最終回 また逢う日まで
セーラお嬢様は、もうすぐインドへと旅立つ。
私も専属メイドとして、お供させて頂きます。
いろいろあったけど、今は幸せで胸いっぱいだ。
アジアにも足を伸ばすというから、わくわくしてくる。
さすがに、未成年だけでの旅行は許されない。
ラルフ・クルーさんをはじめとして、ラムダスさんもついていく。
「ねぇ。セーラママぁ。インドへ行って、もう、帰ってこないの?」
「帰ってくるわ。3ヵ月ほどしたら、また逢える」
ロッティちゃんがセーラお嬢様に甘えこむ。
やっと再会できたのに、また離れ離れとは。
彼女だけではない。多くの人々が空港まで来てくれた。なぐり隊の元メンバーまでいるとは。さすがに、ホーリエさんの姿はないようだけど。
アーメンガードはしゃがみこんで、幼子へ優しく話しかける。
「大丈夫よ。スマホがあればいつでも連絡はできるから」
「セーラママとは直接、お話がしたいよぅ」
「テレビ電話機能もあるから、リアルタイムでお話もできるわよ。アジアまで行くというから、時差も考えないといけないけどね」
「ぶぅっ。ラビニアは嫌いでーす」
やっぱり、ロッティちゃんはラビニアを嫌ったままだ。
過去のことを思い返せば、仕方ないだろう。
私でさえ、まだ許しきれてはない部分も残っている。
それでも、一生懸命に歩こうとしている彼女を認めたい。
スプリングフィールドさんが写真を撮っている。
心変わりしたのか、ミンチン叩きを控えているようだ。ダークペンギンと名乗った殺人鬼と、その信者達を追っているらしい。
「ヘイッ、セーラ。俺からのプレゼントだぜっ!」
ピーターが大きな鳥籠を手にして、こちらへと歩いてきた。
マックスさんをはじめとする彼の友人達も、後ろで微笑んでいる。
セーラ、セーラと、鮮やかな赤色の鳥さんが鳴きだす。
たしか、ベニコンゴウインコだ。
セーラお嬢様は息を呑みこんで、目尻から涙を零しだす。
私も覚えている。バロー弁護士によって奪われた、お嬢様の大切な家族なんだ。もう、二度と戻ってこないと諦めていたのに。
「ボナパルト? どうして?」
「ホームズファイルの力を借りて探したんだぜ。お礼は要らないよ」
「あ、ありがとう。ピーター」
涙を拭ってから、セーラお嬢様が感謝の意を示す。
U-チューバーとして評判最悪であった人だけど、こんなに優しい男性だとは。
目から険しさも落ちて、すっかり穏やかになっている。
ケープペンギンのスーリャは興味深そうに頭を持ちあげている。
ピーターは私へと視線を向けてきた。
「ベッキー。そ、その、なんだな。また逢ってくれないか。今の君は、一緒にいると、心が落ち着くんだ。凄く穏やかな気分になれる。できれば、一緒に映像を撮りたい」
「ピーター。それは告白しているようなものだぜ。それも、こんな人前で」
「マックス。何を言いやがるんだ」
「やっぱ、未成年だよなぁ。まだまだ、青いぜ!」」
「ピーターさん。昔はあまり好きじゃなかったですけど、今は素敵な人だと思います。ミンチン先生をおぶって、暴徒の中を駆けぬけるなんて尊敬できます。セーラお嬢様との旅行から帰ってきたら、また会いましょう」
ピーター・ポールはガッツポーズを決めた。
スプリングフィールドさんは楽しそうに撮っている。
007に記事を書かれそうな予感。
私に告白なんて、こんな地味女でいいのだろうか?
セーラお嬢様が、にっこりと微笑みを向けてきた。
ミンチンさんもナチュラルな笑顔を浮かべている。
その隣にいるのは妹だけではなく、セディさん。
彼のおかげで、だんだんと優しい雰囲気の女性となってきた。ラビニア・ハーバートを見習って、自分を変えようと一生懸命な様子だ。
「あのぅ。初めましてかな。アイーダ・ロッシと申します。この度、ゼロスクールに入学するため、はるばるイタリアから来ました」
いきなり、見知らぬ子が話しかけてきた。
黒髪を短くした可愛らしい少女だ。
ちっちゃな白猿を肩に乗せている。
まったく知らない顔だけど、どこかで会ったような気もします。
そぉっと近づいてきて、私とお嬢様へ耳打ちをしてきた。
か細い声が、鼓膜を叩く。
「お久しぶりですね。リアルで対面は初めてですけど、ネット越しで会話をしたこともあるのですよ。セーラお嬢様に、ベッキーさん」
そうささやくと、彼女は舞うように離れていった。
セーラお嬢様も当然、察している。
ヴァーチャル・U-チューバーの正体は、人間の娘さんだったのですか。
もう、そろそろ出発の時間だ。
見送りに来てくれた人は多い。
ミンチン女学院の元生徒達から、ホーリエさんのサロンメンバー。U-チューバーのGバターまで見送りに来ている。知らない人も多い。
手を振りながら去っていき、飛行機へと乗りこんでいく。
温かい声に包まれて、心がぽかぽかしてきた。
セーラお嬢様が、襟を直してくれた。
2人で見つめあい、微笑みあう。
こんな素晴らしい時間が、ずっと続きますように。
3か月後
インドや中国、シンガポールを経て、私達は梅小路公園にいる。
とても長い旅行で、大いに勉強させられた。
カルチャーショックのオンパレードだけでなく、VRや人工知能に関する圧倒的な技術力を魅せられて、脳味噌がパンクしてきたかも。
そろそろ、ロンドンが恋しくなってきた。
「ベッキー。早く、早く! ペンギンさんを見に行こう!」
「セーラお嬢様。さんざん、スーリャを見ているじゃないですか」
「梅小路水族館はケープペンギンが50羽以上もいるのよ!」
鉄道博物館を回り終えても、お嬢様は嬉しそうにはしゃぎっぱなし。
いったん、とんかつ屋さんに寄ってから水族館へと入った。
オオサンショウウオの水槽へと、セーラお嬢様は顔をくっつける。
えへへと、だらしなく表情を崩している。
私の手を握って、ぴょんぴょんと跳ねだす。
それにしても、造りこみが細かい。日本の大自然を再現したものらしい。川魚が群れている大水槽も石と緑で美しいものだ。
「セーラお嬢様。気のせいか、だんだん子供っぽくなってきたような……」
「無理もありません。しっかり者に見えますが、まだ、12歳なのですよ。それに、貴方という姉のような存在がいて、甘えているのです。両親を失っているあの子にとって、ベッキーさんの存在は大きいのです」
ラムダスさんがスーリャを抱えながら耳打ちをしてくれた。
かいじゅうカフェで、ペンギンのパンを買った。
セーラお嬢様と長椅子に並んで腰かけて、オットセイの泳ぐ様子を楽しみながら味わう。ココアチョコいっぱいで美味しい。
ゴマフアザラシに挨拶をしてから、自動ドアをくぐる。
プール内をケープペンギン達が、すいすぃーっと泳いでいる。
京の海と名付けられた超巨大水槽。マイワシの群れが渦を描いている。エイは飛ぶように優雅な泳ぎを見せてくれる。
2人で心を囚われる時間を過ごした。
「この坂を上がって回りこめば、ペンギンさんを上から眺められます」
「それじゃあ、行きましょう」
セーラお嬢様に手を引っ張られた。
そこは、まさにペンギン村と呼べるような場所である。
ガラスの塀に区切られた広いスペース。
ケープペンギンの集団が、のんびりとくつろいでいた。プールで泳いでいる子もいれば、仲良く羽づくろいをしている番もたくさん。
日本の子供達は「KAWAII!」と叫んでいる。
お嬢様も、その言葉を真似て繰り返す
カラスみたいに黒いペンギンちゃんもいる。たしか、まだ雛のはず。
その子は元気いっぱいで、虫を追いかけていた。凄い勢いで走っています。
その様子を別のペンギンさんが、スマートフォンのカメラ機能を活かして撮っている。そやつは、私と目があえば、吃驚仰天したように踊りだす。
「インスター? えっ、その名前って、PENGUIN-TAROUさん⁉」
「サクラちゃん。跳び超えちゃいけないよっ!」
マッチョなハンサムガイのトレーナーさんが騒ぐ。
ケープペンギンの雛は、ガラスの壁を超えるようにハイジャンプ。
羽虫は外へ逃げてしまう。
着地点に立っているのは、セーラお嬢様。
そのまま、サクラと呼ばれたペンギンちゃんを抱く形となる。
じぃっと見つめあう。
ボェーっと鳴いた。
セーラお嬢様は満面の笑みを浮かべた。
【ペンギンだけど魔法少女になりました!】へ、物語は続く。




