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道中、怪しい集団に襲われることもなく馬車の旅は順調に進んだ。
時折引き起こされるルルカとルシードの口喧嘩もあったのだが、その度にルルハが宥めてくれていたため、なんとか精神的疲労を過度に受けずに済んだ。
ルルハがいつもの調子に戻ってくれて、本当に感謝しかない。
そして、難なく私たちは王都に到着した。
正直道中トラブルも多少覚悟していたのもあって、この結果は些か味気ないと感じていた。
んん? これルシードの護衛必要だったかしら?
……過度な戦力を連れてきてしまったかもしれない。
「無事に着いたけど……」
私の声に反応して、ルルカとルルハも呟く。
「なんというか、ザッ平和って感じだったな。私たちの出番もない。そこのふざけた悪霊も無駄口以外は大人しくしていたし」
「そうですね。所々変な視線を感じましたけど、何かしてくるような気配もありませんでしたしね」
ルシードは王都に到着早々、別行動と称して何処かに行ってしまうし。なんとも危機感のない……。
確かに道中の護衛はしてもらったが、まさか王都に来たかっただけじゃないのだろうか? そんな風にも思えてしまう。
「ルシードもいないし、二人は引き続き私の護衛をお願いね」
「言われなくても、そのつもりだよ」
「はい。ソニア様に一生お供します!」
二人とも頼もしい限りである。
……ルルハは親密度が高い分、過剰な思想を抱いているみたいだけど。
王都に到着して、お父様とお母様は先に王宮に向かった。
護衛の大半とフローレンスが付いて行ったから、危険が及ぶ可能性も限りなく低いだろう。
私はというと、他にやることがあるので少し遅れて王宮に赴くつもりだ。
エドガー子爵家の取り潰し。
ルルカ、ルルハのことを利用して、私を殺そうと策を巡らしたその報い。たっぷりと味合わせなくては気が済まない。
その進捗状況を確認するため、私は司令部との連絡を取る。
「……私よ」
『お嬢様、こちら司令部。如何されましたか?』
「私達は無事王宮に到着したわ。その報告をしようと思ってね」
『そうでしたか。ご無事でなによりです』
通信の相手は司令部の総司令官であるリアラだ。
情報収集、外交的な対応は全て彼女に任せてある。作戦立案などもしてもらっていたので、エドガー子爵家の取り潰しの状況なども彼女に聞くつもりであった。
「それで、あっちはどんな具合かしら?」
あっちとは、エドガー子爵家に出向いているラスティ達のことだ。
『はい。道中、思わぬ敵との邂逅により先遣隊は甚大な被害を負いました。現在は作戦内容を大幅に修正した後、予定通りエドガー子爵領において守護の要である軍事砦を制圧。
そのままエドガー子爵との対談に持ち込みます。
王国からの追放に関しては、王家から既に了承を得ています。全てのことは順調に進んでいると言えます』
「そう」
思わぬ敵ね。
作戦は変更されたが、順調に進む。問題はないかのように思えるが、先遣隊に大きなダメージを与えた敵がものすごく気になる。
「あの、先遣隊が対峙した敵というのは、どのような輩だったのかしら? 参考までに教えてほしいわ」
『はい。ラスティ隊長率いる先遣隊が地下水路を進行中に現れたようです。女性……の見た目をした人形で、たった一人であったと報告を受けています。
魔法の阻害、驚異的な身体能力、名を「サマンサ」と、そう名乗っていたようです。魔法は使えないとも聞いています。
彼女はエドガー子爵家に仕えている訳ではなく、シノ皇女なる者の配下であるという情報も得ています』
魔法を使えなくする技術、女性の見た目をした人形、シノ皇女という黒幕、先遣隊をたった一人で圧倒するほどに強いそれらは一体何が目的なのだろう。
ただ一つ分かることは、それは友好的な存在ではないということ。
エドガー子爵家を取り潰した後でも、不安は拭えないというわけね。
「なるほど、分かったわ。報告ありがとう」
『いえ、これくらい当然のことです。またお伝え出来ることがあれば報告します。婚約発表の式典、頑張ってください』
「ええ、そっちもお願いね」
『はい。では私はこれで失礼します』
司令部との通信はそこで終わった。
私の方には変なのが来なかったけど、ラスティ達の方に厄介なのがいるのね。
幸運と言うべきか、それとも……。
どちらにせよ、注意しなくてはいけないことに変わりはないみたい。
「二人とも、少し付き合ってもらえる」
私はルルカ、ルルハに向けてそう言う。
「ええ、いいわよ」
「もちろんです」
二人は二つ返事で了承してくれた。
王宮に向かう前に行きたい場所ができたので、二人を連れてそこに向かった。
出向いた先は以前ラスティと共に訪れた武器屋である。
「邪魔するわ」
二人を連れ、店内に入室すると店の奥から店主が出てきた。
「よう。随分と久しぶりだな」
「ええ、頼んでいた武器のことすっかり忘れていました」
「そりゃひでぇな。あっ、今回のお連れさんは偉く可愛らしいじゃねぇか。アサシンの男は一緒じゃないのか?」
以前はラスティと来たので店主にはその印象が強いようだ。
「今日は訳あって、彼とは一緒に来ていないの。その代わりに彼女達が私の身辺警護をしてくれているわ」
「へー。そうなのか」
にわかには信じがたいのだろう。この二人、見た目はただのか弱い女性のように見えるのだから。
「まあ、そんなことはいいか。ほら、頼まれてた短剣だ」
店主は店の裏手から、高そうな箱を取り出して、それを開く。
中には綺麗に磨かれた真っ黒い短剣が一本入っていた。
「あら、素敵ね」
短剣を手に取ると、想像以上に軽い。
しかし、耐久性が皆無というわけでもなくとても扱いやすいもののように感じた。
「素材はルナメタルっていう希少な金属を使っている。軽くて丈夫な金属だから、その短剣は折れにくい上に子供でも扱えるほど軽量なんだ。
もちろん、魔法耐性も付与してある。ついでにお嬢ちゃんが来るまでかなり時間があったからオマケで色々とオプションも付けておいた」
ほほう。この店主やりおる!
魔法耐性、当初は火属性だけとのことであったが、どうやらそれ以外にも闇、光も追加で付けてくれていた。
他にも不可解な機能が付与されているようである。
「参考までに聞くけど、追加でどんなオプションをつけてくれたのかしら?」
「まあ、魔法耐性に比べたら、たいしたものじゃねぇけどよ。物理装甲貫通性上昇の効果と物理攻撃耐性とかだな」
「魔法職以外にも有効打を打てるということ?」
「そうだな。戦士系の近接戦が得意なやつとかに強く出られる。せっかくの短剣なんだから、近接戦が苦手だと困るだろ?」
店主の言い分も一理ある。
護身用として用意した短剣。魔法による遠距離攻撃を防げればいいかなくらいに考えてたけど、万が一距離を詰められた時に近接戦用の特殊効果があれば、かなり強い。
魔法と物理、どちらに対しても抑止力となりうるこの短剣。破格の資金を渡しただけあったわね。
「ありがとう。貴方に仕事を頼んで正解だったわ」
いい買い物ができたと感じた。
司令部からの報告で魔法阻害を使う強敵がいるということが判明した。
そして、相手は魔法を使わない。
ラスティ達を襲った相手と戦うのなら、魔法耐性は無駄なもの。けれども、物理的に効果のあるものはそういう相手に対しても役立つことだろう。
店主に頭下げ、私は店を出た。
彼にはまた武器の製作を頼むかもしれない。今度は魔法阻害を無効化してくれる効果を付与してもらいたい。
そんなことを思いつつ、ルルカ、ルルハを連れて王宮へと急ぐのだった。




