第64話 永遠の循環 〜怒れるシルヴァーナ 森の悲壮と野性の焦燥 信用出来ないエンパイア〜
──シルヴァーナ……愛しい森の子よ。
シルヴァーナは、森の奥に聳え立つ大木に手を当て、目を閉じていた。
森の意識が、大木を通してシルヴァーナの中に流れ込む。
──シルヴァーナよ。お主から怒りを感じる。
シルヴァーナは、意識の中で話し始めた。
(神が降りた。人間は、力を取り戻す)
──神の軍隊。アンセムボーンエターナル、か。
(その銃口は、再び森に向けられる)
──シルヴァーナよ。森はお主と共にある。……だが、その怒りはお主の判断を狂わす。
(私の怒りなどどうでもいい! 急がねば、取り返しのつかないことになる)
──森は争いを望んでいない。自然は調和を生み──
(その調和を奴らは踏みにじる! 人間は必ず繰り返す。何度も、何度も!)
──シルヴァーナ……
(奴らとの調和など、ありえん! 必ず森は焼かれる! 25年前も、300年前も、1000年前も同じだった! だったらその前に排除する! それがこのシルヴァーナの……自然の意思だ!!)
──……よかろう。森は、お主に従う。
シルヴァーナは、目を開けた。
緑に光るその瞳が、揺れた。
「"彼女ら"を、呼べ」
シルヴァーナは大木から手を離した。
「シルヴァーナさん……」
振り返ると、セラが立っていた。
シルヴァーナは、セラを睨みつけた。
「小娘。貴様何をしたかわかっておるか」
シルヴァーナは、セラに詰め寄った。
「貴様が呼んだ神のせいで、帝国軍は力を取り戻し、森を焼く」
「私は……そんな……」
シルヴァーナは、胸ぐらを掴むとセラを持ち上げた。
「貴様、神の使いか? だったら、ここで殺してやる」
「くっ……苦しい……私は違……離……して」
セラの小さな体の奥で、森のものではない金色の光が揺れた。
「貴様、何者だ?」
その時。
「シルヴァーナ! よせ! 離すんだ!」
そこへ、ファントムとその部下数名が駆けつけた。
シルヴァーナは、ファントムを睨みつけると、セラを投げ捨てた。
地面に叩きつけられたセラ。
「うっ……!」
シルヴァーナは、ファントムに歩み寄った。
ファントムの部下が身構えた。
「ファントム。貴様は元帝国軍。敵の指揮官とは旧知の仲」
「あいつは、オレの部下だった──」
シルヴァーナは、言葉を遮るように、ファントムの首に曲刀を当てた。
「人間の言葉を聞く価値はない」
シルヴァーナがそう言うと、突然、足元から蔦が伸び、ファントムと部下達を拘束した。
「森の養分にでもなれ。それが貴様ら人間ができる唯一の貢献だ」
「シルヴァーナさん!」
セラは、よろめきながら立ち上がった。
「私は神の使いなんかじゃない! 私はただ、みんなを救いたくて……ただ争いをやめてほしくて……」
「バカな娘だ。神は平和など望んでいない」
「え」
「神が降りても平和など訪れぬ。争いの種が、増えただけだ。人間を焚きつけ、秩序を敷く。声なき者を覆い隠し、偽りの平和で世界を騙す。自分達のためにな」
「そんな……」
シルヴァーナは鼻で笑った。
「フン。エターナルだと? 笑わせる。人が死ねば神は消える。アンデッドも魔族も消える。永遠など、この世界にない。あるのは──」
ギリッ。ギリッ。
「ぐうぅっ!」
蔦がファントム達を締め付ける。
「この世界にあるのは、自然の──」
シルヴァーナの体から、緑のオーラが立ち昇る。
ファントムの体が軋む。
「ぐおぉぉ……!」
シルヴァーナのオーラが膨張する。
地面が揺れ、木々が軋む。
森が悲鳴をあげた──
「永遠なる循環だけだあぁぁぁ!!」
その時。
「ほほ。シルヴァーナは正しい。いちいちごもっともだ」
シルヴァーナは、振り返らずに言った。
「ワイザー、か」
「さすれば、シルヴァーナ。森はすでに知っておろう。怒りでは、事を納められぬことも」
「自然を言葉で従わせるつもりか。愚か者め」
ワイザーは、大きく首を振った。
「滅相もない。ただ──戦略を見誤るほど自然は血迷っておらぬであろう?」
ファントムは、木の上に並ぶ無数の小さな影に気づいた。
弓を引き絞るウサギ達。
寸分の隙もない、森の反応。
長い沈黙だった。
ウサギ達の腕が震える。
ビュンッ!
「あ」
ザクッ!
シルヴァーナの足元に、ウサギが放った矢が刺さった。
「ごっ、ごめん! シルヴァーナ。腕が限界で……」
「……」
シルヴァーナは、曲刀を下ろし何も言わずに森の奥へ消えて行った。
その頃、壱番街。
帝国軍の司令基地。
ここでも純白の旗が風に揺れていた。
整然と並ぶ金色の軍隊。
その視線は、南の森へ向けられていた。




