ファオンVS木森 林 本気?
戦う覚悟を決めたファオンは、林を投げつけた壁の方を見つめていた。
自分を実験体にすると言ってのけたのだ、簡単に潰れる者ではないと感じている。
積み重なった瓦礫は、並の人間であれば死まで想像するのも容易いだろう。
だが、普通とかけ離れている彼女にはいらない心配である。
ドゴッという音と共に瓦礫の山の頂上から手が生える。
掻き分けながら這い上がってくる姿は、さながらホラー映画のゾンビのようだ。
多少の傷はあれど、それを問題に感じないほど林の表情は変わらず真剣だった。
「少しでも楽しめるやつだと思っていただけて嬉しいです。」
突然発される言葉に、つい自分の顔を触るファオン。
だが、その顔は間違いなくほころんでいる。
その光景に、林にも笑顔が浮かぶ。
状況さえ見なければ、微笑ましいと思う絵だった。
瓦礫の山から下りて、軽く伸びをする。
その直後、腕を振ってファオンの元へ走り始める。
搦め手など一切ない。
足も普通の人より早い程度で、身体能力は高いが突出しているのはパワーくらい。
殴ってきた時に拳の行き先を見て避ければ良い。
ファオンはそう思い静かに自分の目の前に拳が来るのを待っていた。
「え?」
ファオンは驚いた。
明らかにまだ自分に辿り着いていないのに、少し力んで振りかぶっている林が目の前にいるのだ。
絶対に届くはずのない距離で、思わず鼻で笑ってしまいそうになる。
しかし、その拳を振り切る直前、その考えは甘かったと知る。
ファオンの鼻に入り込んできた歪な空気
言葉で表せない不安が包んでくる。
そして、林が拳を振り切ったその瞬間
気付くと自分の周りにかろうじて残っていた椅子などが、ファオンの視界から消えた。
いや、そうじゃない。
自分の体が軽くなったように感じる。
そして、自分が壁に打ち付けられた事で吹き飛ばされたことに気付いた。
気付いてしまった事で直後では感じなかったものがじわじわと浮かび上がってくる。
「あ・・・がっ、ウッぐ」
言葉に出来ない呻きが林の耳に入ってくる。
起こった事を理解するために使っていた脳のリソースを他に割けるようになった事で、ファオンはそれを自覚した。
それは、痛み
ヒリヒリ ジリジリ ズキズキ
自覚する度にグレードアップしていく初めての感覚に、思わず体を抑えながら震えていた。
(風圧でこれ?じゃあもし直で受けたりしたら?)
ファオンの頭に不安が過る。
(次は対策してくる?乱発は難しい?)
林も、次の行動を考えていた。
後ろ歩きで距離を取りながら、ファオンの動向を探る。
ファオンは震える体で立ち上がり、顔を上げて林を見つめる。
息継ぎも満足に出来ない状態ながら声を出そうとするその姿勢は、戦う意志を見せる説明としては足りていた。
「さすが、ご主人の娘さんだ。パワーがある。」
話すうちに回復してきたのか、笑顔を見せながら林に近付いていく。
攻撃の意図を感じなかった林は、自分からファオンに近付く。
握手出来るくらいまで近付くと
「知ってると思うけど私達の主人は、貴女のお父さん。」
はい、と林は淡々と返事をする。
ファオンを返事を聞くたびに言葉を続ける。
主人である首相の言葉は絶対である事
今ここにいるのも主人が手伝えと命令したからという事
田橋 俊二郎を誰も信用していない事
そして、それまでのどの話よりも真剣に
「私達は貴族が嫌いだ。」
感情的になるでもないのに、その幼さを感じる声からは想像もつかない重さを感じた。
「私も、勇祐も、ソーファちゃんも、彰吾くんも、綾佳ちゃんもね。」
てくてく林の周りを歩きながら、今までの気持ちを吐き出した。
穏やかな喋りとは裏腹に、時折林を見る目は憎悪を孕んでいた。
「この国の議員は隠れてはいるけど99パーは貴族の息が掛かっている。」
「そ、そんなにですか!?」
「うん。私達も支配を受けていないご主人様じゃなければ今頃死肉だったよ。」
自分の父親は、変わっていない事を知った林は安心した。
なにか考えるでもなく自然と溢れた吐息。
それを見たファオンはフッと微笑み
「やっぱり貴女はご主人様の事嫌ってるわけじゃないんだね。少し安心した。」
軽くなった足で林から離れ、自分が叩きつけられた壁まで戻ると
「安心させてくれたお礼に私の能力を見せてあげる。」
トントン叩いた後、壁から離れ両手を広げて静かに目を閉じる。
「いいよ。どこからでも殴りに来なよ。」
あまりに無防備な姿勢
どこからと言わず正面からでも打ち崩せてしまえそうな状態
だが、相手は自分の父が護衛で雇っている親衛隊の1人
そう簡単に殴られるはずがない。
林は足元に落ちていた石ころを拾い、ファオンから距離を取る。
「やっぱりすぐやって来たりしないか。」
分かっていた口ぶりで、ファオンは目を開け真っ直ぐに林を見つめる。
そんなファオンと替わるように、林は目を瞑り深く息を吸う。
フッと息を吐きながら、握る手を盛大に振りかぶる。
投げられた石は速度が上がるたびに砕けていき飛ぶ数を増やす。
投げられた頃には、林の姿もそこから消え踏み込んだであろう足跡だけが残っている。
ファオンは再び目を閉じ、腕をクロスして防御の構えをとる。
その瞬間、ファオンは後ろからの強烈な気配に気付く。
前からは無数の石の欠片
後ろには攻撃を繰り出す直前の林
どう足掻いても絶望が過ぎる場面
そんな状態であるにも関わらず
「ふふ♪」
ファオンは笑っているのだった。




