
韋駄天のごとく風をまとって駆け抜ける〝速さ〟と、
アトラック=ナチャのごとく全てを絡め取る〝網〟を生み出す力と、
トールのごとく〝雷撃〟を生み出す力をその身の内に顕現させようとしていた。
「お前をなんとしても阻止する。阻止とはすなわち機体の破壊だ!」
その叫びとともにグラウザーは、奇っ怪なる異形の蜘蛛と化した一人の愚かなる男へと鉄槌を下すために駆け出したのである。
それを視界に捉えつつ情報戦特化小隊・小隊長〝字田顎〟は嘲笑の叫びを上げるのだ。
「ヤレるものナラやってミろ! 木偶人形! 俺ヲ捕らえラレるのナらなアァ!!」
鋼鉄の蜘蛛もまた駆け出した。4対の手足を駆使して敵を翻弄するために――
そして二人はまだ、これから起こる事の背後の事など知る由もなかったのである。
@ @ @
クラウンはある〝意図〟を仕掛けようとしていた。ただ単なる親切心だけでグラウザーにメッセージを届けたわけではないのだ。
イオタとファイのもとを離れてとある倉庫ビルの屋上の一角にて佇んでいる。屋上の端にさらにひときわ高く立ち上がった機械室母屋がある。その頂からは眼下の戦場の様子が間近に見れるのだ。クラウンはそこに立ちすくむと、左手を右の肘にかけ、右手の指を自らの頬にそっと添える仕草で、これから見えるであろう光景をつぶさに眺めていたのである。
「さてと――こちらも始めましょうか。シータ!」
彼が声をかければネット回線越しに聞こえてくる声がある。貼りのある成人女性の凛とした知性的な語り口である。
〔はい、クラウン様〕
〔始めますよ。今宵最高の『メインイベント』です! ネット上への中継回線の確保は?〕
〔完了です。いつでも行けます。それとラムダを中継カメラ役で展開済みです〕
〔ご苦労、あなたは中継映像情報の発信サーバー役を頼みますよ。それと配信サイトへと強制誘導するようにウィルスも流しておきなさい。観客は多いほうがいい〕
だが、クラウンの秘書のような役割を果たしているシータはあらゆる面で抜かりがなかった。
〔心得ております、すでに昨日より準備済みです。ウィルスも首都圏都内全域に展開完了です〕
〔ほう? それは重畳――、お見事です。シータ〕
〔お褒め頂き光栄にございます〕
〔では、早速はじめましょう――〕
そう告げると、右の指をパチンと鳴らした。それが全ての合図だった。
〔我々本来の仕事を!〕
今この地で行われていた戦いの全てが白日の下へとさらされようとしていたのである。
〔世界をかき回す――、それが我ら〝プレヤデス・クラスターズ〟の使命なのですから〕
■品川付近・涙路署捜査課――
多くの捜査員たちが今夜の事件への対処のために動き出す中で、署の捜査課に残っていたのは課長の今井と男性捜査員が2名、そして連絡調整役として駆り出された婦警が4名ほどだ。その中で男性捜査員の一人が声を上げた。オフィスのPCでネット上での情報を調べていたのだが、とある映像配信サイトにとんでもないものを見つけたのである。
「こっ、コレは?」
痩せ気味のシルエットの彼が声を上げる、即座に反応したのは今井課長だ。
「何事?」
「今井さん! コレを見てください!」
PCのモニター画像を捜査課室の壁面大型モニターへとつなぐ。そしてそこに映し出された映像に今井も絶句せざるを得なかったのである。
「グラウザー?!」
「これ、まだ未承認の2次武装じゃないですか! 誰がこんな事を!」
まだ外部へと公開が許されないはずのグラウザーのもう一つの姿が白日の下へとさらされてしまったのだ。さらにそれに加えて映るものがあった。待機していたもう一人の捜査員が告げる。
「あれ、黒い盤古じゃないのか?」
「あのバカでかい蜘蛛か?」
「あぁ、以前に公安絡みの極秘資料でちら見したことがある。情報戦特化小隊の秘匿装備らしい」
「なんでそんな物とやりあってるんだ? グラウザーは!」
二人が蒼白の表情でやり取りをする中で、今井は声を上げる。
「落ち着きなさい。まだ最悪の事態に陥ったわけではありません。それよりここから起きる影響の方が重要です。行動中の捜査員からの情報のやり取りを厳重に行いなさい!」
「はい」
「了解です」
二人に続いて補助の婦警たちも同意していた。
その彼らに一つ一つを確かめながらも今井は告げる。
「皆はここで任務の継続を。私は少し席を外します」
「了解です」
そのやり取りの後に今井は別室へと向かう。署長室だ。そこからとある場所へと問い合わせるためである。
誰も居ない廊下で今井はつぶやいた。
「まずは特攻装警の運営委員会に連絡を――、あとは大戸島君ね」
今井もまた彼女にしかできない戦いへと赴いていったのである。
■警視庁公安部公安4課――
公安4課の課長室、そこに大戸島のオフィスがある。
情報端の部署のオフィスにふさわしく、大型のモニターが数機に、メインサーバーとしても運用できそうな大型のPCが設置されていた。そして彼専属の女性秘書官がそのPCを操作してとある映像をチェックしていたのだ。
映し出されていたのは、東京アバディーンの荒れ地で組み合っているグラウザーと字田が操るクモ型外装機ボディの姿だ。それが日本警察の特攻装警と盤古の情報戦特化小隊の物だと気づかれるまで時間の問題であった。
女性秘書官も大戸島も何も語らない。粛々と得られる情報を処理するだけである。
だがその時、大戸島のスマートフォンが鳴った。
【 着信:磯間―― 】
その表示名を目にして大戸島の顔が不快そうに歪んだ。だがすぐに冷静になると速やかに電話に出る。
「はい。大戸島です――」
電話の向こうから男性の野太い声がする。
「――えぇ、こちらでもモニターしています。明らかに意図的な情報漏えいです。何者かが現場にて中継しているのでしょう。は? 中継者の特定ですか?」
電話の向こうの人物が焦っているのがよく分かる。大戸島は思わず吹き出しそうになる。
「それは無理ですよ。磯間さん。ご丁寧に世界的に有名な動画配信サービスをあたりまえに使っている。使用者を特定するのに法的手続きを要求されます。探知は本来は簡単ですが、役所の横車が通る相手じゃない。そもそも日本の企業ではないのでね。こんなの常識でしょう? それに――」
大戸島は口元にニヤリと嫌味な笑みを浮かべながら告げる。
「あの黒いゴキブリ共を放ったのはあなた方でしょう? 小隊長の字田の行動がおかしいと具申していた私の意見を握りつぶしてまで――、あのキ印が何を始めるのか予想できて無かったわけでもないでしょうに」
大戸島がそう皮肉れば電話の向こうで大声でがなりたてている。
「すいませんが情報捜査行動中です。これ以上は迷惑です。それに――」
大戸島はつとに冷静な冷たい口調でこう告げたのだ。
「あんたらの尻拭いをする義務は俺にはない」
そう吐き捨てると一方的に回線を切ったのだ。
そして、女性秘書官にこう指示したのだ。
「情報機動隊全隊員に通達。中央防波堤外側埋立地からの不法配信映像を余すところなく抑えろ。それと東京アバディーンで発生したすべての事例を可能な限り掌握、ただし逮捕案件が出ても即時逮捕はするな。逮捕の可否は私が判断する」
「了解。全隊員に通達します」
女性秘書官がキータイプすれば、情報機動隊の隊員たちの装備に即座にメッセージとして送られるのだ。
機動性と即時性、これが従来の情報犯罪対応セクションには無い、情報機動隊特有のイニシアティブだったのである。
「さて、ここからどう動く?」
大戸島は気づいていた。まだ終わりでは無いと言うことを。
■首都高・湾岸線下り方面――
一台のベンツが走っている。大井南ランプから首都高速に入り湾岸線を横浜へと向かおうとするところだ。
その中後部席に乗り込んでいたのは二人――
一人は緋色会筆頭若頭の天龍の懐刀である氷室、もう一人は彼のもとで辣腕を振るうピアノソリストのコクラだ。
氷室がコクラに語りかけていた。
「ご苦労だったな。これだけの情報を得られれば次への行動の足がかりとできる。しかも鉢合わせたとは言え黒い盤古の猛者を血祭りにあげるとはなかなか見事だ。それでこそ私もお前に磨きをかけた甲斐がある」
「恐れ入ります。ですがまだ接触できなかった勢力もあります」
上司である氷室の褒め言葉に感謝しつつも彼としては不満らしい。だがそれを氷室はやんわりとたしなめた。
「それは気にすることはない」
氷室が横目でコクラを一瞥する。
「お前の成果は〝鬼七〟の連中へと引き継がれた。天竜の兄貴の勅命だ。単独ではなく複数で監視するべきとの判断だ。これ以上はお前には負担となるからな。それより天龍の兄貴が上機嫌だ。お前があの〝黒い盤古〟を仕留めたと聞いてな――、黒い盤古のクズどもには手痛い目に合わされている。恨み骨髄だったんだ」
「知っています。天龍のオヤジの弟分が――」
「言うな。コクラ」
「はっ」
たしなめる声にコクラは頭を下げる。と、その時だった。
「氷室様。モニターを御覧ください」
運転席でハンドルを握っていた巨漢の笹井が声をかけてきた。天井に取り付けられた折りたたみ式のモニターが展開され、そこに意外なものが映し出されたのだ。
「なに?」
驚きの声をあげたのはコクラ。
「ほう? 誰だこんな面白いことをするのは?」
笑いつつ語るのは氷室だ。
「ふん、黒い盤古のツギハギ男と、警視庁のヒーロー様が一騎打ちか。これは面白い見ものだ」
そして笑いながら氷室はこう告げたのだ。
「どうだ? 賭けてみないか? ツギハギ男が逮捕処分となるか、抹殺されるか」
「勝つか、負けるか? ではないのですか?」
コクラがそう問えば氷室はにやりと笑みを浮かべたのだ。
「この状況で正義の味方様に勝てる道理があるか?」
その言葉にコクラも思わず納得する。
「たしかに――、では私は生け捕りの方に」
「ならば私が抹殺だな。お前が勝ったら好きな物をなんでも言え。ただし負けた時は――」
意味ありげな冷たい笑みを氷室は浮かべる。
「無論、承知しております」
その言葉に氷室は満足げである。
そしてその黒いベンツは東京アバディーンの地から去っていったのである。
■首都圏の様々な場所で、海を越えた異国の地で――
その映像はまたたく間に千里をかけた。
様々な地で驚きの声があがる事となる。
今、配信されている映像の中――
グラウザーが駆け出していた。それの真っ向から字田が接近してくる。ジグザグに軌道をとりながらグラウザーを翻弄しようとしている。追うグラウザーに対して字田は絶妙な距離を外さない。そればかりかさらなる手段を講じてきたのだ。
「フッ」
軽くあざ笑うかのようにつぶやきを漏らしつつクモ型機体の胴体下面からゴルフボール大の灰色の球体を数個落とす。
それは跳ね回りながらグラウザーの周囲へと飛んでくる。
「なんだ?」
驚きの声を漏らしつつ視界に捕らえるが、その正体を即座に察知した。
グラウザーは予備起動させたエアジェットスタビライザーを作動させる。両肩や脚部、背面など、全身各部に巧妙に仕組まれたエアジェットグリッドにより、フィールのマグネウィングと同原理で高速のエアジェット流を生み出し高速加速させる。2つの脚による歩行や走行などとは異なる複雑な高速移動をさせる事も可能なのである。
「ボールグレネードか!」
ボールグレネード――球体型の手榴弾、しかも外周部にリニアモーター駆動するホイールが備えられ、ある程度の方向性を持たせる事が可能だ。その球体型の爆発物はグラウザーの存在をシグネチャー認証機能付きの特殊近接信管で察知すると連鎖的に爆発していく。
だがすべての力を開放したグラウザーは、転げてきたその灰色の球体にカスリもせずに瞬時に左右に高速移動してかわしていく。そして、さらには弾丸のように己をはじき出して一気に間合いを詰めたのだ。
今度は逆にグラウザーが攻める番だ。
左手を固く握りしめつつ、その内部の電磁チャンバーに蓄積させた高圧電磁波を拳前面のナックルプレートへと誘導していく。そして、わざと左手のモーションを派手目に印象づけるように拳打の動作へとつなげていく。
「喰らえ!」
右足を踏み出し震脚する。後方へと引いていた左半身ごと敵へと向けて発射するかのように、腰の脇にためて構えていた左の拳を正拳で突き出した。
「馬鹿メ!」
字田から見ればその拳打はあまりにも露骨だった。避けるのは造作も無いだろう。当然のように繰り出された拳を回避しようとする。だが――
――ガッ!――
――何かが字田のクモ型機体の脚部を捕らえていた。後方へと退くことができない。そればかりか強く牽引されて行き字田の体はグラウザーの方へと強く引き寄せられたのである。
「何っ?!」
気づいたがもう遅い。グラウザーの残された右手から放たれていた単分子ワイヤーにより字田のクモ脚の一つが頑強に絡め取られていたのである。そればかりではない、糸は異なる方向から周囲の構造物を経由して放たれており、巧みに字田の体を空間の一点へと捕らえていたのである。
それは無音、そして、単分子ワイヤーをコントロールしているような素振りは一切見えなかった。
それはまさに蜘蛛の巣に囚われた蜘蛛そのもの――
その毒蜘蛛へめがけて、今度こそ、グラウザーは己の拳を解き放ったのだ。
「かかったのは貴様だ!! 字田!」
左半身を飛び出させ、左拳を勢いよく繰り出していく。そしてその拳のナックルプレートが字田の胴体に接触したその瞬間――
――ズドォオオン!――
――まるで稲妻が落ちたかのように凄まじ破裂音が鳴り響いたのである。
【ショックハレーション 】
【 左腕電磁波チャンバー内蓄積電磁波】
【体内回線網:全接続 】
【 ≫ナックルプレート帯電スタート 】
【 ≫打撃接触時:全開放 】
【 】
【攻撃モード名『オメガハンマー』 】
あらかじめ左の電磁波チャンバーに蓄えておいた高圧電磁波を打撃の瞬間に凄まじいエネルギーの塊を、字田のクモ型機体の胴体部の一部へと見事命中させたのである。
本当なら後方へと吹き飛ばされておしまいだろう。だがグラウザーは奸計を案じて見事これを成功させた。その場に固定されてしまえば退くことも去る事もできない道理である。
電磁波と拳打のインパクトが炸裂し、電気溶接のミスファイヤーの様に凄まじい量の電磁波がほとばしる。その結果失われたのは字田のクモ型機体の右腕で、上腕部の中程から吹き飛んだように失われてしまったのである。これもまた見事なまでの駆け引きだった。
その打撃の衝撃は字田の胴体にまで及んでいた。瞬時に横倒しにされてそのまま痺れたのように動かない。そのブザまな姿を晒した字田に対して、警察として最後通牒の言葉を突きつけたのだ。
グラウザーは澱みなく一気に語る。
「日本警察・特攻装警第7号機〝グラウザー〟の名において命じる! 武装警官部隊・盤古、情報戦特化小隊第1小隊小隊長『字田顎』職権濫用、及び、無差別殺人行為の罪により緊急逮捕する! 抵抗すれば容赦しない! おとなしく降伏しろ!」
重装甲を身にまとい、炯々と輝く2つの怒り目は、散々狼藉の限りを尽くした暴徒に対しての激怒の発露であった。そして、グラウザーの両の拳のナックル打撃プレートから電磁火花がほとばしった。
――パリッ!――
青白い紫電がほとばしり、それは十分なまでの威嚇効果を発揮していたのだ。
――正義の拳を炸裂させた勇壮なる聖鎧の戦士と――
――破滅と破壊の時を撒き散らそうと画策する異形のクモ型のモンスター――
その構図はだれが正義で、だれが悪を成そうとしているのか印象づけるには最高のシェチューションだったのである。
だが字田は諦めない。破壊されたボディを残る7つの脚で立て直しつつグラウザーへと向き直ったのだ。
字田は叫んだ。おのれの内に秘めた歪んだ矜持を言葉に変えて。
「ふ、ふざけルナ――、税金喰いのデク人形風情ガ! 人間の模倣ニ過ぎぬ貴様ラガ行使していいモノデはないのだ! 【法】と言うモノハ! 法のもとニ生存を保証されタ正当なる市民の生存ガ守られてこそ! 社会の治安ハ成り立つのダ! こんな不法住民ドモ掃き溜メ! 消え去るべきダ!!」
この期に及んでなおも、字田は己の破壊行為と殺戮行為を正当化しようとしていた。
だがそれを真っ向から聞き入れるグラウザーではない。到底聞き入れられる戯れ言ではない。
「それは違う!」
両足を踏み鳴らしながら字田へと肉薄していく。
「人ははじめから犯罪をなすために生まれてくるわけじゃない! ましてや、生まれた民族や、階級や、職業や、戸籍の有る無しや、帰るべき家庭の有る無しで、犯罪者として運命づけられるわけじゃない! どんな人生を歩いていても、どんな境遇に陥っていても、決して諦めずに前を向いて必死に生きている人は大勢いる! だれだってはじめから息を吸うように犯罪を犯すわけじゃない! 人は〝過ち〟を犯すからこそ犯罪に手を染めるんだ。だがな――」
グラウザーは両の脚でしっかりと大地に立ち、両の拳を固く握りしめながらなおも叫んだ。
「その過ちから〝救い出す〟ために! 僕たち〝警察〟があるんじゃないのか?! その警察が人々を救うという意思から手を離してしまったら誰がこの世界を守るんだ!! 人々を切り捨てて! 街を切り捨てて! その後に何が残る! 瓦礫と化した街に平和な暮らしはやってこないんだよ! なぜそれが解らない! 字田ぁ!!」
グラウザーはまだ幼い。
人間と比べても、同じアンドロイドたちと比べても、まだ2年になるかならないかの人生である。だが、彼は自分が歩んだこれまでの中であまりにも多くのことを学んでいた。そして、自分が何をなすべきかを常に問い続けていた。
その叫びは、コレまでに彼が学んだ事の一つの成果であった。
「黙レ」
字田はうめいた。
「黙るべきは貴様だ」
グラウザーは反論した。
「そうマデ言うノならグラウザーよ」
字田は再び立ち上がった。そして総身で戦闘行動を匂わせながらグラウザーへと距離を近づけていく。彼はなおも告げた。
「お前ノ正義を示してミロ――そして、俺ヲ止めてミロ! 俺は――俺は――」
字田の頭上へと1機のヘリが飛来する。二重反転ローターの武装ヘリ――10人乗りの筐体を持ち、その機外に豊富な武装とオプションマウントラッチを装備している。それが無人のまま字田のもとへと飛来したのだ。そして――
「俺は全力ヲもってお前ノ〝正義〟を否定スル!! 俺ノ持つ全ての力デ!!」
そしてその叫びと同時に、二重反転ローターヘリの機体下面に取り付けられている複数のコンテナが一気に切り離され投下された。そのコンテナは一つ一つは1メートル四方程度のサイズだが、地上へと到達するまでの間に〝変形〟し、いずれもが6脚の足を持つ昆虫的な機能性を持った自立型戦闘ロボットとして機能し始めたのである。
その有脚型戦闘ロボットの総数――10体――
状況を一気に字田の側へと戻すには十分すぎる戦力である。
それはまさにワンマンアーミー、だれもチームメイトの居ない孤独な軍隊――
それがどれほどまでに愚かなのかを指摘できるものは誰もいなかったのである。
否――
一人だけ居る。そう――この男だ。
それを人はピエロともいう、ジェスターともいう、アルルカンと呼ばれることもある。赤い衣、黄色いブーツ、紫の手袋に、金色の角付き帽子、角の数は2つで角の先には柔らかい房状の球体がついていた。襟元には派手なオレンジ色のリボン――、派手な笑い顔の仮面をつけた道化者。
彼は煤けた倉庫ビルの頂きをステージにして軽やかに宣言を始めた。
無論、その姿は、グラウザーと字田を映し世界へと配信していた動画映像へと繋がれていたのである。
クラウンはまさに、世界へと語りかけるかのように言葉を紡ぎ始めた。
「紳士淑女老若男女の皆様方! 今宵これより勇壮なる戦いの一幕を皆様に送らせていただきます!
かたや、日本警察を代表する戦闘部隊の勇! 武装警官部隊・盤古より産み落とされましたイカれる狂気の集団『情報戦特化小隊』のリーダー! 第1小隊隊長【字田顎】!
かたや、日本警察が誇る科学の英知の粋を集めた結晶! 人間正義の執行者! 特攻装警第7号機【グラウザー】!
ただいまこの地にて! 両者は雌雄を決します! どちらの正義が残るのか? どちらの信念が折れるのか? この戦いの行き着く先を皆様にも見守っていただきとうございます! そして私、この戦いの見届け人『クラウン』と申します! さぁ! 至高のエンターテインメントショーの開幕です!」
そしてクラウンは大仰な仕草で上半身を傾け、戦いの始まりを高らかに告げたのである。
戦いの始まりを告げるファンファーレが映像に重ねられて世界中へと送り出されていた。
それを目の当たりにした多くの人々がグラウザーへと声を寄せていたのだ。
【――東京アバディーンの片隅の闇医者の地下診療所――】
そこはあの不運な孤児のカチュアが運び込まれた地下診療施設で、シェンレイの活動拠点の一つだ。
日本国内で有効な医師資格のないシェンレイの医療行為を黙認する代わりに朝研一刑事が彼に同行したのだ。
別室へと姿を消したシェンレイの代わりに、手術オペレーションルームの片隅でカチュアを見守っていた。その時、オペレーションルームの壁際に設置されていたモニターの一つに唐突に世界的な動画配信サービスから流れる映像の一つが映し出されたのだ。
朝はその光景に度肝を抜かれる事になる。
「グラウザー!? 2次武装装甲の装着に成功したのか!」
グラウザーの唯一無二のパートナーである彼は、その光景に複雑な思いを抱かざるを得ない。両の拳をじっと固く握りしめている。本来ならば彼の傍らに居なければならないのだから。
「無事に生き残れよ――」
グラウザーの身を案じるように、そうつぶやくしかなかったのである。
【――品川御殿山のとある一軒家――】
「グラウザー? まさか、グラウザーのお兄ちゃん?」
飛び込んできたネット配信映像に驚きの声を上げたのは、かつてグラウザーに救われた竹原ひろき少年だった。
だが映像に映っているのはあの有明のビルで出会った時の姿とは似ても似つかない姿だった。
その勇壮なる武装のシルエットにひろきはこうつぶやく。
「すげぇ――」
それはまさにヒーローだった。TVモニターの向こうにしか存在しなかったはずの〝正義の味方〟そのままだったのである。
【――品川涙路署庁舎内生活安全係控室――】
涙路署の生活安全係の部署に併設された控室。普段は迷子のあずかりや、個別対応の相談を受けるための場所だった。だが今は捜査課課長の今井眞子の娘であるかなえが母を待つために使われていた。
簡素な折りたたみ椅子と折りたたみ式机があてがわれている。そして暇つぶしとして動画配信サイトを眺めていたのだ。だがそこに例の映像が飛び込んでくる。彼女が聞いたことのあるとある人物の名が流れてきた時、かなえは思わずつぶやいていた。
「グラウザー――って? ママのところの?」
母の口から時折聞かされていた名に驚きつつも言葉を漏らす。
「かっこいい――」
その勇壮なる聖鎧の姿に叶えは思わず目を奪われていた。初めて異性を見初める少女のように――
【――横浜市郊外・オートバイショップ『V4』――】
「哲兄貴! コレ!」
「グラウザー? ってセンチュリーのところの弟じねえか!」
不安げに言葉をかわしていたのは、オーソライズドチューナー有栖川哲也と、店の常連のバイク少年の日知桜ノ丞だ。
PCモニターに割り込むように突如流れてきた映像に驚きの声を上げている。
「何が起きてるんすかね?」
「分からん。ただ、とんでもない事が始まっているらしい」
「そんな――センチュリーの兄貴、大丈夫っすかね?」
「そうだといいが」
彼らもまた事の推移を見守るしかできなかった。ただ仲間であるセンチュリーの安否のことが脳裏をよぎっていたのである。
【――横浜中華街近傍『バイシーズーパレスマンション』――】
横浜港を望む高層マンション、その最上階近くの専用フロア。その広いリビングにて、一人の男が壁一面に据えられた大型モニターに映し出された映像に思案げに言葉を漏らしていた。
「ついに始まりましたね。ウノ――」
流れてきた映像の向こう側の場所に、愛する者の存在を感じてその身を案じるのは新華幇の首魁である伍 志承だ。プロセスの少女たちを支援すると固く心に決めた人物だ。
「この世界と、プロセスの彼女たちの事は任せましたよ。グラウザー――」
ウノたちの命運がグラウザーの双肩にかかっている事を思わずにはいられなかったのである。
【――英国・エヴァーグリーン研究施設――】
「実に歯がゆいものだな自ら関われないということは」
そう漏らすのは英国王立アカデミーの重鎮、チャールズ・ガドニック博士だ。
「全くだ。チャーリー――、この映像の地で、あの狂える拳魔が暴走しかけているというのに」
苛立ちを隠さないのは英国陸軍のSASにも縁の有る学者である、マーク・カレル博士である。
ふたりの他にもアルフレッド・タイムや、トム・リーと言った顔ぶれも並んでいる。
日本から突如として届けられた映像にみな釘付けになっている。そして彼ら共通の思いとしてこうつぶやかずには居られないのだ
「頼むぞ、グラウザー! なんとしても生き残ってくれ!」
それは特攻装警たちの始まりの日々に関わった事の有る彼だからこそ抱かずにはいられない思いだったのである。
【――東京都内・某所路上のワゴン車車内――】
「ちょっとコレ!」
ワゴン車の助手席にてスマートパッドに表示された同時配信映像を、運転席の男性へと示していたのはヴィジュアル・ハンターの面崎椰子香だ。
「こりゃぁ――、アトラスんとこの弟じゃねえか! 場所はどこだ!?」
突然飛び込んだ事件映像に驚きの声を漏らしつつ闇ジャーナリストとしての本能をむき出しにしているのは電脳ジャーナリストの中村尚弘。
「特定できる座標情報はなし、でも映像状況からおそらくは洋上スラムの東京アバディーンよ」
「とんでもねえ大ネタだ! くそっ! こっちの案件がなければ飛んでくってぇのに!」
「まったくだわ。こんなすごいのただで垂れ流すなんて何考えてるのよ!」
ふたりとも口々にスクープ映像に関われていない事を嘆いている。だが中村がこう告げたのだ。
「いや、コレでいいんだ。この映像はきっとすごい巨大なターニングポイントになる! アンドロイドがみずからの頭と心で考えた〝自然発生の生きた正義〟ってやつで人間を守ろうとしている。それを否定して無差別殺戮を口走っているのが人間様をベースとしたサイボーグとなれば、アンドロイドが人間社会の治安に関わろうとする事へ意義についていやでも考えざるを得なくなる。今、俺達は、新たな時代の幕開けを目の当たりにしてるのさ」
「それが彼ってこと?」
「あぁそう言うこった。こうしちゃいられねぇ。例の二人の帰宅を確認したらすぐに飛ぶぞ。この事件の背後調査だ」
「オッケイ、遠距離レンジ用の空撮ドローンを飛ばすわよ」
「あぁ、頼む」
そう告げて中村は再び走り出していた。
彼らもまた一つの仕事を開始したのである。
【――第2科警研屋上ヘリポート――】
そこで頭上の夜空を仰いでいたのは第2科警研の技術総主幹・呉川であった。
彼は憂いていた。彼自身が我が子のように育て上げた存在のことを――
老いた容貌に苦悩の色が深く刻まれていた。
「センチュリー――、お前今、どこに居るんだ」
センチュリーの位置確認信号はロストした。だが、デッド・シグナルは受信されていない。死んだとは確定していないのが唯一の幸いだった。
「信じるしか無いのか――」
そうつぶやいて、呉川はぐっと拳を握りしめていた。
【――東京アバディーン中華系住民街・天満菜館――】
誰も余計な声は上げていなかった。
ざわめきすらも聞こえてこない。
店の片隅の壁掛けテレビのネットアクセス機能を経由した映像には、クラウンがばら撒いた動画配信映像が映し出しされていた。
そこはこの東京アバディーンの街に根を下ろして暮らす者たちの憩いの場であった。
そして誰もが、事の成り行きがどこへとたどり着くのか、不安しか感じられなかった。
「グラウザー――」
誰かがつぶやいた。それを追うようにまた別な誰かがつぶやいた。
「我相信他」
そいの意味は〝私は彼を信じる〟
その言葉を否定する者は誰もいなかった、
皆が『我相信他』の言葉を口にして各々に頷いていたのであった。
グラウザーが戦うその姿に誰もが願わざるを得なかった。
それは新たな守り神の誕生の時を意味していた。
【――東京アバディーン、荒れ地の戦場――】
一人の老ロシア人が二人の側近に抱きかかえられながら立っていた。
そしてその視線の先には、今まさに字田と組みあい、必死に戦うグラウザーの姿があった。
狙撃で重症を負い立つことすらままならないが、それでも彼はグラウザーの戦う姿を見守らずにはいられなかった。
彼の名はウラジスノフ・ポロフスキー――、
グラウザーの姿に、今は亡き息子の面影を見た老軍人だ。
「ミハイル――見えているか?」
そのつぶやきに答えるものは居ない。だがその言葉が届いていると信じて彼は続けた。
「お前の仇を彼がとっているぞ。そうだ、お前が失った未来を彼が拾い集めて守ろうとしているんだ」
ウラジスノフの頬を涙が流れた。
「お前も彼の勝利を願ってくれ。彼の――グラウザーの勝利を!」
彼は軍人だった。マフィアの戦闘指揮官に身をやつしていても魂は国家を守るために忠誠を尽くす軍人であった。
ウラジスノフが右手で敬礼をする。両隣の側近たちもそれに習って敬礼をする。
いつしか、作戦エリアに展開していたロシアン・マフィアの〝静かなる男たち〟はみな敬礼をしていた。
彼らはグラウザーの勝利を信じていたのだ。
【――東京アバディーンのメイントリート、中南米系住人街エリア近傍――】
一台のワゴンが走り出そうとしている。アメリカシボレーのアストロ――ターコイズブルーのボディの中には5人の女性たちと1人の男が乗り込んでいた。
運転席がエルバ、助手席がイザベル、ついでその後ろがプリシラとマリアネラで、最後尾がビアンカ――
ビアンカ最後尾のシートで、横たわる男を膝の上で見守っている。満身創痍のセンチュリーである。
助手席のイザベルがビアンカに問う。
「彼の様子どう?」
ビアンカが答える。
「まだ意識は朦朧としてる。でも呼吸は安定してるわ」
「そう――」
「なによこれ!」
その時、マリアネラが驚きの声を上げた。
「何?」
「コレ見て」
確かめるように問いかけたのはイザベルだったが、マリアネラは手にしていたスマートフォンの動画配信アプリに表示されたライブ映像に驚きの声を上げていたのだ。そこに映されたのはもちろん、グラウザーと字田の熾烈な戦いである。イザベルにそれを渡し、車内で順番に回されていく。イザベルも驚かざるを得なかった。
「コレなに? 蜘蛛みたいなのと、アニメのヒーローみたいなのが――」
ちょうど、そこに聞こえてきたのはクラウンのあの特徴的な語りの演説である。
「クラウン!」
不快げに漏らすイザベルにエルバが告げた。
「どうやらアイツが深く絡んでるみたいね。どこまで善人面してられるのか――」
そんなやり取りをしているときだった。3列目のシートのビアンカが、膝の上にて見守っているセンチュリーに問いかけていた。
「どうしたの?」
半ば無意識なのだろうがセンチュリーは何かをつぶやいていた。そして、耳をそばだてればようやく聞き取れた。
「そう、わかった。大丈夫だよ。だから安心して――」
「どうしたの? ビアンカ?」
イザベルの問いにビアンカは答えた。少し困ったふうに、それでいて願うように。
「彼が言ってる。弟の事を信じてやってくれ――って。戦っているのは彼の弟だって」
その言葉に誰も反論しない。彼女たちが恩義を感じている男の弟ならば、疑うのは明らかに無礼に値することなのだ。
エルバがそっと問いかける。
「その、弟さんの名前は?」
そう問えばセンチュリーの口が動く。それを聞き取ったビアンカが皆に告げる。
「グラウザー――だって」
「そう」
しみじみとして相槌を打つエルバにプリシラがこう答えたのだ。
「大丈夫だよ。彼の弟なんでしょ?」
「そうだね」
「ええ」
信じるしか無かった。この戦いが意味のある日に繋がっていると――
彼女たちとセンチュリーを乗せて、アストロは東京アバディーンから去っていったのである。
【――東京アバディーン、戦場――】
そして、クラウンはあのビルの頂きにて再び語りだした。
仮面は純白、目鼻は青いアーチ、ただ静かに見守るような穏やかな笑みを浮かべている。
「さて! この戦いが何処へとたどり着くのか――、まだ決着は先ですが知りたくはありませんか? 知りたければ見守ることです。信じることです! この再現のない戦いが希望の明日へと繋がっていると!」
だがクラウンは期待を込めて声を上げた。声のキーは高くなり、仮面は紫に目鼻のアーチは赤く輝き始めた。徐々に興奮の度合いを増しているのが見て取れる。
「今まさに運命の時! この街が灰燼に帰すか、ギリギリまで戦い、勝利の時をもぎ取るのか! 何というチャンス! 何という僥倖! これは明日を担う〝正義の味方〟誕生のときなのです」
クラウンは右の人差し指をたてて眼前にてかざすとこう告げたのである。
「そう――、運命の車輪は今まさに轟音をたてて回っているのですよ! キャハハハハハハ!!」
大仰しくクラウンは語り、仮面は赤、目鼻は黄色いアーチであり、口は哄笑を表すかのように大きく開かれていた。
戦いはなおも終わらない。東京アバディーンを覆う夜の帳はいまだ晴れてはいなかったのである。
@ @ @
今、首都圏の全域にグラウザーの姿が映し出されていた。
「なにこれ?」
「テロだって」
「都心の真ん前じゃないか!」
「おいおい――」
街の人々はいたるところで類推を口にする。
「これ、警察同士じゃないか?」
「どっちがどっち?」
「どう見てもこのかっこいいのが警察だよね?」
「じゃ、この蜘蛛みたいなのなに?」
東京アバディーンには多くの人々が関与していた。
「お前の実家、あそこだろ?」
「うん、媽媽がまだ住んでる」
「連れてこよう、何かあってからじゃ遅い――」
ある者はVR環境のネット会議室にて情報を持ち寄り始めていた。情報収集の猛者たちが興奮気味に意見交換をしていた。
「こっちのヒーローみたいの特攻装警だよ!」
「第七号機だ! 確定!」
「でも通常の姿とぜんぜん違うぞ?」
「あれ、リアルタイプのヒューマノイドだろ?」
「多分〝変身用〟のプロテクタースーツだろ!」
「あった! 警察系リーク情報サイトで開発中って出てる!」
「じゃ、こっちのクモ型機体は?」
「まってろ――」
「あった! こっちこっち! 『軍事板』のリーク情報ルームに出てる! あっちでも騒いでる! アメリカ陸軍が極秘開発していたサイボーグ用の装甲スーツだって!」
「よし、ルームリンクを打診しよう! 部屋をつないで一緒に調べるんだ」
とある小さな家庭で若い母子が抱き合っていた。父親はまだ帰宅していないのか二人だけだ。そして2歳になるかどうかの小さな男の子が母親にしがみついている。
「ママ、怖い」
子供は鋭敏だ。降りかかる危険や不安に敏感に反応する。だが母親はその子をなだめるように抱きしめるとこう教え諭したのだ。
「大丈夫だよ。ほら――」
母親が指差す先にはオプショナル・アーマーギアを装着し、戦いに挑んでいる一人のアンドロイド刑事の姿があった。
「すごいよね、本物の正義の味方だよ? カーくん好きでしょ?」
「うん」
「この人がかならず皆を守ってくれるから。ね?」
「うん!」
その時、クラウンがそのアンドロイド刑事の名を紹介していた。それは不安に怯える幼子の耳にもしっかりと届いていたのだ。
「ママ、グラウザーだって」
街が大変なことになっている。多くの人が傷ついている。
だが、それを食い止め立ち上がる人々もいた。
諦めずに立ち上がる人たちがいる。
それがわかっただけでも男の子の顔には笑顔が浮かんでいた。
そして――、その子は〝正義の味方〟の名を声に出して呼んだのだ。
「がんばれ、グラウザー!」
その名はグラウザー――
人の手により生み出された〝正義の味方〟である。
次回――
第2章エクスプレスサイドB第1話〔魔窟の洋上楼閣都市54]
【決戦・1VS10】
公開予定は11月9日金曜日よる九時
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さてさて!!
長らくお付き合い頂きありがとうございます!!(あ、まだ終わりません(´・ω・`)ノ)
今回で魔窟の洋上楼閣都市シリーズの【死闘編】ついに終了です!!
(自分的には、魔窟の洋上楼閣都市27 『死闘・黒い盤古』からが死闘編だと思っています。つまり黒い盤古の連中が登場してきてからですね。その前? 東京アバディーン編ということで)
さてさて、ここで1ヶ月程のお休みをいただきます。
とは言え、まるっきり休んで寝るわけじゃなくて、
以前、Twitterでお約束したレビュー祭りと、秋開催の11枚小説の開催に入るためです
つまり――
(ーー;) < 忙しいまんまっす
マンマ・ミーア!
次回シリーズは『決戦編』となります!
ついに洋上楼閣都市シリーズが収束に向かいます!
どの様な決着となるのか――
乞うご期待!!
励ましのメッセージまってまーーーーーす!!
バンバンバンバン゛ン バンバン
(∩`・ω・)バンバンバンバン
_/_ミつ/ ̄ ̄ ̄/
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ドゴォォォォン!!
; ' ; \,,(' ⌒`;;) !!
,' (;; (´・:;⌒)/
(;(´⌒`,;))
Σ(* ・ω・)((:(;;'

















