⑫ 新入院プレゼン
研修医らは、最前列。さっそく彼らからの発表・・ではない。
「おれです」
酔っ払いの、平田!
「50歳男性、癌性胸膜炎疑い」
レントゲンなどを助手が端っこでセットしている。教授は隅から眼鏡を斜める。
「原発巣は不明。これから精査します」
「んー。この人、わし見たことあるな。咳がしつこくて、呼吸器科へ紹介するようにしたはずだが」
「と、いう話になってたんですが。本人、仕事が忙しくて行かんかったらしいんですね」
助教授が、教授の真横で顔をしかめた。
「いやおいおい。お前患者のせいにしとらんか?それ」
「で、でで、続き。聞いてください。昨日自分、当直だったんですが、そのときいきなり来ましてね」
「呼吸苦か」助教授。
「胸痛です」
「まあ似たもんだろ」研修医らの反応をチラ見る。
「レントゲンが、あちら。CTのほうがいいな。胸水がマッシブ(大量)に」
「マッシブではないですなあ。それほどじゃあ」すると、助教授もすぐ頷く。
「これがおい、マッシブなんておい。ははは」
「いや、やはりマッシブですな」
「ん?あー」
助教授の、ゴマスリぶりが・・
「ここんところ体重も減少して、血液検査でも栄養状態も悪く」
「アルブミンは?」助教授。
「2.1」
「へーっ!」
「印刷関係の仕事らしくて」
「印刷。インクで、中皮腫とかか?」循環器の助教授は軽率に言う。
「君」呼吸器科の教授。
「はい」
「アスベストでしょうが。それは」
「アスベ・・はっはあ!」目を丸く見開いた。
「あれが指摘されてんだろう。印刷扱う仕事、その・・どうですか。間宮くん」
「はい!胆道系の腫瘍です!」
「そうだね。使ってる化学薬品あれなんだったかね」
「はい!有機溶剤です!」
ドン、とユウキが真横で膝を机で打った。
「うってぇ。たたた。俺かと」
平田は続けた。
「頻度的には肺癌、血液系の腫瘍・・」
「女性なら、他には何を?」
「女性・・」
「間宮くん」間宮は、教授のお気に入りだと聞いている。
「はい!乳癌、卵巣癌が確率高いと思われます!」ニンマリ。
「それ。平田くん。研修医のほうが詳しい」
助教授が指差す。
「お前は詳しい、じゃなくて、くやしいだな。わははは」教授が笑わないので、静かに。ひらは悔しそうに、去る。
「循環器だから呼吸器が苦手などと、言い訳に過ぎませんよ!」
教授の一括だった。なんと、間宮は大きく頷いている。
松田が画像セットして壇上へ。
「SLEです。膠原病科からの紹介。肺高血圧。当科で治験薬を使用予定」
「難治性ですなあ」教授が各データに目を通す。
「ガンツカテーテル入れて、モニタリング」
医局長の橋口が画像を覗きながら話す。
「培養は何も出てないんですかな」
「感染症の併発は何も」
しかし、橋口は呼吸器だった。
「いかんいかん。そりゃ、おったまげた!」
「はあ」
「21歳くらいの子がですよ。胸部内科に入院することになって。気管支鏡とかも予定しとるんですな。わし、オーダーあるの見ました」
「よろしくですお願いします」
「いやいや、違うんですよ先生。いま、お願いしますと言われてもですな」
「このあと、相談しようかと思ってて」
「ふつうオーダーは!相談してから出すもんなんですな」
「ま、そうです・・」
「この子はステロイド飲んどるんですわ。コンプロマイズドですわ。菌をすでに持っとる可能性が高い。あのカンファレンスのとき、君それ追求してなかったな。わしはそれ、あかんのちゃうかと思ってた」
教授が制した。
「橋口くん。話が長い」
「あっどうも。なんせ」
「てことは君もカンファレンスにいたんですな?」
「はいもちろん!」
「じゃあ君、そのとき何で指摘しなかったの」
「それで。それはですね。彼の自立心を尊重してですな」
みな、笑い出した。




