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レジデント・サーガ   作者: サンダル先生
14/24

⑭ 強敵

少なからず、カンペは用意しておくべきだと思うが・・彼女は違った。


「65歳男性主訴は労作時呼吸困難ヒュージョーンズ3度既往歴は小児喘息上気道炎12回に検診で便潜血2回精密検査で大腸ポリープ指摘」


ハタケは圧倒されていた。

「教えてねえ・・お、おれ。こんなに教えてねえ」横の松田が顔を近づけた。

「じーつは教えたよ、ジャン!」

「ジャン、じゃなくてよ・・・」汗が頬をつたう。


「酸素飽和度が安静時96%ですが労作時、6分間歩行で以上のように」

OHPにサッと掲げる。もちろん教授は別の紙で渡す。

「引き続き」

その画面はすぐ消えた。


「あの野郎。速すぎだって・・」ハタケはタオルを投げるか迷う心境だ。

「速すぎてはないよ、ジャン!」松田がしつこい。


ただ、教授や助教授はウンウン、とついていく。


「胸部CTで両下肺優位の線維化、KL-6は検査中本日もこのあとBMLに問い合わせ予定です鑑別はコラーゲン(膠原病)などしかし皮疹も皆無ただし足白癬これはすでに加療中」


小川も、彼女と仲を修復したとはいえ・・・

「おれ、無理やわ・・・」


「ステロイドの内服について検討したいと思います以上です何か質問は!」


し~ん・・・と静まった。


さっきのセクハラ平田が手を挙げる。

「好酸球は?」

「先ほど言いましたように・・では、もう一度データを出します」

「なっ・・」速すぎて見逃したわけだが。

「好酸球は5%と増加認めません。どういう点が気になったのでしょうか?」


個人的にか、何やらきつく当たっているように見えるが・・・


「えっ?いや聞いただけ」

「じゃ、聞こえましたね」

「(一同)おおお~・・・!」


ハタケがあちこち向いておじぎしている。

「(すみません!ちゃんと言うときます、すんません!)」


教授は肺線維症に特に詳しかった。

「そうですなあ。最近やっと分類ができたばっかりでそれもまだ、もめとる。組織診断が必要だねえ」

「ブロンコ(気管支鏡)の方針でいいでしょうか」

「きちんと組織がヒットすれば意味はありますが・・・やりましょうか」

「ありがとうございます!」


何やら充実したような面持ちで、間宮はさきほどの大荷物をグアッ、と持ち上げた。

ハタケは、何やらチョップするようなジェスチャーをしている。


野中は、何か気に入らなさそうな。実は学生の時、テストの順位で<負けた>ことがあり根に持っている噂だ。医学生は特にそうだが・・・順位・合否などをモチベに試験をパスしていく。ガリベン上等な世界。どこまでもどこまでも、知識の海は無限大。いかにわき目も降らず、先頭を守ることができるか・・・。間宮は、そんなマラソンに常に勝ってきた。授業は最前列、誰よりも早く来て授業後は質問しに行く。資料を作り、みんな用と自分用にあらかじめ作っておく(もちろん秘密)。


そんな一番努力してきた自分が、今になって先頭をゆずってたまるものか・・・トップランナーの夢と圧力。彼女は日々、後ろの見えない敵たちと戦ってきた。


部屋が片付けられていく中、さきほど恥をかかされたと思い込んだ田宮がちょっとうつむき加減でいた。

「あのな。マミー。あれはないだろ。指摘するなら、プレゼン前にやっといてくれよ」

「え?あたしは、あなたの症例をすべて理解してたわけじゃないし」

「同じ研修医なんだから」

「主治医は主治医じゃん?自分の症例を知り尽くしておかなきゃ」

「いやその、教えてほしかったんだよ。わかってくれよ」

「学生の時に、きちんと授業出るべきだったよね」

「きつー・・」


ユウキは聞いて愕然としていた。あの眼鏡っ子。最初見たときはおとなしそうな、できれば仲良くなりたかったのに・・・熱中するとこんなかよ。他大学から来たもんで、全然分からなかった。


野中は小声で喋った。

「ユウキくん。マミーは手ごわいぞ」

「だなあ」

「ああやって、人を刺激するんだよ。でも正論だろ。彼女はいつも言ってる。無学は罪、とね」

「あの言い方じゃ、反感買うだろな」

「でも、医者だろ。優秀な医者がワンマンなら、そりゃ最強だろ」

「そうかなあ・・・」


女としてどうなのかな、と言いたかったが、それこそ失礼みたいなのでユウキは口にしなかった。

ふと見ると、田宮は泣きかけの表情で横を向いている。そこには窓ぐらいしかない。見かねた川口が、大丈夫?みたく聞いている。それが余計、あかんのに・・・。


「野中くん。俺がやられそうになったら助けてね」とユウキがつぶやいた。

「とにかく、ああいうタイプとはまともに戦うな。はいはい、って従っとけ。それか」

「・・・・・・・」

「あいつのミスを待て」


野中はそう言い残し、総回診の準備にかかった。


ユウキはやっと我に返った。


「どういう意味?」


間宮は、はあはあと興奮した様子でぎらついていた。まぶしい太陽が射す。しかし、それでも彼女はまともに見るようにしている。目をそらしたら、負け・・・!


私の夏はきっと、来る!

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