ゆうまおかみの流れ旅/神都・バルハレイ国
勇者コンコルドと魔王ディアボロス、そして神様イズモの旅の物語を月1か月2ぐらいでやっていきたいです
「いいか2人とも、特にディア」
バルハレイ国への入国審査の待ち時間に、2人に小声で忠告する。
ちなみにこれから話す内容は割と俺の経験談だ。
「この街の中に入ったら、大人しくしろよ? 旅人とはいえ武器を出したら即座に囲まれて注意されるし、人を刺すなんて以ての他だ……いいな?」
「……分かった」
「分かりました。大人しく、普通の少年を演じますから」
とりあえず問題ないだろう。ディアが魔人(人型の魔の総称)とバレたらちょっとマズい事態になるかもしれないが、流石に俺が説明すれば分かってもらえるだろうし、ディアも自重するだろう。
「コンコルドさんとそのご一行様、入国手続きが終わりましたよー!」
よし、入国だ……
「うわ〜……アルカディアス教の総本山だけあって、凄い綺麗な国ですね……」
「見てコンコルド、大きな鐘……あれが大聖堂?」
「お前ら、はしゃぎすぎだ……」
ほぼ観光目的で来たのだが、流石にはしゃぎすぎだ。
しかし……前に来たときと同じ様に平和な街だったのだが、何か違和感を感じる……前回よりかなり活気付いているのは良い。チラリチラリとこちらを見る視線も問題ない。実際、ディアもイズモも俺もそれなりに目立つだろう。
だがそれらを差し引いても、何か違和感を感じる……
チラチラと俺達を見る視線の中に……敵意の混じった視線を微かに感じた。
視線を感じた方向を向き、気付いているぞと言わんばかりにニヤリと笑った。
「!?」
喫茶店からこちらを見ていた、せいぜい13歳ぐらいの少女が気付かれたと言わんばかりにピクリと反応した。
裾を掴んでいたディアが少女を見ている俺に気付いたらしく、スネを蹴った
「っ〜〜〜!」
伝説の守護騎ベン―Kでも号泣するくらいに痛かった。実際涙が出そうになった程に痛かった。
「あの子……知ってる」
「で、ディア……次からスネはやめてくれ」
心此処に在らずといった様子のディアに届いたかは分からないが、流石にツッコまざるを得なかった。
「へ〜……アルカディアス教にはこのような教義があるのですか……あ、次は神話の本を貸していただけませんか?」
「イズモ殿、若いのに勉強熱心で何よりじゃのう、フォッフォッ」
その頃イズモは、小さな教会で神父に色々な本を借りて読んでいた。
「ところで、イズモ殿……イズモ殿は、剣に興味は有るかね? 実は知り合いの孫に剣技を教えておったのじゃが、かつてお忍びで遊びに来られたとあるお方に叩きのめされてからすっかり興味を無くしてしまってのう……」
「なるほど……ボクでよろしければ、短い間ですけど弟子にしてください」
「フォフォッ……では、夕刻より剣の極意を教えようかのう……それまでは老いぼれをこき使って良いから、存分に学びなさい」
「はい、ありがとうございます!」
「それで、さっきの言葉ってどういうことだ? 知っている、って……」
ディアに引っ張られるがままに喫茶店に入ったのだが……さっきの喫茶店に入った。少女が逃げる隙を与えないと言わんばかりの速攻だった。
実際その作戦は効果抜群だったらしく、ディアの後に背中合わせで座っている少女は後ろからみてかわいそうになるほどに震えていた。
「そのまんま……わたしはあの子を知っている……彼女、覇王龍の末裔。つまり、ガイギンガの親戚」
「…………なるほどな」
個人情報をペラペラと漏らされている彼女の後ろ姿は、見ていてかわいそうになるほどに怒り等で震えていた。
「親戚ってことは、やっぱり……魔人だったりするのか?」
「伝説が正しければ、今となってはほぼ人間。強いて言えば魔力値が普通の人間よりもかなり高いぐらいの違いしかないはず」
「なるほどな……」
とりあえず2人分のケーキとコーヒーを頼んだが、なんだか彼女にも奢ってあげた方が良い気がしてきた。個人情報を漏洩してしまった罪悪感がかなりわいてきている。
「ディア…………後ろに居ることを分かって言ってるんだよな? 少しは自重しろ」
「ちなみに、知っている理由だけど……」
「いい加減にしなさいよ! このアホ魔王!」
ディアの情報漏洩に対して、ついに堪忍袋の緒が切れたのか、少女が小型の銃を構えるて振り返った。
ディアは何も焦ることはなく、振り返りすらせずに、後ろ手でコーヒーをかき混ぜたマドラーを少女の目の前に突きつけた。
「……久し振り、サーシャ・ディアス……いつも通りに教会送りにされたい?」
教会送り……山賊や荷物狙いの魔物、一部の魔人によって殺されかけた勇者ないし冒険者が、通りすがりの旅人や半殺しにした魔物、魔人によって街まで運ばれ、教会などで手当てを受けることの通称……転じて、一部の魔人や冒険者の中では半殺しにすることのスラングになっている……らしい。後者の意味で使った事はないが。
そして、ディアの言葉をそのまま受け取るならば、少し力を入れれば折れるようなマドラーで少女……サーシャ……を教会送りにするつもりらしい。
「…………ふ、ふん! 平和ボケしたと思ったらそうじゃなかったのね……」
「サーシャだっけか? ……まずはそれを隠そうか」
とりあえず場を収めるためにサーシャにお願いしてみた。
「はぁ? なんでアタシがボケ勇者なんかの言うことを」
「……銃を収めて座れ」
二度脅迫してみると、素直に聞いてくれた。
「…………で、何しに来たのよ、魔王と勇者が2人して……」
「……まず、魔界側全体としての敵意がない事の報告、それと……ほんの数人、アルカディアス教に入信したい魔人が」
「トチ狂ってるわね、魔人がアルカディアス教に入信するなんて……いくらなんでもあり得ないわよ」
誰だってそう思うだろう。俺だってガイギンガからの手紙でそいつの事を知ったときにはそう思った。だが、ガイギンガの話を聞く限りではかなり本気のようだ。
「『天使を受け入れ、善人を受け入れ、悪人を受け入れ、魔物を受け入れ、神の下に共に生きよ』じゃよ、サーシャ」
その声で気が付いたが、俺の横……もしくは俺とサーシャの間……から、喫茶店のマスターらしきお爺さんがテーブルにケーキを4個置いていた。
「え……お爺ちゃん!? 教会はどうしたの!?」
「フォフォ、将来有望な若者が来たのでな……邪魔にならんようにちと店に散歩に来てみたのじゃが……」
そう言って、お爺さんはサーシャに耳打ちをした。
「……サーシャ、覇龍銃を気軽に抜いてはならんぞ? あれは魔力を消費するがかなり割に合わない先史の遺産じゃからのう」
「う゛っ……」
サーシャはしまったと言わんばかりの苦い表情をした。
「サーシャ、あまり無茶してはならんぞ? 無茶するのならば、誰かの命を救わなければならない時だけじゃぞ? フォッフォッフォッ……」
それだけ言って、お爺さんは帰って行った。
「……サーシャ、お前の祖父さんすごい聖人だったな」
「……きっと神父だからよ」
神父さんってすごい。改めてそう思った。
お爺さんが引用したあの言葉は、執筆後の今考えてみれば和久名の作品の裏テーマになっている気がします。
イズモの物語は人と悪魔と天使が共存していました。
この物語より5年後の魔界の物語ではモン娘(≒魔人)と人の共生を書いていくつもりですし、この物語自体、ヤンデル魔王とツッコミ勇者の夫婦漫才が初期のメインになっていたような気がします。錯覚かもしれませんが。




