1.銀色の髪をした救世主?
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わたしの目の前で、騎士隊長だった人の頭が飛ぶ。
激しく吹き上がった大量の血が、わたしの顔にかかった。
人間の体って、こんなにも脆いものなのね。って、冷静にそんなこと考えてる場合じゃないわよね。
これって完全に詰んだっていうやつ? 16年と2ヶ月、思えば良いことなんて何一つない人生だったわ。
ホラー映画じゃあるまいし、狼男に食い殺されるなんて……これってなんの冗談なのかしら?
て言うか、騎士隊長さん。カナエ殿の事は、命に代えても守る、なんて言っていたのに。そう宣言した瞬間に殺られるって一体どういうこと?
恐いとか、悲しいとか、可笑しいとか。そういった感情がごっちゃになって、もう分けわかんない。
「ぐへへ、次は嬢ちゃんの番だぜ」
2メートルは有りそうな狼男が、下卑た笑みを浮かべながらそう言ってわたしに迫る。
「人間ってのは、ほんと脆いぜ。女の体はもっと柔らかそうだし、うっかり力入れ過ぎたりしないように気を付けないとな~」
なぶり殺す気満々ってやつね。ずっと痛いのは嫌だし、殺すなら一思いに殺してよ! て言うか、人獣のくせに言葉を喋ることができるのね。ひょっとして命乞いしたら、許してくれたりしないかしら? って、そんなわけないのは分かっているわ。
Dランクだし、大した能力なんて持ってないけど、わたしだって召喚者の端くれ。両手に構えた二刀流の小太刀は伊達じゃないわ。
こんな毛むくじゃら男に犯されて、ゆっくりとなぶり殺されるくらいなら、最後まで抗ってみるの一択しかないっしょ!
足はガクガクだけど、覚悟を決めたわたしは腰を落として小太刀を逆手に構える。
さぁ、どっからでもかかってきなさい! それくらいのことは言ってやりたかったけれど、もう自棄っぱちだったし怖すぎて全く声なんて出せなかった。
『助けてやろうか?』
わたしの頭の中に直接そう声か響く。
この声は、たまに聞こえてくる天使さんの声? いや、違うわね。彼女の声じゃないわ。でも、だとしたら一体誰の声なのかしら? って、そんな事どうでもいいわ! 助けてくれるなら、誰でもいいから助けて欲しい!
『なら、俺にお前の力を貸せ!』
力を貸せですって? 貸すのは別に構わないけど、一体どうすれば良いって言うのよ!
そう思った瞬間、力がどんどん抜けていく。立っていられない程の倦怠感に襲われ、とうとう私は武器を落としその場にへたりこんでしまった。
「ぐへへ、観念したみたいだな」
勝ち誇った様子の狼男は、ゆっくりと私の頭に手を伸ばす。
本当に終わった。せめて抵抗の一つくらいしたかったけど、もう完全に力が抜けてしまって落とした小太刀を拾うことすらできない。
これから、どんな酷い目に遭うの?
間近に迫る最悪の未来に、絶望したその時だった。
バンッ! という物凄い炸裂音と共に、狼男の後ろに停車していた例の物を運んでていた荷馬車が弾け飛ぶ。
驚いた狼男は、振り返るなりその様子を見て固まってしまった。
「だりいな……さっさと終わらすか」
そう言って破壊された馬車の上に立っていたのは、銀髪ショートの男。
ビンチを救ってくれるヒーローの登場? にしては、かなりクールで凶悪さも感じさせる顔つきね。でも、ものすごくお顔のつくり自体は美しいけど。
身長も180センチ以上はありそうで、いけない処が丸出しの全裸だけど、まるで彫像でも見ているみたいな美しさ。
ちゃんと服を着ていたらもっと良かったのに、全裸でも銀色の髪をかきあげる仕草がとても様になっているわ。
なんて事をボーッと考えてたら、いつの間にか凶悪なお顔の救世主は何やら呪文のようなものを唱えはじめた。
~ヤーグノギーズ セディロイ メイオコッキス ソボールホウ ニュサヌダイ ニュアーウ~
~漆黒の闇よりいでし地獄の業火よ、我に仇なす者を滅ぼせ~
「破滅の黒炎!」
凶悪なお顔の美男子がそう唱えた瞬間、狼男の全身は内側から粉々に砕け散る。同時に飛び散った全てが灰となり、空気中に煙となって消えてしまった。




