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レジデント・サーガ   作者: サンダル先生
24/24

24 コベンジャーズ


 研修医を始めて1か月も過ぎると、検査も1人でできるようになっていく。何せ、検査だけなので。


「そこ~~~で!」

ブウン、と腕を一回転。

「はいてえええええ!」


患者のくわえた紙パイプから、大きい箱の中へ送気される肺活量。

「まだまだまだ!まだまだまだあああっしゃあ!」

「ぶへっ!はあはあ」


若い男性患者はすべてを出し切った。


「ありがとうございます。あとはやっときます」

ユウキは、この一か月でようやく堂々と大声を出せるようになった。なにせ、大学先が実習したところと違って不安が一杯だった。仲間とはまだツーカーではないが、なんとなく日常の過ごし方がつかめてきた。ただ不安なのは、あのオーベンと自分のプライベートだ。プライベートは確保するつもりだ。だって、ようやく・・・


近くのトレッドミルも今日は症例が少なく、暇のようだ。間宮は立ったまま、本を読んでいる。


「ふう終わった。マミーは?」

「終わったよー」

「俺の新しいオーベン。どう思う?新しいというか、本来その人なんだけど」

「うーん」


間宮は本を机に置き、こっちを向いた。

「あたしのオーベンじゃ、勉強にならないし。むしろ厳しい先生の方がうらやましい」

「若いころの苦労は、そうだよなあ」

「厳しい先生のことほど、よく覚えてるっていうしね」

「誰が言ってたそれ?」

「ううん。あたしの持論」

「だって、つらいことや厳しかったことのほうが、覚えてない?」わずかに微笑んでいる。

「いや、そうだけど・・・覚えるってそれ、意味が・・」

「そうよね?あはは!」


広い部屋に、彼女の声が反響した。わりと、彼女は物怖じしなかった。

「あーあれ。傑作だったねー」

「あれ?」

「ほら、あれ。ワープロをタタン、杉山先生が」

「グオッ!これか?」

「あっはは!そう!」


彼女の笑顔は、一瞬美しかった。1秒だけだが、グッチのそれを超えた。


「じゃ、これは・・・」


ユウキは、トレッドミルの心電図モニターのゆれを見ていた。電極はそこらにぶらさがっており、揺れによって波形が出ていた。


「床を・・・」

タタン、タタンとこれまたよく響く床だった。

「タタン、タタン・・・」


足を床に蹴るごとに、その波形が上に飛び出す。

「タタタ・・・PSVTか、これ!いやafか」

「やるね!すごい!」

「こういう患者が来たら!」

「指導医を呼ぶ!」

「それか!」


バーン、とドアが開く。苦情か。


「キャーツ!手伝って!」グッチがパニクっている。

「どした?」ユウキは足を止めた。


「尿検査に回されて、顕微鏡見てるんだけどわかんなくって。何か本、持ってなかった?」

「ああ、俺の持ってっていいよ。カンファレンスルームの」

「ちょっと!ちょっと!」白衣を引っ張られる。

「なんだ!わかるだろ行けば!」

「いいからいいから!」


無理やり、カンファレンスルームへ引っ張られた。

間宮が見届ける中、ドアはまたパタン、と閉まり・・・


冷めたような表情で、彼女はまた本を開いた。


「頼むから、離せ!」いや、それも悪くはないのだが・・・

「早く早く!」


階段をドンドン上がり、カンファレンスルームへ。

中にはだれもおらず、本棚をあちこち探す。


「尿沈渣ハンドブック・・・置いといてよかった。もっとも、持っては帰らんけどね」

「サンクス!」彼女はパシッと受け取った。しかし、また引っ張ってきた。

「なんだよ!やめろ!」

「来る来る!けれけれこよ!」

「文語かよ!」


尿検査室、だったか。狭い部屋の中、それこそ尿の匂い。紙コップが山ほど置いてある。薄い黄色、濃い黄色。ガラスドアの向こうに20ほどの紙コップが待機。にゅっと、向こうから手が現れて・・また1例追加。


「グッチは、これを1人で?」

「やってやって。あんたのとこ、暇そうだったし。それに2人でイチャイチャしてるし」

「定性検査だけじゃ、だめか?」

「顕微鏡も見て!」

「いや、俺が定性検査して、そっちが顕微鏡見ろよ!」

「あっそ。じゃあ」


グッチはそこにある10円玉ほどの丸い容器を指さした。これも10個はある。

「便潜血、お願いしまーす」

「これも、あんのかよ・・・」


彼らは、忙しいほど若さが出る。それだけに、終わらない仕事も終えてしまう強さを持つ。

ピピピ・・と、それでもポケベルらは彼らを探す。内線をかける。


「はいユウキ!」

『小川。助教授の外来だ。新入院を病棟へ頼む』

「はい」

『高熱だ。不明熱。循環器外来でフォローしてた人だ。今すぐ来いガチャ』

「もしも・・はい!すまんが、行く!」


「あと5例見てから行って!」グッチは顕微鏡を見つつ所見記入。長い髪は、どう見ても邪魔だ。

「はいはい、わーったよ!」


野中は、心臓超音波のほうに回されていた。

ウイーンと出てくる長い用紙を、スナップきかせビリッとカットする。


横で、松田が超音波。マイペースでゆったり。1人あたり30分はかける。それだけに、前後の処置などの要領が全体時間を左右する。

「さ、こちらで着替えてください」

患者を誘導。


松田は机に移動し、所見記入。筆記体のような日本語。循環器らしく、決めたものを決めた順番で確実に記入する。「~が考えられる」は自信のなさ。あくまで「~と診断」とするのが好まれる。結局は主治医が判断する。だが、俺のテリトリーは俺だけが真実だ。それが循環器魂。


田宮は気管支鏡。貧血っぽい呼吸器部長が、内視鏡を操作している。これがまた、とんでもなく速い。

シューチュイーン!チュイーン!シュー、は吸引、チュイーンは写真撮影。


田宮は画面を見学。それと、針なし麻酔注射を数本持ってる。部長が手を出すと、渡す。各シリンジは、気管支の分岐分岐へと注がれる。患者の咳反射を封じ、手際よく観察。田宮はモニターも観察。けっこうやることが多い。


「SpO2 95%・・・少し下がりました」

「・・・・・・」呼吸器部長だけではない、呼吸器科はみな寡黙だ。でも、何も考えてないわけではない。常にあらゆる疾患・鑑別を念頭に置いている。それが、目の前の材料で優先順位が変わる。観察と洞察にすべてを集中するのだ。それがここ、呼吸器内科のポリシーだった。なので、「何が一番考えられますか」とファーストに聞くのは下品にあたる。


呼吸器部長は、キュウッキュウッ、と細い針金を手前に引っ張った。針金の先、パカッと開いたその間の数ミリに、組織の一部。


「あります!」田宮は針で突き、下のガーゼに落とした。


「やさしくな」ハタケは冷静だ。

「やってます。つもりです」

「3例目、次の処置してこい」

「はい!」


田宮は、まだいけてた。このころは・・・

彼は吸入麻酔用の器具を握りしめ、前処置に向かった。ハタケは用紙を後ろから。


「検査室へ、これー!」


アベンジャーズは集団で戦うが、こちらのヒーローたちは常に分散型で威力を発揮する。

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