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「ソニア様、どうしますか?」
私の耳元で静かに囁くのはいつのまにか剣を構えたルルハである。
王宮に向かったソニア達であったが、状況は芳しくないもののようであった。
王宮内は突如として現れた襲撃者の集団によって占拠されていた。王宮内に祝賀パーティー気分で訪れた貴族達も、王家が召抱える護衛の兵士たちも、そこに勤める使用人達も、誰もが縄で拘束されており動けない状態であった。
私とレノア王子の婚約発表をするはずだった会場は見る影もなく荒らされている。
まさか王宮に襲撃する頭の悪い輩がいるとは……。
国王陛下の姿は今のところない。レノア王子の姿も……。
彼らは無事なのだろうか。どこか別のところに捕らえられているのだとしたら、助け出さなくてはならない。
「ルルカ、ルルハ行ける?」
「当然だ。近づく奴は全員切り倒す」
「はい。皆さんを助けましょう」
二人の気合いは十分。私も覚悟を決め、反逆者との徹底抗戦の姿勢を固める。
しかし、気持ちとは裏腹にどうにも人数差が大きい。
肝心なルシードは何処かに行ってしまうし、私を合わせてもこちらは三人、敵は未知数……。
確実に不利な戦い。
最悪ここでルルカ、ルルハを道連れに全滅すらあり得る。
「厄介な状況ね。まさかこんなサプライズが待っているとは思わなかったわ」
ジリジリと距離を詰めてくる反逆者に私達は少しづつ後退りをする。
攻めようにも、どこから攻撃すればいいのか分からないくらいに敵が多い。分断されて囲まれたらそれこそ詰みである。
元々ルルカ、ルルハは正面戦闘を得意としているわけではない。私を襲ったみたいに奇襲、闇討ちを得意としている。
しかし、この状況は完全に数の暴力状態。逃げ場もない。
戦闘を開始するならば、確実に正面から力と力のぶつかり合いを余儀なくさせられる。
「ソニア様どうするんだ? まともにやって勝てるとは思えないけど」
「三人のうち誰か一人でも脱落したら、押し込まれる。慎重に行くわよ」
距離を詰めようとする反逆者、先走った一人をルルカは目にも止まらぬ速さで始末する。
「ナイスよ!」
「ふっ、当たり前だろうが」
だが、それでも敵は一人減っただけ。
「ソニア様、姉さん、次が来ます!」
ルルカが敵の一人を切り倒したのを皮切りに刃は次から次へとこちらに向かってくる。
ルルカとルルハは互いに死角を埋め合い、致命傷を受けないように立ち回るっている。
……私はそんな二人の奮戦を後方から眺めているだけだ。
無理に割り込めば二人の邪魔になる。
けれども、なにも出来ない不甲斐ない自分を私は許せなかった。
「はぁっ!」
「せやぁ!」
飛び散る火の粉、削れる鉄屑のカケラがキラキラと宙に舞う。
二人は終始敵を翻弄していたかに見えたが、戦況は次第に悪化する。
単独で突撃するのをやめ、複数人での同時攻撃。
二人はうまく躱しながら戦っているが、全ての攻撃を避けるには至っていない。
「ぐっ……」
剣が擦り、二人に傷が増える。
「痛いっ!」
圧倒的な数の暴力。多勢に無勢とはまさにこのことだろう。
「ソニア様、そろそろきついわ。正面切ってこの数相手にするとか無理すぎる」
「実力は私たちの方が上なのに……」
ルルカは膝をつき、ルルハも疲労困憊といった面持ちである。
一時待避ということも考えたいが、残念ながら前は敵、後ろは壁である。逃げ道などとうに塞がれていた。その上、騒ぎを聞きつけた反逆者達は先程よりも数が多いように見える。
「増えてるわね」
ルルカはそう言い。
「増援ということでしょうか」
ルルハも苦い表情でそう語る。
どうしようもない状況。
絶対絶命の大ピンチ。
……けれど、こんなところで諦める気は毛頭ない。
私は二人の前へと出る。
「私が行くわ。二人は休んでて」
私は決死の覚悟で反逆者の前に立ちはだかる。
「ちょっと、そんなの無理に決まってるだろ。マジでやめろ!」
「そうです! ソニア様が死んでしまいます」
悲壮な二人の声が背後から聞こえてくる。
……確かに私みたいな幼い子供に何が出来るのか、と誰もが思うことだろう。
今までだって、ラスティなどを筆頭とした優秀な護衛に守られていた。だから、私は何度襲われようとも傷一つ負わずにいられたのだ。
誰もが私には戦う力なんてないだろうと思っている。ルルカとルルハだってそう思っているのでしょう。
……でも、その認識は間違っている。
私の名前はソニアだけど、巷では『暗闇姫』と呼ばれて恐れられている。何故人々が私を畏怖の対象にしているのか、それを今日は分らせてやろうじゃないか。
黒髪だから、闇の魔力を持っているから、そんな浅い理由で私はこんなに恐れられている訳ではない。
「さあ、始めましょう。私は暗闇姫……過去に感情を暴走させ、都市一つを滅ぼした災厄である私と手合わせしたい方は前に出てきなさい!」
……国家機密であった衝撃的事実を暴露する。
長年隠蔽されてきたことのようだけど、使える手札は使いたい。
少しでも相手を怯ませることができたなら、勝機は私に傾くのだから。




