58.日本の反撃
昭和15年(1940年)9月 東京砲兵工廠
とうとう始まったアメリカとの戦争について、川島から詳しい戦況を聞いていた。
「それで健吾。グアムとフィリピンはどんな様子なんだ?」
「さっきも言ったように、まず台湾とサイパンで、アメリカの攻撃をはねのけた。その際には97艦戦と飛燕が、大活躍したらしいな」
「お~、飛燕か。水冷エンジンの高速戦闘機だよな」
「ああ、そうだ。しかもマーリンエンジン搭載だぞ」
「すげ~」
最初に攻められた台湾とサイパンでは、97艦戦と99式戦闘機”飛燕”が迎え撃った。
飛燕は史実の3式戦闘機を彷彿とさせるもので、以下の性能を備える。
【99式戦闘機 飛燕】
長さ・幅 :8.7×12m
出力 :1500馬力
最大速度 :毎時610km
航続距離 :1100km
武装 :20ミリ機銃×2、12.7ミリ機銃×2
乗員 :1名
これは陸軍が万能戦闘機として開発したもので、速力、上昇力、武装に優れている。
史実でダイムラーの水冷V12気筒だったエンジンは、ロールスロイスのマーリンに変わった。
これは軍部の斡旋で、川崎がロールスロイスとライセンス契約を結んだ結果だ。
俺たちの支援で早くも1500馬力を達成しており、2段2速過給器で高高度性能も高い。
対するアメリカはB17爆撃機を百機も繰り出してきたが、こちらもそれ以上の戦闘機で出迎えた。
もちろん最新型のレーダーと通信機で、状況をコントロールしたのは言うまでもない。
97艦戦だけだと苦しかったが、20ミリ機銃を持つ飛燕が大活躍した。
さすがに無傷とはいかなかったが、大した被害もなく、B17の撃退に成功したという。
「なるほど。大した被害がなくて良かったな」
「ああ、そしてこちらもただちに反撃して、グアムはすでに落ちている。フィリピンはマニラを押さえたものの、敵はバターンに籠った。降伏までは、まだ時間が掛かるだろうな」
「ふうん……グアムの抵抗は、激しかったのか?」
「いや、それほどでもない。飛行場がある分、厄介ではあったが、機動艦隊で露払いしたからな」
グアムにはすでに飛行場が建設されており、数隻の軍艦と大隊規模の兵力が駐留していた。
しかし栗林中将の攻略軍に先立って、海軍の第1機動艦隊がグアムを強襲した。
その戦力は、以下のようなものだ。
【第1機動艦隊】
戦艦:長門、陸奥、土佐、加賀
空母:翔鶴、瑞鶴(航空機 190機)
重巡2隻、軽巡4隻、駆逐艦16隻
空母はエセックス級相当の翔鶴型2隻で、それを守る艦艇群もレーダーを備え、強力な対空能力を有している。
これにサイパンの航空戦力を合わせて強襲した結果、敵基地は早々に無力化された。
そこへ栗林中将率いる攻略軍が上陸し、すでに全島を占領している。
今はマリアナ諸島を要塞化すべく、大急ぎで工事に取り組んでいるそうだ。
一方、フィリピンへも第2機動艦隊が派遣され、主要拠点に攻撃を加えた。
その戦力は以下のものになる。
【第2機動艦隊】
戦艦:金剛、比叡、霧島、榛名
空母:蒼龍、飛龍、鳳翔(航空機 181機)
重巡2隻、軽巡4隻、駆逐艦16隻
こちらはヨークタウン級に相当する蒼龍型2隻に鳳翔を加え、爆撃機多めで編成された。
これで主要拠点を潰したところへ、宮崎中将率いるフィリピン攻略軍が上陸、制圧を進めている。
しかし米軍はやはりバターン半島にこもったので、時間は掛かりそうな状況だ。
ちなみにこれら以外の主力艦として、大和と武蔵がすでに竣工し、慣熟訓練に取り組んでいる。
空母も翔鶴型の仙鶴、天鶴が訓練中であり、龍鶴、鳳鶴も年内に就役予定だ。
さらに他の翔鶴型空母と商船改造の小型空母も建造中であり、まさに世界最強の空母艦隊となるであろう。
「そうか。とりあえずは、計画どおりっちゅうことやな?」
「ああ、大きなトラブルは発生してないから、このままマリアナ諸島の要塞化と、日本海、東シナ海、南シナ海の内海化を進めることになるだろう」
「ほいでマリアナ諸島近海で、アメリカ艦隊を待ち受けるっちゅうわけや」
「ああ、そうだ。なんとしてでも、引きずり出してやる」
そう言って川島は、獰猛に笑ってみせる。
その戦略は昭和になってからずっと検討してきた案であり、海軍首脳とも十分に話し合ってきた。
史実の日本海軍が大きく誤った点として、国力に見合わない攻勢を続けた事と、海上輸送路を軽視した事がある。
アメリカ国民の戦意をくじくという点では、無意味どころか逆効果だった真珠湾奇襲に始まり、珊瑚海海戦、ミッドウェー海戦、ソロモン海戦、南太平洋海戦など、日本海軍はとにかく攻勢を続け、戦力を消耗していった。
しかしこれは明らかに、日本の国力を超える愚行だ。
ガダルカナルへの侵攻などは最たるもので、地獄のニューギニア戦線にも引きずり込まれてしまう。
こんな作戦を計画した参謀どもは、錯乱していたのではないかと疑うレベルだ。
あんな馬鹿をするぐらいなら、伝統的な漸減邀撃作戦の方が、よほどマシだっただろう。
もちろんしっかりした戦略を策定し、適切な兵力を運用すればの話だが。
それに加えて日本海軍は、後方の海上輸送を軽視しすぎた。
おかげで最初こそ敵失(魚雷の不具合)によって被害は少なかったものの、開戦後3年めから被害が激増する。
開戦時638万トンあった日本の船舶量は、戦争末期にはその23%にまですり減らされていたのだ。
仮に日本が、大規模な護送船団を組むなどしていれば、65%程度には保てたという見積もりがある。
やりようはいくらでもあったはずだ。
しかし艦隊決戦主義にこり固まった日本海軍には、その意志も能力もなかった。
そのためこの世界では昭和に入って早々、海上護衛総隊を設立し、堀提督にその構築・育成を委ねた。
それまでも第1次大戦の戦訓は研究していたが、本格的に護衛戦術の構築に取り組んだのだ。
今はその戦術にのっとり、艦艇をジャンジャン造りはじめているところだ。
実際問題、すでにアメリカ潜水艦によると思われる被害が、南方航路で発生していた。
これを受けて護衛艦艇によるパトロールを実施し、護送船団方式の準備も進めている。
今後は多数の護衛空母や護衛艦を揃えて、米潜水艦に対処していくだろう。
もちろん日本海、東シナ海、南シナ海に通じる海峡に機雷堰を敷設し、輸送海域の内海化も進める。
それらが機能すれば、蘭印やビルマ、清国、正統ロシアから資源や食料が輸入できて、長期戦にも対応できるだろう。
そして太平洋側では偵察と通商破壊に徹し、謀略でアメリカ艦隊を誘い出す。
そのうえで全力をもって叩き潰すのが、当面の方針だった。
「大陸方面はどうなんだ?」
「まだソ連は攻めてきてないが、時間の問題だろう。場合によっては、中華民国も攻めてくるかもしれないな。まあ、あそこは分裂してるし、清国にはアメリカの利権もあるから、アメリカが許さないだろう」
「そういう意味では、清は安泰なのかな?」
「いや、アメリカの利権が集中してるのは南部だからな。北部については、ソ連の侵攻もおおいにあり得るぞ。だから国境線は、しっかりと固めてるとこだ」
この時期、ソ連はまだ中立を保っていた。
しかしスターリンが、このままおとなしくしているとも思えない。
本来はソ連であったはずの極東ロシアを占拠されていることが、どうしても許せないのだから。
一方、正統ロシアに利権を有するアメリカが、侵攻を座視する事はないように思える。
しかし情報部の調査によれば、ソ連とアメリカの上層部に接触が見られるという。
おそらく戦後の切り分けを約束し、ソ連の参戦を促しているのであろう。
それから中華民国は一応、蒋介石がまとめているように見えるが、その内実はバラバラだ。
史実のように各地に軍閥が乱立し、さらに北西部では共産党も勢力を保っている。
しかも最大の支援国であるアメリカは、清国に多大な利権を抱えているため、積極的に攻めるとも思えない。
ただしソ連は共産モンゴルも使って、清の北部に押し寄せる可能性が高い。
そこでまずは満州方面に今村大将ひきいる10個師団が入り、防衛体制を固めているところだ。
そして正統ロシアには本間大将と10個師団が入り、ロシア軍と共に戦う。
もちろん正面に立つのは清と正統ロシアだが、数百万の兵力を持つソ連には、協力して当たらねばならない。
大陸方面でも、戦争という名の爆弾は、着火寸前だった。




