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VR悪役令嬢の正体(前編)

 


「おい、待て!」


「……」


 漆黒の騎士団長改め、セクシーダイナマイト美女ジェド・クランバルはシュパースの新エリアである仮想視やゾーンに現れた不審者を追いかけていた。

 一緒に居たセクシーサキュバス美女のクリスティアのおっさんは中身がおっさんであるが故に途中で力尽きていたので普通に置いてきた。外見がセクシー美女の癖に走り方がおっさんのそれで力尽きて地面に崩れる姿もおっさんのそれだったので残念な気持ちになった。やはりいくら外見を取り繕ってもおっさんがおっさん以上になる事はないのだ……


 だが、逃走者はそこそこ足が速いにしてもこの漆黒の騎士団長に適うはずもなく、徐々にその距離を縮めて行く。もう捕まると諦めたのかこちらを振り返りけん制した。

 臨戦態勢かと俺も剣に手をかける……いや、かけているはずだ。何せ見えない。感触はあるのだけど仮想空間にはセクシーバニーしか無く、腰の剣も見えていないのだ。半分現実で半分幻なのむずいよぉ


「ちぃっ!」


 観念したように見えた逃走者の手には仰々しい杖が握られていた。その杖は今にも何かを打ち出しそうに煌々と光っている。爆発前のシルバーのようだ。その例えなに。


「あ、あれは! ジェド様……ぜえぜえ、気をつけてください、ぜえぜえ」


 息も絶え絶えで追いついてきたクリスティアの美女おっさんが人ごみを掻き分けて告げる。何だ何だと見に来た見物人(半分くらい悪役令嬢)が騒めき逃走者を見ると、仰々しい杖は何かの魔法を発動したのか町全体に魔法陣が広がった。

 途端に街中に炎が広がり、壁が崩れて阿鼻叫喚の地獄と化す。


「な、何だ?!」


 見物人達は必死で逃げ惑うも、その先を触手の魔物やゴーレムが襲い、あちこちに恐怖の悲鳴が木霊する。こんな大魔法が使えるなんて、シルバー並の魔法使いか?!


「はっ!」


 杖を振りかぶると空間に現れた巨大な蛇が俺に襲い掛かってきた。咄嗟に身構えるもその腕を締め上げる。ぎゅうううと音を立てて――


「ジェド様、それはVR空間が見せている幻です! 騙されないでください!」


「何っ?!」


 確かにそう言われてみれば、音と視覚で押さえつけられているようなリアルな感触を感じてはいるが、腕を動かそうと思えば動かせる……が、頭が追いついていかないのか体が勝手に動かなくなる。何これぇー!


「あれは何なんだ」


「あの人が持っているものは、ゲーム内のアイテムでコスト0、消費魔力0で何でも出せる万能超課金チート級アイテムです。お金を出せば攻略がイージーモードになるという典型的な壊れアイテムなのですが、あまりにもゲームシステムがぶっ壊れてしまう為、購入した人からは「こんな物使ったらゲームが楽しくなくだろ」と怒りの声が上がってしまい、それならばと敵を強くすると今度は無課金勢がほぼ攻略不可となってしまったためアイテムは使用不可、返金対応となってしまいました」


「何もよくわからないが、まぁ簡単に強い力を手に入れても何も面白くないよな」


 何でもそうだが手に入れるのに苦労するから物の価値がある訳で、簡単に金で解決出来るならばゲームである意味がないよな。うちの両親も、一から修行して神に挑むのを楽しんでいるが、勝てないからこそ面白いのだろう。ゲームか? 神も一回負けてあげればいいのでは。


「何でそのアイテムをアイツが持っているんだよ」


「分かりません……もしかしたらこの悪役令嬢キャスカが実際に現れた事と何か関係があるのかもしれませんが……」


「とにかく、この惨状は幻って事だな」


 街全体はとんでもない事になっていた。地獄。倒れている人たちも怪物に半分食われていたりとか、とても全年齢でお見せ出来ない感じになっているんだけどちゃんと無事なんだよね……?


「はい、大丈夫です、この通りVR兜を外せば皆気絶しているだけですので」


 おっさん美女が兜を外す動作をする。俺はぽんと手を叩いた。正確には手が拘束されて叩けてはいない。


「て事はこれ普通にこの魔術具を外せばいいだけじゃねえか」


 俺は気力をふりしぼって兜に手をかけようとするが、それに気付いた逃走者は俺の頭に杖を向けて氷の魔法をかけた。ぎゃああああ


「ジェド様、気のせいです、気のせい! 視覚情報に惑わされないでください、そんなに影響を受けてしまうとVR内で死んだら本当に死んでしまいますよ!」


「本当に死ぬとかあるのかよ」


「昔人体実験で……いや、大丈夫、大丈夫です安全です」


 クリスティアのおっさんが不吉な事をつぶやく。見えている物にひっぱられてこんなに感覚が麻痺してしまうの、普通にこのエリア危険すぎるだろ。


「そうか」


 感覚が引っ張られてしまうならと俺は何とか兜についているであろう魔石に触れた。兜を外すには安全装置などを外さなくてはいけないのだが、魔石に手を触れるだけなら出来る。その魔石は最初に自分の姿を決める時に使ったもので、魔力を込めると姿を選択出来る文字が視覚に現れた。


「これなら」


 俺は体格の小さい女の子……見た目的にはノエルたんに似たような姿があり、それを選択する。と、締め付けていた蛇からするりと落ち、開放される。


「よし! これなら!」


 と兜を外そうとするが、同時にあれだけ続いていた猛攻撃が凪のようにぴたりと止んだ。


「え……」


 何が、と思い逃走者を振り向くと、こちらを凝視して固まっている。


「……? どうした?」


「……かわいらしいお嬢さん……どうかそのままで」


 うっとりとしたような表情を浮かべて逃走キャスカCが俺の手に触れた。視覚は令嬢キャスカのものだったが、触った感覚はごつごつとした男の手。こいつ……男か?


「……女性を殴るのは視覚的に気がひけていたのだが、元が男ならば罪悪感も無いだろう」


 俺はその辺に落ちていた木片(多分)を拾い感覚を確かめると、うっとりとしながら手をさわさわする逃走悪役令嬢キャスカ(C)の脳天に叩き付けた。多分嶺打ちだ、安心しろ。

 からんと杖が地面に落ちる。俺がそれを手に取り魔力を込めると周りで作り出されていた惨状が波紋の様に解け広がって無くなった。うお、大魔法使いになった気分。


「何だったんだこいつは……」


 俺が兜を外すと、元のエリアの町並みが視界に広がった。先ほどの大惨劇とは違い、確かに元の街に損傷は一切無かった。が、兜を着けて倒れている人が多数広がっており、無傷ではあったがこれはこれで惨状ではある。


「大丈夫ですかジェド様、とりあえず今のうちにこいつを取り押さえておきましょう」


 視界に現れるダイナマイトボディのおっさん。美女の皮が無くなってしまったおっさんは残念だが、仮想視覚よりもやはりこっちのおっさんの方がしっくりくる。

 おっさんが逃走犯の兜を外すと、長い髪がファサリと落ち、見覚えのある顔が見えた。


「……いや、だから態度変わったのかよ……」


 そこにいたのは、俺に頭を峰打ちされ伸びている、元東国の騎士・ハオだった。何で君がここにいるの……??

 。

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