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君のカンパニュラ  作者: 9どう?亜依


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46/52

二通


 朝八時二十八分。

 港北の湿った風が廊下を抜けて、総務の夜間ポストの鍵が乾いた音を立てた。

 蓋を上げると、白い封筒が二通、きれいに並んでいる。


 どちらも件名は同じ——


> 優先確認対象(案)

提示系記録(Bellflower_∞)の検証運用移行について


 片方は角がわずかに丸い。

 もう一方は、紙の端が少し毛羽立っていて、封のところにホッチキスが斜めに二本入っている。


 私は習いどおりに受領印を押す前に、中身を確認した。

 丸い角のほうは、A4三部。余白が広く、本文は“整っている”。

 回覧印影がすべて同じ濃さでくっきりしている。——写し?


 斜めホッチキスのほうは、A4三部にレシート半片と小銭がテープで貼られ、

 「市松 90/10」のプリントが一枚。隅に猫の白い毛が一本、テープの下に混じっている。

 回覧印は黒くて、欠けていた。少し斜め。

 あ、これ……押し直しますか? いや、ダメだ、これはそのままで受ける。教育でそう習った。

 “面倒な証拠は、面倒のまま置く”。


 システム端末を起動し、夜間ポストの照明センサログをひらく。

 二時二十八分、点灯一回。二時三十分、消灯。

 それだけ。差出人の氏名は記載なし。


 私は電話の受話器を取る。

 まずは情報管理室へ。内線を押す指が、ほんの少し汗ばむ。


「総務です。夜間ポストに同件名の草案が二通——どちらが正式ですか?」


 言葉にした瞬間、胸のあたりが軽くなり、逆に指先が冷えた。

 向こうの沈黙が一秒、二秒。

 「……回覧印の欠けているほうを先に受領してください」

 落ち着いた声が返ってくる。

 「市松の添付がある場合、それは検証用の骨です。剥がさないで」


 私は息を吸い直す。

 机の上で、二通の封筒が自然に出会っている。

 白く整った面と、雑音を抱えた骨。

 受領印を——わざと少し斜めに押した。


 記録簿に一行を書く。


> 8:34 受領 二通発見/照明ログ 02:28点灯

回覧印:欠け=先行受領 市松=添付あり(剥がさず)

備考:猫毛一本/レシート半片・小銭テープ


 書き終えて顔を上げると、窓の外で港北の風が一瞬、強く鳴った。

 紙がめくれかけて、また戻る。

 ——“普通”の朝の事務作業。

 でも、たぶん今日は、それが骨になる。



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