親衛隊 ソーファ 勇祐
「下からすごい音が聞こえる。」
氷菜が、登ってきた階段を見ながら呟いた。
「木森さんが戦っているんだし、音は大きいだろうね。」
義昭が、同じように足を止めて応えた。
1階では林とファオンが戦闘を始めており、凄まじいと音が教えている。
「一階は彼女に任せたんです。私たちは上りましょう。」
先頭にいた栄子が、号令をかけ一同は2階まで上り終える。
「あと3階ありますから、皆さんバテないように!?」
言い終わるより先に、義昭達の目の前から栄子が消えた。
ドゴッという音が聴こえた事で吹き飛ばされた事が分かる。
「こりゃ今までの一撃で1番飛んだんじゃねぇか?」
「ソウデスネ。イッチョクセンニトンダノハ、ハジメテデスネ。」
林達が驚いていると、栄子が飛んだ方向とは逆側から陽気な男性と機械口調な声が聞こえてくる。
2階の廊下に出た義昭達を待っていたのは
「・・・勇祐さんとソーファさんですね。」
「俺らの名前覚えてくれるなんて、よく出来たお嬢さんだな。」
「アナタノナマエハタシカ、ヒイデ ヒナ」
名前を呟いた氷菜に、2人はそれぞれ声をかける。
栄子は義昭達の元へ殴られた脇腹を押さえながら戻ってきた時
「ここは、兄さん達を通す為に私が残ります。」
氷菜が前に出て、階段を上がるよう義昭達を促した。
メンバーの中で唯一の戦闘未経験
その事実だけで栄子に不安が募る。
義昭は何も言わずに、ただ氷菜に向かって頷き階段に足を置く。
その瞬間、場に大きな笑いが響いた。
「いいな嬢ちゃん!俺はその気合いに脱帽だ!」
今まで黙っていた運転手が、そう話しながら氷菜の横に並び
「ここは俺と嬢ちゃんに任せて、先を目指しな。」
「分かりました。2人とも無事を祈ってます。」
義昭の無機質な声に、2人は振り返らずに手を振って答えた。
未だに不安そうな栄子を引っ張るように、義昭は上を目指していった。
「にしても、珍しいな。」
勇祐が口を開くとそう呟いた。
何が何だか分からない氷菜
機械なりに頷くソーファ
気まずそうな運転手
反応は様々だ。
「あんたらが、この子達の味方になるなんてさ。明賀佐さん。」
聞いたことのない名前に氷菜は首を傾げていると
「まぁ、俺も栄子ちゃんから誘われたからあの子の考えだろうね。」
「ちょ、ちょっと待ってください。明賀佐さんってなんですか?」
現状を飲み込めない氷菜の質問に、あーと口を開けた運転手が
「名前そういや言ってなかったな。」
そう言った瞬間、運転手の頭目掛けてソーファの腕が襲い掛かる。
危ないという氷菜の叫びに反応した運転手は、両手で受け止め耐える。
「よそ見してて良いのかい?」
その様子を見ていた氷菜は、目の前に迫る拳に気付かず防御するための手が間に合わなかった。
その拳は腹部に当たり、鈍い音が小さく鳴った。
痛みで反応も出来ず、ただその場に蹲った。
ソーファを跳ね返した運転手が氷菜の手を取り後ろへ下がる。
「わざわざ待ってくれるとは優しいねー。」
「そこまで俺たちは、あんたらを本気で殺そうとは思ってないんでな。」
氷菜の呼吸が安定するまで運転手と勇祐が話していると
「あ、あ、ありがとうございます。運転手さん。」
まだ荒いが呼吸が出来るようになった氷菜は、なんとか1人で立ちあがり、落ち着くように大きく息を吐いた。
「おー、あれ受けて立てるなんてあの子ほんとに中学生?」
「ソンナコトイッタラ、アナタハチュウガクセイヲナグルクソヤロウデス。」
面白そうな顔をした勇祐と、棘のある言葉を送るソーファ
「待ってくれたおかげで呼吸がちゃんと出来ました。」
そう言いながら大きく咳払いをした氷菜は、笑みを浮かべられるほど回復していた。
「大丈夫かい?嬢ちゃん」
運転手は氷菜を心配したが
「ありがとうございます、運転手さん。平気です。」
と言って向き合った後
「もう覚えましたから。」
と運転手にも聞こえない小さな声でつぶやいた。
「ソーファさんはお願いします。」
「え?」
そう言うと、氷菜は勇祐に向かって一目散に走り始め自分が殴られた腹目掛けて拳を放つ。
「サセマセン。」
すかさず反応したファオンが止めに入るが、その攻撃が氷菜に届く事はなかった。
その言葉を受けていた運転手がソーファのアームを止めている。
その光景にソーファは驚く。
「さっきは油断してたからなぁ。警戒しとけばこんなもんよ。」
片手で受け止められ、話す余裕まである運転手にソーファは言葉を発せないでいた。
その間にも、氷菜と勇祐の距離が近づいていく
「いいねー。そこらの男よりも勇気あるぞ!」
だが、そんな状況になっても勇祐からは余裕は抜けない。
今まで殺し合いはおろか、殴り合いの喧嘩すらした事のない氷菜の一撃なんて喰らわない。
軽く流して、少し反撃すれば終わり
だって相手は自分より10以上下の中学生
大人に敵うはずがない
「うごぁっ!?」
直後、勇祐の腹部にめり込む拳は、中学生の力とは思えないほど重い。
こちらが非力だったら体を貫通していたかもしれない。
そして、勇祐は知っている。
この威力、このスピード、この殴り方
「これは・・・まるで」
「その予想はおそらく当たっていますよ。」
先程の氷菜のように蹲った勇祐が顔を上げると
「これは、私を殴ったさっきの貴方です。」
そう言いながら浮かべた柔和な笑顔は、勇祐には悪魔が微笑んでいるように見えた。




