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「…相変わらず、窒息しそうな部屋でやってるんだね」

 茶色いシミのついた白い壁を見て、私は苦笑した。

「探したよ。店の場所を変えたなんて、知らなかった」

 そう言うと、部屋の中央に一人で座っていた少年が苦笑した。

「お前も相変わらずだな。…まだ、仕返し屋なんてやってるのか?」

「ええ。消去屋も」

 そう言いながら、ドアの近くにあった大きな箱を漁る。大きなダガーを握ると、それを見た彼は何かを思い出したように微笑んだ。

「なによ?」

「別に。ただ、あんたのところの客になってもおかしくない奴に、この前出会ってさ」

「復讐の方?」

「ああ。自殺した弟の、な」

「ふうん…」

 私はダガーを箱の中に放り投げると、彼の方に近づいた。

「やっぱり、あなたは年を取らないんだね。それに、死なない」

「そう言うお前も、成仏しないな」

「…後悔してる?」

「なにが」


「…悪魔と、契約したこと」


 空気が、凍った。一瞬だけ時が止まった空間は、彼の笑う声で時間を取り戻す。

「お前と一緒だよ、多分」

 彼はそう言うと、癖のある黒髪をかきむしった。

「…どっか連れてってやろうか?今日は結構客が来たから、金ならあるんだ」

 私は首を振る。そして、目を細める。

「相変わらず、1回一万円で殺されてるの?」

「ああ」

「お金もらって、楽しい?」

 そう尋ねると、彼は私の方を見上げた。

「お前こそ、対価は『丸一日遊ぶ』だったっけ?…そんなことして楽しいか」

「ええ」

「虚しくなるだけだろ、そんなことしたって。それはただの思い出になるだけだ。ずっと続くような話じゃない」

 目を伏せたまま、彼が立ち上がる。私はそれを目で追いながら、言う。

「だけど、思い出にはなる。私が忘れない限り、楽しい思い出のままだよ」

彼は目を伏せ、黙ったままだ。だから私は、そのまま話し続ける。

「私は、この世界で生きてた時の思い出がほとんどないの。だからせめて、アリスとしての思い出はいっぱい作りたい」

「あっそ」

 彼はため息をつくと、こちらを見た。

有栖川ありすがわ…下の名前はなんだった?」

「覚えてない。…今はもう、アリスだよ。それでいいの。もう誰も、【私】のことを覚えてないから」

「…あっそ」

 2回目のセリフは、少しだけかすれていた。



「じゃあね、殺され屋さん。気が向いたらまた来るわ」

 私がドアの方へ向かうと、彼が後ろから声をかけてきた。

「これからどうする気だ?」

「んー。とりあえず、復讐しに行ってくる」

「仕事か」

「ううん、ボランティア。…いや違うな、動物園に連れてってもらったから、対価はもらってるし」

 初めて見たゾウのことを思い出して、私は笑った。

「仕事はね、断られたの。だけど私が、復讐したくなっちゃったから。あの人たちに、ちょっとだけ情が移っちゃったのかも」

 それを聞いた彼が、…アクマが、吐き捨てるように言った。


「…復讐をすれば、新たな憎しみが生まれる。復讐が復讐を生むんだ。…分かってんのか」


「もちろん」

 私は彼の方を振り返る。そして笑った。それはまるで、



「だから、仕返し屋はなくならないの。私はずっと、一人ぼっちにはならない」


 

 それはまるで悪魔のような、笑顔で。


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