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 先遣隊の被害は予想以上に甚大なものだった。

 先遣隊、総員十五名。うち重軽傷者八名。死者四名……。

 ラスティを含め、五体満足の者は進路を示すために同行していた非戦闘員のグラス、それから運良く怪我を回避したラスティの部下の一人であるニックの合計三名だった。


 既に子爵家の屋敷まで向かうのに三名では些か戦力不足。

 精鋭であるファラステラ公爵家の護衛を一撃でねじ伏せる敵の存在。

 不安要素だらけの現状は彼らにとって良くないもの以外何ものでもなかった。


「隊長、怪我人の応急処置が終わりました。手遅れの者達もいましたが……」


 サマンサが付近から離れたことにより、魔法による治癒が可能となった。

 怪我人の介抱を担当していたグラスはラスティの横に立つ。


「今回の作戦は、失敗なんですかね」

「俺の一存ではどうとも言えない。だが……少なくとも、この現状は想定外ではある」

「司令部からの指示待ちってことですか?」

「ああ。動ける者だけで任務の続行を指示されるかもしれない」


 サマンサとの交戦後、ラスティは被害状況を司令部に通達していた。まともに進行できるような現状とは言えない。

 しかし、今回のエドガー子爵に対する攻勢は以前から緻密に計画されていたもの。

 失敗は到底許されるものではなかった。


「行くにしても、三人だけじゃ心許ないですけどね」

「大幅な計画の変更があることも覚悟している。今はただ命令を待つのみだ」

「……歯痒いですね。これだけの被害を出して、なんの成果も得られなかった」


 グラスは悔やんでいた。

 水路は複雑に入り組んでおり、サマンサと対峙したのもルートを選んだ自身の責任に感じていた。

 敵の罠があることを警戒して、迂回することもできたのだから。

 

「お前が責任を感じることはない。それに成果が何もなかったとお前は言うが、俺はそうは思わない」

「えっ?」

「あの女と対峙し、新たな驚異の発見ができた。代償は大きかったが、これは有益な情報、成果だ」


 ……一度手を合わせた相手であれば、その後の対応だって考えることが可能。一番怖いのは知らないことである。

 潜在的な危険ほど、厄介なものはない。

 今回その危険性が露呈した。

 対峙しなければ感じることのできなかったものを知れたというのは一概に不幸とは言い難い。


『こちら司令部。先遣隊、応答願います』


 ようやく、司令部からの連絡がラスティの元に入る。


「こちら先遣隊、聞こえている」

『通信状態は良好なようですね。では本題に移ります。司令部より作戦の変更について報告をします』

「中止ではないのだな」

『はい、エドガー子爵家は今日を持って潰します。これは決定事項なので、可能な限り作戦は続行します。……しかし、先遣隊は被害が大きいようですね』

「ああ、作戦を続行できるのは三名だけだ」


 被害の程度は大きい。通常通り作戦を遂行するのは困難を極める。


『その報告は受けています。ですので、先遣隊の怪我人を回収するように別働隊に向かってもらっています。元々地上からの進行を予定していましたが、状況も状況なので、地下水路に主力を置き、そのまま攻め落とします。先遣隊は別働隊と合流して、動ける者はそのまま進行してください。地上進行を担当するのは撹乱を目的とする偵察隊だけとします』


 大幅な作戦変更。

 今回の作戦、先遣隊が全滅した時点で失敗に終わる。

 地下水路から少数がエドガー子爵の有する軍事砦の内部に侵入。砦の警備システムを解除して、そのまま本体が攻め落とすこととなっていた。


 だが、作戦は変更。

 地下水路から直接主力部隊を流し込み、戦いを終わらせる。


「なるほど。それがいいな」

『砦を落とせば、エドガー子爵領を占領したも同然。既に王宮にはエドガー子爵の悪事を報告して、取り潰しの許可も頂いています』

「許可も取ったのか」

『はい。作戦前に必要ないと言われましたが、後から難癖付けられるのも面倒に感じたので。地下水路から奇襲で攻め落とすのなら、私怨以外にも理由は必要ですしね』


 司令部に関しては現在通信を飛ばしている女性、リアラが取り仕切っている。

 頭が良く周り、今回の情報を王宮にリークしたことも彼女の少なくない功績の一つになるだろう。

 彼女の報告がなければ、ただ無理やりにエドガー子爵家を潰すことになっていた。後から悪事の証拠を提示すれば、お咎めはないかもしれないが、ファラステラ公爵家に不信感を持つ輩が増えていたかもしれない。


「流石にお前は優秀だな」

『お嬢様のために私はやるべきことをやっているだけです。……では作戦の変更については伝えました。詳しい人事的報告は別働隊のイヴァ隊長に一任しているので、そちらから伺ってください』

「分かった」

『では、検討を祈ります』


 リアラとの通信が切断され、ラスティは動ける二人に声を掛ける。


「グラス、ニック来てくれ」


 呼び出された二人は介抱していた怪我人から離れて、ラスティの元に駆け寄った。


「隊長……」


 ニックは先遣隊の中で一番若い。

 若干十五歳にして、このような血生臭い場所で戦うことを強いられてきた。

 ……もし死ぬ可能性があるのなら、彼はまだ死ぬには早い。そう彼は感じた。


「……まもなく別働隊がこちらに合流する。怪我人の回収も同時に行われるそうだ。ニック、お前は怪我人の介助をしながら、公爵家に帰れ」

「んなっ⁉︎ た、隊長っ、僕はまだ戦えます‼︎」


 ニックは不満げに声を荒げる。それを宥めようと彼の肩を握るのは静かにたたずむグラスだった。


「ニック、隊長からの命令よ。素直に聞きなさい」

「グラスさん、ですがっ‼︎」

「ニック、お前はよくやった。……だが、ここから先は予定より危険な場所みたいだ。お前のような子供を連れて行くのは気が引ける」

「そんな……」


 戦歴長いラスティにとって、ニックはまだまだ未熟な若者。

 次に同じようにサマンサと対峙した時、ニックが助かるかと言われれば、助からないと言い切るほどだろう。今回は運が良かった。

 だが、幸運が二度も連続するなんて都合のいい話、この世にはまずない。


「グラスは俺と来い。道案内は必要だ」

「はい」


 ここから先、先遣隊のメンバーで進むのはラスティとグラス。ニックはラスティの命令により帰還ということになった。


「……僕は足手纏い、なんでしょうか」


 ニックは悲壮な表情のままラスティに問いかける。

 

「……そうではない。お前は優秀だ。でなければ、今回奴に立ち向かって、生きていられるはずがない」


 ラスティの言っていることは真実であり、嘘偽りのないニックに対する評価だった。


「……だからこそ、こんなところで万が一にもお前が死んでしまっては困る。人生まだまだ先は長い。お嬢様のためにお前は更に強くなれ、死んでいった仲間の分までな」


 ラスティからの言葉を聞き、ニックは膝から崩れ落ちた。

 亡くなった先遣隊の者の中にはニックが特に親しくしていた者もいた。

 彼は自分だけが生き残ったことに疑問を感じ、後悔をしていた。

 ……仇を討つ。そのことに固執して、ラスティの考えていることなど言われるまで理解できていなかった。足手纏いだと思われていると感じ、どこか憤怒を宿していた。


 しかし、ラスティからの言葉にようやく頭が冷えたのだ。


「……分かり、ました。僕は怪我人を連れて公爵領に帰還します」

「ああ」

「あの、隊長……」

「なんだ?」

「今度は途中退場させられないくらい、強くなります!」


 哀愁の漂っていたニックはもうそこにはいなかった。

 大切な仲間の犠牲を乗り越えて、さらに高みを目指す。純粋な瞳を持った誇り高きただ一人の男がそこにはいた。

 ラスティもその言葉をしっかりと受け止める。


「そうか。……今後の活躍を期待している」

「はい!」


 その会話のおよそ、十分後に別働隊が先遣隊の元に合流した。

 ニック及び怪我人は司令部から派遣された回収部隊によって連れて行かれた。


 ……そして、エドガー子爵を取り潰す作戦は別働隊の合流によって再開された。

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