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漆黒の暗躍。フリーズとループを彷徨って(前編)

 


「本当、大変ですねー」


 突然ぷつりと途切れた記憶、慣れたように手続きをしながら軽口を叩くいつものゲート職員の様子も、何もかも変わりない。いつもの地下牢は陛下にバレてしまったため意味もなく使用するのは不可になってしまい、シュパース行きのゲートのカウンターで手続きを行っていた昨日と全く同じなのだ。


「騎士団長……? どうかされましたか?」


「腹痛ですかー?」


 戸惑う俺を不思議そうに見るシアンと職員。ナスカだけは


「はははは、何か急に時間でも遡って来たような顔してるけどどしたの?」


 などといつぞやに何回もタイムリープした時と同じ反応をしていた。


「ナスカ……シアン、これはちょっと直ぐには信じられない話かもしれないが……俺の話を聞いてくれるか?」


 深刻そうに申し出る俺にナスカとシアンと、あと職員までもが首を傾げた。


「ここまで散々異常現象起こしている張本人が何言ってるの、今さら」


「騎士団長の行動が全部嘘幻だったら陛下だって苦労しませんよ」


 とナスカも職員も暢気に笑っていた。まぁ確かにそれはそうではあるのだけど、まるで俺が異常現象を引き起こしているような言い方は誤解なのでやめてほしい。


「騎士団長。僕はまだちょっと騎士団長の事はよく分からないのですが、意味もなく嘘をつくような方だとは思ってはいませんので、ご心配なさらずに話をお聞かせ下さい」


 ニコリと笑うシアンの優しさが沁みるが、意味もなく嘘を吐く事に関してはそうですと言えない所もあって後ろめたい。が、今はそう悠長にしていられない。信じられているでも呆れられているでも、こんな信憑性の無い話を信じてくれそうなだけありがたいのだ……


「実は――」


 俺は先ほど見てきた全てを話した。仮想視野おじさんの事も、ハオの事も。最初は時間を遡ったという話にうっすら困惑していたシアンも、ハオの話を聞いた途端に顔色を変えた。


「そんな……折角逃がしてあげる為に取引したのに。普通に私利私欲の為に浅はかに裏切るんですね」


「ハオとはそういう奴だ。大体、私利私欲に浅はかに飲まれない感じだったら最初から東国を裏切ったりしないだろう。世の中には欲望の為に何もかも捨てれるような奴が結構いるんだよ」


 それにはナスカもうんうんと頷いた。流石欲望代表。遊び人の王。


「俺は見れば分かるから疑っていた訳じゃないけど、その仮想視野の娯楽ゾーンの話も正にこれから行こうとしている所だし、未来視があるとかじゃないなら本当に時間を遡ってきたらしいね。それで、そのふりーずばぐとか何とかを止めればいいんだよね」


「ああ。恐らく」


「なら簡単じゃん。そのハオとかいう奴を止めて、悪役令嬢だか何だかを沢山増やさなきゃいいんでしょ」


「いえ、後者は難しいかもしれませんよ。もし仮に騎士団長の話の通りに事が起きるのだとしたら、悪役令嬢キャスカがいつから行動しているかは分かりませんから。その暗躍すらもこれから起こす事じゃないのだとすれば、もう【増殖バグによる同一キャラクターの大量増加】【悪役令嬢キャスカを存在させる事】【配布中止になったチートアイテムの再現】というのは手遅れの可能性もあるんじゃないでしょうか」


 確かに……あの時フリーズしたからといって、全てがあの時に同時に起きたとは限らない。闇ギルドのチラシ配りだって始めて直ぐに皆が実行する訳でも無いだろうに、あのキャスカの数を見ると前々から配り始めていた可能性だって十分にあるだろう。


「とすれば、出来るのはハオを止める事か……」


 こくりと頷くシアン。こうしている間にもバグへのカウントダウンが進んでいるので一刻の猶予も無い。俺達は急ぎシュパースへ向かう事にした。

 闇ギルドの暗躍がシュパースで発生していると知るやゲート職員達も真面目にスピーディーに関門処理を終わらせ俺達は前回よりもかなり早くゲート都市を抜ける事が出来た。いや、これお前らサボる為にわざとゆっくり処理してただろ……いつも本気出せよ。



 ★★★



「……そうか、これが新しいリゾートゾーンか」


「こんなものがあるのですねー。全然知りませんでした」


「うーん、こんなだったっけなー」


 腕を組み首を捻る赤髪の縛乳セクシー美女。興味津々に辺りを見回すセクシー魔法使い美女。そして壁に掛かる姿見に映る金髪バニーガールのセクシー剣士が俺だった。

 ……ここまでは一緒だ。当たり前だろう、時間を遡り同じ時間を繰り返しているのだから。

 の、はずなのだが仮想視野を見る兜の向こう側に見えたのは大量のおじさんだった。


「おい、これはどういう事なんだ?」


 兜を外すと仮想視野ではサキュバス風美女だった女性がおじさんへと変わる。いや、こちらが元の姿だから戻る、というのが正しいが。


「わ、私にも分かりません。何が何だか分からないのですが、そこはかとなく私によく似た雰囲気のおじさんがアバターとして流行っているというか……」


「騎士団長、こんなものが」


 シアンが壁を指すと、そこには件の悪役令嬢が撒いていたチラシが貼られていた。――が、それは元の情報とは違い、悪役令嬢キャスカを増殖させるはずだったのにおじさんの似顔絵に変わっているのだ。


「どういう事ですか? さっきの騎士団長の言っていた未来と違うみたいですが……」


「おかしいな……確かに闇ギルドの暗躍で悪役令嬢キャスカを増殖させていたはずなのに」


 元の時間で見たものと違う景色。確か町は結構な美男美女で埋め尽くされていたのに今は一面おじさんだらけになっていた。おじさんだらけのおじさんによるゲーム……


「ハッ! 思い出した! これは前世で見たDGOで起きた【おじさん増殖バグ】だ!」


 おじさんを見ていたクリステアおじさんが、急に何かを思い出したように手を叩く。


「いや、これもあったのかよ……」


「これも、というのがよく分かりませんが、私が前世でハマって同じ世界観で作ったDGOというゲームは結構バグが多くて、その度にアプデ修正を繰り返していたのです。特に悪役令嬢のキャスカや特殊アイテムはあまりにも能力を上げすぎたせいかゲームバランスをぶっ壊すだけでなく実際にゲームが動かなくなるほどのフリーズを引き起こしてしまいまして即修正が入りましたもので。で、このおじさん増殖バグは、ある日アバターがおじさんになったまま変える事も出来ずにおじさんだらけのオンラインゲームと化し、ネットで話題になって伝説のおじさん祭りとなりました」


「何で祭るんだよ」


「ネット民はこの手の間違いやバグが大好きですから。どうせすぐ修正はいるでしょうし。ですが、祭りになったのもつかの間、直ぐにフリーズしてしまいましてゲームがダウンし、メンテナンスに入ったまま数日かかってやっと直った時にはおじさんは使用出来なくなっていました。そのおじさんが私にちょっと似ていたもので寂しくなりましたが……」


「ほほう……なるほど」


 俺は嫌な予感がした。状況が微妙に変わったにせよ、大まかな流れというかバグでフリーズする事には変わりないだろう……

 と思っていたら娯楽ゾーンの中心が突如光り、爆発した。それと同時に町が光に覆われ、光が晴れたと思ったら周りに居た全員が止まっているのだ。ええ……


『お前なぁ!』


「いてっ!」


 途方に暮れている俺の後ろから、やはりまたしても空間を裂いて現れたのは光に包まれた神様だった。

 手に持っている履物で俺の頭を叩く。汚いから履物で叩くのはやめてくれない……?


「おい、どういう事だ? 時間を遡ったはずなんだよな? 流れが全然違うじゃないか」


『あのなぁ……私の手違いみたいに思っているかもしれないが、全部お前のせいだからな』


「俺の……?」


 いや俺が何をしたというのだ。お前の言う通りに時間を遡ってからバグを止める為に動いただけで何もしていないはずなんだが。

 納得のいかない俺を見て神様ははーっとため息を吐いた。


『お前、以前何度もタイムリープした事は覚えているか』


「何度もタイムリープ……えーと、どれだ?」


『いやそんなに何度もタイムリープするなよ』


「俺がしたくてしている訳じゃないんだが……一番よく覚えているのは何度もトイレに入ってチャックを上げる所からやり直して何度もシルバーが爆発した所だろうか」


『嫌な所から始めるなよ。そう、それだ。それと同じことをしているし、お前は禁忌を犯し過ぎている。そのせいでこちらまでこれだ』


「俺が……?」


 俺が一体何をしたのか本当に分からないのだが、恨めしそうに神が自身を指す。よく見るとめちゃくちゃ怪我をしているようだった。光っていてよく分からないけれど、包帯を巻いていたりする。どしたん。


『この怪我自体は時間を遡ったペナルティなんだが……お前が過去をむやみやたらに変える事によって、原因を作ったこちらにまでペナルティが加算されている訳だ』


「俺が過去を……いや、変えないといけないんだろう」


『そうじゃない。お前の変え方が間違っているからもう元の次元と変わってしまっているし、従って流れや結末も変わってしまっている上に私がめちゃくちゃ痛い思いをしている。お前、前にタイムリープした時に、ちょっとの出来事で結末が変わっていなかったか』


「そりゃあ、確かに……」


 俺はあの時を思い出した。どの時か思い出せない人は296話くらいの事を思い出してくれればいい。300話以上前だ。思い出せるかい!

 何度もタイムリープしたあの時だが、ナスカと一緒にトイレを出るか出ないか、晩飯の茸スープに何を入れるか入れないかでシルバーの変身結果に影響を及ぼし、結末が変わっていた。


「けど、そんなに運命がかわるほどの何かをした覚えはないのだが」


『あのなぁ、お前、過去に戻ってきた事をベラベラベラベラと喋っただろうが』


「え……」


『お前は過去を変えすぎた。ベラベラと喋る事によって、目に見えない流れが違う方向に進んでいってしまったのだ。今回の場合、闇ギルド側に勘付かれてキャスカを増やすはずがおじさんに変わり、他にもおじさん化を嫌がったハオという男がショタ化を希望して自滅している。だから武器の発動が早まった』


「あれそういう事だったのかよ……」


 いつも未来から来ただのタイムリープしているだのという悪役令嬢のベラベラと喋る過去話を普通に聞き流していたから普通に喋ってしまっていたが、駄目だったのか……

 まぁ、言われてみれば俺に喋る事によって運命が変わっていた訳だけれども。何もしなくても解決していたのってそういう事だったのかな……いやそれでいいなら誰か他の人にでも聞いてもらえよ。


『本来、お前一人を過去に送る位で済んでいたならば、箪笥の角に小指をぶつけるくらいのペナルティだったのに、お前が運命をベラベラ喋って大きく変える度に原因となった私は倒れてきた箪笥に挟まれたり家電が急に一斉に壊れたり、花粉症を発祥したり散々な目に遭っている』


「いやそれ罰関係あるのか……? まぁ、それはそれとして、つまりはなるべく影響を与えずに解決しないといけない、という事なのか……」


『そうだ。この際私のペナルティはどうでもいい。過去に送って流れを変える以上ある程度は覚悟していたからな。だが、流れ自体が変わってしまうと解決方法が都度変わって読めなくなってしまうから永遠に解決出来なくなってしまう。それを視野に入れてお前は行動しなくてはいけないんだよ』


「ええ……」


 神様が凄く難しい事を言う。俺が、そんな頭を使う事出来ると思っているのか……?


『結局この時間も駄目になってしまったからお前を過去に送るしかないのだが、次こそ頼むぞ。痛いのは覚悟しているから……出来るだけ失敗しないでくれ。出来るだけ、元の流れを崩さないよう――』


 そう言いながら神が放つ光に包まれると、気が付けばまたゲート都市に逆戻りしていた。


「ジェドさん、まーた遠方に出かけているんですか? いよいよ陛下の婚礼が決まったんじゃなかったんですか」


 と俺に声をかけるゲート都市の職員がいる、シュパースのゲートカウンターの前だった。


「これは……結構、かなり難しいのでは……」


「騎士団長?」


「あ、いや、何でもない」


 肩を落とす俺を不思議そうに見つめるシアンにハッと我に返る。そうだ、不自然な姿を見せてはいけない。神にペナルティが加算されるのはどちらでもいいが、解決しないと永遠にフリーズとループを往復しなくてはいけないのだから……

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