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悪役令嬢は岩を飛び越え突き進む(後編)



「私、マリア・トリーゼと申します。この世界は私が前世でプレイしていた『囚われの王子』という乙女ゲームそのものなのです……私はその中に出てくる悪役令嬢マリアです」


 岩の嵐を遡っていく途中で流れを避けられる小さな洞穴を見つけたので、そこに入って雨宿りならぬ岩宿りをしながらマリアの話を聞いた。外では相変わらず岩が轟々と流れている。


「ほー。しかし、乙女ゲームと岩の嵐に何の関係があるんだ?」


「このゲームはいわゆるアクションゲームで、怪物に囚われたお姫様を助ける為に怪物が投げる障害物を避けながら進む……というアクションと恋愛を融合させたゲームです。拐われた王子様を助ける為に主人公が悪役令嬢の投げる岩を避けながら進むという単純だけど難しいものでして」


 岩を投げつけてくる怪物って何だ……? オーク? いや、ゴリラかな。


「なるほど……しかしそれは乙女ゲームなのか?」


「一応助けた王子様とのラブラブシナリオはあります。私はこういう単純なアクションゲームは結構好きなのでハマっていたのですが、取ってつけたようなシナリオとゲーム性が一体どこをターゲットにしているのか分からず、あまり人気は出ませんでした……」


 でしょうね。俺だってその王子様の立場なら、岩を投げつける物騒な悪役令嬢も岩を必死に避けながら助けに来るアグレッシブなお姫様も、どちらも厳つそうで御免である。


「しかしその話が元になってるのならば……この岩の嵐を作っているのは悪役令嬢である君のはずでは?」


「そう、そこが変なのです。私は、前世の記憶を取り戻してからゲームの運命に抗うよう生きてきました。ゲームにも登場する小国の王子と婚約をしていましたが、主人公が現れた時の為に彼と相談をして円満婚約破棄しました。静かに暮らせるよう努めていたのです。ですが……ある日、王子が失踪したという噂を聞いて、もしやと思いゲームに語られている洞窟に来てみたら……動くはずの無いこの洞窟が、ゲームそのもののように動いていました」


「それであの洞窟の入り口に居たのか。しかし何で倒れていたんだ」


「ああ、それは――」


 ところで……話の方も気になるが、俺にはもう1つ気になっている事があった。


「話を中断してすまないが、この上の数字がもうすぐ0になりそうなんだが。コレは何かあるのか?」


 落ちた時に999で始まっていた数字が、もうすぐ0になりそうになっていたので嫌な予感がして聞いてみた。


「0になったら死にます」


「……は?」


 ――――TIME OUT――――


 不釣り合いな軽快な音楽と共に目の前が真っ暗になりプツリと記憶が途絶えた



「騎士様……騎士様……」


 目が覚めると最初に落ちた場所だった。


「あ、危ない」


 先程と同じ様に岩が流れて来たが、すぐに記憶の焦点が合い今度は自分で跳び避けた。


「……おい、大事な事の説明が足りてないんじゃないのか?」


「逃げてる時に言ったじゃないですか、当たると1機減るって。時間切れでも減ります」


 彼女が指差す方を見ると999からまた減り始めた数字の横にあるもう1つの数字。それが5から1つ減っていた。


「つまり……さっきのは時間切れで、そして元の場所に戻って来たということか」


 『死に戻り』という特殊なスキルを持つ奴がいるという話を聞いた事がある。そいつや時間を逆行してくる悪役令嬢も先程のような感じなのだろうか? ……あまり良い気持ちでは無いので2度としたくない。


「その数字が全部無くなるとどうなるんだ?」


「私も最初に来た時に全て無くなり、ゲームオーバーとなって洞窟の入り口に倒れていました。全て無くなったからと言って死ぬ訳ではないので安心してください」


 なるほど、ならばさっさとゲームオーバーになれば帰れ――


「ちなみに1度始めてしまうとクリアするまで抜け出せません。騎士様が私を助けてくれたのは4度目のコンテニュー時です」


 死なないから安心とかそういう問題では無かった。今更になって、何でいの1番に駆けつけてしまったのか……自分の瞬足を恨んだ。やはりバカはロックじゃなくて俺でした。


「どうしても、あれに立ち向かうしか無いという事か……」


 観念しながら振り向くと、1回目と同じように岩の群れが転がってきた。


 転がってくる岩や鉄球は見慣れてしまえばある程度の法則性があり、避けるのは簡単である。途中微妙に岩質が違うせいかバウンドしてくる岩もあって危なかったが、マリアが避け方を知ってたので助かった。

 ちなみに避け切れなくて咄嗟に剣で叩き割ろうとした事もあったのだが、叩き割るのは当たり判定になるらしく時間切れの時のように元の場所に戻ってしまった。異世界のゲームは俺には難易度が高すぎる……


 何度岩を避けたか分からないが、一心不乱に走り洞窟を抜けると急にずっと流れていた音楽の曲調が変わった。


「ここがラスボスのいる部屋です。でも、ラスボスは私のはず……」


 岩が流れてくる先を見ると、そこには檻の中に入る縛られた王子様とひたすら岩を投げている女性がいた。……いや結局誰なん?


「あっ、あなたは……主人公のマロン!! なっ、何で?!」


 どういう訳か分からないが、このゲームの主人公であるはずの女性が何故か王子様を拐い、岩を投げ続けていたらしい。


「どうして……私はゲームを始めないように王子とも婚約破棄だってしたし、あなたの邪魔なんてするつもりは全く無かったのに……なぜ?!」


 マリアの問いかけに、主人公であるマロンは震え声を荒らげる。


「あなたが……あなたがゲームを始めないから!! 私が始めるしかなかったのよ!!」


「え……?」


 えっ……何で?

 主人公とやらの主張にイマイチぴんと来ない俺達は呆然とマロンを見た。マロンは泣き崩れながら言葉を続ける。


「『囚われの王子』は……確かに乙女ゲーとしてはシナリオも薄いし、まずもってラブラブ出来るのがこの王子だけだから乙女ゲーなのかすら怪しいから全然人気なかったけど……私は……私はこのシンプルなアクションゲームが大好きだったの。前世で取り憑かれたようにハイスコアを競っていたのだけど、どうしてもHN【あああああ】にだけは勝てなくて、そのままサービス終了になっちゃったのは悲しかった。けど、次の生が始まった時にこのゲームの主人公に生まれ変わったと知った時は凄く嬉しかった! またゲームが始められるって……でも、あなたはいつまで経っても始める気がなかったから……だから!」


「えっ……もしかして、あなた【魑魅魍魎の鎮魂歌】?」


「へ……まさか……【あああああ】……なの?」


 暫しの沈黙。2人は感動のあまり言葉が出なかった。前世からの強敵ともに逢えたのだ。ずっと逢いたかった乙女ゲーム? が繋いだ絆……


「遊びたいなら……いつだって遊べるって事じゃない。このゲームじゃなくて、今度はカードとか、他の勝負にしましょう」


「……そうね。どちらにせよここまで来た貴方の勝ちなんだもん。流石ね……ゲームは終わりよ」


 そう言うとマロンは横のボタンを押した。その瞬間王子の入った檻の繋がった鎖が切れ、王子ごと落下した。ちょっ!!!



 気がつくと洞窟の中のステージは消え、最初の落下した場所に戻ってきていた。王子は檻ごと俺が助けました。


「さ、帰ってお茶にしましょう!」

「そうね、積もる話もあるし!」


 女子2人は嬉しそうに手を繋ぎながら帰って行った。

 残された俺と王子様は呆然とし、俺達を発見した騎士団の団員達も訳が分からずザワザワしている。


「ジェド、無事で良かった。だが、その檻と中の人はどうしたんだ?」


「可哀想だから何も聞かないでやってくれ……」


 お前ら……王子様回収していけよ。


 囚われの王子様は猿ぐつわのまま泣いていた。

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