第31話 俺達の青春はまだ始まったばかりだ
「ふー、今日はやけに疲れたなぁ。」
せっかくの休日だというのに、疲労を貯める事になるとは…。
あの後、美波と合流した俺達はこっぴどく叱られてしまった。
「もう!何してたの!」
「ごめん、ちょっとな。」
「ちょっと、じゃないよ!」
その怒りは栞ちゃんと別れた後も続いていた。
「さてと、じゃあ目的の物を仕上げるとしました。」
俺は引き出しから原稿用紙を出すと、おもむろに机へと拡げた。
「ジャンルは特に制限されていないもんな…。」
そう!何を隠そう俺が書く小説は百合物である!
その為に今日は痛い出費をしてまで2人にサービスしたのだ!
「途中、邪魔が入ってしまったが、取材の甲斐はあったな。」
すらすら筆が走る。やはり実体験?をするかしないかは大事だという事か…。
「しかし…書けているものの…。」
これが美波にバレたら…どう思われるだろう?妹とその友達で百合妄想をしている様なもの(事実しているが…)だからな。
もしかしたら、2度と口を聞いてもらえなくなるかもしれない。…栞ちゃんにも。2人には隠し通さねば!
「取り敢えず、この辺まででいいかな…?」
粗方書き終わると、腕を天に伸ばした。…時間は10時を回っている。そうか、意外と集中出来るもんだな…。
…そういえば、他の部員達はどんな話を書いているのだろう。美鈴はもう書き終えたと言っていたし…。
そんな事を考えている内に、俺の頭に睡魔が襲ってきた。
「ヤバイ…、意識が…。」
眠気はどんどん増すばかり。集中して書いていた反動なのか…。ま…だ、続きを…。
「にいちゃん。」
聞き覚えのある声が俺を現実に引き戻す。そうか、あのまま寝てしまったのか。
「お兄ちゃん、聞いてるの?」
「うわぁ、どうして俺の部屋に美波が…!」
慌てて体勢を変える。その反動で椅子から落ちそうになった。
「おわ…、危な…。」
冷や汗が背中に滴る。心臓に悪い。
「ちょっと何してるの?それに寝るなら机に突っ伏してないでベッドで寝なさい!」
美波に怒られてしまった。今日はこんなのが続くな…ひょっとして厄日なのか…。
「それと、これ、借りてたゲームを返しにきたの。」
「そうか、別に今じゃなくてもいいのに…。」
「思い立ったらなんとやらでしょ。私も忘れそうになるし早い内にね。」
美波からゲームソフトを受ける。
「ていうか珍しいね。うたた寝するまで机に齧りついているなんて。高校の勉強そんなに大変なの?」
「ああ、まぁな。俺の力を持ってすれば余裕だけど念の為にな…。」
俺は美波に見せない様に腕で原稿を隠す。
「やっぱり?よく聞く話だよね。中学までは授業聴いているだけで大丈夫〜って油断して、高校で躓くの。私も気を付けなきゃ。」
「そういえば、高校どうするか決めたのか?」
「うん、まだ考え中〜。一応、空峰希望だけど…。」
「ほうほう、お兄ちゃんと一緒か。そんなに俺と離れるのが寂しかったとみえる。」
「最近になって、栞ちゃんも空峰にしようかな〜って言い始めたんだよね。」
無視は酷い。しかし…もしかすると栞ちゃんも入学するかもしれないのか〜。なんか不安だな。
「ところで…。」
チラりと俺の方を横目で観ると…。
「それ例の小説でしょ!見せて見せて!」
無邪気に机の原稿を取ろうと襲いかかる。
「絶対駄目!お前だけには見せない!!」
栞ちゃんにもな…。
「いいじゃん、ケチ。減るもんじゃ無いし。」
「まだ完成じゃないの…。いいから早く寝ろ。」
「はーい、それじゃおやすみ〜。」
意外と素直に部屋から出ていく美波に若干の驚きを感じつつも、何とか原稿を死守。
これで兄の尊厳は守る事が出来たであろう。
「取り敢えず、引き出しの奥にしまって…続きは明日に書こう。」
正直、かなり眠い。まさか執筆にこれ程のパワーを使うとはな、発見発見…。
次の日も俺はできうる力を使い、執筆を繰り返ししたのだった。
「ふ〜、良い目覚めだぜ。」
日にちは月曜日、時刻は6時を少し刻む。この時間は一週間の中で日曜の夜と共に群を抜いて憂鬱な時だろう。それは今までの俺もそうだった。
だが!今は違う。机には完成した原稿用紙が…、
ああ、なんて清々しい気分なんだろう。
全てから解放された気分だ。今なら空を飛ぶことが出来るとさえ思う。俺は充電器から携帯を引っこ抜くと、ある人物にメッセージを送った。
「なぁ…今日、一緒に登校しないか?」
「……是非お供させて下さい!駅前で待ち合わせでいいですか?」
身支度を整え、学校に行く準備をする。いつもなら気怠い作業も今は身体が軽い。
「おはよう、お兄ちゃん…。」
部屋の外で美波とすれ違う。
「お寝坊さんだな…。俺はもう学校へ行くよ。」
「えっ!待って直ぐご飯作るから!」
急いで作られた朝飯を平らげ、いざ学校へ!
「…なんか怠いな…。」
駅に向かう途中、急に気怠いさが牙を剥いてきたのだ。さっきの気分が嘘の様に今は身体が重い。
小説が完成して、少し…、ちょっとハイになっていたのが解かれたからだろう…。
とにかく、いつもとなんら変わる事の無い気分で同じ道を辿るのだった。
「浩志く〜ん、こっちこっち!!」
駅前についた俺を美鈴は騒がしく迎えてくれた。
「おはようございます!」
眩しく笑顔を振りまく。
「ああ、おはよう。ごめんな、こんな時間に呼び出して。」
「全然、浩志くんのお誘いなら例え火の中水の中だよ。」
テンションの高い美鈴に申し訳無いくらいテンションが低い俺。家を出るまでは同じくらいの気分だったのにな…。
「そ、それでどうしたんですか?一緒に登校しようなんて今まで無かったのに…。」
顔を赤らめながら乱れた髪を整え始める。どうしたんだろ。
「いや、それがな…。」
俺は事の顛末を語り始めた。
「…ってな感じだ。小説が完成した時は元気だったんだが…、今はすっかり元通りよ。…どうした?」
話終えたのを皮切りに美鈴はムスッした態度をしていた。
「…別に…。私と学校に行きたかった訳じゃないんだなって思っただけです。ええ、別にむくれてなんていませんよ。これっぽっちも!」
(台詞と態度が全く一致していないが…。)
「…ちょっと期待した私が馬鹿だっただけです。」
「前もそんな事を言っていたな…。期待って何の事だよ。」
「…それは…決まってるじゃないですか…。勿論…。」
そこまで言うと急に口を噤んだ。
「…どうした?」
「いえ!何でも無いです!…それより、せっかくだから今見せて下さいよ。書いた小説。」
「え〜、今〜。どうせ部室で全員のを確認するだろ…。」
「いいじゃないですか。部長命令です!鞄に隠している物を見せなさい!」
そう言うと、俺の鞄に手を掛けようとする。
「ほら〜、いいからみせなさ〜い。…待って下さい、まさかエッチな本が入ってるんじゃないですよね?」
「ある訳無いだろ…。いつの時代の学生だよ。今日日そんな奴いない…だろう。…と思う。」
「ちょっと詰まりましたね。」
「五月蝿い…、はー、分かったよ。どうせ後で見せるしな…。」
渋々、鞄から原稿用紙を取り出すし、渡す。
「お前のも見せろよ。」
「当然ですよ。はい、私の愛が詰まった物語をどうぞ。」
駅のホームで原稿を読み合う謎の学生2人。周囲からは変に写っているかもしれない。
でも、そんな俺達だって他の学生と同じ様にしっかり青春を楽しんでいるのだ。
「何ですか、この話!」
「お前のだって…。あっ、電車来たぞ。」
この程度の青春じゃ、まだまだこいつは満足しないのだろう。
俺は、その強欲なまでの飢えに憧れていたのに今、気が付いたのだ。
(なんて、今更だ…。)
そんなくだらない事を想いながら、俺は学校への道を歩み出した。
「俺、お前の事、好きかもしれないわ…。」
「…え?」
【第一章完結!】最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。物語は、一旦ここで一つの結末を迎える形となります。応援してくださった皆様のおかげで、ここまで書き進めることができました。もし「この先の二人の続きが見たい!」「第二章も読みたい!」と思ってくださる方がいらっしゃいましたら、ブックマークや評価で意思表示をしていただけると非常に励みになります。皆様の応援の声を参考に、今後の展開(第二部など)を検討していきたいと思っています。それでは本当にありがとうございました!




