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漆黒の暗躍。フリーズとループを彷徨って(中編)

 


 漆黒の騎士団長ジェド・クランバルは……多分、これまでで1、2を争う位の、面倒臭い事態に陥っていた。


『お前……またなのか? いい加減にしろよ』


 空間の裂け目から神が半ギレで現れる。見る度に怪我が増えている気がするが、段々と罰が軽くなっているのか最初より傷が浅い。


『おお、私の怪我の容態が軽くなっているのが気になるか? 何故かって? お前が過去に戻る度に失敗してバグってフリーズしているから結局未来が変わってないからだよ!!!』


 そう、世界の理とやらも呆れる程のループ。何度目かで数えるのをやめた。


「そう思うんだったらお前がやれよ!!!」


『直接やれたら苦労しないわ!! こっちだって罰や怪我を代償にお前に頼むしか無いから言ってんだろ!!!』


「そう言われてもなぁ、簡単じゃ無いんだぞ!!!」


 ついにお互い限界値を超え、八つ当たりの殴り合いが始まった。無論、俺は素手が弱いので剣の柄で叩いている訳だが、この神確かに強い。親父達が楽しそうに通うだけある。その神が怪我だらけになる位だ、もしかしたら罰は俺が思っている以上に重いのかもしれない……



 ―――――――――――――――――――



 その難しさを実感したのは3度目のループ時からだった。



「騎士団長……? どうかされましたか?」


「腹痛ですかー?」


 戸惑う俺を不思議そうに見るシアンと職員。ナスカだけは


「はははは、何か急に時間でも遡って来たような顔してるけどどしたの?」


 などといつぞやに何回もタイムリープした時と同じ反応をしていた。

 ……これ。そう、これでもう既に駄目なのだ。

 片目が機能していないとは言え、ナスカの前で隠し事をするのがほぼ不可能であり、感付かれた時点でシュパースに入った瞬間ハオが繰り上げ暴走していて詰んでしまうという事が判明した。


『だからお前がベラベラと喋る事によって、目に見えない流れが違う方向に進んでいってしまったのだろうが! 今回の場合、闇ギルド側に勘付かれてキャスカを増やすはずがおじさんに変わり、他にもおじさん化を嫌がったハオという男がこの地獄を早く終わらせたいと武器の発動を早めた。だから元よりずっと早くフリーズしたんだって、何回説明させるんだよ!』


 と前回とほぼ同じ事を怒られてしまった所までループしてしまった。そう、ループすべきはここじゃなくて、この一個前の流れなのだ。


 神妙に頷いてまた神の力を使い光に包まれながら時間を遡る。


「あれ? ジェドっち、何か急に時間でも遡って来たような顔してるけどどしたの?」


 と、初手目が合ったナスカに状況を言い当てられて詰んでしまう。


「……いや、何の事だ……?」


「なんかこれから闇ギルドの影響でシュパースが大変な事になるような感じの目をしてるなって」


「…………何でお前の目は片目のくせにそんなに精度がいいんだよ」


「片目だからさー、遠近感が掴めなくて例のコインのやつは結構確立が落ちるんだけど、見ることについては慣れてきてからか視野が狭まって逆に見やすくなったんだよね」


 という訳である。どういう訳だ。

 そうやって4度目もほぼナスカにネタバレされたせいでゲート都市に潜む闇ギルドのスパイ? か何かに漏れてしまい同じ流れでフリーズした。ほぼ同じループなので割愛する。忘れた人は前回でも読んでくれ。

 以前のナスカは目の奥から何となく察する位だったが、最早アークレベルの読心術というかネタバレ能力を備えている。何でその精度があるなら俺の意図までは汲んでくれないのだろうか。何でか、ナスカは見えているだけで声を聞いている訳じゃないし事情を察している訳でも無い。従ってこの悪循環なのだ……

 つまりこのループを抜け出す方法は――


「てい!」


「うわっ! あぶなっ! 急になにジェドっち、俺じゃなかったら目潰れてたんだけど」


 ループ前から構えていた俺のピース目潰しを何故か避けるナスカ。何で避けられるのか、見えていたんだろう、急に目を潰そうとした俺の意図が。ほぼ未来視じゃねえか。


「すまん、こうするしかないんだ」


「何でだよ! まるで何回もループして来た末に俺の能力が邪魔になってるからとりあえず潰すような感じでさぁ! もしかしてシュパースで闇ギルドが何か大変な事でも犯したの?」


「さりげなくちゃんとネタバレすな!」


 俺は逃げるナスカを何とか捕まえて首トンするも、もう既に遅く……気絶したナスカを背負って訪れたシュパースはもう壊滅状態だった。何なら争っていた分だけちょっと早まっていた。おい……



「なぁシアン、このゲート都市にいる奴ら全員の記憶を少し消す方法とか無いか……?」


「え?? そんな事をしたら大変な事になりますけど……僕が。というかどうしてそんな事を……? まさかその消したい記憶のせいで闇ギルドが何かシュパースで大変な事を起こすとか何かですか?」


「……全然脈略の無い当て方するなよ」


「脈略のないというか、ナスカさんがそんな様な事を騎士団長と言い争っていましたし」


 先ほどのループと同じように初手バレした俺はナスカを気絶させてげんなりしながらシアンに問うも、あまりにも現実的ではない俺の提案にシアンもぎょっとしてネタバレしていた。いやまぁ、もう既にナスカがほぼ言っていたけど……

 まぁそうだよなぁ。神でさえ時間を遡るだけであんなペナルティを受けるくらいだ。時間や場所に関する魔法は相当な魔力や制約が必要となる。魔力が無限に溢れている大魔法使いならばともかく、いち魔法使いのシアンにこの大量の旅人や職員全員をどうにかしようなんて不可能だ。せめて闇ギルドのスパイが誰か分かったらなぁ……

 そして、案の定シュパースに着くともう手遅れ状態だった。このループも駄目だった……


『お前……頼むから次は何とかしてくれよぉ……』


「俺だって出来るならそうしたいわ」


 普通、ループと言えば運命を変える用に機会を与えられるはずだ。まぁ、それには間違いないのだが、ある一定の場所までは全く同じ流れを踏襲して行かなくちゃいけないのつらすぎる。

 とにかくこいつだ……ナスカ、こいつがいるのがよくない。

 アークなんかは普段人の心を読みなれているせいか、不用意にすぐ口に出したりはしないのだが、こいつは面白い事は何でも口に出す。とりあえず聞いてみる。そのせいで全然時間も話も進まない……

 もう何十回とナスカのせいでループが終わらないので、そろそろ本気で殺意が芽生えてきている。いや、数回目で本気で目潰しを食らわせようとしていたのだけど、全然普通に避けられる。実力で騎士団長をやらせていただいてる俺の本気の目潰しを避けるの本当これ如何に……

 本気の殺意は冗談だが、何十回と通った頃にはその殺意も薄れて来てしまっていた。悟り、これが悟りなのか……


「あれ? ジェドっちどうしたの……? 何かこう、全てを悟ったというか、無というか」


 それは突然訪れた。もう俺も神も疲れすぎて無言になり、神からも俺の表情からも怒りも何もかも消え、何ならちょっとうっすら笑っているくらいの間隔に陥って来たとき、ナスカの言葉が変わったのだ。


「……何か?」


「僕、この顔何かの文献で見たことがあります。アルカイックスマイル、とか何とか。異国人が伝えてきた神の像がこんな顔していました。神の事は見たことないのですがこんな顔をしているのですかねー」


 そう……俺は、そして神はもう疲れ果て過ぎて全ての感情を失い、作業のその先を見ていたのだ。転生、世界、運命、生命……何だかもうよく分からない世界が見えてきた俺は、神は、ついにナスカの目でさえも読めぬ域まで達したのだ。


「え?! やった、ついに抜け出せたのか!!」


「え? 何から? もしかして闇ギルドがシュパースに何かして大変な事になって巻き戻ったりでもした?」


 それを聞いた瞬間俺はすんと表情が消え失せた。駄目だ、感情がまだ残っていた……案の定このループも失敗に終わった。

 ループ失敗の先に待っていた神は古刹の笑みのまま履物を構えていた。顔は感情を失っていたが、神もまた希望と怒りを失っていなかったようだ……



 ★★★



「はい、じゃあこれでシュパースへの手続きは終わりましたので楽しんで来てくださいねー……あの、ジェドさん?」


「……」


 ゲート都市職員の手から書類を受けとった俺は油断せずに感情を消していた。まだだ、シュパースに入るまでは駄目なのだ。

 ナスカもシアンも首を傾げていたが、もう数え切れないくらい同じ時間をループした俺はやっと……やっとの思いでナスカの目を誤魔化しながらゲート都市を脱出する事が出来たのだ。俺の感情を犠牲にして……

 一つも間違える事無く、同じ流れでシュパースに行くだけの事がこんなに辛いって……いやほぼナスカのせいなんだけど。

 初手ナスカを誤魔化す事に成功した俺はなるべくナスカの視界に入らないよう勤めた。そうして、時間は仮想視野体験ゾーンまでやっと……ちゃんと巻き戻る事が出来た訳だ……

 いやこの苦労必要だったか……?


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